第578話 検証の仕上げ


 あ、ダイクさんがこっちをずっと見てきている。まぁ複合魔法化は失敗したから、その事は伝えておかないと駄目か。


「ケイさん、どうだ?」

「片方しか守勢付与はかかってなくて、同じ位置への生成も出来なかったから、これは完全に失敗だ……」

「あー、複合魔法に出来る時は同じ位置には生成出来るもんな……。って事は完全に失敗だなー」


 思いつきの博打ではあったけど、成功確率は高そうな気はしたんだけどね。……失敗というのは残念だ。……それにしても、片方にはちゃんと守勢付与の効果があったんだよな? そう考えてみると守勢付与中はアクアプロテクションが使えなくなるのか。……あれ? それはなんかおかしい気がするぞ……?


「ケイ、何か引っ掛かるのか?」

「あーうん、まぁちょっと。……アルもか?」

「まぁ俺もちょっと今のは違和感があってな。こうなると付与中は完全に複合魔法のアクアプロテクションが使えなくなるよな……?」

「あ、アルもそこが気になったのか」

「ケイさんもアルさんもそこは違和感あんのか! だよな、なんかおかしいよな?」

「ダイクさんも違和感があるのか……」


 流石に水の昇華持ち3人が違和感を覚える内容となれば気のせいとスルーする訳にもいかないけども、それはそうとして今は発動中のスキルを使用してしまわなければ勿体無いか。

 今の発動中のスキルは守勢付与のアクアウォールと通常発動のアクアウォールの2つだから、まだ残っていた付与魔法のかかった魔法砲撃での防壁魔法の検証は可能だしね。これを先に片付けよう。


「ま、とりあえず今発動中のを放置しとくのも勿体無いし、組み合わせ的に発動可能な魔法砲撃での防壁魔法を試してみるわ」

「あ、それもそうか! そっちはそっちで重要だもんな!」

「まずはそっちを片付けてからだな。ケイ、その後で違和感の正体探りだ」

「もちろんそのつもり!」


 言われるまでもなく、その違和感の正体は見つけ出す! なんとなくだけど、今のうちに見つけておかなければいけないような気もするしね。


「……あ、ちょっとその違和感に思いついた可能性があるかな?」

「……そうなの、サヤ?」

「え、サヤ!? それマジで!?」


 ちょっと待って、今のスキルを発動し終えてから考えるつもりだったのに、サヤが見当つけちゃった!? いや、別に悪い訳ではないんだし、良い報告ではあるんだけどさー!?


「あはは、ケイさん気にはなるけど、先にやる事をやっちゃおうよ。発動の待機時間、そろそろ危ないんじゃない?」

「はっ!? もう発動しないと完全に無駄撃ちになる!?」

「ケイ、急げよー!」

「分かってるって! それじゃいくぞー!」


 レナさんに言われたように発動の待機時間がぎりぎりだったから大慌てでやっていかないとね。まずは守勢付与の効果がかかったアクアウォールを魔法砲撃にして、右のハサミを起点に指定。それから無駄発動っぽく思えるもう1つの防壁魔法を通常魔法で少し離れた所に展開しておく。これに当てて魔法砲撃で撃ち出した防壁魔法を展開すればいい。

 着弾の為に必要な対象も用意出来たのでその水の防壁に向かって水球を発射して、ダイクさんが付与した水球がそれを追っていく。……よし、無事に普通の水の防壁に着弾して、守勢付与の水の防壁が展開されていく。ほほう、追加効果はこう来たか。


「へぇ、魔法砲撃だと俺がケイさんに付与した水球が追撃みたいに撃ち出されるのか」

「あ、水の防壁が二重に展開したかな!?」

「ぱっと見だと先に発動していた水の防壁と見間違えそうになるね?」

「ほう、これは防壁の二重展開が追加効果か。ケイ、その二重の水の防壁は移動させれるのか?」

「えーと、ちょっと試してみる」


 二重になっている水の防壁は魔法砲撃のものだから、ハサミの延長線上にしか展開出来ないからハサミを動かせば移動は可能なはず。……とりあえずハサミを軽く左右に動かしてみれば、ハサミの動きに連動して二重の水の防壁も移動しているね。

 ほうほう、守勢付与の通常発動の場合だと耐久値が大幅に増加となっていたけども、魔法砲撃だと防壁が2枚になるんだな。あ、2枚目の方は少しだけど前後にも動かせるのか。……これで敵を挟めるんじゃね?


 ふむふむ、変化内容は分かったし、ひとまず解除しとくか。違和感の正体も確認したいしね。


「さてと、これで予定してた検証項目は完了だな。……それでサヤ、思いついた違和感の正体って何?」

「えっと、間違ってたらごめんね? 単なる勘ではあるんだけど、守勢付与が2つ必要なんじゃないかな?」

「……守勢付与が2つ? 自分の魔法には並列制御で使わなきゃ付与は出来ないし、そこで並列制御を使うと枠が……あっ、違う、そうじゃない!? ダイクさん!」

「あー、俺も理解した。俺がケイさんに、ケイさんが俺に、お互いに守勢付与をかければいいんだな」

「……なるほど、それでケイとダイクさんの2人で守勢付与のかかった状態で複合魔法のアクアプロテクションを発動かもしれないのか」


 確かにこれならば同じ効果がかかった状態の2つのアクアウォールの展開が可能になる。……なるほど、同属性の付与魔法持ちが最大限に防御に徹する場合にのみ使える組み合わせなんだな。魔法砲撃にするのは無理そうだけど、試す価値は充分過ぎるほどにあるか。


「ダイクさん、とりあえず試してみよう」

「……だな。あ、そうだ。お互いに守勢付与がかかってればいいなら、並列制御を使って自前で付与してから2人で複合魔法でも良いんじゃねぇか?」

「あー、誰が付与するかって違いだけで内容自体は変わらないもんな」


 違いがあるとすれば並列制御で自分自身の防壁魔法に付与する方が行動値の消費が大きいくらいかな? ここまで検証した感じでは、それ以外の差異はなさそうな気はする。行動値の消費ってかなり重要な気もするけど。


「でも並列制御だと行動値の消費が増えるから、お互いに付与する方向で行こう」

「それもそうだな。そんじゃやっていきますかね!」

「ほいよっと!」


 さーて、これが今回の検証の最後になるだろう。思いつきで始めた検証内容だし、水魔法Lv7を持つ俺とダイクさんが偶然揃って可能になった検証でもある。ここは是非成功して欲しい。


「なんだかドキドキしてきたかな」

「今回のはサヤの思いつきだしね。うん、気持ちはなんとなく分かるよ」

「サヤさん、これで成功したら大成果だよー!」

「ま、そうなるだろうな」

「……そう言われると余計に落ち着かなくなってきたかな!?」


 なにやら他のみんなも盛り上がっているようだし、ここは是非成功させないとな。それにサヤの初案での発見というの久しぶりな気もするよね。うん、そういう意味でも最後の検証を頑張っていきますか。


「とりあえず準備からだな。『アクアエンチャント』!」

「ほいよ!」


 そうしてダイクさんが俺に守勢付与をかけて周囲を3つの水球が漂いだした。さて、俺もダイクさんに守勢付与をかけていこうじゃないか。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 43/70(上限値使用:3): 魔力値 143/206


 付与の対象はダイクさんに指定して、指定内容は守勢付与で決定。よし、ダイクさんの周りに3つの漂う水球が生成された。ここから水魔法への付与を行わなければ、そのまま自動防御の水球として機能する状態だね。


「おっし、それじゃケイさん、本番を始めるぜ! 『アクアウォール』!」

「おうよ!」


 今回は2人で発動する複合魔法だから、先にダイクさんが展開したアクアウォールに重ねるように俺のアクアウォールを発動しないといけないな。


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 38/70(上限値使用:3): 魔力値 128/206


 よし、上手くダイクさんのアクアウォールに重ねて発動する事には成功した。これでどうなるかが重要だけど……。


<『複合魔法:アクアプロテクション』が発動しました>


 おっしゃ、守勢付与の効果付きの複合魔法の発動に成功だ! 俺とダイクさんを覆うように発動したアクアプロテクションの見た目は、通常の時のドーム型の水壁と特には変わらないし、表記そのものも特別な変化はない。でも耐久値は段違いに跳ね上がっている。

 さっきアクアウォールだけを発動した時に耐久値をチラッと見たけど、2倍くらいに増えていた。そして複合魔法となったアクアプロテクションは、その更に3倍くらいにはなっている。ははっ、こりゃ凄い防御力だな。


「……ケイさん、こりゃすげぇな」

「……だな。てか、制御はダイクさんなんだ」

「ケイさん、俺は単独進化の魔法特化型だぞ。孤高強化Ⅰでステータスは1割上がってるし、Lvも22は行ってるぜ?」

「あー、それなら魔力はダイクさんの方が高いか」


 これは進化の系統の差が大きく出ている感じではあるね。俺は支配進化からの派生の同調化になっているからPTの構成もあって魔法が多めではあるけど、物理、魔法を問わずに色んな手札を使うのが戦法である。

 でも、ダイクさんの場合は単独進化の魔法特化型だから魔力が俺より高くて当然ではあるよね。この辺は育て方の個性は出てくるんだな。


「ねー、ダイク、ケイさん、このアクアプロテクションの耐久テストとかしてみない?」

「あー、それはやっといた方が良いか。えーと、どういう攻撃で試す?」

「……今のところ、避けるか、同じ昇華魔法でしか相殺出来ない昇華魔法はどう?」

「あ、ヨッシ、それは良いかな!」

「確かにこれなら防げる可能性はあるか。俺とヨッシさんで発動は出来るけど、ケイ、ダイクさんどうする?」


 ふむ、確かに昇華魔法への対抗が可能かどうかは気になるところではある。発動の為の条件は厳しいけど、これで防ぎ切れるなら大規模戦闘時にかなり役立つはず。もし防ぎ切れなかったとしても、かなりの威力の軽減は期待出来るだろう。


「ダイクさん、試してみたいけど良いか?」

「おう、問題ねぇぜ。俺もそれは気になるからな」

「って事だ。アル、ヨッシさん、昇華魔法を頼んだ」

「おう、任せとけ! あ、勝手に決めたけど、ヨッシさんも良いか?」

「うん、それは問題ないよ。えっと、水と氷の昇華魔法だからヘイルストームだね」

「あ、レナさん。一緒に上空に退避しないかな?」

「そだねー! ダメージはなくても雹に打たれたくはないのさー!」


 そう言いながら、木の上でのんびりしていたレナさんはサヤの竜の頭の上に乗り上空へと退避していった。……サヤは元々飛んでたけど、更に高度を上げてヘイルストームに巻き込まれないようにしてるね。

 そしていつの間にか小型化したアルの頭の上にヨッシさんが止まっていて、飛行する高度を上げていた。うん、まぁ俺もみんなの立場ならそうするから、非難はしないさ……。


「よし、それじゃヨッシさん、やるぞ。『アクアクリエイト』!」

「了解! 『アイスクリエイト』!」


 その生成された水と氷が空中で重なり合い大量の雹を降らしていくヘイルストームが発動していき、アクアプロテクションへ向けて次々と叩きつけられていく。うひゃー、水と氷の衝突する音が断続的に続いて凄いな、これ。スクショ取っておこっと。

 それにしても耐久値はドンドン減ってはいるんだけど、思っていたほどの減少量ではないな。これ、大真面目に耐えきれるんじゃね?


 そうしてヘイルストームの効果が切れた段階での残り耐久値は3割ほど残っていた。おー、マジで耐えきるとは思わなかった。


「まさか、耐えきるとはなー」

「ダイクさんもそう思うか?」

「まぁな。いつでも使えるって訳でもないが、こりゃ灰の群集の最高機密指定だろうな。これの有無で戦局がひっくり返る可能性もあるだろ」

「あー、確かに」


 昇華魔法を昇華魔法以外で防ぎ切れるのならば、そこから一気に攻勢に移る事も可能だろう。少なくとも2人で発動した昇華魔法なら、発動した2人の魔力値は無くなってるしね。


「あ、ちょっとそこまで過信するのはストップだよー?」

「「……レナさん?」」


 あ、思いっきりダイクさんと声が重なってしまった。あー、でも過信して油断すると足元を掬われるのはあるから、要注意ではあるね。


「あーケイさん、油断もなんだけど、今回は攻撃側と防御側のステータスも考えてね?」

「……ステータス? ……あ、俺とダイクさんは魔力がかなり高くて、アルとヨッシさんは低くはないけど俺らよりは低いのか」

「うんうん、そういう事。魔法特化型の2人での昇華魔法には破られる可能性は高いと思うよー?」

「……レナさんの言う通りだな。残りの耐久値を考えると、その可能性は充分ある」

「……確かに」


 これは完全にどの昇華魔法でも防ぎ切れるほどではないと考えておいた方が良さそうだ。ま、それでも昇華魔法の種類にもよるけど、かなり防げるのは間違いないね。

 まぁその辺についても報告を上げれば、検証情報は次々と上がってくるだろう。……ともかく、思いつきの検証も含めて、検証の項目はこれにて完了!


「とりあえず、油断は駄目だけど有用なのは間違いないな! それじゃこれで検証終わり! アル、報告は任せていい?」

「おう、いいぞ。その辺は任せとけ」

「ケイは少し休憩するかな?」

「ケイさん、検証お疲れ様」

「あー、疲れたー! とりあえず、ちょっと休憩ー!」


 無茶苦茶疲れたという訳でもないけど、多少は神経が疲れてはいるからね。結構手分けをして検証したとはいえ、検証内容自体が多かったのは間違いない。しばらく休憩するくらいは別にいいよね。


「さー、ダイク! わたし達は殆ど実際に見てないから、どんどんやっていくよー!」

「ま、俺はまだまだ余裕あるから、やっていきますか!」


 そしてレナさんとダイクさんは、自分達で内容を確認していくようである。休憩も兼ねて、ちょっと見物させてもらおうっと。


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