第580話 スキルを取り終えて


「さて、ちょっと早いけどダイク、そろそろログアウトしようかー!」

「あ、もうそんな時間か。みんな、俺とレナさんはちょっと用事があるから、早めにログアウトするわ」

「ほいよっと」

「……2人揃ってって事は、どこかに一緒に行くのかな?」

「サヤ、そういうリアル側の詮索は禁止だよ」

「あっ! そういえばそうだったかな。ごめん、聞かなかった事にしてもらっていい?」

「んー、これくらいなら問題ないけどねー! ちょっとわたしとダイクの共通の知り合いのお店が今日オープンでねー。お誘いを受けてるから、これから食べに行くのさー!」

「ちょ、レナさん、それ言っていいのか!?」

「むしろお店の宣伝として住所まで言いたいとこだよ! 流石にそれは出来ないけども!」

「あー、まぁそりゃ確かにそうだけど……」

「という事で、みんなまたねー! ほら、ダイク行くよー!」

「ちょ、待ってて、レナさん!?」


<レナ様のPTとの連結を解除しました>


 そうして少し慌ただしく、レナさんとダイクさんはログアウトしていった。まぁあの2人がどこに住んでいるのかは分からないけど、俺らもそれなりにバラバラだから宣伝されたとしても行けない可能性の方が高いしな。

 

 さてとハーレさんはいないけどもグリーズ・リベルテのメンバーだけになったし、少し休憩も出来た。まだ12時までは時間があるから、育成が殆ど出来ていないスキルの強化でもしていこうじゃないか。


「さて、俺はそろそろあれを取っとくか」

「アル、あれってなんだ?」

「おいこら、ケイには言っといただろうが……」

「え? …………あっ、瘴気魔法で『異常回復Ⅰ』の取得するんだっけ!?」

「……今の間は、完全に忘れてたよな?」

「まぁな!」

「開き直りやがった!? ……まぁ別に問題がある訳でもないから別に良いけどよ」


 よし、今の今まで完全に忘れていたけど、とりあえず切り抜けた! よく思い出せば今朝、アルと合流した時にそんな事を言ってたような気がするし、切りがついた今やるのがベストだろうね。


「忘れてた事はどうでもいいから置いておくとして――」

「……ケイ、それは忘れてた本人が言う事じゃ無いかな?」

「あ、やっぱり?」

「うん、やっぱりかな」

「ですよねー」

「……まぁそれは本当に良いとしてだ。とりあえず取るだけ取っていいか?」

「えーと、大真面目に検証をする内容も片付いたから……うん、問題ないな!」

「……うん、多分問題はないかな? ヨッシは何かある?」

「うーん、特にはないね」


 まぁみんな今すぐにやるべき事があるという訳でもないし、アルが纏瘴を使ったところで問題はないね。そういや纏瘴での瘴気魔法の使用となると、前に気になったものの試さなかったあれって……よし、アルにちょっと実験してもらおう。


「よし、全員問題なしだな。それじゃ始めるか。『纏属進化・纏瘴』!」

「アル、後で試して貰いたい事があるけど良いか?」

「はぁ!? 進化の最中のこのタイミングで言うか!?」

「大丈夫、大丈夫。纏瘴中で試してもらいたいだけだから」

「……それなら別に良いが、何をやらせる気だ?」

「瘴気魔法を使った後に、もう1発瘴気魔法が使えるかの確認」

「……おい、それは使っても大丈夫なのか?」

「それを確認する為に言っている!」

「おいこら、俺は実験台か!」

「否定はしない!」

「そこは否定しろよ!?」


 いやー、そう言われても実際に実験を代わりにしてもらおうというのだから、実験台で間違ってはいないもんな。何となく嫌な予感がして試していなかったけども、瘴気魔法をぶっ放した後に更に瘴気魔法の発動が可能かどうか、少しだけ気になってるんだよね。

 あ、アルの纏瘴への進化が終わった。うん、昨日見たクジラのみの纏瘴と今のクジラの背中の木も含めた纏瘴だと、やっぱり随分雰囲気が変わるなー。禍々しい木の雰囲気がより悪役っぽさを演出している感じである。


「サヤとヨッシさんは気にならない?」

「……確かにそれはどうなるか、少し気になるかな?」

「えっと、瘴気魔法を使えば『瘴気汚染・重度』になって、確か時間経過以外での纏瘴の解除と、HP回復が不可能なのと、行動値と魔力値の回復が極端に遅くなるんだったよね? 瘴気魔法で魔力値は全部は使わないし、条件的には発動自体はできそうだけど……。うん、そう言われると私も気になってきたよ」

「だそうだぞ、アル?」

「……ケイが自分でやっても問題ないんじゃねぇか?」

「まぁそれもそうなんだけどな。……どうしても嫌なら俺が自分でやるぞ?」

「あー、そこでケイが躊躇う訳がねぇか。……まぁ俺も気にならない訳じゃないから、やってやるよ。どっちにしても1回は瘴気魔法を使う必要があるからな」

「それじゃアルに任せた!」

「おう、なんか複雑な心境ではあるが任せとけ!」


 よし、サヤとヨッシさんを味方につけてアルに実験の了承を得た! さて、これでどうなるか見物だね。


「ま、先に狙いのものから取ってくぞ」

「ほいよっと。それじゃサヤ、ヨッシさん、退……ってもういない!?」

「あはは、こっちかな、ケイ!」

「まぁどうなるか分かってるもんね」


 さっきまですぐ近くにいたサヤとヨッシさんは、いつの間にやらアルの後方の上空へと移動済みであった。まぁアルの水の昇華と組み合わせての瘴気魔法になって性質としてはウォーターフォールに近いから、その位置が安全地帯ではあるよね。


「ケイ、退避しないならそのまま圧し潰すぞ?」

「アル、地味に根に持ってない!? いや、退避するからちょっと待って!?」

「問答無用! 『並列制御』『アクアクリエイト』『瘴気収束』!」

「ちょ!? 退避どころか直接狙ってないか!?」


 水のカーペットに乗ったまま退避しようと飛んで移動をしたものの、アルは確実に俺を狙ってミアズマ・アクアを発動してきた!? 当たったとしてもダメージはないけど、巻き込まれるのはなんか嫌ー!? くっ、これは回避しきれないか……。そうとなれば新スキルの出番だろう!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 63/70(上限値使用:3): 魔力値 185/206

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 53/70(上限値使用:3): 魔力値 170/206

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ミアズマ・アクアによって生成された黒い水の滝が俺に当たるまでもう時間が無いので、大急ぎで思考操作で並列制御を使って守勢付与の効果がかかった水の防壁を魔法砲撃にして左のハサミから発射! すぐに着弾して2枚の防壁が展開されたから、左のハサミで黒い滝を斜めに逸しつつ、俺自身は右方向へ旋回して回避だ。


 くっ、流石に威力が強くて1枚目の防壁はすぐに消滅して、2枚目の防壁で凌いでいる形になったか。でも、これなら効果範囲からはぎりぎり抜け出せる! ……よし、回避成功! それに2枚目の耐久値は残ったままだ。

 ふふふ、単純に受け続けるだけなら絶対に耐久値は保たないけど、アクアエンチャントと組み合わせれば単独での発動なら直撃の状態からでも回避可能な範囲にはなるんだな。……まぁ属性にもよるんだろうけどね。


「ケイ、今のはお見事かな!」

「うん、凌ぎきれるのはいい感じだね」

「……ちょっと焦ったけどねー。アル、いきなりは酷いぞ!?」

「事前に言ったら、身構えて対処が出来るだろ? これはこれで不意打ちでも対処出来るかの実験だぜ? 俺も実験台になるんだし、文句はないよな、ケイ?」

「……ぐぬぬ。そう言われると言い返せん……」


 確かに予めミアズマ・アクアで攻撃をすると言われていれば心構えが出来ていて、対処はもっと楽だったのは間違いない……。まぁちょっと無茶を言ってアルに実験を頼んだのも間違いではないし、今回の攻撃の意図も分かったから別に良いか。

 それに瘴気魔法だから厳密には昇華魔法とは別物ではあるけども、性質も威力も基本的には似たようなものだから単独発動での昇華魔法に対して有効な防御手段である事が確認出来たしね。まぁ行動値も魔力値も消費が激しいけど、これは流石に仕方ないか……。


「とりあえず『力に蝕まれるモノ』の称号と『異常回復Ⅰ』は取得完了だな。……さて、もう1発試してみるか」

「……アル、流石にまた狙わないよな?」

「あー、ご希望とあらば狙っても良いぞ?」

「それは遠慮しとく!」

「ま、そうだろうな」


 さっきの手段で回避が出来るのは分かったけど、流石に楽な回避でもないから対戦中以外では勘弁願いたい。……てか、これで瘴気魔法の連発が出来るとかなり危険な要素なのでは……? 今更ではあるけど、この実験内容って確実にまとめの中にあるよね。絶対これは誰かが試してると思う。


「よし、それじゃケイの要望通りに試してみるぞ」

「ほいよっと」

「どんな風になるのかな?」

「どうだろね?」

「いくぜ。『並列制御』『アクアクリエイト』『瘴気収束』!」


 さて、気を取り直してアルがもう1度ミアズマ・アクアの発動をして……って、あれ? 水は生成されたけど、それ以上の変化が何もない……?


「……アル、どうなった?」

「あー、こうなるのか。なるほど、浄化魔法が1発限りなんだからある意味では当然か」

「え、どうなったのかな?」

「アルさん、説明をお願い」

「あぁ、すまん。結果としては見ての通り、瘴気魔法は不発だ。それで瘴気収束の効果が少し変化して、汚染状況が悪化だな」

「……マジで?」

「おう、マジだ。まぁそれほど酷いもんでもないが、纏瘴の効果時間が10分追加だとよ」

「あー、そう来たか……」


 纏浄での浄化魔法の使用では纏浄の強制解除としばらくの間の行動不能というデメリットだったけど、纏瘴での瘴気魔法も2度目は使わせて貰えない上に重いデメリットが解除されるまでの時間が延長されるのか。


「そういう効果だったのなら、今のタイミングでしたのは正解かな?」

「んー、微妙なとこじゃない? アルさん、12時までまだ時間はちょっとあるけど良いの?」

「別に問題ないぞ。あと30分ちょいくらいだし、効果時間の追加を考えたら今のうちにやっといて正解だったろうよ」

「あ、そういやそうなるのか」


 このデメリットである瘴気汚染・重度については多分死ねば回復はするけど、ログアウトでは回復しなさそうだもんな。……わざわざ死にに行くのも面倒だろうし、効果切れまで10分追加されて1時間10分は待つ必要があるのなら、12時からの30分間の臨時メンテを利用するのも悪くはないよな。


「ま、俺は適当に情報共有板でも見てるから――」

「あ、アル、ちょっとそれは待ってかな」

「ん? 何かあるのか、サヤ?」

「うん、ちょっとこれからの育成方針の相談かな。本格的にはハーレがいる時にしたいんだけど、微妙な空き時間だしね」

「サヤ、どんな相談内容?」

「えっとね、ケイの新しい付与魔法を見てて思ったんだけど、魔法の属性をみんなで分散させないかな?」

「……なるほど、付与魔法の属性分散の相談か」

「あー、確かにそれは相談しといた方が良いか。無計画にやるとケイと俺は水属性が、サヤとヨッシさんでは雷属性が重なる可能性もあるからな」

「うん、そういう事かな」

「……それは確かにそうだね」


 あえて被らせて複数人が使えるようにしておくのもありだけど、敵の弱点として付与する可能性を考えればPTメンバーで属性を分散させておくのもありか。……まぁ魔法のLv7はすぐには上がりそうにないけど、だからこそ最優先で育てる属性の魔法を決めておいた方が良いのかもしれないね。


「とりあえず、ハーレさんのクラゲは風を優先するとして、サヤは電気魔法がヨッシさんと被るから火魔法か?」

「竜は雷属性だから変な感じだけど、そうなるのかな……? でもヨッシが取りたい優先順位にもよるよね?」

「まぁそうだよね。んー、私は毒……は同じ法則か分からないから、まずは氷で目指すよ。その後に電気も目指すけど、サヤは私と被っても持ってる属性に合わせた方が良いんじゃない?」

「あ、それもそうかな。それじゃ私は電気魔法を鍛えるかな!」

「よし、それじゃ1つ目はサヤは電気魔法、ヨッシさんは氷魔法、ハーレさんが風魔法ってとこか」

「ま、それが無難なとこだろうな。火魔法も欲しいとこだが、1つだけでも時間はかかるだろうし後回しでいいだろう」


 意外とあっさりと話は纏まったけども、ヨッシさんはともかく、サヤとハーレさんの方は付与魔法の取得までにはかなり時間がかかりそうではある。まぁメインが物理攻撃の2人だからその辺はどうしてもそうなるよね。

 逆に俺は土魔法でも他のみんなより早くに付与魔法を取れる可能性はあるもんな。まぁ魔法が主力なんだから当然なんだけど……。って、この場合はアルはどうなるんだ? 現状でアルが1番狙いやすいのは水魔法になるから俺と被るぞ。


「俺は土属性も取るつもりだけど、アルはどうする?」

「……ケイが土も取るなら、属性が被るけど水もありか? もしくは俺は固有の樹木魔法を鍛えた方が良いのか?」

「あー、樹木魔法って手段もありか。でもあれは系統が違うとかあったし、今アルって物理も鍛えてるんだよな?」

「まぁ、そりゃそうなんだが……支配進化でのステータスを考えるなら、今のうちにがっつりと魔法型への進化になるように魔法を鍛えて魔法型の進化先を出して調整しておいてもいいのか。ある程度は物理攻撃も育ってきたし、今はまだ魔法寄りのバランス型だしな」

「……ん? あれ、支配進化の時ってその辺の調整って出来たっけ?」


 なにやらアルは俺の知らない支配進化についての情報を知っているっぽいね。まぁアルは成熟体で支配進化を狙ってる訳だから、未成体での支配進化についての情報を確認していたとかかな?


「……ケイの場合は明確にコケは魔法型だったから物理型の選択肢がそもそも出てなかったのか……? あれだ、バランス型で支配進化が選択肢に出たら、物理型か魔法型か選べるんだとよ。強制進化側は反対側へと強制的に指定だとさ」

「え、マジで? でも前に俺の成熟体への進化先が出た時ってそんな話はなかったよな?」

「あー、あの後に未成体での支配進化の条件ってのまとめで見たんだよ。その時に見た内容だと、操作への特化進化と、魔法型か物理型の進化先が出てる必要があるらしいぜ」

「……なるほど、調べたんだな」


 そういう仕様は全く知らなかったけど、アルは成熟体への進化に向けて情報収集はしてたんだな。そういや操作系スキル自体は物理系のスキルだったはずだし、バランス型からの支配進化でその辺の調整が出来ないと高い方のステータスを参照するっていう支配進化の大きな特徴が無駄になるのか。

 うん、よく考えればあって当然の選択肢ではある。よく思い出してみると、魔法適正が高いコケの進化とかあったもんな。アルの調べた情報のように操作に特化した進化先もあったし、支配進化はその2つの組み合わせで発生するのは間違いなさそうだね。

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