第532話 威力の確認 前編


 魔力集中や自己強化がなくても魔法を破壊出来る条件は大体判明した。それで改めて思ったのが、近接系の物理攻撃は魔力集中や自己強化を使用する事が前提のバランスにはなってるね。どっちか使っていれば、アクアボールくらいなら通常スキルでも破壊出来るくらいだし。

 

「ケイ、再使用時間が経過したから次はLv2の発動がいけるかな」

「お、回復したか」

「Lv2だとどのくらい威力が上がるんだろうね?」

「行動値の消費量は倍になるから、かなり強力になるとは思うかな?」

「ま、それを確認する為の検証だけどな」

「そだね。実際に試してみるのが一番早いよね」


 さてサヤの再使用時間も経ったという事で、Lv3まで上がった爪刃双閃舞の威力を順番に確認をしていこう。俺の万力鋏や応用の操作系スキルは法則性が違うけども、基本的にはスキルLvの10倍の行動値の消費になっているんだよな。だからLv2では行動値は20、Lv3では行動値を30消費するようになっているはず。


「んじゃ、やっていきますか!」

「うん、それじゃ行くかな。Lv2で『爪刃双閃舞』!」


 そうしてサヤはLv2で爪刃双閃舞を発動していく。ふむ、弱い銀光を放っているのは変わりなくて、パッと見で違いはいまいち分からない。うーん、Lv2とかLv3を見分ける手段がないとちょっと恐ろしい気もするけど……いや、そうでもないか?

 今少し銀光が弱まって、すぐにまた戻ったような気がする。連撃で1撃も当ててない状態だから元の銀光が弱くて分かりにくいけど、これは試しながら確認していく方が良さそうだ。


<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』を発動します>  行動値 60/70(上限値使用:2): 魔力値 89/204 再使用時間 90秒


 俺の方の半自動制御も再使用時間が経過して、使用可能になっている。あと行動値は全快していたけども、魔力値はまだ全快していなかったね。ま、使う上で問題はないので、そのままやっていくまでだね。

 とにかくサヤが既に待機に入っているので、さっきの手順と同じで連射開始! さて、これでどうなるか。


「まずは1撃目かな!」

「あ、これは破壊出来なかったね」

「……でも弾き飛ばされる勢い、増してない?」

「……確かにそうかも?」


 さっきのLv1の時の1撃目は少し軌道を変える程度だったけど、Lv2だとLv1の6、7撃目の時と同じくらいの勢いで弾き飛ばされていた。……これ、予想以上に威力が上がってません? まぁいいや、次弾発射!


「さっきはしなかったけど、これならどうかな!」

「あー、左右の爪で同時に攻撃もありか。てか、これならあっさり破壊出来るのか」

「確実に威力は上がってるね」


 えーと、連閃は左右の爪での同時攻撃は出来ないけども、爪刃双閃舞は同時攻撃が出来たんだよな。まぁこの辺は通常スキルの双爪撃の名残というのもあるんだろう。今のは同時攻撃というのもあるんだろうけども、見事に魔法は破壊されたな。

 あ、さっきも気になったけど、やっぱり放っている銀光の眩さが強くなったり弱くなったりしてるね。これがスキルLvが上がった事による変化か。


「この光り方の違いって、Lvが上がったからかな?」

「そうみたいだね。うん、見分けがつく方がありがたいかも……」

「え、そうかな? 分からない方が良い気もするんだけど……」

「サヤ、ヨッシさんの言う通りだぞ。自分で使う分には分からない方がありがたいけど、敵に使われた時に見分けがつかないと、この威力差は危険過ぎる」

「あ、そっか。違いは気にせずに避ければ良いかと思ってたかな」

「サヤ、それは誰でも出来る訳じゃないからね?」

「……あはは?」


 軽く見た感じでは威力は上がっても攻撃速度が上がるという訳ではないので、回避の得意なサヤからしたらあんまり関係なかったようである。うん、ヨッシさんの言うように誰でも出来る訳じゃないし、あまり参考にはしてはいけない意見だろうね。

 俺としては防壁魔法や拘束魔法の耐久性について関わってくる話だから、そう簡単に考える訳にもいかないんだよな。銀光の強弱が発生している連撃にはより注意が必要ということだね。


「サヤ、とりあえず残りは次々行くぞ」

「うん、分かったかな!」


 そこから次のアクアボールはあっさりと破壊され、残弾も全て破壊されていった。ふーむ、流石は行動値の消費が2倍になっただけの事はある。これは相当な威力強化だ。

 まぁその分だけ行動値の消費量が増えているから、気軽な魔法への対抗策とも言い切れないか。アクアボールを破壊するのなら魔力を使って、Lv1で迎撃した方がコストパフォーマンスは良いはず。


「威力はとんでもなく上がってるのは分かったけど、これはサヤはどういう時に使う?」

「うーん、そうだね……。PTで行動値の回復に時間が割ける状況であるのが大前提で、守りを固めているのを強行突破する時とかかな?」

「もしくは大ピンチの時とか? その場合って行動値が残ってるか怪しいけど……」

「ヨッシさん、それはケースバイケースだぞ。初手で奇襲を受けた時の立て直しにならありだ」

「あ、そっか。その可能性もあったね」


 まぁその場合は昇華魔法も選択肢になり得るんだけども、状況次第なのは変わらないか。敵の数が多くてのピンチなら昇華魔法だし、1体の強敵が相手なら今回のサヤの強化した爪刃双閃舞の出番になってくる。

 逆に今回は育成出来てないけども、チャージ系なら一気に削りたい時に有効だろうね。連撃系と同じく守りを突破するのにも使えるか。


「また再使用時間が経つの待ってから、Lv3の実験かな?」

「……もっと凶悪になってそうだよな」

「……うん、私もそう思う」

「あはは、確かにこの感じならそうなりそうかな。でもやっぱり行動値の消費がね?」

「まー、そこがデメリットではあるよな」

「それはそうなるよね。気軽にホイホイと連発されたら堪らないもん」

「ま、そりゃそうだ」


 でもこうなってくると、防壁魔法でも防げるのか凄い不安になってきたな。……この実験が終わってからサヤに魔力集中を使った状態で耐久テストをしてもらおうっと。


「さて、再使用時間を待ってる間に何かするか」

「あ、それなら私の氷雪の操作のLv上げに付き合ってもらってもいい?」

「おう、良いぞ」


 俺の方は魔力値さえ使わなければ、半自動制御の発動用に行動値を10さえ残しておけば問題はないからね。ヨッシさんの氷雪の操作の強化も重要になってくるだろうし、合間で鍛えていくのは賛成だ。


「ヨッシとケイで特訓をするのは良いけど、どういう形でやるのかな?」

「あー、そうだな。魔力値は使いたくないから……お、ちょうどいいとこに岩があるじゃん」

「あ、ホントだね」

「よし、それじゃ俺がその岩を操作して逃げていくから、ヨッシさんは氷雪の操作をしつつ氷の追加生成で岩を固めたら勝ちってのでどう?」

「要するに操作を使った鬼ごっこだね?」

「あ、ちょっと楽しそうかな!」

「ま、そういう感じだな。後でサヤも電気の操作の練習も兼ねてやってみるか?」

「……うん、いつまでも苦手なままじゃ嫌だし、やってみようかな」

「それじゃそういう事で決まり!」


 やっぱり操作系の特訓には対戦型でやるのが楽しみつつ出来て良いんだろうね。サヤもいつまでも苦手なままでいる気はないみたいだし、火の昇華を取るかも考えてみると言っていたからその辺りもあるんだろう。

 ま、今はサヤは再使用まで待機もあるし行動値の回復もしてもらう必要があるから、後にはなるけどね。こればっかりは必要な回復だから仕方ない。


「さて、それじゃヨッシさん、やりますか!」

「了解! 『アイスクリエイト』『氷雪の操作』!」


 そしてヨッシさんが吹雪を生み出し、自身の周囲に渦巻くように操作をしている。……あれ? 精度がまだ低くて荒々しいのは間違いないけども思っていたよりも安定してるね。


「ヨッシさん、もしかして氷雪の操作はLv2になってる?」

「あ、やっぱりケイさんは気付くんだ。うん、そうだよ」

「ヨッシに荒れてる状態の氷雪の操作で的を頼んでたからね。雪だけじゃなく雹みたいなのも出来るんだよ」

「まぁ氷雪の操作だとそんなに大きいのは無理みたいなんだけどね」

「へぇ、そうなのか。って、さっき俺は岩を凍らせて固めるって言ったけど、それは出来るのか?」

「あー、うん。多分大丈夫。冷気の追加生成で表面を凍らせる事は出来るみたいだから。あ、でも完全に氷で固めるのは厳しいかも?」

「……なるほど。それじゃ表面を凍らせたら勝ちって事に変更な」

「うん、その方が良いかも」


 ちょっとした思い違いから少しのルール変更はあったけども、まぁ基本的には問題ないな。氷で本格的に大規模に氷漬けにするには、氷塊の操作が必要な気もしてきたね。

 さてとヨッシさんの準備は終わっているのに、いつまでも待たせている訳にもいかないね。俺の方も準備をしていこうか。


<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 46/70(上限値使用:2)


 近くにあった地面に半分埋まっていた岩を支配して、持ち上げていく。大き過ぎず、小さ過ぎず、割とちょうどいい感じの大きさの岩だね。これなら取り回しもしやすいし、ありだな。


「きゃ!?」

「サヤ、どうした!?」

「あ、一般生物のクモだね。はい、これで始末したよ」

「ありがとかな、ヨッシ!」


 どうやら岩陰にいた小さなクモの出現にサヤは驚いていたようで、即座にヨッシさんが発動中の氷雪の操作で仕留めていった。その際に雹のような氷の粒を追加生成していたので、意外と小さい敵相手には良いみたいだね。


「さてと、それじゃ始めるか」

「そだね。サヤ、合図をお願い」

「うん、分かったかな。それじゃ、試合開始!」


 そのサヤの号令に合わせて、一気に操作した岩を加速させていく。でもヨッシさんも俺のその操作をそれなりに予想はしていたようで、即座に追いかけてきた。ふふふ、だからといってあっさりと捕まる気は欠片もないけどね!

 ミズキの森林の木々の隙間を縫うようにして、岩を操作していく。そしてまだLvが低くて精度の低いヨッシさんは、追いかけてはくるものの無駄に木に当たっていたりして、思うように扱えてはいないようである。


「容赦ないね、ケイさん」

「ま、手を抜いたらそれはそれで失礼だろ?」

「……確かにそれはそうだね。正直、勝てる気はしないけど練習には良さそうなのが救いだね」

「ヨッシ、ケイはたまに抜けてるとこがあるからそこが狙い目かな!」

「サヤ、それは地味に失礼じゃないか!?」

「あはは、でもあながち間違ってもないよね」

「ぐぬぬ、否定はしきれないけど負けはしない!」


 それからしばらくの間、俺の岩の操作とヨッシさんの氷雪の操作による鬼ごっこを続けていった。たまに抜けてるところがあるというのは否定出来なかったけども、今回については俺の勝ち! ふふん、操作のLvは俺の方が上なんだから、流石にこれで負けてはいられないのさ!


「あはは、やっぱりケイさんの操作には敵わないね」

「まぁ俺の得意分野だし、負ける気はしないぞ」

「ま、そうなるよね。でも、良い練習にはなったから、ありがとね」

「どういたしましてっと」


 ヨッシさんも初めは木々に当たる事が多かったけども、終盤には無駄な動作が減ったのか木々に当たる回数は減っていた。まぁまだLv2だからどうしても精度は悪いけども、Lv3になればもっと細かい制御が可能になって扱いやすくなるだろう。


「それじゃケイ、今度はこっちを再開でもいいかな?」

「おうよ。んじゃ、爪刃双閃舞のLv3の威力を見てみますか」

「どうなるか、気になるところだね」


 うん、俺も気になる所ではある。Lv3になって行動値を一気に30も消費する応用スキルの威力は果たしてどれだけのものなのか、是非とも確かめておかないとね。


「それじゃ行くかな! Lv3の『爪刃双閃舞』!」

「おうよ!」


 さて、サヤのスキルの強化の確認の最終段階だ。……まぁ後でもうちょい他のパターンも試してはみるけども、同じ条件下での比較はこれで最後である。この威力によっては、同じ強化方法を考えているハーレさんのチャージ系スキルにも応用が効くんだよな。


<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』を発動します>  行動値 37/70(上限値使用:2): 魔力値 2/204 再使用時間 90秒


 さっきの鬼ごっこの開始前に少しだけ行動値も魔力値も回復してたんだな。まぁ、発動する為に必要なだけはあったので問題なし。

 今更言うのもなんだけど、気楽に使えるから登録済みの半自動制御をつかったけど、無駄撃ちが確実に発生しているから手動発動の方が良かったのかな? ……済んだ事を気にしても仕方ないか。


「え、1撃目で破壊出来たのかな!?」

「うわっ、マジか!」

「……やっぱりかなり威力が上がってるね」


 Lv2で早い段階から破壊が可能になっていたからこの事態は全く予想していなかった訳じゃないけども、いざ見てみるととんでもない威力だな。……これ、Lv3の最大連撃まで行くともしかしてバランス型のプレイヤーの単独発動の昇華魔法とかなら、破壊が出来るんじゃないか?

 流石に魔法型の単独発動の昇華魔法までは破壊出来ないとは思うけど、一応は試してみるべきか……?


「これで最後かな!」

「サヤ、おつかれさん。どうもLvが上がると銀光の強弱の変化の頻度が上がるっぽいな」

「そうみたいだね。……要警戒の目印がよく分かったよ」

「あはは、これだけ威力が上がれば目印も必須かな?」

「確実に必要だな」

「うん、ケイさんに同意」


 Lv2の爪刃双閃舞を見た時でも警戒心が跳ね上がったのに、更にそれより凶悪な威力になったらその目印は必須である。ぶっちゃけ、連撃の1撃目でアクアボールは破壊されたから実際の威力って分からないんだよな。

 さてと、次は俺の全力の防御とサヤの全力での攻撃で比較検証といきますか! ……発動コストがLv3の爪刃双閃舞の方が上だから、最低でも複合魔法にしなければ防ぎ切れない気もしてるけど、それを確認する為にもやっていかないとね。


 っていうか、威力の検証ばっかで自分のスキル強化が全然出来てないな。まぁ威力の確認は重要な内容だから別にいいけど。今日は昼からもスキル強化の予定だしね。

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