第575話 判明していく付与魔法の性質


 とりあえずサヤとヨッシさんが水砲ザリガニを捕獲して戻ってくるまでに多少の時間はかかるし、今のうちにやれる事をやっていかないとね。今、検証をしている人は全員属性が違う訳だし、それぞれに持ってるLv7まで強化した魔法を試していくべきだね。


「よし、それじゃ次はLv3の拘束魔法に付与魔法をやってみよう! って事で、アルを拘束してもいい?」

「あー、報告しながらになるから破るのは適当になるが、それでもいいか?」

「それで問題なし!」

「それで良いなら、そうするか。『略:魔力集中』!」

「アル、サンキュー!」

「ま、どこまで拘束魔法が強化されるのかも気にはなるからな」

「だよなー。とりあえず、通常発動と魔法砲撃で発動を続けてやっていくぞ」

「おうよっと」


 さて、それじゃ検証の次の項目をやっていくとしますかね。アルが改めて報告を担当してくれる事になったから、俺は発動だけに専念しようっと。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 44/70(上限値使用:3): 魔力値 150/206

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値6と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』は並列発動の待機になります> 行動値 38/70(上限値使用:3): 魔力値 141/206

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 さて、聞いていた通りに守勢付与の効果がかかったみたいだし、まずは通常発動でアルのクジラに向けてアクアプリズンを……って、大き過ぎて範囲に収まりきらないがな……。

 仕方ない、尾ビレを包み込む形で水球の檻を生成しようっと。……よし、尾ビレの根本を包み込むようにして拘束完了。アクアプリズンは閉じ込める系統の拘束魔法だから、巨体のクジラ相手には使い勝手は悪いけど動きを鈍らせるくらいは出来そうだね。

 お、拘束用の水球の横にもう1つの水球が生成されてるっぽいな。これが草花3の人が言っていた補修用の球か。


「おっと、嫌な位置を狙ってくるな……。これなら自己強化の方が良かったか……?」

「ふっふっふ、アルは尾ビレを使った攻撃ってなかったもんな!」

「……いや、手段自体はあるにはあるぜ? 『略:旋回』! って、そういや修復があるって言ってたな!?」

「あー、そういう風になるんだ」


 アルの魔力集中の効果のかかった半ば強引な旋回で一瞬拘束から抜け出されたけど、隣に浮かんでいた水球が抜け出したアルの尾ビレを追いかけるように拘束範囲を変化させていた。ほほう、草花3の人は修復と言ってたけど、これは拘束魔法の性質次第で修復か追尾になるって感じかな。ふむふむ、こりゃいいね。


「……こりゃ地味に使われると面倒だな。もう一発! 『略:旋回』!」

「ふむふむ、追尾は1回だけされるんだな。よし次は魔法砲撃でやってみよう!」

「……狙いがバレバレになる魔法砲撃だと、厄介さが増しそうな気がするんだが?」

「だからこそ試すべし!」

「ま、そりゃそうだ」


 アルの言うように魔法砲撃を使った場合だと発動の起点となる……俺の場合だとよく使うハサミの延長線上にしか飛んでいかないもんな。通常発動と同じ強化だとすると避けられる可能性が高くなる魔法砲撃だと微妙な事になりそうだけど、その辺はどう調整されているかによるね。……さて、効果は同じか、違う性質になっているか、そこが重要だな。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 31/70(上限値使用:3): 魔力値 120/206

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値6と魔力値9消費して『水魔法Lv3:アクアプリズン』は並列発動の待機になります> 行動値 25/70(上限値使用:3): 魔力値 111/206

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 さて、今度は魔法砲撃にして右のハサミを起点に指定。うーん、使ってるスキルのLvが高いからどんどん行動値や魔力値が減っていくなー。今は検証中だから別にいいけど、実際の戦闘中ではこの辺の運用は気を付けないとね。

 てか、付与魔法は魔法をがっつり育てて魔力値の多いプレイヤー向けだな。まぁLv7の魔法なんだから当たり前といえば当たり前だけど。


「それじゃまた尾ビレに向けて拘束するぞー! 避けんなよ、アル!」

「検証中なんだから避けねぇよ!」


 あっはっは、そりゃごもっともで。さてしょうもない冗談はこれくらいにしておいて、アクアプリズン発射! 拘束魔法を魔法砲撃で撃ち出すと水球が飛んでいって当たった場所で拘束になるんだよね。

 ふむ、見た目的には特に変化は……いや、少し射出速度が速いか? あ、アルのクジラの尾ビレどころか、尾ビレを拘束しきった上に胴体部分にまで届きかけてる。凄いな、これ。


「うお!? 拘束の範囲が広がってねぇか、これ!」

「クジラだから捕まえきれてないけど、これなら大体の種族を捕まえきれるか。それで近くにさっきみたいな予備の水球はなし……。アル、とりあえず抜け出してみてくれるか?」

「……そうだな。『略:旋回』! ……くっ、これだと抜け出せないのか」

「おー、拘束性能も上がってるのか」

「……仕方ねぇか。『並列制御』『水の操作』『アクアボム』!」

「あ、それなら何とか抜け出せるのか。ふむふむ、それなりの威力があれば破壊可能なんだな」

「そうみたいだな」


 ふむふむ、魔法砲撃にした今回は抜け出す前から自動で拘束範囲の変更があったみたいだね。まぁアルの指向性を操作したアクアボムで破壊出来るくらいではあるので、そこまで強度が極端に強くなっている訳でもないか。

 これに手動操作を……って、魔法砲撃だとそれは無理か。あ、でも多少はハサミの延長線上からズレてでも拘束が出来てたから、これはこれでありかも。


「……なぁ、ケイ。ちょっと思いついた内容があるんだが、良いか?」

「ん? どんな内容?」

「今、並列制御で他のLvの水魔法にLv7の水魔法の付与効果をかけてるんだよな? これって予め俺に攻勢付与をしておいて……俺の水魔法はまだLv4だから、自動で攻勢付与になるっぽいアクアボムかアクアボール辺りを使えばどうなる?」

「あっ、その可能性は考えてなかった。……どうなるんだろ?」


 並列制御で自分自身の水魔法の強化に使えるのは確定していたけど、今のアルの発想は抜けてたね。自分自身の魔法に付与魔法を使う場合は攻勢付与か守勢付与が自動的に反映されていたけど、味方への付与も攻勢付与と守勢付与の2種類で同じ名前である。……試してみる価値はあるか?


「よし、ちょっとやってみるか。それは出来そうな気がする!」

「だよな? ちょっと報告を書き込むのはこれを試してみてからにするか」

「あ、そういや拘束の実験をしてもらったから、他の報告は実はまだだったりする……?」

「いや、攻勢付与ありのアクアボールの通常発動と魔法砲撃ありの情報は上げといたぜ。ただ他の人の方はろくに見れてないが……」

「……まぁそうなるよなー。戦闘しながら普通に書き込めるベスタが凄いだけか」

「流石にベスタと一緒の水準を求められると困るんだが……」

「確かにそりゃそうだ」


 あれはベスタだからこそ出来る事であって、誰でも簡単に出来るような事では……って、そういや風雷コンビもそんな事をやってたような気もしてきた。……地味にプレイヤースキルが高いんだよ、風雷コンビ!


「あ、そうか!」

「……ケイ?」

「今のアルの思いつき、上手く行けば風雷コンビがとんでもない事にならないか?」

「あー、そりゃ確かにな。電気魔法Lv7を持ってる迅雷さんが電気の操作Lv7を持ってる疾風さんの補助に回れば、高火力にはなりそうではあるが……」

「……問題はその役割分担を受け入れるかどうかか」

「そうだろうな」


 でも、もうその辺が原因での小競り合い自体は終息してるみたいだし、仲が悪い訳ではないもんな。どちらかというと喧嘩するほど仲が良いってタイプみたいだし、とんでもない威力強化の可能性は秘めているか。


「ま、その辺を考えるのは後回しにして、実際に出来るか試してみようぜ」

「おう、そうだな」


 まだ思いつきの推測段階ではあるから、実際に可能かどうかの検証が最優先である。これを試し終えたら、また報告を上げた方が良いだろうしね。もし上手くいったなら、ネズミの人や草花3の人の近くに同じ属性の魔法を持ってる人と再現検証もしてもらいたいしさ。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 18/70(上限値使用:3): 魔力値 90/206


 よし、これで発動待機に入った。さて、アルの水の射出魔法か爆発魔法に攻勢付与をする訳だから、付与対象は木の方だね。って事で、アルの木に攻勢付与でアクアエンチャントを発動! ……お、木の周りに3つの水球が漂っているので付与自体は問題なく完了だな。


「さて、攻勢付与をしてもらったし試し撃ちとでもいきますか。3つの水球がどう使われるかも気になるしな」

「あ、そっか。どう使われるか、まだ分からないもんな」

「そういう事だ。ま、その辺の木にでも適当に――」

「あ、アル! それは待ったかな!?」

「ん? サヤ?」


 一瞬PT会話からサヤの声が聞こえて来たかと思ったけど、PT会話の間近から聞こえるような声と少し離れた距離からの声が二重に聞こえていたっぽいね。

 PT会話ではない方の声がした上空の方を見てみると、大型化した竜の背に乗ったクマのサヤと、竜の頭の上に乗っているヨッシさん、そして氷の檻に閉じ込められている水砲ザリガニの姿があった。どうやら無事に捕獲して戻ってきたようである。あ、俺らの近くまで降りてきたね。


「ケイ、アル、お待たせかな」

「ケイさん、アルさん、ただいま」

「おう、2人共おかえり」

「捕獲、ご苦労さま。それにしても良い的が良いタイミングでやってきたな」

「だなー。よし、折角サヤとヨッシさんが捕獲してきてくれたし、水砲ザリガニを使って色々検証していこう!」

「間に合って良かったかな」

「うん、途中から急いだけど、ぎりぎり間に合って良かったよ」

「あ、間に合うように急いでくれたんだ?」

「うん、そうなるかな。アルさんに付与して試すって聞いた時に大慌てで戻ってきたよ」

「折角なら同時に試せる方がいいもんね」

「ま、確かにそうだよな。わざわざありがとな」

「そこは感謝だな。……さて、ケイ。始めるぞ」

「ほいよっと」


 折角サヤとヨッシさんが大急ぎで間に合わせてくれた水砲ザリガニだもんな。有効活用しないと意味がない。そんじゃまずは水属性持ちの水砲ザリガニに水属性の付与からやっていこうじゃないか。

 その後に威力は確実に落ちるだろうけど、アルが俺の付与魔法の効果で攻勢付与ありの強化した水魔法が使えるかの確認だね。


「それじゃ検証開始! ヨッシさん、氷の檻は解除で!」

「了解! アイスプリズン、解除!」


 よし、これで水砲ザリガニは自由の身になった。……少しだけ氷の冷気にやられて弱っているみたいだけど、HPはそんなに極端に減ってはいないので問題なし!


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 11/70(上限値使用:3): 魔力値 69/206


 それじゃ水属性持ちに水属性の付与をやってみよー! 対象付与は水砲ザリガニに指定。ふむ、ここでは攻勢付与とも守勢付与とも表示はされず、水属性付与とだけ表示されるんだね。とりあえず、それで確定してっと。

 お、水砲ザリガニの周囲に水球が3つ生成されて、それが吸い込まれるように水球が消えていった。……ふむ、濃いめの青い紋様が3ヶ所ほど浮き上がってきたね。これが水属性を強制的に付与した証か。


「アル、とりあえず識別してみる。その後に、魔法の強化の検証だ!」

「おうよ!」

「私とヨッシはどうしたら良いかな?」

「あー、場合によってはアルが仕留めきれない可能性もあるから、サヤとヨッシさんはその場合に仕留める役目をお願い」

「そだね。Lv差はかなりあるけど、水属性に耐性を与えて水属性で攻撃するんだもんね」

「うん、分かったかな!」


 よし、これで検証手順は問題なし。それじゃ水属性を付与した事で識別情報にどんな変化があるかを確認だな。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 7/70(上限値使用:3)


 うへー、行動値の残りがやばくなってきた。こりゃこの1戦が終わったら、一度回復させないと駄目だな。それはそうとして識別情報はどうかなー?


『水砲ザリガニ』Lv2

 種族:黒の瘴気強化種(水砲撃種)

 進化階位:未成体・瘴気強化種

 属性:水、水属性強化(3回)

 特性:砲撃、堅牢


 おぉ、なんか属性の所に全く見覚えのない項目があるね。ふむふむ、水属性強化(3回)か。この3回というのは、3つのスキルの攻撃を受けるまで効果が続くって事なのだろう。


「基本的には今まで見た水砲ザリガニと同じだけど付与した効果で水属性強化(3回)ってのは属性に増えてる! まぁ効果が分かったから、アルやっちまえ!」

「おうよ! 『アクアボール』!」

「あ、アルの木の周りの水球が一緒に撃ち出されたかな!?」

「ほうほう、効果としては基本的に同じか。……先に水球があるってとこが違うくらいだな」

「ま、そこは仕方ねぇだろ」

「あ、反撃してきたね。アクアボールは3連発なんだ」


 少しだけ心配してたけど、流石に敵への付与では弾数追加の効果とかは発動しないようである。とりあえず反撃はしてきたものの、反撃の3発のアクアボールと比べてアルのアクアボールは6発だし、Lv差もあるからあっさり反撃を蹴散らしていった。

 あー、でも水属性への耐性が上がっているようで、ダメージは思ったほどではない。そして、付与した際に浮かび上がった3つの紋様の内、1つは消えていた。ふむ、1つのスキルに被弾した事で強化回数が減少になったみたいだね。

 これは敵への属性の付与は攻勢付与ではなく守勢付与がメインな感じ? ……流石に威力の変化を確認するにはLvが離れ過ぎているっぽいな。なんとなくさっきのアクアボールの威力は上がってそうな気はするんだけどね。ま、次の段階に行きますか。


「サヤ、何でもいいから竜で電気魔法! それで仕留めきれなきゃ、ヨッシさんも頼む!」

「うん、分かったかな! 『略:魔法砲撃』『略:エレクトロボム』!」

「了解……って、私の出番なかったね」


 そして大型化した竜の口から電気の球が吐き出され、水砲ザリガニへと直撃して大ダメージを与えていき、すぐにHPが無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。Lv差もあるんだろうけど、これは水属性を強化した事で弱点属性になる雷属性の攻撃にかなり弱くなってそうだね。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 討伐報酬も貰えたし、同じ水属性の魔法になら付与魔法の効果をかけられる事も分かったし、同属性を持つ敵への属性の付与についても軽くだけど分かった。

 行動値の回復も必要ではあるから、回復中に報告を上げていかないとね。後は他の検証をしている人達と情報のすり合わせをやっていこう。魔法砲撃については俺が検証する必要がありそうだけど、通常発動については共通の仕様ではありそうだ。

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