第519話 川にいたイカの討伐


 川底に闇纏いで隠れていた敵の正体は真っ黒な闇属性の小さなイカだった。さて、属性を持った上に物理攻撃の特性も持ち合わせているとなると、バランス型というのが有力候補だな。そうなると1発ごとの威力より、多彩なスキルを使う方に警戒しなければいけないね。


 今はヨッシさんの氷の檻に捕まって大人しく……って、あれ!? 氷の檻の隙間からイカがニュルっと出てきたー!?くっ、小さくて拘束しにくいというのもあるけど、軟体の特性はこんなとこに影響するのか!


「え、ちょっと待って。手動操作にしてなかったから、これは無理……!」

「そんな脱出方法ありかよ!?」

「逃さないかな! 『略:魔法砲撃』『略:エレクトロプリズン』!」

「おー!? サヤ、早速共生進化の強化を活用だねー!」

「……でも、私じゃ駄目そうかな」


 新たに得た簡略指示によって、サヤは乗っている竜の口から魔法砲撃にした電気の拘束の為の球を撃ち出している。狙い自体は悪くなく、イカに命中はしたものの麻痺は効かずに川の中へと逃げられてしまった。


「……麻痺自体が効かないのか、効きにくいだけなのか、Lv差があるせいなのか、どれかわかんねぇな……」

「……だな。それで、あのイカはどこに消えた?」

「……見失ったかな?」


 アルの言うように麻痺の効果の是非については、今の段階では断定しきれないか。……ヨッシさんの電気でも無理なら麻痺は無理と判断すべきとこだろうけどね。……それにしても川に戻られた事でイカの姿を完全に見失ってしまったのはちょっと痛手だな。


「とりあえず、みんなアルのとこに集合。Lvが上の相手に、見失った状態でバラけて対処もマズい」

「それもそうだが、サヤとケイが戻ってくりゃいいだけだぞ」

「まぁ確かにそれはそうかな。ケイ、戻るよ?」

「おう、サヤ、任せた」


 根本的に移動していたのは俺とサヤだけだしね。それにしてもサヤの竜の頭の上は割と安定していて、狙いはつけやすい。ふむ、この感じだとサヤの竜で大型化を使うのは結構ありだな。

 それはそうとして、戻りながら川を覗いて見たけどもやっぱりイカの姿は確認出来ない。小さいからなんだろうけど、闇纏いを使っていない今の方が位置が分かりにくいってあのイカの隠れ方はなんかおかしい気もする。まぁ夜の日だったら闇纏いで完全に隠れられて見つけるのは難しそうだけどさ。


 とりあえずアルの場所に戻ってから、改めて川の様子を観察していこう。うん、水自体は澄んでいるから、一般生物の魚が泳いでいるのは確認出来るね。さて、ここからはスキルを使ってイカを探すか。


「ハーレさん、危機察知に備えてくれ。俺は獲物察知で位置を探るから」

「了解です!」

「それで動きを封じるには……アル、ヨッシさん、水と氷のLv3の拘束魔法同士で複合魔法って発動すると思う?」

「あー、可能性としてはあると思うぜ」

「そだね。どういう形になるかはわかんないけど……」

「よし、それじゃそれを試してみるって事で」

「ケイ、ちょっと待て。俺は今はクジラでログインしてるから、水魔法は登録してるLv1しか使えんぞ」

「あっ、そういやそうか。……俺が並列制御で両方やってもいいけど、流石に狙いをつけるのも面倒だな。よし、それならヨッシさんはイカを氷漬けにして、アルはそれを水流で流してくれ。また川に逃げられたら面倒だから、川から放り出してやる」

「おうよ!」

「了解!」


 うーん、サヤが一番乗りで簡略指示を使えるようになったけど、アルにも早く入手してもらいたいところだな。ま、あとLv1だし近い内に手に入るという事で、今出来る範囲の手札で何とかやっていこう。


「ケイさん、私は危機察知だけー!?」

「あー、そうでもないぞ。ハーレさんは尖った石を生成して、貫通狙撃を頼む」

「はーい! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『貫通狙撃・風』!」


 とりあえず今は獲物察知で、あの小さな黒いイカの位置の特定をしないと。そこからヨッシさんの氷の昇華の生成魔法に頼らせてもらおう。ハーレさんもチャージを開始したしね。

 まずはイカの動きを封じないと、あの小ささだと攻撃がしにく過ぎる。その為にも位置の特定からだ。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 58/71(上限値使用:1)


 イカの姿を見失っていた間に少しだけど行動値は回復してたか。それはともかくイカの位置だな。えーと……川の外の少し離れた所にいくつか黒い矢印があるけど、今はスルーでいい。川の中には緑の矢印が結構な量があって……あ、黒い矢印を発見!

 ……あれ? 黒い矢印が緑の矢印に近付いていって、緑の矢印が1つ消えた!? もしかして、あのイカが一般生物を食ってるのか。もう1つの緑の矢印に黒い矢印が近付いて行ってるって事はもう1匹食べる気か。……よし、位置的には真正面だし、これなら!


「アル、真正面の川の水を全部除けてくれ。あのイカ、一般生物を食って多分だけどHPを回復してやがる!」

「ちっ、面倒なイカだな! 『共生指示:登録2』!」


 即座に俺の意図を察してくれたアルが、大きな川の水を操作して空中へと持ち上げていく。……まぁ川の流れだからすぐに水は補充されてしまうけども、水のなくなった川底で小さなカニに絡みついているイカの姿は確認出来た。よし、姿が見えれば充分だ!


<行動値10と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠2』を発動します>  行動値 48/71(上限値使用:1): 魔力値 114/204 再使用時間 90秒


 よし、魔法砲撃は発動しっぱなしだったからそのまま使おう。右のハサミを起点に設定して、登録しているアクアボールの15連発動、1発動で3連射が可能なので45連射が可能だ! 

 狙いはカニを食ってる小さな黒いイカ! 登録枠1のアースバレットでも良いんだけど、ダメージより吹っ飛ばすのを優先したいのでこっちを優先である。……普通に水や土の生成で捕獲でも良いんだけど、色々な手段は試しておきたいんだよね。

 

「ヨッシさん、俺が対岸までイカを撃って吹っ飛ばすから、その直後に氷漬けでよろしく!」

「了解!」


 そうやって指示を出しながら、次々とアクアボールをイカに向けて撃ち出していく。イカは食事でHPを回復させるのに夢中になっていたのか、1発目は見事に直撃した。そしてそこからの連射でどんどんと対岸へと向けて吹き飛ばされていく。ふむふむ、意外と吹っ飛ばせてるしこれはこれでありだな。

 お、川の外に出たね。ふー、川の水の流れが普通に戻る前に間に合って良かった。まだアルは水流の操作中ではあるけど、これはこれで使えるね。


「ヨッシさん、今! アル、ヨッシさんが氷漬けにしたらこっちに操作中の水流で流してくれ。出来れば上空に向けてだ!」

「うん! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「おらよっと!」


 そして絡みついていたカニと一緒にイカは氷漬けにされて、アルの水流によってこちらへ流されてくる。よし、氷漬けになったイカは足掻いてはいるようだけどすぐに脱出出来る様子でもない。

 チャージの用意をしていたハーレさんも、眩い緑色を帯びた銀光を放っているのでもうチャージは完了しそうだね。よし、そのまま一撃を与えてやる!


「アル、ヨッシさん、操作解除! ハーレさん、貫通狙撃!」

「了解!」

「おう!」

「いっけー!」


 氷漬けと水流から解放されたイカではあるけど凍結の状態異常になっていたようで、ハーレさんの風属性で速度を上げた貫通狙撃が炸裂していく。お、HPが2割くらい削れたね。

 もしかすると今のハーレさんの一撃は土属性強化Ⅰと風属性強化Ⅰの両方の効果がかかって、威力が増したかな? あとは小石の形状も影響しているのかもしれないね。


「あ、イカが落ちていくかな!」

「一気に畳み掛けるぞ! サヤ、イカの落下してる方向に回り込んでくれ!」

「うん、分かったかな!」


 サヤの竜の頭に乗ったままだったので、この場はそのまま乗せて行ってもらおう。さてと、さっきは結構魔力値を使ったから昇華魔法は威力がちょっと微妙かもしれないな。とりあえず捕獲は必須で、ダメージも欲しい……。昇華魔法に頼ってばかりじゃ駄目だし、今回はあの組み合わせでいこう。


「ケイ、ここでいいかな?」

「よし、ばっちりだ!」


 ちょうどイカが落ちてきて、目の前にいる場所である。ほう、どうやら直前まで凍結の状態異常になってて、ようやく動き出せるようになったとこみたいだな。

 流石はヨッシさんの状態異常特化だ。短時間とはいえ、格上の動きを明確に鈍らせてくれるのはありがたい。そして、その隙は最大限活用させてもらう!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 33/71(上限値使用:1)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値90消費して『半自動制御Lv1:登録枠1』は並列発動の待機になります>  行動値 13/71(上限値使用:1): 魔力値 24/204 再使用時間 90秒

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 左のハサミで万力鋏を発動してイカの胴体部分を挟み、チャージを行いながら拘束していく。もちろん凍結の状態異常が解除になったイカが暴れ始めるけれど、右のハサミで魔法砲撃で砲撃化したアースバレット45連射を至近距離から撃ち込んでいく。

 お、前より威力が上がってるのか、結構な勢いでイカのHPが減っていってるね。そして次から次へと着弾していくアースバレットにより、万力鋏から逃れる為に暴れる事すらままならないようである。ふむふむ、このコンボは結構有用かもしれない。


「えげつねぇな、ケイ……」

「あはは、あれでこそケイさんって気もするけどね」

「ボスじゃないとはいえ、Lvは俺らより上なんだから容赦なんか要らないって!」


 敵を甘く見て油断して負けるのは嫌だからね。ここは手を抜かずに一気に仕留めきる! それでも俺の今の攻撃とハーレさんの貫通狙撃だけでは削りきれそうにはないけどね。


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>


 よし、チャージ完了! アースバレットももうすぐ撃ち終わるし、次の攻撃を仕掛けていくか! 


「サヤ、ハーレさん、俺の攻撃が終わったら2人で連撃の応用スキルで挟撃してくれ!」

「はーい!」

「分かったかな!」


 チャージも終えた事だし万力鋏の最後の斬撃で一気にダメージを与えていく。ふむ、俺が削れたのは6割までか。やっぱりロブスターの方に凝縮破壊Ⅰが欲しいとこだし、明日はそれを狙ってみるかな。

 ここから間髪を入れずにサヤとハーレさんの連撃で一気に削る! って、あー!? ちょっとの間にイカが魔力集中を発動しやがった!? くっ、発動させる隙を与えずにいきたかったけどそうもいかなかったか。


「ケイ、それは大丈夫! ヨッシ、神経毒をお願いかな!」

「任せて! 神経毒で『ポイズンクリエイト』『猛毒の操作』!」

「あ、毒を囮に使うのか!」


 どうやらイカもヨッシさんの猛毒には警戒したようで、相殺するために全身から銀光を放ちながら毒へと突撃していく。おー、どうやら連撃系の応用スキルのようで地面と猛毒の球の間を往復するように突撃を繰り返していた。

 そして連撃による銀光の輝きが最大になった頃に、ヨッシさんの猛毒の球は破壊された。魔力集中があれば魔法は破壊は出来るからこその芸当なのだろう。でも、一連の攻撃が終わって動作に隙が出来たね。


「よし、今がチャンス! サヤ、ハーレさん!」

「ハーレ、やるかな! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『爪刃双閃舞・風』!」

「頑張るぞー! 『連速投擲・風』!」


 俺はサヤの邪魔になりそうなので、竜の頭から飛び降りて地面に着地っと。そこからは竜に乗ったサヤが爪による連撃でイカを切り裂き、ハーレさんがサヤの連撃の合間を埋めるように次々と連続で投擲を放っていった。

 流石に対象が小さいのでサヤもハーレさんも攻撃を外す事はあったけども、大体は問題なくHPを削れていたね。残りHPは3割を切ったってとこか。ふむ、これだけ応用スキルを叩き込んでもまだHPがあるとは流石はLv上だけなことはある。だけど、次の1手で流石に終わりだろう。


「アル、ヨッシさん、水と氷で昇華魔法! これで仕留めきる!」

「ヘイル・ストームだな。行くぞ、ヨッシさん! 『共生指示:登録1』!」

「意外と出番が早かったね。『アイスクリエイト』!」

「わっ!? これは避けないとかな!?」


 そして大量の雹を落下させていくヘイル・ストームが発動し、イカを次々と打ち据えていく。多分ここで昇華魔法までは必要ないけど、この辺使い慣れておきたいしね。……それにしても俺が言うのもなんだけど、このイカって連撃攻撃を食らいまくりだね。まぁ、別にいいんだけど。

 効果範囲にいたサヤは慌てて効果範囲外へと脱出して、昇華魔法の効果が切れるまではみんなで待機をしていた。あ、効果中だけどイカがポリゴンとなって砕け散っていったね。


<ケイが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を討伐しました>

<未成体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


<『進化の軌跡・闇の小結晶』を1個獲得しました>


 お、闇の小結晶が落ちた。そういや一般の敵でも低確率で落ちるって話だったっけ。全然落ちないから、落ちるという事実を少し忘れかけてたよ。


「とりあえず、撃破完了! みんな、おつかれさん!」

「ボスでもないのに、意外とタフだったな。バランス型だと、極端に物理にも魔法にも弱いって事はないんだな」

「そうみたいだね。でもこのくらいのLv差なら勝てなくはないかな?」

「実際に勝ったもんねー!」

「やってみて改めて思ったけど、如何に相手の行動を邪魔するかが重要だよね」


 うんうん、救援を頼まれたワニとかその最たるものだったしね。まぁあれは色々とうまく行く条件が重なったからこその事ではあるけども。でも、アクション要素のあるゲームってそういうもんだしね。


「ま、攻撃を受けずにダメージがちゃんと通るなら、時間制限もないから倒せるしな」

「……ケイ、それは言うのは簡単でも、やるのは簡単じゃないからな?」

「それは分かってるって。でも対人戦やボスならともかく、一般の敵には苦戦したくはないな」

「うん、それはなんとなく分かるかな」


 なんだかんだで俺らは結構強い方だという自覚はあるし、俺らが苦戦するという事は全体的に見ると敵が強過ぎるって事にもなりかねないもんな。強い人しか倒せない敵ばかりになると、新規のプレイヤーやサファリ系プレイヤーとかの人達が辛くなるから、その辺のバランスは大事だよね。


 さてと、とりあえずLv20の敵も普通に倒せる範囲だという事も分かったし、探索を続けて行こう。今が10時だから最低でもあと1時間は探索出来るね。

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