第579話 小細工のアイデア
とりあえず検証も終わり、一旦休憩である。えーと、現在時刻は11時か。……あ、そういや検証にかかりっきりですっかり忘れてたけど、12時から30分間は臨時メンテだったっけ。模擬戦機能の第1段階のテストって言ってたよな。
「今思い出したんだけど、昼から新機能のアップデートだよな。模擬戦機能のやつ」
「あ、そういえばそうだったかな」
「……すっかり忘れてたね」
「あー、そういやそんなお知らせもあったな」
当たり前と言えば当たり前ではあるけど、みんなもその辺のお知らせはしっかり聞いた上ですっかり忘れていたようである。まぁ、アルもサヤもヨッシさんもログインしてすぐに俺の検証に巻き込んだ形にはなったもんな。
ふむ、みんなとそれぞれ戦ってみたい気持ちもあるし、ランダムマッチングもあると言っていたから、それも気になるところ。……でも懸念事項はハーレさんがいない事だけど、とりあえずみんなに聞いてみるだけ聞いておこうか
「なんとなく返答の予想はつくんだけど一応聞いておこうかな。みんなで昼からやってみる?」
「んー、興味はあるんだけどね……。初めてやる時はハーレがいる時にしたいかな?」
「私もサヤに同じだね。ハーレが実況をしたいって食いつきそうなとこだし、せめて夕方にしたほうが良い気がするよ」
「それに流石に実装直後だと混雑もするだろ。少し落ち着いてからで良いんじゃねぇか?」
「やっぱり予想通り返答だったか。んじゃ、それはハーレさんがログインしてからって事で!」
「うん、それが良いかな」
「了解」
「おうよ」
ちょっとみんなと全力で戦ってみたいという気持ちもあったけども、予想通りハーレさんが居ない状況でやるのはみんな気が進まないようである。ハーレさんの場合は戦いたいというよりは観戦……場合によっては実況をしたいってとこではあるだろうし、やっぱりこれは合流してからだな。
「ほうほう、みんなは夕方までは非参戦って事なんだねー?」
「おわ!? レナさん、ダイクさんと実験してたんじゃ?」
「そだよー? ほら?」
「あ、なるほど、チャージ中……」
さっきまでは少し離れた所でダイクさんの大根の葉っぱから撃たれていたアクアボールの連射を蹴り落としていた。
そして今はどうやらレナさんの周囲に水球が3つ漂っている状態になっており、リスの脚も強弱を繰り返す銀光を放っている。ダイクさんの方を見てみれば、葉っぱでレナさんの方に狙いをつけている。
「レナさん、これはどういう実験?」
「んー? さっき、魔法砲撃の二重防壁の耐久テストはしてなかったでしょ? それの確認だねー!」
「あ、そういやそっか」
複合魔法にならない理由の違和感の正体確認を優先して、これについてはすぐに解除したんだった。1枚辺りの耐久値自体は通常のと変わらないから確認しなくても問題ないといえば問題はないけど、確認自体はしておいた方が良いよな。
「チャージ完了! ダイク、行くよー!」
「おうよ! 『並列制御』『アクアエンチャント』『アクアウォール』!」
「せーの! あ、やっぱりこうなったかー」
そのレナさんの掛け声と共に、ダイクさんが撃ち出してきた展開前の水球にレナさんの眩い銀光を放つ蹴りが炸裂した。あ、レナさんの蹴り自体が防壁の展開のきっかけとなって銀光が消えていき、その直後に2枚の水の防壁が展開されていた。
そういや魔法砲撃での防壁を展開するきっかけになった攻撃では耐久値が減らないんだっけ。レナさんはそれを分かった上で敢えて試してみたって感じか。ふむ、チャージ系の攻撃を潰すにはいいな、これ。
「うーん、魔法砲撃の防壁魔法は要注意だねー。チャージ系との相性最悪だよ!」
「俺としてはかなりの有効打にはなるけどな。なぁ、ケイさん」
「まぁさっきのを見てる限りではそうだけど、避けられたら終わりじゃね……?」
「そりゃそうだけど、元々魔法砲撃ってそんなもんだしな」
「あー、そりゃ確かにダイクさんの言う通りか」
そもそも魔法砲撃のデメリットとしては狙いがバレやすく回避しやすいって所にある。その分、通常より狙いやすくなったり、威力の底上げがあったり、今回の付与魔法での性質の変化とかがある訳だけどね。避けられたら終わりというのは今更過ぎる話ではあるか。
「近接のサヤとかレナさんなら、避ける以外だとどう対策する?」
「私なら、チャージの爪を当てる前に竜でスキルを使わずに一撃入れるかな? それか初めから連撃の回数に入れるつもりで攻撃……?」
「わたしも概ねサヤさんに同意だねー。わたしには竜がいないから、土の操作で足場にする小石をぶつける感じかなー? もっと言うなら敢えて避けてから、使いにくそうな位置で展開させるね!」
「あ、それもありかな。それで判断が鈍ってくれれば動きやすいよね」
「そうそう。そんでもって、展開させた防壁は無視に限るね! わざわざ打ち破る必要はなし!」
「うん、同感かな」
「あー、なるほどね」
サヤとレナさんレベルの近接が得意な人が相手だと、そもそも防壁魔法は無視という手段を取ってくる訳か。まぁ当たり前といえば当たり前ではあるんだけど、魔法を使う側としてはそれを如何に防ぐかという問題でもあるんだよな。
「アル、ヨッシさん、ダイクさん、魔法を使う者同士、近接の対抗方法を考えてみない?」
「まぁ別に良いが、PTならそこまで深く考える事でもないだろ。単純に他の誰かが魔法や投擲で任意の場所に展開すればいい」
「私もアルさんに同意。ケイさんが使う時は、私かアルさんの魔法か、ハーレの投擲で何とかなるよね?」
「まぁ、シンプルに考えるならそうなるよな。ダイクさん的にはなんかこれぞって手段あったりする?」
「あるにはあるぜ? 1人で出来る割とシンプルなやつがな」
「ほほう、それは興味があるね。どんな内容?」
ダイクさんの魔法砲撃の防壁魔法のシンプルな使い方というのは気になるね。パッと思いつくのでは、レナさんが言ってたみたいに事前に当てるものを仕込んでおく事とかかな?
それなら並列制御を使う事になるけど、それなら1人でも完結出来る。付与魔法込みだと並列制御がLv2にならなきゃ無理だけど……。
「ケイさん達ならすぐに気付くと思うからヒントだけな? そもそも相手を狙わない事だぜ」
「……相手を狙わない? あ、そういう事か!」
「あー、なるほど。俺も分かった」
「うん、私も。でもそれが使えるのは防壁魔法だけで、爆発魔法では無理だよね?」
「おう、流石に爆発魔法では無理だな」
「やっぱりそうだよね」
「え、どういう事かな?」
あー、どうもサヤはピンと来ていないみたいだね。レナさんは口出ししてこないみたいだし単純に既に知ってそうではある。まぁ、サヤについては魔法や操作が苦手という事もあるから、ピンと来ないのはその辺が理由だろうね。
「サヤ、竜でLv5になってる魔法ってある?」
「えっと……まだ無いかな?」
「って事は、実際にやってみるのはまだ無理か。多分見たほうが早いから、実演してみるよ」
「え、休憩中だけど良いのかな?」
「魔法を1発撃つだけだし、それくらいなら問題ないって」
そもそも疲弊しきって動けないとかそんな話でもないので、ちょっとくらいなら問題はない。それにサヤの場合は、この手段は防御ではなく攻撃へと転化出来る可能性があるからね。サヤの竜で育ててる魔法は火と電気で、この2属性の防壁魔法は攻撃的な魔法って話だったはずだしさ。
「それじゃ、やってみるからなー!」
「うん、よく見ておくかな!」
おー、サヤが思いっきり食い入るように見ているね。まぁここ数日でかなり魔法や操作の強化をしているサヤだし、その気持ちは何となく分かる。さてと、それじゃやっていきますか。
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 57/70(上限値使用:3): 魔力値 187/206
おっと、まだ全快してなかったから中途半端な状態だな。まぁ普通に行動値も魔力値も足りてるから気にする必要もないか。
さて、魔法砲撃にしてから右のハサミを起点に指定。そして、水のカーペットの端に寄ってからハサミを地面に向けていく。
「あ、地面に向かって撃つのかな!?」
「サヤ、正解! ほいよっと!」
地面に向けて水弾を撃ち出して、地面へと着弾すればそこで水の防壁が展開されていく。よしよし、ちょっと浮いてた位置から撃ったから、ハサミを水平まで持ち上げれば1メートルくらい先の延長線上の部分に水の防壁が展開されている。
「ダイクさんが言ってたのってこれだよな?」
「おう、そうだぞ。まぁ地面に限る必要はないけどな」
「ま、そりゃそうだ」
「そっか、それって岩とか木とかでもいいって事かな?」
「それでいいぜ、サヤさん。周りの障害物がまともに見えてない相手とか、普通の敵相手ならこれで背後から強襲って手段もあるぜ」
「ま、ダイクがその手段に気付いたのは避けられて、偶々すぐ後ろに岩があったからなんだけどねー! 割と偶然の産物なのさー!」
「そこで暴露しなくてもよくねぇ、レナさん!?」
「なんか自慢げなダイクにちょっとイラッとしたのさ!」
「その理由は理不尽すぎねぇ!?」
うん、まぁこれでこそいつものレナさんとダイクさんって感じのやり取りではあるね。この2人にとってはこれが日常なんだろうな。
それはそうとして、この手段は本当にかなりシンプルな手段ではあるけども、かなり有効なのは間違いない。プレイヤースキルの高い人にはこれでも回避される可能性はあるだろうけども、それほどでもない相手ならかなり使えるだろう。
ふむ、付与魔法で二重の防壁を使えば挟み込む事も可能か。それに……。
「これってサヤだったら、少し竜を離してからクマにぶつけるとかでもありじゃないか?」
「あ、それは良さそうかな!」
「……ケイ、地味に無茶な事を考えるもんだな」
「ん? アル、これってそんなに無茶か?」
「あー、いや、別に無茶って訳でもないか……?」
「いやー、ケイさん、それはちょっと無茶だねー!」
「あれ、そうなの?」
アルのいつもの軽口かと思って適当に返していたけども、レナさんからもダメ出しを受けてしまった。うーん、何か問題でも……あ、確かにこりゃ近接のプレイヤー相手に言うのは無茶だ。うん、これは共生進化で使ったとしても近接がメインの人が1人でやるには無駄が多過ぎる。
「あ、ケイさん、問題点に気付いた?」
「あー、うん。これはサヤだと問題大ありだな」
「え、ケイ、レナさん、どういう事なのかな?」
「えっと、これもかなりシンプルな話。単純にさ、防壁魔法でスキル使用中になるから近接でのスキルが使えなくなる……」
「……あ、それは確かにそうだね。並列制御でわざわざ同時に使うなら、私なら近接スキルを2つ使いたいかな……」
「そっか、魔法主体なら意味も出てくるけど、近接ではメリットがあまり無いんだね」
「そういう事! ついでに言うなら、魔法主体でも並列制御Lv2が欲しいとこだねー!」
確かに現時点でのスキル構成では防壁魔法を1人で防御以外に上手く活用するには色々と無理があり過ぎるか。……まぁ地面や他の障害物へぶつけて防壁を展開する手段だけでも、有効活用は出来るからいいか。
それ以上の応用方法の可能性もあるにはあるんだろうけど、どうしても同時に使えるスキルの数の制限や行動値や魔力値の制限も大きい。この辺についてはもっと育成してから色々と余裕が出来て初めて実行出来る内容なんだろうね。
「ま、防壁魔法の応用方法についてはこんなもんでいいか」
「休憩中の雑談としてはそれなりに有意義だったな、ケイ。ところで、なんでそんな話になったんだっけか?」
「えーと、レナさんとダイクさんが試してたからかな?」
「そうだねー! 実験の結論としては、攻勢付与をしてもチャージ系の応用スキルで魔法砲撃を受けるのは無しなのさー!」
「あ、そこが実験内容だったんだ」
「あー、俺とレナさんだけで勝手にやってたから、ケイさん達には伝わってなかったんだな」
「まぁ、俺らは模擬戦の話をしてたとこだったしな」
そこにレナさんがチャージの待ち時間に、話に混ざってきてこういう話になったんだった。うん、ちょっと使えそうにない話題もそこそこあったけども、ダイクさんのシンプルな防壁魔法の応用方法は本当に参考になったから、今後どこかで使わせてもらおうっと。
「あ、そうそう、ケイさん達は新機能の模擬戦の話をしてたんだよねー?」
「あーうん、まぁな。やるとしても夕方以降にハーレさんと合流してからって事になったけどな」
「うー、それは残念ー。みんなとちょっと戦ってみたかったんだけどね」
「レナさん、それはごめんかな。やっぱり初めはハーレもいる時にしたくて……」
「まぁその気持ちも分かるから、これ以上言うのは無しだねー!」
流石にレナさんもそこで無理に戦えと言ってくるつもりはないようである。ま、レナさんはかなりマイペースな人ではあるけども、気遣いが一切出来ないような人ではないもんな。……本当に無神経で自分勝手にしか動けない人なら間違いなく悪評だらけだろうし。
「あ、そうそう。ここに来る前にチラッと聞いたんだけど、風雷コンビが対決するらしいよー?」
「あー、そういやエンのとこでそんな噂を耳にしたっけな。又聞きだから、事実かどうかはっきりはしないんだけど……」
「え、風雷コンビが対決?」
「……それは気になるな」
「ちょっと見てみたいかな?」
「私も見てみたいかも……」
レナさんとダイクさんが噂で聞いた話では、どうやらあの風雷コンビが対決を行うようである。……又聞きみたいだから真実とも限らないけど、実際に行われるのであれば見てみたい対決だよね。
「……後で真偽を確認してから、時間次第では見に行ってみる?」
「それならありだな」
「私は賛成かな!」
「まぁ、それくらいなら……。ハーレは少し悔しがるとは思うけど、駄目とは言わないだろうしね」
「ふっふっふ、わたしは風雷コンビの2人を負かすのさ!」
「……まだ根に持ってるんだ、レナさん」
「もちろんさー!」
どうやらレナさんも風雷コンビと戦いたいようである。まぁ色々な情報が繋がって把握した内容としては風雷コンビが電気魔法Lv7について割に合わない発言をした後、それを発端に小競り合いを始めて、それを収めようとしたレナさんから逃げ回っている最中に風雷コンビが仲直りをしたって事だもんな。
しかもそこから完全に逃げ切られた上に、昨日もベスタが収めるまでの間も逃げ切られていたんだから鬱憤も溜まるよね。ついでに言えば、風雷コンビはその状況で半ば強引に俺らとレナさんの主催のスクショの撮影に参加してた訳だし……。
うん、風雷コンビは間違いなく灰の群集でのトラブルメーカーだな。半ば見世物化しているのと、本人達に一切の悪意がないのが地味に厄介なんだろうね。
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