第528話 森林深部の珍光景


<『名も無き平原』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 帰還の実を使って森林深部へと戻ってきたね。晩飯とかで一時的にログアウトする場合ならともかく、寝る前にログアウトする時は初期エリアに帰ってくるのが安全か。さてと新しい帰還の実を貰っておいてっと。


 時間も11時半を過ぎてきたので、段々と日が暮れて夕焼け空へと変わっている。ふむ、この昼の日と夜の日の切り替わりの演出の時を狙ってスクショを撮るのもありかもしれないね。


「あー! ちょうど良いとこにアルマースさんが来た! ダイク、アルマースさんを確保ー!」

「いやいや、そこは普通に頼もうぜ、レナさん!?」

「……おいおい、いきなり確保って何事だ?」

「アルマースさん、そこは気にしないでくれ……。大して深い意味はないからさ」

「あはは、冗談、冗談!」

「まぁ、それなら別にいいけどよ」


 エリアを切り替えて戻ってきた早々にそんな声が聞こえてきたね。まぁ、言わずと知れたレナさんとダイクさんである。てか、周囲を見てみたらなんか妙に魚の人が多いような気がするぞ? 普段の森林深部にも飛んでる魚の人はちょっとはいるけども、こんなに大量に集まってくる必要もないはず。

 

「これは何かやってたのかな?」

「魚の人が妙に多いよね?」

「で、具体的に何をするんだ、レナさん?」

「ふっふっふ、夕焼けに向かって泳ぐ魚の集団を撮るのさー! 出来れば数体のクジラをメインにね!」

「あー、それでクジラの俺の出番ってか」

「そうだよー! そしてこれは団体部門でコンテストに出します!」

「ほう、そりゃいいな。ケイ、サヤ、ヨッシさん、悪いんだがこれに参加して来てもいいか?」

「お、アルも乗り気だな」

「ま、そりゃな。この規模で海の人が森林深部に出てくる事も少ないだろうし」

「それもそうか。それじゃ俺の方で報告はしとくから、アルはそっちに参加しててくれ。良いよな、サヤ、ヨッシさん?」

「うん、問題ないかな」

「私もそれで良いよ」

「おう、みんなサンキューな。って事で、参加させてもらうぜ」

「おー、ありがとねー!」


 とりあえずこれでアルが団体部門に出すためのスクショの撮影に参加は確定か。さてと、俺は報告をしながら見学しようかな。報告する内容は流石に早めに上げといた方が良いだろうし、スクショは大急ぎで準備してる感じだからね。


 それにしても現時点で空飛ぶクジラがアル以外に4人いるんだな。そのうちの2人はシアンさんとセリアさんか。後の2人は知らないけども、微妙にどのクジラも色が違ったり、陸地の植物が生えたりしてるね。

 他にもマグロやカツオ、小さい魚はアジとかかな? お、ウツボとかタチウオとかエイもいるね。ただどの魚もモンスターとして進化しているから、普通の魚とは違う様子だね。ヒレが鋭利化してたり、頭がゴツくなってたりする人が多いな。


「ねぇ、レナさん、これって海で泳ぐ種族の人限定なの?」

「あ、ヨッシさん、気付いた? それ以外の人には申し訳ないけど、今回はその通りだよー。魚類と、クジラ系統哺乳類に限定してるんだ。クラゲだらけとか、甲殻類だらけとかも予定はしてるから、その時は協力してくれるとありがたいかなー? あ、ドラゴンとかクマとかでも計画してるからねー!」

「……予定は大量なんだな」

「まぁ、灰のサファリ同盟のみんなは気合入ってるからねー!」

「あはは、これは群集クエストが終わるまで色々と大変そうかな?」

「……みたいだね。まぁ、これはこれで面白そうだしいいんじゃない?」

「だなー」


 まぁ同系統の種族を集めてのスクショを撮るなら、予めそれなりに準備が必要になるだろうから思った通りに全部撮れるとも限らないんだろうけどね。でもまぁ俺らもそれぞれに参加出来そうなのも計画にはあるみたいだし、可能な範囲で参加するのも良いだろう。それだけ団体部門で賞品を貰える可能性も増えるもんな。

 さてとこうなってきたら報告に専念するのは俺だけでいいか。サヤとヨッシさんは普段書き込む事もないしね。


「サヤ、ヨッシさん、報告は俺の方でしとくから、スクショの撮影を見てていいぞ」

「え、ケイだけに任せていいのかな?」

「私達も報告に行くよ?」

「報告だけだから俺だけでいけるって。それより灰のサファリ同盟やレナさんの撮影手順とか、簡単で良いから確認しといてくれ。明日の夜にも演出込みのスクショを撮る約束してるから、流れが分かってる人が多いほうがやりやすいだろ?」

「……確かにそれはそうかな」

「それはそうだろうね。うん、分かったよ」

「んじゃ、そっちの確認は任せた! 俺は手早く報告を済ませてくる」

「うん、分かったかな」

「了解。それじゃ、サヤ、飛んでいこっか」

「そだね」


 さてと日付が変わるまでもう30分もないけども、それぞれにやる事は決まった。まぁこの展開は予想外だったけど、今の群集クエストというかコンテストで重要な事ではあるもんな。


「それじゃアルマースさんはこっちに移動を……の前に、申し訳ないけど木の共生進化の解除をお願い出来る?」

「あー、流石に背中に木があると雰囲気はぶち壊しか。でも、これ解除すると俺は陸地では動けんぞ?」

「それなら心配いらないよー! はい、疾風草茶! これで陸地への環境適応が出来るのさー!」

「……そうか、お茶っていう手が増えてるんだな。よし、それじゃ切り替えてくるわ」

「うん、よろしくねー!」


 そうしてアルが一旦ログアウトしていった。ふーん、氷結草茶なら寒冷地への対応が出来て、疾風草茶なら陸地への対応が出来るのか。地味に重要な要素なんだね、あのお茶シリーズって。


「あ、ケイさん、そういやこれね!」

「ん? あ、アジの干物か」

「夕方のデンキウナギの運搬報酬ねー! そういやハーレは?」

「あー、リアル側の事情で今日はもう終わりだな」

「そっかー。それじゃケイさんに預けておくから、渡して貰ってもいい?」

「それくらいなら別にいいぞ」

「んじゃ、これ、ハーレの分ね」

「ほいよ」


 レナさんよりも俺の方が確実に一緒に動く事が多いんだから、俺が預かっておく方がやり取り自体は楽にはなるもんな。さて、ハーレさんの分は……ってレーズンかい!? ……そういやドライフルーツでお任せって事にしてたっけ。まぁ食べろと言われたら苦手だから嫌だけど、預かっておくだけなら問題ないか。

 とりあえず貰ったアジの干物は……お、地味に魔力値の回復じゃん!? ほうほう、魚系でも魔力値の回復になるのもあるんだな。


「あ、灰のサファリ同盟の検証報告に上がってるけど、肉と魚の乾物は基本的に魔力値の回復になるってさー!」

「え、マジか!?」

「マジなのさー! それ以上の詳細は時間もないし、まとめの方を見てねー!」

「おう、分かった!」

「さー、みんな始めるよー! 勝負は完全に日が落ちるまでだから、急げー!」

「「「「「おう!」」」」」


 そうしてこれからスクショを撮っていく人達は慌ただしく動き出していった。サヤとヨッシさんもその様子を確認しに行ったし、木の共生進化を解除して戻ってきたアルもそちらへと混ざっていく。

 さてと、みんなはみんなでやる事をしにいったから、俺は俺で報告をしないとね。いざ情報共有板へレッツゴー!


 イノシシ  : 4つ目の報告来ないな……。

 サル    : 2つ目と3つ目も少し遅れてたから、焦んなよ。

 ヘビ    : そうそう。それに義務じゃないから、強要はなしだからな。

 サボテン  : ま、気長に待とうや。今は森林深部で日没の魚群の撮影会の真っ最中だしな。

 コケ    : そんなみんなに群集クエストに関する続報だ!

 

 どうやら情報提供がないかと待っていたようなので、勿体ぶらずに報告をしていこうじゃないか! 今回は忘れてた訳じゃないから、堂々といけるぜ!


 オオカミ  : まだ4つ目なのに、コケの人が2つ目の発見とはな。運が良いのか?

 サボテン  : いつものコケの人とも限らないけどな。

 ヘビ    : でも続報って言ってるし、いつものコケの人じゃないか?

 草花    : あ、確かにそれはそうだね。

 コケ    : あー、いつものコケの人で合ってるぞ。そして今回は厳密には見つけた訳じゃないんだな、これが。


 キャラ名が出ないのが少し悩ましい仕様ではあるけども、この半匿名の仕様だからこそ言いやすいっていう点もあるから一概に悪いとも言えないのが微妙なとこなんだよな。まぁそこは気にしても仕方ないということで、報告を続けていこう。


 オオカミ  : コケの人、見つけた訳じゃないというのはどういう意味だ?

 コケ    : 今回のは無所属の人に渡されたんだよ。ほら、昨日の報復の時にいたティラノの人。

 オオカミ  : 会ったのか!?

 サル    : あーそういやそんな人もいたな。

 草花    : あの明確に強かった人だよね。

 コケ    : うん、その人に偶然会ってな。それで、無所属の特有のクエストがあるって事を聞いて、その結果として貰ってきた。


 サボテン  : 貰ってきたー!?

 オオカミ  : いまいち話が見えん。順を追って説明をしてもらえるか。

 コケ    : 元々、そのつもりだからちょっと待ってくれな。えーと、まずは――


 そこから無所属で発生するという増援クエストや、それを受け取る為に戦闘をした事、無所属同士ではダメージが通るという性質の違い、増援クエストがある為に無所属に対する警戒心を緩めてほしいという事、そしてカーソルが黒く染まりきった時に進化するという黒の統率種の事について説明していった。

 ただし、ウィルさんの存在については伏せた状態でにはなったけどね。……今度、機会を見つけてベスタにはウィルさんがやっていた事についての報告はしとかないといけないな。


 オオカミ  : ……なるほどな。無所属でも色々と固有の要素がある訳か。

 サボテン  : ……なぁ、そのドラゴンとティラノに心当たりがあるんだが……。

 コケ    : マジで? ちなみに元灰の群集だとは言ってたぞ。俺のPTっていうか今は共同体だけど、俺らと戦いたかったんだと。オオカミの人とも戦いたいって言ってたぞ。


 サボテン  : あー、うん。やっぱりあの2人か。

 オオカミ  : まぁ別にそれが悪いとは言わんが、サボテンの人は心当たりがあるのか?

 ヘビ    : それって、荒野エリアのトカゲの2人組だったやつじゃね? 結構強かった筈だけど、いつの間にか姿が見えなくなったと思ってたら無所属になってたのか。


 サボテン  : まぁ、2人とも戦闘好きではあったから、納得ではある。片方は猪突猛進なやつだったけど、もう1人は好き勝手するタイプではなかったしな。


 ふむふむ、サボテンの人……っていうか、これはシンさんだろうね。シンさんの印象としてはイブキが猪突猛進で、羅刹は好き勝手はしないという印象ということか。

 てか、あの2人は荒野エリアから開始のトカゲだったんだな。そしてイブキは風属性の龍に、羅刹はティラノに進化していったのだろう。


 コケ    : とりあえずこれで報告は終わり! 明日にでも『進化記憶の結晶』は元々あった竹林に戻しとくから、その後の確認は各自に任せた!


 オオカミ  : あぁ、分かった。コケの人、情報の報告に感謝する。

 サル    : だな。ありがとな、コケの人!

 ヘビ    : さてと、コケの人に負けてられないし、俺らも頑張るぞ!

 草花    : 黒い方の砕け散った破片は結構見つかってるけど、やっぱり運要素が強いよね。

 イノシシ  : それでもやるのみだ!

 オオカミ  : あぁ、確かにそうだな。無所属の増援クエストの対応も考えておかないとな。……その辺は考えがまとまったら、草案を出しておく。


 コケ    : ほいよ。


 そうして必要な報告は完了である。さて、報告しつつも気になって見ていたスクショの撮影も順調に進んでいたようだね。何度か群れを成した魚のプレイヤー達が沈んでいく夕陽に向かって泳いでいき、ある程度進んだら戻ってきて、再び夕陽に向かって泳いでいくという光景を繰り返していた。

 そして完全に日が落ちて、夕焼け空ではなく夜へと変わっていった。これでスクショの撮影タイムも終了である。


「はーい、時間切れだからこれにて終了ー! みんな、お疲れ様ー!」


 そのレナさんの号令によって、今回のスクショの撮影はお開きとなった。あ、魚の人達はすぐに転移をしていった人が多いので、海に戻ったのかな?

 さてと俺はみんなと合流して、それで今日は終わりにしよう。今日は予定の場所には辿り着けはしなかったけども、その途中で色々な成果はあった。何もかも予定通りにはいかないけども、それは決して悪い事だけではないんだろうね。


「みんな、お疲れさん」

「おう。ケイも報告、ご苦労さん。なんか得られた新情報とかはあったか?」

「あー、重要なのは特になし。ただ羅刹とイブキが荒野エリア出身のトカゲだった事が分かったくらいだな」

「2人とも荒野のトカゲから進化したのかな?」

「イブキさんは途中で合成進化を挟んでそうだけどね」


 紅焔さんから聞いた龍への進化条件的には何かと合成して翼を得たのは間違いないな。まぁ、だからといって特に問題がある話でもないけどね。


「さてと、そろそろ俺は終わりにするよ」

「私も今日はもう終わりかな」

「もうちょっと早めに終わらせる予定が、少しずれ込んじゃったね」

「ま、そういう事もあるだろ」


 そんな風に言い合いながら、今日はこれで終了だね。みんなと挨拶をしてログアウトである。あ、そうだ。今日を終わりにする前にアルにあれを頼んどいた方が良いか。うん、あれは早めに戻しといた方がいいだろうしね。


「アル!」

「ん? なんだ、ケイ?」

「受け取った『進化記憶の結晶』を元の竹林に戻すの、頼んでいいか?」

「あー、あれか。……そうだな、戻すなら早めの方がいいよな」

「そういう事。まぁ本当ならみんなで行きたいとこだけど、もうハーレさんもログアウトしちゃったからな」

「まぁ、そうだよな。……ふむまぁその程度なら野良PTでも良いか。よし、それは引き受けとくぜ」

「おう、任せた!」


 という事で、ウィルさんから受け取った『進化記憶の結晶』をアルに渡していく。ハーレさんがいるのであればみんなで行きたいとこではあるけども、アル以外はもうログアウトの予定だもんな。ここは少し申し訳ないけど、まだ続けるアルに任せておこうっと。

 まぁレナさんもいるし、他にも大規模なスクショの撮影が終わって手が空いてる人もいるだろう。その辺の事は任せても大丈夫なはず。って事で、本日は終了! さーて、明日の昼間は色々と変則的だけど、スキルの強化を頑張っていきますか!


 ◇ ◇ ◇



 そしていつものいったんのいるログイン場面へとやってきた。今回の胴体部分の内容は『ほほう? こりゃ思った以上に面白いコンテストになりそうだ』となっている。へぇ、運営がこういう事を言うのなら、結構良いスクショが既にエントリーされているんだろうね。ふむ、これは投票が楽しみになってきたな。


「お疲れ様〜」

「おう、お疲れ。何かお知らせってある?」

「今は特にないよ〜」

「そっか。スクショの承諾の方は?」

「少し来てるから、承諾をお願いします〜」


 そうしていったんから一覧を手渡される。えーと、ワニを袋叩きにしている時のスクショが青の群集の人から来てるね。……立て直してハメ殺しが安定した頃のスクショのようである。今来てるのはこれだけか。せっかく見事なハメ殺しが成立した戦いだったし、記念に貰っとこうかな。


「いったん、このスクショをくれ。でも承諾は却下で」

「はいはい〜。それにしても君も徹底してるね〜?」

「……一度決めた基準をその時々で緩めてたら、基準の意味が無くなりそうだからな」

「あ〜、それはあるかもね〜。それじゃそういう風に処理しておくね〜」

「おう、よろしく!」


 よし、これでやるべき事は完了だ。明日の午前中はハーレさんもアルもいないという、今まででは珍しい日だ。ま、具体的にどこで何のスキルを鍛えるかは明日考えればいいか。とりあえずログアウトしたら、色々片付けてから寝ようっと。

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