第600話 模擬戦の対戦設定


 とりあえずベスタと一緒にエンの樹洞の中に入ったけども、なんとも不思議なもんだな。元々巨大な群集拠点種ではあるけど、どう考えてもここはそれ以上に広い。

 それに丸太や石が置かれていて、何かの待機場所みたいな雰囲気もあるし、中央部には何か光っているものがある。……ふむ、これは掲示板で話題に出てた何かに使う為に用意していたのを流用して仕上げたというのはあり得そうな気がしてきた。

 

 とりあえず今はいらないから水のカーペットは解除しておこうっと。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 71/71 → 71/73


 よし、解除完了。樹洞の中が広いとはいえ飛ぶ必要もないし、模擬戦で使うとも限らないから今は切っておくのが良いはず。


「ケイ、模擬戦の時は行動値も魔力値も全回復した上で、全てのスキルは解除された状態で始まるから、それは意味ないぞ?」

「え、マジで!?」

「……そこで嘘をついても仕方ないだろう」

「そりゃそうだ……」


 あー、無駄に無意味な事をしてしまった……。まぁ特に害がある訳でもないし、気にしなくても良いんだろうけどね。

 それはそうとして、さっき樹洞内を見渡してみて気になったものもあるんだよなー。まぁ何となくの用途は予想出来るんだけど、確認しとこうっと。


「ベスタ、あの真ん中で光ってるのって何?」

「……あれか。あれは模擬戦の対戦エリアへの転送の場所だな。順番が来てあそこに行けば模擬戦が始まる。まぁエンの近くにいれば、設定しておけば樹洞の外でも自動転送も可能だがな」

「あー、なるほどね。あ、よく見ると模擬戦エリアへの転送って表示もあった」


 よく見ればベスタに聞く必要もなかったか。まぁとりあえず本当に今いる樹洞の中は待機中の場所って事は分かった。でもまぁさっきまでの外の様子を見る限りでは外で待機してる人の方が多そうではあるね。

 あー、でもエンの近くにいれば自動転送されるように設定出来るなら、ランダムマッチングで当たる可能性のある人を予め確認しないようにしてるとか?


「ともかく、手早く設定を決めていくぞ」

「ほいよっと。ところで、順番が来た時に設定が決まってなければどうなるんだ?」

「別に順番が来ても設定が完了してなければ模擬戦の開始にはならんし、その設定の為の猶予時間は長くはないがあるにはある。だが、混雑している状態でそれをやるのはあまり良い事ではないな。順番が来る前に設定を終わらせておく方が良いだろう」

「まー、そりゃそうか」


 とにかく模擬戦の設定をしないと勝手に始まる訳ではないのか。……混雑してる時に順番が来ても、設定を完了せずに居座られると確実に迷惑にはなるだろうしね。こうして混んでる時は、待ってる時に設定をしておけという事か。


「よし、それじゃ手早く設定していこう!」

「あぁ、そうするぞ」


 設定さえしてしまえば普通に待つだけで良いんだから、ここはさっさと設定を終わらせて今やってる模擬戦の見物でもしていこうじゃないか。……時間があればだけど。

 とりあえず模擬戦の設定項目を開いてっと。おー、対戦エリアの設定とか、アイテムの使用の有無、中継の可否と、可の場合の許可範囲と音声の有無、外部からの声援の有無とかがあるね。


「ベスタ、対戦エリアはどうする?」

「どこでも良い……と言いたいとこだが、海は避けておきたいとこだな」

「ほほう? ベスタは海が嫌と……?」

「嫌というか、単純にアイテムの使用でしか適応が出来てないからな。アイテムの使用を解禁するなら海でも別に構わんが、その場合は回復アイテムも使わせて貰うぞ?」

「……あ、それは遠慮願います。ベスタ相手に回復アイテム解禁とか無理……」

「まぁそれで良いなら構わんが……そうだな。お互いに初期エリアは森林深部だから、森林深部でやるか」

「お、それは賛成! そういや項目が見当たらないけど昼と夜って設定出来るのか?」

「それについてはランダムみたいだな」

「あー、そうなのか」


 ふっふっふ、森林深部といえばコケの強さが最大限発揮する事が出来る場所だ。……まぁベスタもコケと融合してるから、結構得意な場所にはなるんだろうけどね。そして昼か夜かの指定は出来ないと……。

 それにしてもベスタはアイテムがないと海には適応出来ていないのか。まぁどこにでも適応出来るようにはなってないからこそ、適応用のお茶や纏属進化があるんだしね。


 それはそうとしてこれで場所とアイテムの使用の有無は確定だ。あ、俺かベスタが選択をしたら承諾の確認が出るんだな。それでどちらも同意すれば設定として確定になるのか。


「……なるほど、対戦相手を指定した場合だとこうなるのか」

「ランダムマッチングだと違うのか?」

「あぁ、まぁな。ランダムマッチングだと、エリアとアイテムの使用の有無を先に指定して条件が合致した相手とマッチングされるからな。そこから中継の有無は同意しながらになる」

「……そこで中継の有無が食い違った場合は?」

「そうなった場合はキャンセルも出来るが、まぁ模擬戦をする事が目的なら大体はそのまま行くな」

「あー、なるほどね」


 ふむふむ、元々中継で大々的にやるつもりじゃなけりゃ、非公開でも特に問題にはならないか。……どちらかというとキャンセルが発生する場合は、目立ちたい人が中継にならなかった場合なんだろうね。まぁ、実際に中継されるかは不動種の人次第でもあるもんな。


「とりあえず俺らは中継はありだよな。えーと、閲覧範囲はどうする?」

「……そうだな。まだ他の群集に見せたくない手段もあるから、灰の群集だけにしておくか。音声は灰の群集に限定するならありで良いだろう」

「ほいよっと。外部からの声援はオフでいい?」

「あぁ、それで構わん。そっちの方がお互い集中は出来るだろうからな」

「だよな! よし、これで設定完了!」


 ベスタも承諾をしてくれたので対戦の設定は完了だね。……そうしている間に整理番号が5まで進んでいるから、それほど待つ事はなさそうである。


「それじゃちょっと中継をしているハーレさん達の方に準備は出来たって連絡しとく」

「あぁ、任せた。あー、それとだが実況の内容は好きにして構わんと言っておいてくれ」

「え、良いのか? 折角映像と音声を灰の群集だけにするのに、それじゃ他の群集に断片的にでも情報が伝わるんじゃ?」

「どうせ全部伏せるなんて事は不可能だから、断片的なら問題ねぇよ。……それに時々ではあるが、誤情報を混ぜて中継ってのも計画してるからな」

「中途半端な情報を渡して混乱させる気だった!?」

「ま、そういう事だ」


 あはは、ベスタはガチ情報と偽情報を混在させて、盛大に情報戦を仕込む気だったんだな。……なるほど、風雷コンビの対決を音声だけを切って映像は全公開にしたのもその仕込みの1つだったのかもしれない。まぁ風雷コンビがいつ喧嘩を始めるか分からないからという理由も本音ではあると思うけどね。


 とにかくベスタの意図は分かったし、そういう事なら俺も手札伏せる必要もないな。それにそういう意図があるなら、誤情報というよりは無駄に大袈裟に話を膨らませてもらうのもありか。ま、とりあえず共同体のチャットで連絡しようっと。


 ケイ    : みんな、こっちの対戦準備は出来たぞー。

 アルマース : お、準備が出来たんだな。すぐに始められそうか?

 ケイ    : あー、それは順番待ち中。

 サヤ    : どのくらいかかりそうかな?

 ケイ    : えーと、整理番号が5だからそんなに……あ、今整理番号が4になった。

 アルマース : って事はそんなに掛かりそうではないな。

 ヨッシ   : そだね。同時に20組まで出来るんだし、他の模擬戦の終了のタイミング次第ではすぐかも?


 ケイ    : あ、そういやそうか。


 今、同時に20組までの模擬戦が埋まっているから待ち時間が発生しているけど、同時に4組以上の模擬戦が終了したらすぐに順番が回ってくる事もあるのか。ふむ、それを考えるのなら早めに連絡を済ませた方が良いのかもね。


 ケイ    : ところで、中継の準備はどうなってる?

 サヤ    : 今、ハーレとレナさんがランダムマッチングの対戦を実況してたのが終わったとこかな。


 ケイ    : なるほど、対戦が1つ終わったから待ってる順番が繰り上がったんだな。

 アルマース : まぁ、そういう事になるな。

 ハーレ   : ケイさん、もうすぐ開始ー!?

 ケイ    : 他の模擬戦次第にはなるけど、そうなるな。ハーレさん、中継はどうだった?

 ハーレ   : 成長体同士の戦いだったから派手さは控えめだったけど、楽しかったよー!

 ケイ    : そりゃよかった。……ところで桜花さんの場所って今は灰の群集だけ?

 ハーレ   : うん、そだよー! 樹洞の中での中継は大体どこもそうだってさー!

 アルマース : あー、灰のサファリ同盟の人から聞いたけど、実況で偽情報を混ぜるって計画もあるそうだぞ。

 ケイ    : それならさっきベスタから聞いたよ。


 なんだ、俺から言う必要もなかったみたいだね。……そっか、灰のサファリ同盟がその辺に全く絡んでないはずもないか。


 サヤ    : そっちの偽情報の方は外での中継に混ぜてやるって話かな。

 ハーレ   : 全力で中継の実況をしたかったので、偽情報を言う必要のない方で良かったです!

 ケイ    : あー、まぁそりゃそうだよな。


 うん、他の群集に警戒して偽情報を混ぜるという方向性自体は否定する気はないけども、ハーレさんには今日は楽しんでもらいたいとこだからね。ま、その辺の無理強いは灰の群集の方針的に絶対にしないだろうから、納得した上で実行する人だけにはなるか。


 ケイ    : とりあえず状況は分かった。ま、あと少しで順番が来るかもって桜花さんに伝えといてくれ。


 ハーレ   : 了解です! ケイさん、ファイトー!

 アルマース : ケイ、頑張れよ!

 サヤ    : 頑張ってかな、ケイ!

 ヨッシ   : 応援してるからね、ケイさん!

 ケイ    : おうよ!


 ふー、何だかんだでみんなが応援してくれているね。俺がこのゲームで知り合ったプレイヤーの中で一番強いと思うベスタが相手だもんな。……よし、気合入れてやれるだけの事をやっていこうじゃないか!


「おっし!」

「……なんだか気合が入ったな、ケイ?」

「まぁな! ベスタ、全力で勝ちに行くぜ!」

「あぁ、俺もそのつもりだ。全力で来い!」


 ふっふっふ、少しは緊張でもするかと思ってたけど逆にテンションが上がりまくってるな。ちょっと前は勝てる気がしないとは思ってたけど、そんな事はもう関係ない。全力で勝つつもりでいく! そうでないとベスタ相手には絶対に勝ち目なんて出てこないからな!


「ふっ、良いタイミングで続々と対戦が終わっているようだな」

「みたいだな」


 まるで俺とベスタが対戦の準備を終えるのを待っていたかのように、一気に整理番号が4から1まで減った。……あと一戦の模擬戦が終われば、俺らの順番がやってくる。


 そういや今やってるのってどんな組み合わせなんだろう? ちょっとだけ確認してみようかな。えーと、観戦を選択して見れる模擬戦の一覧を見て……お、海エリアでシアンさんとソウさんが対決して……あ、シアンさんの勝ちで終わった……。くっ、少しで良いから見たかったぞ、この組み合わせ!


<模擬戦の順番になりました。対戦エリアへの転送を行ってください>


 お、模擬戦の順番が来た事を知らせるメッセージが出たね。他の場所にいたら自動転送されるって話だし、これはこの待機場所にいる時のメッセージかな? まぁそれはいいや、そのうち知る機会もあるだろう。


「行くぞ、ケイ」

「おうよ!」


 そうしてベスタと共に模擬戦エリアへの転送の為の光の中へと飛び込んでいく。さて、これからベスタとの模擬戦の開始だな!


<『模擬戦エリア:森林深部』へと移動しました。模擬戦の開始のカウントダウンを開始します>


 エリアが切り替わったかと思えば、そこは見慣れたいつもの森林深部とは少し違う様子の森林深部であった。あー、森林深部の雰囲気ではあるけども、初期エリアのマップそのものではないんだな。ついでに時間帯は夜になったようである。……闇纏いを持ってるベスタ相手に夜かー。


 ま、この模擬戦のエリアの広さがどのくらいかも分からないけども、全力で戦うまで! 開始までのカウントダウンは1分となっていて、目に見える範囲にベスタもいるね。


「ケイ、このままお互いに移動せずに真っ向からぶつかるのと、距離を取って遭遇戦をするのとどっちがいい?」

「あー、そういう選択肢があるのか! ……そういう事は先に言ってくれない?」

「……あぁ、それはすまん。それでどうする?」


 ふむ、この1分間の待機時間でそういう行動も選べるようになってはいるんだな。……でも全部のスキルが無効になった状態から始まって、開始前ではスキルは使えそうにはない。

 元の移動速度が早いベスタに対して、距離を離すのは果たして良い策か……? いや、コケ渡りで一気に距離を詰めれるベスタ相手にそれは愚策だな。距離があるからと油断をするとそれが命取りになりかねない。


「……距離は取らずにこのままでいい」

「そうか。ならばそれでいいだろう」


 そうやって話していく間に刻々と模擬戦の開始のカウントダウンが進んでいく。残り5……4……3……2……1……0。


<模擬戦を開始します>


「勝負だ、ベスタ!」

「かかってこい、ケイ!」


 そうして俺とベスタの模擬戦が始まった。さーて、楽しみながらも全力でベスタと戦っていきますか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る