第527話 勝負の報酬


 とりあえず、俺とサヤのコンビと羅刹とイブキのコンビ対決の決着はついた。いやー、これはサヤと俺の連携の勝利だね!


 ひとまず不要になった大型化とか遠隔同調とかの上限使用のスキルは全解除で、元の大きさに戻ってからみんなの所に戻ってきた。今回はサヤの竜に乗せてもらっての移動である。


「サヤ、ケイさん、お疲れ様ー!」

「ケイは色々と仕込んでたな。ちゃんとスクショは撮っといたぞ」

「お、アル、サンキュー!」


 しっかりと戦闘中のスクショを撮ってくれていたようだね。仕込みについてはまだ他にも計画自体はしてたんだけど、早い段階でコケは焼き払われちゃったし……。あれが無事なら遠隔同調を使って群体内移動を繰り返して、翻弄しつつ多方面からの魔法攻撃を考えてたんだけどね。まぁそれは仕方ないか。

 そういや俺の光の操作で結構周囲の草に火が燃え移ってた気もするけど、ほぼ消えてるな? 火と風の昇華魔法で燃やし尽くしたって感じっぽい? まぁ途中で破ったから思ったほど広範囲ではないけど、効果範囲だった場所は完全に焼け野原だな。そこに俺が掘った穴が2ヵ所、ポツンと空いている。


「地下から落とし穴はビックリしたよ。サヤも牽制役、お疲れさま」

「こういう時はケイに合わせるのが一番だからね。でも私も落とし穴はビックリしたかな」

「確かに、あんな避け方があるとはなぁ……」

「ま、いつでも出来るって訳でもないけどな」


 ぶっちゃけ咄嗟の思いつきでやっただけだし、スチームエクスプロージョンみたいに瞬発的に広範囲へと影響のある昇華魔法が相手だとまず不可能だしね。

 ただ、絶大な威力を誇る昇華魔法とはいえ、やり方次第では凌げるというのは重要だ。……まぁシンプルに言ってしまえば、手段は問わないから範囲外に出てしまえという事だな。


「あー、くっそ! 思いっきり負けた!」

「……大きな反省点は見えたな」

「ま、そうだろうな。羅刹とイブキに足りないのは連携だな」

「……流石にあんだけやられりゃ分かってるっての」

「だと、良いんだがな。まぁ得るものも大きかったか」


 そしてイブキも羅刹もウィルさんに設定しているっぽいリスポーン位置から復活してきていた。どうやら簡単にだけど反省会をしてるようだね。あ、ウィルさんだけ離れて、俺らの方にやってきた。


「ワガママに付き合ってもらってありがとな。これ、言ってたやつだ」

「あ、『進化記憶の結晶』かな」

「ほいよ、確かに受け取った」


 ウィルさんが根で掴んだ光る『進化記憶の結晶』を渡してくれたので受け取っておく。さて、これで群集クエストについてはどうなるかな?


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 4/30


 お、発見アナウンスが来た! これでアナウンスが出たという事は、各群集に個別に分けられた30個を探すのではなく、現時点で行ける全エリアの中から共通する物を30個探し出せという事なんだろうね。

 そうでなければ無所属がどこの群集の増援をするかを選ぶなんて事が出来る訳もないし。でもそうなってくると最低でも90個はあるのか? ふむ、全部がぴったり見つかるとも限らないからそれ以上ある可能性もあるし、逆に光る方は共通で90個もない可能性もあるのか。……まだなんとも言えないな。


「……どうだ、ケイさん? 群集クエストは進んだか?」

「おうよ、ウィルさん。しっかり進行したぜ」

「お、やっぱり進行するんでいいんだな。……よし、なら残りの期間で俺は赤の群集を裏から手伝うか」

「あー、ウィルさん的にはそうなるか」


 以前の赤の群集での騒動の元凶であったウィルさんとしては、やっぱり赤の群集への協力をして行きたいんだろうね。もしかしたらこの『進化記憶の結晶』も本当は赤の群集に渡したかったのかもしれない。……ちょっと余計な事をしちゃったか?


「あぁ、ケイさん達にも世話にはなったし、羅刹とイブキとの勝負もしてくれたからその礼だからな。変に気を遣わなくていいぞ」

「そっか。まぁそういう事ならありがたく受け取っとく」


 うーん、もしかしてまた口に出てた? でも内容的に気を付けたつもりだったんだけどな……。ん? 共同体のチャットの新着を示すアイコンが点滅してるね。このタイミングって事は、内緒話か?


 サヤ    : ケイ、今のは声にも態度にも出てはいなかったかな。多分、ウィルさんが自分の発言に変に含んだ意味はないって伝えたかったんだと思うよ。


 ケイ    : なるほど、そういう事か。

 アルマース : ま、なんだかんだでケイに対しても恩を感じてたってとこだろ。ここで会ったのは単なる偶然だったとしてもな?


 ケイ    : それもそうだな。うん、素直に受け取っとくわ。

 ハーレ   : それがいいと思います!

 ヨッシ   : うん、私もそれでいいと思うよ。


 みんなもこう言ってくれているし、ウィルさん自身も気を遣わなくていいって言ってくれてるからそうするのがいいんだろうね。

 っていうか、声にも出てなかったのにみんなには俺が何を考えてたのか筒抜けだったんだな。ま、さっきのは流石に分かりやすくはあったかもしれない。……それにしても、この共同体のチャット機能は地味に便利だな。


「あ、そうだ。羅刹、イブキ! そっちは増援クエストのクリアはどうなった?」

「それなら問題なくクリアになったぜ!」

「どうやらPT単位なら同時にクリアになるみたいだな。これで情報ポイントと灰の群集での交換権が確保出来たか」

「……ん? え、ウィルさん、増援クエストってPT単位なのか?」

「あー、言ってなかったっけ? まだこれが初めてだったから確証はなかったんだけど、見つけた時のPTメンバー全員に増援クエストが発生してたんだよ」

「あー、そういう感じなのか。で、実際にクリアしてみるまで受けた全員がクリアになるかは分からなかったって感じか?」

「ま、そんなとこだな」


 ふむふむ、増援クエストとやらがどういう表示になっているのかは分からないけども、PTを組めば複数人で受けられるクエストであるという事は分かってたんだな。そして、クリアについては今実際にクリアして判明した訳か。

 これは無所属でも集団で活動してもいいし、単独で動いてもいいという仕様っぽい。


「ところでよ、この『進化記憶の結晶』ってのは何個集めりゃいいんだ? 俺らの方じゃその情報ってねぇんだよな」

「イブキが俺が忘れていた事を覚えていただと!?」

「おいこら、喧嘩売ってんのか、羅刹!」

「羅刹もイブキも、そんな事で喧嘩すんなよ……。悪いんだが、群集クエストに必要な数を教えてもらえないか?」

「もちろんさー! みんな、良いよね!?」


 ハーレさん、答えてから聞くんじゃない! まぁここはお互いにとって重要な情報になる部分だから駄目という理由は欠片もないけどね。


「……それは良いんだけど、ハーレ、時間は大丈夫?」

「はっ!? もう11時半が近いよ!?」

「ん? 何か時間に問題があったのか?」

「明日、私はちょっと朝から用事があるから早めに寝たいのさー! という事で、私は先にログアウトするねー!」

「ハーレ、明日は頑張ってかな!」

「ハーレ、ファイト!」


 お、ハーレさんの明日と明後日のアルバイトに対する気合は充分みたいだね。ちょっと予定外な出来事で少しずれ込んだけど、その分すぐに終わりにするつもりか。時間も予定の時刻は過ぎてるし、今日の探索はここまでだね。


「うん、頑張るのさー! あ、転移の種の使用ってここでもいいー!?」

「ハーレさんがいないなら、今日はこれ以上進んでも意味ないしな。みんなでここで転移の種を使っとくか」

「それもそうだな」

「うん、それで良いよ」

「私も賛成かな!」

「んじゃ、そういう事で。ウィルさん達、ちょっとだけ待っててくれ」

「あー、了解だ」


 とりあえずウィルさん達とはまだ少し話はあるけども、その前にハーレさんのログアウトに合わせて転移の種を再登録しておくのが重要である。そうじゃないと次に再開する時の転移場所が同じに出来ないからね。


 それからみんながそれぞれに転移の種を使い、新たな転移地点の登録は完了である。まぁ思ったよりは距離は進まなかったけども、川底で見つけた黒い『進化記憶の結晶』の欠片と、ウィルさんから受け取った光る『進化記憶の結晶』が確保出来たんだから、成果としては相当なものだろう。


「それじゃ慌ただしくなったけど、ログアウトするねー! みんな、また明日ー!」


 そしてみんなとの挨拶もそこそこハーレさんは帰還の実を使って転移していった。今日の俺がログイン直後に場所とタイミングが悪くて殺されかけたのを教訓として、ログアウトは森林深部でするつもりなんだろう。

 まだ俺らの方は時間はあるし、明日は土曜だから夜更かしも可能ではあるけども、明日の昼間にもやるから適度なとこで切り上げるか。


「さてと、俺はもうちょいウィルさん達と話してから群集に情報を上げて終わりにするけど、みんなはどうする?」

「私もそうしようかな?」

「そだね。明日の昼間はハーレがいないから、今は無理にやらなくてもいっか」

「あー、俺はちょっとやってくぜ。思ったよりはケイ達とLv差が発生してないが、せめて明日の午前中の分のスキルの熟練度は稼いでおきたいからな」

「ほいよっと。要するにアルはいつも通りって事だな」

「ま、そういう事だ」


 アルについては俺らが夕方にやってる分を俺らがログアウトした後に埋めてるし、この辺はいつも通りだね。まぁそれでもアルはスキル熟練度と言ってる辺りにハーレさんへの配慮はある気はする。

 さて、これで俺らの方の用事は完了だね。それじゃさっきのイブキの質問に答えていこうじゃないか。


「こっちの用件は済んだから、話を戻すぞ。えーと、群集クエストで見つける個数の話だったよな?」

「おう、それだそれ! ケイさん、具体的に何個なんだ!?」

「各群集で30個ずつだな。ちなみに現時点ではウィルさん達が持ってた光るヤツの他にも種類がある事が確認されてる」

「ほう? 他にも種類があるのか」

「まぁね。それが……あー、これって言っちゃって良いやつ?」

「……微妙なとこだな。俺ら灰の群集のみに増援してくれると確約があるのなら話しても問題ないと思うが……流石に無理だよな?」


 やっぱりアルもそう思うか。うーん、心境的には黒い方も教えておきたいとこだけど、流石に他の群集に伝わる可能性もあるから避けておきたいとこでもある。


「あー、そういう事なら無理に言わなくてもいいぜ。他にも種類があるってことが分かっただけでも収穫だし、俺らは俺らで自由に探すさ」

「中途半端な情報ですまん、ウィルさん」

「気持ち自体は分かるから気にすんなって」

「そう言って貰えると助かる。……ところでこの光る『進化記憶の結晶』ってどこで見つけたんだ?」


 これは聞いておかないと、経験値増加アイテムの生成が出来ないもんな。そう考えると無所属の増援クエストは持ち運ぶ必要があるというのもちょっと嫌らしい仕様ではあるね。

 そういや黒い方のは無所属の人が見つけるとどうなるんだろう? 砕け散らずに持ち運べるとか? うん、思いつきではあるけどもあり得そうな話だね。


「あー、そういやそれは伝えとかないとな。そっちの川を少し上流に行ったとこから竹林が見えるのは知ってるか?」

「それなら離れたとこからだけど見たかな」

「なら、場所は分かるんだな。そこの竹林の一般生物のタケノコの横にあったぜ」

「あ、一般生物のタケノコなんだ。それなら経験値増加アイテムって、タケノコ?」

「おう、そうだったぜ。経験値の増加アイテムってのはありがたいもんだ。ただ増援クエストをするには持ち運ぶ必要があったから、再生成用には置いてこられなかったんだけどな」

「その辺の仕様は群集クエストと同じなんだな」

「ほう、そうなのか、アルマースさん」

「まぁな」


 ふむ、この言い方だと見つけたのはウィルさんかな? っていうか、発見者じゃないと詳細が見れないようになってたし、無所属の増援クエストでも経験値増加のアイテムは手に入るんだね。

 大きな違いとしては群集所属であれば持ち運ぶ事にほぼ意味はなく、無所属であれば持ち運ぶ事が重要という点か。


 後は、既に他の群集が発見済みの場合において、どういう判定になるかというのが気になるところ。この辺は信用出来る他の群集の人と情報交換でもしてみるのもありかもね。まぁ群集に相談してからではあるけども。


「とりあえず俺らの方の持ってる言える範囲の情報はこんなもんだな」

「おう、充分だぜ、ケイさん」

「あー、ウィルさん達にちょっと提案があるんだが、良いか?」

「ん? なんだ、アルマースさん?」

「完全に協力ばっかになるとは言えないだろうけど、フレンド登録しておかないか?」

「あー、悪い、アルマースさん。俺はちょっと悪名があり過ぎるから、申し出は嬉しいんだが遠慮しとく……。実力のある奴は大体察してくれてるが、全員がそうでもないからな。本当なら今のこの状況もあまり良くはない」

「……そうか。俺は気にしないが、ウィルさんが気にするんだな」

「……すまないな」


 ウィルさんの件では表に出ている情報と実情は盛大に食い違っているんだけど、それを意図的に隠しているからこの辺はウィルさんの配慮なのだろう。……今は周囲に人は居ないし、さっきまでは戦闘をしていたから仲良く話しているとも思われにくいだろうけど、確かにまだこうやってやり取りを頻繁にするのは危険か……。


「そういう事なら、俺とのフレンド登録なら問題はないはずだよな?」

「……羅刹? まぁ、確かにそうなるが、良いのか?」

「良いも何も問題はねぇんだから、俺については気にする必要もないだろう。それで良いか、アルマースさん」

「あぁ、俺は良いぜ」

「あ、それじゃ俺も!」

「「イブキはダメだ!」」

「何でだよ!?」

「「考え無しだから」」

「ひでぇ言い草!?」


 イブキもフレンド登録を申し出てくれてはいたけども、ウィルさんと羅刹から問答無用で却下されていた。……まぁ、少しの間の様子を見た感じでも、その意見には同意出来るというのがなんとも……。

 それからアルと羅刹、ついでに俺ともフレンド登録をしておいた。これでお互いにログインしていれば連絡を取る事は可能になったね。


「さて、誰かに見られない内に移動するか。羅刹、イブキ、どこに行く?」

「あー、とりあえず敵が強めのとこならどこでも良いぜ」

「俺、岩山にいるっていうドラゴンと戦いたいぜ!」

「またここから微妙に遠い所を……。まぁ、特に目的地もないから別にいいか」

「おっし! 誰も倒せてないあのドラゴンをぶっ倒してやる!」

「……俺らが経験値にならなきゃいいがな……。明確な弱点と分かった連携を鍛えていくか」

「羅刹、足を引っ張るなよ!?」

「イブキ……その言葉、そっくりそのまま返してやる!」

「それじゃ、そういう事で俺らはそろそろ行くわ」

「おうよ! それじゃまたどっかで機会があればな!」


 そうして羅刹とイブキがいがみ合いながら、ウィルさんとみんなで挨拶をしていき、3人は川へと向かって進んでいく。羅刹は跳躍し、イブキが大型化してウィルさんがイブキに根でぶら下がるようにして川を渡っていった。

 ふーん、岩山ってあっちの方なんだ? 岩山の位置って聞いたような気もするんだけど、いまいち覚えてないんだよね。ま、行くとなった時に確認すれば良いだけか。


「さてと、俺らも移動するか。情報共有板で報告もしておきたいし、森林深部に戻る?」

「あー、確かに報告は必要だな」

「そだね。そこまで報告したら今日は終わりにする?」

「それが良さそうな感じかな?」

「よし、それじゃそういう方針で!」


 そうして本日の探索は終了である。後は森林深部に戻ってから情報共有板で報告して終わりだね。まとめ機能に上げるのでも良いけど、今回は直接説明した方が良いだろう。……ただし、ウィルさんの名前は出さないように気を付けないとね。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る