第531話 サヤのスキルの強化


 さて、バーベキュー会場になってる場所にサヤとヨッシさんの姿を見つけたので合流していこう。それにしても改めてバーベキュー会場を見てみると綺麗な切断面の石板が鉄板代わりに使われているね。しかもそれ専用に石で竈が組まれているんだな。


「行くぜ! 『大型砲撃』『強投擲』!」

「来いや! 『爪刃乱舞』!」


 少し離れた所では、丸太を投げるゴリラの人と、その投げられた丸太を連続斬りで薪に変えているヒョウの人がいた。おー、スキルも使ってるし、特訓も兼ねてるっぽいな。ゴリラの人が使ってる大型砲撃ってあれか、大きな物も投げれるようになるってスキル。こういう活用方法もあるんだね。


「ケイ、こっちかな」

「おっと、見てる場合じゃないや。お待たせ、サヤ、ヨッシさん。それにしてもかなり変わったな、ここ」

「お茶と焼いた食べ物の増産って事で設備を作ったみたいだよ。どれも天然産で作ったんだって」

「へぇ、そうなのか」


 サヤに呼ばれてそっちに行ってみれば、そういう事情であるようだ。この前のお茶の検証でお湯を沸かす為の竈を何個か作っていたし、それを発展させていったんだろうね。湖がすぐ側にあるというのも、水源確保という意味では重要なんだろう。


「あ、そっちは焼き過ぎ! それはまだ早いよ! こら、そこはつまみ食いしない!」


 そして、ヨッシさんはバーベキューでの焼き具合のチェックをしていた。あれ、俺がさっきチャットで連絡してからそんなに時間は経ってないのに、何がどうしてそうなった? 確かさっきまでサヤと特訓をしてたんじゃ……?


「で、ヨッシさんは何で指示出しをしてるんだ?」

「あはは、ついさっきその辺の加減が分かってる人がちょっとリアル側の都合で少しの間だけどログアウトしててね? その間に失敗が続いてて、見かねて行っちゃった感じかな?」

「あー、なるほどね」


 流石に道具も何もないこのゲームでの料理というのはそう簡単なものではないか。まぁ俺だってこのゲーム内でやれと言われても出来る気は欠片もしないしなー。リアルでさえ、本当に簡単な料理くらいしか出来ないし……。


「おう、戻ったぞ……? あれ、代わりに指示してくれてた人がいた……って、なんだ、ヨッシさんか」

「あ、戻ったんだね。それじゃ、私は友達が待ってるからそろそろ行くね」

「おう、サンキューな!」

「いえいえ、どういたしまして」


 そうしている内に、元々指示を出していたライオンの人が戻ってきたようである。えーと、灰のサファリ同盟の人ではないのか。『モンスターズ・サバイバル』って共同体の人のようだけど、共同体名からするとサバイバルとかに詳しかったりするんだろうか? ……少なくとも野外での調理技術は持ってそうだけど。


「サヤ、お待たせ。なにか私が待たせるようになっちゃってごめんね、ケイさん」

「いや、状況が状況だったみたいだし別に良いって。そもそも俺が待たしてたんだし」

「あはは、確かにそれもそうだね。それじゃ少し移動してからサヤの強化をやっていく?」

「それもそうだな。って事で、サヤ、任せた!」

「分かったかな。それじゃまずは移動だね」

「だな」


 流石にこの野外の炊事場とでも呼べそうな場所ではちょっとやりにくいもんな。少し移動すれば人も減って特訓に良さそうな場所も空いているはず。

 この辺は競争クエストで勝ち取った占有エリアの多い灰の群集の特権だね。まぁ時期はまだ先ではあるんだろうけど、競争クエストの再戦が行われる時にはミズキの森林の占有権は再度勝ち取りたいとこだね。

 



 そうして少し移動して人が少なくなった所へやってきた。サヤは竜に乗り、ヨッシさんは自力で飛び、俺は水のカーペットに乗っての移動である。周囲に他の人はいないし、多少暴れても他の人の迷惑にもならないはず。

 もう水のカーペットも必要ないから解除でいいかな。っていうか、今の3人での速度を必要としない移動ならサヤの竜に乗る方が便利な気もしてきた……。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 69/69 → 69/71(上限値使用:1)


 よし、とりあえず不要な水のカーペットの解除はこれでいい。それではサヤのスキル強化をやっていこう!


「それじゃスキル強化の種で爪刃双閃舞のLvを2から3に上げるね」


 そう言いながらサヤはインベントリからスキル強化の種を取り出していく。見た目としては、かなり小さな粒みたいな種だね。もっと大きい種かと思ってたけど、そうでもないんだな。


「それで、これってどう使うんだ? 食べるのか?」

「あはは、食べるんじゃなくて、触れてれば良いだけだよ。サヤ、強化したいスキルの指定画面は出た?」

「あ、うん。今出たから、これで指定すれば良かったんだよね」

「うん、そうだよ。それで強化が始まるからね」

「ヨッシが使った時に演出は見てるけど、ちょっと勇気がいるかな?」

「あはは、大丈夫だって。ただの演出だしね」

「そっか、サヤはヨッシさんの氷の操作をLv6にした時に見てるのか。勇気がいるって、どんな演出なんだ?」

「……それは見てのお楽しみかな?」

「そだね。ここで言うのなら待ってた意味もなくなるしさ」

「あー、確かにそりゃそうだ」


 どんな演出なのかを見たくて合流するまで待ってもらっていたのに、内容を聞いて台無しにするのは無しだよね。でも勇気がいる演出と言われると気になってしまうのも仕方ないとは思うんだよ。

 まぁいいや。その辺はこれからサヤが実際に使ったの見れば分かる事だ。……それに変わった光景っぽい予感もするので、いつでもスクショを撮れるように待機しておこうじゃないか。


「それじゃ行くかな!」


 そのサヤの掛け声と同時にスキル強化の種が効果を発揮していく。まずサヤのクマの手に触れている種から芽が出てきて、クマの身体を覆うように根が伸びて広がっていく。って、そんな演出なの!?

 そこから次第にクマの身体の表面を覆う根が脈打ち、芽が光を放ち始め、そして馴染んでいくように光も根も痕跡が消えていった。


 うん、一応スクショはちゃんと撮ったけども、これは全く予想外の演出だったね。そりゃこの演出なら勇気がいるよね!?


「……予想外の光景だった。それで、スキルの強化自体は終わり?」

「うん、無事に爪刃双閃舞はLv3になったかな」

「自分の時はよく分からなかったけど、外から見ると少し不気味な演出だったよ」

「……それは間違いないな」


 この演出、他の演出に比べると少し苦手な人もいるかもしれないね。触れている種から、全身に向かって根が伸びてくるとは思わなかった。まぁ、身体の中に根を張っていくような演出でなかったのは良かったというべきか。


「あ、ちなみにさっき確認はしたんだけど、インベントリから使うと演出はないんだってさ」

「え、そうなのかな!?」

「へぇ、そうなんだ」


 なんだ、取り出さずにインベントリから使用すれば演出なしでも強化出来るのか。転移の種もインベントリから出すか出さないかで演出の違いはあったし、どっちからでも使えるアイテムに関しては演出が異なるようになってるんだな。


「ま、演出なしがあるのは良いとして……。それじゃサヤ、試し斬りをやってみるか」

「それは確認しておかないといけないよね。ケイ、的を用意してもらってもいいかな?」

「おう、それは任せとけ! で、的はどれが良い?」

「うーん、単純に連撃の威力の変化を見たいから、ケイの魔法砲撃のアクアボールが良いかな?」

「あー、あれか。ま、試すだけならそれでも良いな」

「それじゃそれで決定だね。サヤ、魔力集中はどうするの?」

「えっと、どうしようかな……?」

「とりあえず無しで良いんじゃね? それでも充分、連撃の強化具合は分かるだろ」

「あ、確かにそれもそうかな」


 魔力集中があれば間違いなく俺のアクアボールは破壊されるけども、魔力集中なしでも魔法が破壊出来るのかというのはちょっと気になるとこだしね。

 魔法で魔法は相殺という形には出来るけど、魔力集中や自己強化なしの物理攻撃で破壊されたのはない気がする。まぁ弾かれた事はあるけども……。今回の応用スキルの強化で破壊が可能なのか試しておきたくなってきた。果たして威力が足りなくて破壊出来ないだけなのか、そもそも魔力集中や自己強化なしでは破壊が不可能なのか……。


「よし、魔力集中や自己強化なしで魔法が破壊出来るかも試してみるか」

「あ、それも良いかな。まずは今まで通りのLv1から?」

「比較するならそれが良いと思うよ」

「俺もヨッシさんに同意。あ、連射数は控えめで行くからなー!」

「うん、分かったかな。『爪刃双閃舞』!」


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 71/71 → 70/70(上限値使用:2)

<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』を発動します>  行動値 60/70(上限値使用:2): 魔力値 114/204 再使用時間 90秒


 さてと手動で連射しても良いんだけど、こっちの方が地味に楽なんだよね。1発動で同時に3発まで連射指定は出来るけど、1発だけでも問題はないからな。という事で15連発でやっていこう。ま、爪刃双閃舞は10連撃だから5発は余るけどね。

 とりあえず右側のハサミを魔法砲撃の起点にして、サヤに向けて1発目を発射! 狙いはバレバレの方が今の実験には都合が良いんだよな。


「これは狙いやすいかな!」

「お、弾いたか」

「……今のは弾いたんじゃなくて、破壊出来なかっただけかな」

「連撃の1撃目だと、魔力集中がないと魔法の破壊は出来ないみたいだね」

「みたいだな。さてとサヤ、次いくぞ!」

「うん!」


 そこから俺が次々と撃ち出していくアクアボールをサヤが徐々に銀光が強くなっていく連撃で迎撃して弾き飛ばしていく。ふーむ、やっぱり魔力集中か自己強化がないと魔法の破壊は厳しいか。


「これで最後の1撃かな!」

「おっ!?」

「あ、最後の1撃なら破壊出来たね」

「こりゃ単なる威力不足っぽいな」


 とりあえずまだ連射分が5発ほど余っているので、余った分は地面に撃っていく。ふむふむ、連鎖増強Ⅰで最大まで連撃の強化がされた状態なら通常状態でも魔法の破壊は可能なんだな。

 まぁこの辺は魔法を使う側の魔力によるんだろうけど、破壊が可能ということ自体は重要な情報だね。さて連撃の応用スキルでこれならチャージ系の応用スキルなら、凝縮破壊Ⅰとチャージ完了済みの状況でなら破壊も可能って事かな。……よし、そっちも試しておくか。


「サヤ、爪刃双閃舞の再発動にちょっと時間がかかるよな?」

「あ、うん。再使用時間があるからすぐには無理かな」

「それじゃ待ってる間にチャージの方で魔法の破壊も試さないか?」

「あ、それは良いかもね」

「確かにそれも確認した方が良さそうかな」

「んじゃそういう事でやってみるか」

「うん、分かったかな。『重硬爪撃』!」


 サヤの了承も得られた事なので、チャージ系の応用スキルの魔法破壊についても検証していこう。ぶっちゃけこれまでは気にしてなかったけども、一度気になったからにはこの辺の事を確認しておかないと万が一の時が危険だしね。

 魔力集中や自己強化がないから魔法を破壊される事はないと決めつけて、そこから反撃を食らうなんて事にはなりたくない。


「ケイ、チャージ完了かな」

「ほいよっと」


 チャージが終わって準備が完了したから、いざ実験開始! 魔法の威力は同じにする必要があるから、使うのは魔法砲撃のアクアボールだな。


<行動値2と魔力値6消費して『水魔法Lv2:アクアボール』を発動します> 行動値 63/70(上限値使用:2): 魔力値 114/204


 チャージを待ってる間に少し行動値も魔力値も回復してたね。さて、それじゃさっきと同じで右のハサミから砲撃化したアクアボールを発射!

 さて、サヤの眩い銀光を放つ爪の一撃が迫っていくけど、これでどうなる? ……お、見事に破壊した!


「なるほど、最大チャージなら破壊可能なのか」

「うん、そうみたい。でも多分、魔法のLvによっても破壊出来るかどうかは変わってきそうだよね」

「確かに……。Lv3やLv4の魔法が同じように壊せるとは思えないね」

「まぁ、それもそうだよな」


 魔法を破壊するという目的での現実的な運用を考えるならば魔力集中と自己強化を使っていくのが無難なとこだろう。ただし、それは今までの条件での話である。


「さてと、それじゃ本題に入るか。肝心なのはLv2以上の連撃の応用スキルでならどうなるかって事だしな」

「……確かにそうだね。これで最後の1撃よりも前に破壊出来るようになっていれば、かなりの脅威かも」

「それを確認するのも重要かな!」

「ま、そういう事だ。サヤの爪刃双閃舞の再使用時間が過ぎたら、試していくぞ」

「「おー!」」


 これから先は敵も、他のプレイヤーもLv2以上の連撃やチャージの応用スキルを使ってくる事もあるはずだからね。多分まとめを見たらこの辺の検証をしている人もいるだろうけど、実際の威力については直接見て実感しておきたい。

 次は爪刃双閃舞Lv2を試してから、更にその上のLv3も試していかないとね。さー、どれだけの威力アップになっているのかが楽しみだ。

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