第534話 対抗する為の戦法


 さて、お互いに準備完了という事で、俺の防御手段とサヤの爪刃双閃舞Lv3での運用の検証をやっていこうじゃないか。


「よし、そんじゃやりますか」

「ケイのお手並み拝見かな!」

「どんな風になるか、楽しみだね」


 さーて、ダメージは無いから気兼ねなくやれるけども、果たして近接のプレイヤースキルが非常に高いサヤ相手にどこまで通用するかが問題だ。でもまぁ、出来るだけの事をやるまで!


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 67/70(上限値使用:2)


 下準備としてロブスターの表面を覆うコケを増殖させて用意しておく。ふふふ、これが地味に重要なんだよね。よし、コケの視点に変更しておいてっと。

 地味にロブスターの表面のコケの中でなら核の移動が出来るのはありがたい。まぁ群体内移動でも移動は出来るしそっちの方が一瞬ではあるんだけどね。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 62/70(上限値使用:2): 魔力値 189/204

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 56/70(上限値使用:2)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 これで自由自在に動かせる土の防壁の完成っと。俺の狙いとしては、水の防壁よりも土の防壁の方が適しているはず。ま、普通に受けた場合はこっちの方が相性は悪そうだけどね。


「……水じゃなくて土なのは、いまいち意図が見えないかな?」

「ま、それはやってみれば分かるって」

「……確かにそれはそうかな。魔力集中の時間も短くなってきたし始めるよ。『爪刃双閃舞』!」

「2人共、頑張って!」


 さてと、ヨッシさんも応援してくれてるし、可能な限り全力で行きますか。まずはサヤの左からの爪の1撃を真っ正面から受け止める。うん、結構耐久値が削られたけど、1撃目だからまだ問題ない範囲。とはいえ、想像以上に耐久値は減ったので流石はLv3だな。


「……ケイ?」

「不思議そうにしなくても大丈夫だって。ほらよ!」

「わっ!? そういう狙いかな!」


 1撃目を普通に受け止められたのを不思議に思っていたようなサヤだったけども、その土の防壁の角度を変えて受け流すようにすれば、サヤはバランスを崩していた。

 そこからすぐに立て直したサヤが次の連撃を放ってくるが、それも敢えて受け止めてから即座に角度を変えてバランスを崩すのを狙っていく。よし、タイミングがズレると盛大に耐久値が減りそうだけど、タイミング良く角度を変えればかなり軽減出来るね。


「……これはバランスを崩させるのが目的かな?」

「さてね? 他にもあるかもしれないから、全力で来ていいぞ」

「その挑発に乗ってあげるかな!」


 よし、サヤの攻撃の勢いが上がったな。迂闊に連撃に間を取られる方が厄介だからこれでよし。ま、あえて乗ってきてくれたんだろうけどさ。

 そして防壁でまた攻撃を受け止めると見せかけて、サヤの爪の直撃の直前で下からすくい上げるように回転させて爪を弾き上げる。お、これなら耐久値は減るには減るけど一方的に受けるよりは少ないか。ふむ、前にもスパイをヨッシさんの氷の防壁とで挟み潰したけど、防御一辺倒な使い方以外でも充分な実用性はあるな。


「……これは動きが読めなくて厄介かな?」

「あ、分かった。水じゃなくて土なのは目隠しが目的なんだね。視界の確保はハサミにあるコケから?」

「ヨッシさん、正解!」


 外から見ているヨッシさんからは分かりやすいんだろうけど、俺とサヤの状況では土の防壁があって非常に視界は悪い。サヤからは土の防壁が邪魔で俺の事が視認し辛いだろう。

 だからこそ、それを補う為のコケである。今はコケの核を左のハサミにおいて視界を確保している。防壁自体もサヤの視界を妨害するように動かしているしね。


「もういっちょ!」

「わっ!? 今度は回転かな!?」


 今度はブーメランのように回転させながら防壁をサヤに向けて操作していく。流石に連撃の最中に防壁をここまで色んな方向に動かすと初見では対応しにくいみたいだ。……本当ならもう1個土の防壁を用意して、2つ同時使用で翻弄したかったんだけどね。もしくは攻撃を同時にしたかった。


 そしてサヤは距離を保ちつつ、防壁の破壊に専念して連撃を加えていく。うーん、意表を突くように操作をするけども、俺の狙いを悟られたから普通に対処されていくね。流石はサヤだな。近接への対応能力が高い。


「でもこれは小細工の類かな!」

「まー、小細工って厄介ではあるけどな」


 やっぱりサヤ相手にこれだけだと最後まで防壁を保たせられないか。ま、やってみた感じでは実用性自体は充分あるね。でもサヤは竜で補佐するという手段とかもあったし、一定以上のプレイヤースキルを持った人に実戦ではここまで効果もないだろう。

 ま、これ自体はまだ不完全な手段だし、仕方ないか。完全に翻弄するならもうちょい手段の追加が必要になってくるね。でも、これはこれである意味では成功ではある。


 さてと防壁は完全に破壊されたからこれは俺の負けだけど、とりあえず発射はしないけどハサミをサヤに向けて突きつけておこうっと。


「……ケイ、それって防壁は完全に囮だったって事かな?」

「ま、そうなるな。今回は破壊されて終わりだけど、破壊された瞬間に連射を撃ち込んだらサヤは対応出来るか?」

「……やってみないと分からないけど、絶対にと言い切る自信はないかな……?」

「なら、それで今回のは充分な成果だな。本当はもう1つ防壁を用意して、囮の役割と、もっと連撃数の無駄に消費をさせたかったんだけど……。それかこっちも攻撃しながらってとこか……」

「……それはどっちも本当に厄介かな」

「……あはは、でもそれは確かにまだ無理だよね」


 とりあえず相手次第ではあるけども防壁1つの動かし方次第である程度は翻弄出来るし、破壊された直後に連射で対応しきれない状況にする事は可能そうだ。

 ここで重要なのは防御を破るという意識を他の事へ逸らす事だな。流石にそこまでやるとサヤも全力で他の手段も使って対応してくるだろうけども、対人相手ではなく普通の雑魚敵には充分使えるね。


「ところでこの場合は引き分け?」

「あー、別に今回は検証だけのつもりだから、勝敗は決める気はないぞ」

「それなら今回は防壁を破壊した私の勝ちで良いかな?」

「ちょっと待った。そういう事なら、普通に受けたら破壊確実の土の防壁を最後の1撃まで保たせた俺の勝ちだ!」

「それならもう1度、今度は一切の縛りは無しで勝負かな!」

「その勝負、受けて立つ!」

「ちょ、サヤもケイさんも落ち着いて!? 今のは私が口を滑らせたのが悪いから、勝負はなしで!」

「……ヨッシがそういうなら……」

「あー、うん。まぁそれもそうだな」


 サヤとの全力での一騎打ちというのも興味がない訳でもないけども、ヨッシさんが止めるのなら今回はやめておこうか。……まぁ完全にさっきのは売り言葉に買い言葉だったしな。


 とにかくこれで、やり方次第ではLv3の連撃系の応用スキルは対処が不可能ではない事は分かった。チャージ系も試しておきたいけども、それはハーレさんの爆散投擲か貫通狙撃のどっちかがLv3になった時に試せばいいか。


「さてと、俺はちょっとこの辺の情報をまとめに上げてくるよ。多分類似情報はあるとは思うけど、この手の情報はサンプルが多い方がいいだろ」

「確かにそれはそうだね。それじゃそれが終わるまでの間は、また氷雪の操作を鍛えておくよ。サヤは?」

「私は簡略指示を使って竜での電気の操作に慣れていきたいかな。それで自分なりに納得出来るようになったら、火の進化の輝石を交換……いや、やっぱりそれは無しかな」

「え、どうして?」

「苦手だからこそ、輝石でLvを上げるんじゃなくて自力でLvを上げてみるよ」

「お、マジか! よし、サヤ頑張れ!」

「うん、頑張るかな!」


 どうやら本格的にサヤも操作系スキルの特訓に突入か。しかも今度は進化の輝石のLv上昇分を使用せずに自力で上げるんだね。サヤは簡略指示で竜のスキルの使える種類も増えた訳だし、これは竜の大幅強化が期待出来るかもね。


「そんじゃちょっと報告を上げてくるわ!」

「報告は任せたかな」

「いってらっしゃい、ケイさん」

「ほいよっと」


 さてと、手早く情報をまとめてグリーズ・リベルテ専用の報告欄に書いていこうっと。……そういや共同体用の専用ページってどんな風になってるんだろう? 俺ら用の報告欄はベスタが用意してくれたものだけど、共同体の機能として自分たちの共同体のページも作れるんだよな。

 ちらほらと見れみれば灰のサファリ同盟が護衛依頼や採集依頼とかを載せているページとか、オオカミ組の勧誘ページとかがあるね。うーん、俺らの中にこの手の編集が出来る人っていたっけな? ……まぁ特に用途もなさそうだし別に良いか。


 そんな風に余計な事を考えながらも、まとめへの報告は完了っと。上げた情報に関連しそうなまとめの部分も確認してみたら、同じような検証情報はあった。その上でどの応用スキルに対しての対応策なのかのサンプル情報の提供を求めていたので、無駄にはならなさそうである。

 ただ、確認した際にチャージ系の弱点を見ちゃったなー。まぁチャージ系の応用スキルに関してはシンプルにチャージ完了前に潰せという内容だったから、納得ではある。ぶっちゃけLv3でチャージが完了したら防御を破壊した上でまだ威力が残っていて、大ダメージを受ける可能性のほうが高いそうだ。


 とりあえず報告は完了したし、確認の為に見た情報で少し意図せず新情報を得たからそろそろいいだろう。俺は……そうだな。折角、ロブスターに斬撃の特性も付与したんだし、さっき薪割りをしていたのを手伝って来ようかな? 今のロブスターなら、スキルで薪割りをするのも効率がいいだろうしね。


「ただいま」

「あ、ケイさん、おかえり」

「ケイ、ちょっと見てかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」

「お、結構いい感じになってるんじゃないか? まだぎこちない感じはあるけどさ」

「……うーん、これでも電気の操作はLv4にはなってるんだけどね」

「サヤ、そこは特訓あるのみだよ。私も付き合うからさ」

「うん、ヨッシありがとね」


 サヤの電気の操作は見せてもらったけども、上手く狙った方向に操作が出来ていない感じがするね。ふむ、さっきはイメージトレーニングとかしてたけど、上手く操作のイメージが出来てない感じかな?


「サヤ、電気の操作の時はどんなイメージでやってる?」

「えっと、電気を前に飛ばしていく感じかな? だよね、ヨッシ」

「うん、私は電気はそんなイメージでやってるよ。……でも、サヤのって何か違うんだよね」

「それは何というか、申し訳ないかな……」


 あー、やっぱりサヤは操作後のイメージがしっかり出来てないから、操作系スキルが上手く扱えてないんだな。まぁ現実にはあり得ないゲームならではの物だから、その辺は仕方ない側面もあるんだろうけど……。

 それなら、現実にある現象を元にイメージをしていけば行けるか? えーと、電気は現実にあるものと言えば……。


「サヤ、落雷をイメージ出来るか?」

「え、落雷? うーん、規模が違い過ぎてどことなくピンと来ないかな……」

「……なるほどね。それならスタンガンとかならどうだ? クマの左右の爪の間を放電させるようなイメージでさ」

「あ、それなら何となくイメージ出来るかな!」

「そっか。ケイさん、現実にあるものを元にして慣らしていけばいいんだね?」

「まー、思いつきではあるけどな。それで現実にある物のイメージ通りに操作が出来たら、少しずつ動きを変えていく感じでどうよ?」

「やれそうな気がしてきたかな! ケイ、ありがと」

「どういたしましてっと」


 どうやらサヤの頭の中で操作系スキルのイメージの仕方が少し掴めた感じっぽい? まぁ完全に思いつきで言った事だから上手くいくとも限らないけど、あながち方向性としては間違ってはないと思うんだよね。

 限定的にでも思った通りに操作が出来るようになれば上達も早いはず。ある程度それで慣れてくれば、ヨッシさんが掴んだコツもあるからね。すぐにとはいかないだろうけど、ちょっとずつ慣らしていけば多分何とかなるはず。


「ヨッシさん、そんな感じでサヤの特訓に付き合ってもらえるか?」

「あ、うん、いいよ。それでケイさんはどうするの?」

「ちょっとロブスターの単発の斬撃系スキルの方から凝縮破壊Ⅰを狙いに、薪割りを手伝ってくる」

「あ、確かにそれは良さそうだね。それなら少しの間は別行動?」

「あー、そうなるのか? いや、でも大規模な特訓でもないし、みんなで湖まで戻るか? ヨッシさんなら氷雪の操作の特訓は上空でも出来るよな?」

「んー、確かにそれはそうかも。サヤ、どうする?」

「私もそれで良いかな」

「んじゃ、それで決まりだな。湖まで戻るぞ!」

「「おー!」」


 俺の薪割りは確実に野外炊事場となっている湖の畔でやるのが良いだろうし、湖の畔は人が多めとはいえ特訓が出来ない程混雑している訳でもないはずだ。まぁ混雑具合を見てからにもなるけど、これからやる事は湖の畔で充分可能である。

 現在時刻は思ったより経っていて、10時半を過ぎていた。ま、とにかくスキルの強化を頑張ろう! その為にもまずは湖へと戻らないとね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る