第536話 それぞれのプレイスタイル


 さて薪割りをやっていこうかと思うけど、これは誰に話しかけたらいいんだろう? よく考えたら今日ここにいるのって灰のサファリ同盟ではないんだよな。いや、灰のサファリ同盟の人もいるにはいるんだけど、バーベキューのメインは『モンスターズ・サバイバル』って共同体だったしね。

 パッと見た感じだと、名前は見た事あっても交流がある人はいない。まぁ悪い事をする訳じゃないから普通に声をかけたら良いだけではあるんだけど、邪魔をしないようにはしないとね。


「おや、ケイさん、行かないのかい?」

「あー、いや、知り合いがいないかなーって考えてたとこ。まぁいなさそうだから、適当に手が空いてそうな人に声をかけるか」

「それなら私の知り合いならいるよ? 話をしてこようか?」

「お、マジか。それならヨッシさんに任せた!」

「了解。それじゃちょっと話をしてくるね」

「行ってらっしゃいかな」


 そうしてヨッシさんが、バーベキューを仕切っている『モンスターズ・サバイバル』の人達の方に飛んでいって、指示を出しているっぽい赤いライオンの人と会話を始めていた。そういや俺が合流した時にヨッシさんが代わりに指示出しをしてたんだから、その中に知ってる人が居ても不思議ではないよな。

 それに俺とハーレさんが晩飯を食べにログアウトしている間に、先に食べ終えたヨッシさんが加工した回復アイテムの補充をしてたりするから、その辺の時に交流があるとかそんな感じなのかもしれない。


「……ちなみにサヤもあの『モンスターズ・サバイバル』って共同体の人達の事は知ってる?」

「うん、知ってるかな。ケイとハーレが晩御飯を食べてる間に、何度かヨッシと肉や魚を焼く時に一緒になってたからね。でも共同体になってたのは今日、初めて知ったかな?」

「あ、そうなんだ」


 やっぱりあの共同体とはその辺の焼いて加工する類のアイテム加工で知り合った仲ではあるようだ。まぁ固定のPTで動いているとはいえ、どうしても時間のズレはあるからなー。そういう所で交友関係の差が出てくるのは当然と言えば当然か。


「『モンスターズ・サバイバル』の設立経緯なら僕が知ってるけど、教えようかい?」

「あ、ソラさん、その辺を知ってるのか。教えてもらえるならありがたいけど、言っても良いような内容なのか?」

「私も経緯はちょっと気になるかな? 確か灰のサファリ同盟の一員だったような気もするんだよね」

「別に話しても問題ない内容だから大丈夫だね。えっと、サヤさんの言う通りであそこは共同体の機能が実装される前までは灰のサファリ同盟の一員みたいな状態だったんだよ。ただ、灰のサファリ同盟の行動理念って景色とか、ゲーム特有の光景を楽しむ事だからね。そこが大きな理由だよ」

「あー、何となく予想がついた」

「私もかな。もしかして、サファリ系プレイヤーじゃなくて生産特化の共同体になるのかな?」

「うん、その通りさ。まぁ別に仲違いした訳じゃなくて、それぞれの一番やりたい事に対して分かれたって感じだね」

「やっぱりか。要するにプレイスタイルの違いが理由なんだな」


 途中で大体の予想はついたけど、概ね正解だったみたいだね。つまり『モンスターズ・サバイバル』という共同体は灰のサファリ同盟から分派した、後方支援系……それもアイテム生産に特化した共同体という訳か。

 灰のサファリ同盟でも連盟機能で下部共同体として土木部門とかもあるけども、それとは別に完全に独立したって経緯なんだな。これは灰のサファリ同盟として残ってる人は少なからずサファリ系プレイヤーで、独立した『モンスターズ・サバイバル』はそうでもないって事か。


 そうしている内に、ヨッシさんが戻ってきた。俺らは俺らで話してたからヨッシさんの話の内容は聞こえていなかったけども、どうだったんだろ?


「ケイさん、話はついたよ。薪はさっきので空きができてるから、やってくれると助かるってさ」

「お、マジか。よし、それじゃちょっとやって来ますか!」

「そうだね。ケイさん、一緒に頑張ろう」

「おうよ、ソラさん! サヤとヨッシさんは操作系スキルの特訓だよな」

「うん、邪魔にならなさそうな上空で特訓かな!」

「そだね。昼までには氷雪の操作はLv3にしたいし」

「よし、それじゃしばらくはちょっと別行動って事で!」

「分かったかな」

「了解」


 とりあえず少しの間ではあるけども、しばらく別行動だね。ちょっと育てる方向性が違うというのもあるから、時にはこういう育て方も必要かな。


「へぇ、みんな色々と育成の計画を立ててるんだね。僕も検討したまま決まらなくて放置になってる2ndを作ろうかな」

「そういやソラさんのとこ……えーと『飛翔連隊』だっけ? そっちでは2ndの状況はどうなってんの?」

「今はライルが拠点用に木を作っただけだよ。なんだかんだでみんな1stが気に入っててね」

「あー、なるほど」


 紅焔さんは2ndを作ってはいたけども合成進化で1stの龍だけになってるし、他のメンバーは数日前に見たライルさんの木以外にキャラは作っていないんだな。まぁその辺は必ず作らなければならない訳じゃないし、人それぞれだよね。


「さて、いつまでも話してても時間が勿体無いから、薪割りに行こうじゃないか、ケイさん」

「それもそうだな。サヤ、ヨッシさん、何かあったらPT会話で!」

「うん、分かったかな」

「ソラさんもいるから、共同体のチャットよりはそっちがいいよね」

「それじゃ、一旦解散!」

「「「おー!」」」


 サヤは電気の操作で本格的に操作に慣らしてから火の昇華を目指して火の操作の特訓。ヨッシさんはサヤのコーチ役をしながら氷雪の操作をLv3まで強化。俺はロブスターで凝縮破壊Ⅰを目指す為に、斬撃系の通常スキルをそれぞれLv5まで強化だね。

 まぁヨッシさん以外は午前中だけで終わるとは思えないから、この辺は地道に強化していこう。出来れば夜までの取得を目指したいね。



 そうしてソラさんと一緒に、さっきヨッシさんが話しかけていた人の所に移動していく。あー、水のカーペットに登録し直してないけど、大した距離じゃないから普通に歩いていくか。

 さて、さっきヨッシさんが話しかけてたライオンの人のとこにやってきた。えーと、肉食獣さん……か。そうか、灰の群集にもネタ的な名前の人は存在するんだな……。


「あー、薪割りをしたいって頼んだ者なんだけど」

「おう、ヨッシさんから聞いてるぜ。さっきの破片の飛来で急に人手不足になったから、薪割りをしてくれるなら好きにやってくれていいぜ!」

「俺としてもスキルのLv上げがしたかったから、その辺はありがたいとこだよ」

「ははっ! お互いに利点は有りってことか。それでだ、薪割りは普段は依頼って事にしてるから流石に無報酬って訳にも行かねぇんだが、その辺はどうする?」

「あー、その辺は考えてなかったな……」


 俺のスキルのLv上げが目的だとしてもそれは俺の都合であって、肉食獣さんとしては依頼にしている薪割りを無報酬にする訳にもいかないのだろう。まぁその辺はしっかりしておかないと、後々のトラブルの原因になりかねないしな。

 

「参考までに聞くけど、報酬としてはどんなのがある?」

「基本的には焼いた系の回復アイテムだな。後はちょっと時間を貰う事にはなるが、他のアイテムも大体は用意は可能だぜ?」


 ふむ、灰のサファリ同盟との繋がりや商人系の不動種の人とも接点はあるだろうし、報酬アイテムの調達自体は問題はないんだな。んー、俺としてはレモン以外の魔力値の回復アイテムが欲しいとこか。


「それじゃ肉か魚で、魔力値が回復出来るやつってある?」

「お、割と出来たてだけどあるにはあるぜ。肉も魚も乾物が魔力値回復になるからな」

「あ、そういえばそうだっけ」


 そういやデンキウナギの運搬の報酬で魚の干物を貰った時にレナさんがそんな事を言ってたっけ。あの時に貰ったアジの干物も魔力値回復だったしね。よし、ここは干し肉をもらっておこうかな。


「そういう事なら、報酬は干した肉にするよ。出来れば牛肉で」

「おう、牛肉の干し肉だな。数については薪割りの数に応じて、後からでもいいか? 先に決めといても構いはしないんだが、ちょいと荒野エリアまで取り寄せてくる必要があってな?」

「あー、別にそれでいいぞ」


 俺としてはおまけで貰うような報酬ではあるから、その辺には特に文句はない。それにしても干した肉や魚が魔力値の回復になるのはいいな。牛肉の干し肉ならビーフジャーキーみたいな感じかな? 意外と戦闘中に齧りながら使えそうな気もするんだよね。

 ヨッシさんにかき氷やはちみつレモンを作ってもらえば良い話ではあるんだけど、どうしても手間はかかるからこういう時に手に入れておくのもありだろう。


「僕はドライフルーツの方で魔力値回復を貰えないかい?」

「お、そういやソラさんもだったな。おう、それも問題ないぜ。干したレモンでいいか?」

「それで問題ないよ」

「よし、それじゃそれで決まりだな。んじゃ薪割り頼んだぜ。あっちに積んでる丸太を使ってくれや」

「おう、任せとけ!」

「さて、頑張ろうじゃないか、ケイさん」


 とりあえず報酬の数は薪割りの数次第にはなったけども種類は決定である。てか、レモンを干したやつもあるんだね。ドライフルーツは全般的に苦手だから、流石に試しに食べてみたいとも思わないけども……。


 それはともかくとして、積んである丸太ってのは邪魔にならないように少し離れた所に積まれたあれか。結構な量があってその場では加工しにくそうだから、必要に応じて持ってきて加工していくって感じだね。

 ふむふむ、あれを薪に出来る程度の大きさにしていけばいいんだな。でも乾燥させてない生木だと薪には使いにくい気はするけど、その辺は……あ、全然問題ないや。どういう訳か、既にしっかりと乾燥されている。


「これ、しっかり乾燥した丸太なんだな」

「あぁ、これかい? 何日か前に色んな森林で伐採したのを荒野エリアに運び込んで乾燥させて、持ってきたって聞いたね」

「へぇ、こういう時に便利なんだな、荒野エリア」


 あそこは確かに乾燥しきってるもんな。ゲーム的にも加工しやすいように調整されているという事なんだろうね。色々と試してみるのも大事という事なんだろう。


「まぁ水分吸収で水分を吸い取った方が遥かに早いらしいから、結構な無駄足だったらしいけどね」

「水分吸収でどうにか出来るんかい!」

「でも荒野エリアで使う分には、森林から持っていくのは悪くはないって事みたいだけど?」

「あー、エリア次第な訳か」


 どうやら全くの無駄足だった訳ではないようだ。確かに荒野エリアには全く無い訳ではないけども、燃やせるものが決して多い訳ではない。そういう意味では森林からの木材の供給は重要なんだな。

 それにしても、知らない所で色んな事が同時に進行してるんだな。まぁ沢山の人が同時にプレイしているんだから当然な話か。


「さてと、それじゃ薪割りをやっていきますか!」

「そうだね、頑張ろうじゃないか。それじゃ、薪を持ってくるよ。『自己強化』『大型化』!」

「任せたぞ、ソラさん!」


 大型化して翼を広げた状態で2メートルくらいはありそうなタカのソラさんが、積んである丸太を脚で掴んで飛び上がっていく。全長2メートルくらいの丸太を持ち上げ、飛ぶとなるとそのくらいのサイズと自己強化が必要なんだね。

 さてと、俺も今の通常のサイズのままじゃ流石に1発での切断は無理そうだ。俺も大型化を使っておくか。魔法砲撃はいらないから、解除しとこ。


<『魔法砲撃Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 70/70 → 70/71(上限値使用:1)

<行動値上限を36使用して『大型化Lv1』を発動します>  行動値 70/71 → 35/35(上限値使用:37)


 よし、大型化完了。ついでに効率よくする為に魔力集中とかも使うか。……ふむ、水属性を付与して水で切り裂く追撃効果も乗せとくか。


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します>  行動値 35/35 → 33/33(上限値使用:39): 魔力値 200/204 :効果時間 12分

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 32/33(上限値使用:39): 魔力値 197/204

<行動値上限を1使用と魔力値2消費して『操作属性付与Lv1』を発動します>  行動値 32/33 → 32/32(上限値使用:40): 魔力値 195/204


 これで準備は完了だけど、ちょっとやりすぎ感がある気がする……。行動値の上限を使用し過ぎか……? でも、どっちにして何度も途中で行動値の回復をする必要はあるもんな。毎回上限まで回復させる訳でもないし、これでも問題はないはず。


 それにしてもロブスターのハサミが青いオーラに包まれていて、これはこれで格好良い感じだな。斬撃の特性を付与して鋭利になったハサミと、大型化している事もあって迫力もありそう。まぁ自分じゃ全体像は見えないんだけど……。ふむ、何か比較対象を用意して、遠隔同調で自分の姿のスクショを撮るのもいいかもしれないな。


「……丸太を持ってきたけど、随分と大掛かりになったね?」

「ま、効率重視って事で!」

「確かにその大きさなら効率は良さそうだね。それじゃ僕は次々と丸太を持ってこようかな」

「ソラさん、よろしく!」


 さてと丸太の運搬はソラさんに任せて、俺は色々と強化をかけた状態で薪割りをやっていこうじゃないか。目指せ、ロブスターで凝縮破壊Ⅰの取得!

 その為には斬撃系の通常スキルをそれぞれLv5まで上げる必要がある。上げるべきスキルは『はさむLv3』『鋏切断Lv3』『鋏鋭断Lv2』の3つかな? さて、まずは威力の低い『はさむ』からやっていこう!

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