第518話 宝探し気分で


 アルのクジラの背に乗って移動しつつ、情報共有板で得た情報をみんなに伝えていく。俺とハーレさんが見つけた『進化記憶の結晶』の他にも別の種類のものがあるという情報は、今の状況では最重要だもんな。


「簡単にまとめると、現状では2種類の『進化記憶の結晶』が存在しているって事だな。んで片方は再利用可能だが場所の移動はしない方が良くて、もう片方は見つけたら飛び散っていくのか」

「群集クエストの発見としてカウントされるのは、どっちも初めに見つけた時って事で間違いないのかな?」

「多分間違いないと思います! 小石っぽい方を他の群集がまた見つけた場合はどうかは不明だけどー!」

「……そこの仕様次第だけど他の群集の見つけた物もカウントに入れられるのなら、終盤になってどうしても見つからない場合に他の群集に頼るのもありかもね」

「あー、それは確かにありかもな」


 砕け散る方はどうしようもないけども、俺らが見つけた小石っぽい方についてはデンキウナギのいた湖の底に戻してきているからね。もしあれが他の群集カウントにも入るのであれば、最終手段として発見場所の情報交換というのもありかもしれない。


「とりあえず分かった情報は伝え終えたけど、これからどうする? 予定通りに川沿いに進んで、その周辺を探索するか?」

「……そうだな。その黒い方の破片も欲しいとこではあるし、破片を探しつつ、光る小石の方も探していくんで良いんじゃねぇか?」

「うん、それで良いんじゃないかな?」

「はい、私も賛成です! その道中に、私はスクショを狙っていきます!」

「あはは、まぁハーレはそうだよね。私もそれに賛成」


 まぁハーレさんについてはスクショは重要だろうしね。ここの平原の今いる川は結構川幅も広いし、水中にも一般生物や敵の姿も確認出来ているからね。川の両側に河原も広がっているから、見通し自体もかなり良好だ。

 ハーレさんも興味津々のようで、辺りを見回している。うん、小動物がキョロキョロと周囲を伺っている様子ってのは可愛いもんだね。まぁ中身は妹なんだけど。


「あ、あっちに竹林があるよー!」

「ん? あ、ホントだな」


 そうしてハーレさんが指差す方向を見てみれば、川の対岸側を通り越し、もっと先の方の遠めの場所に竹林が見えていた。へぇ、ここにも竹林があるんだな。……あれ? 前に桜花さんから竹林の場所は聞いた気もするけど、何かが引っかかるぞ?


「あれって前に桜花さんが言ってた、ミズキの森林から南部に行ったとこにあるっていう竹林じゃない?」

「あ、それだ、ヨッシさん!」

「そういえばそんな話もあったかな?」

「へぇ、って事はここから川を超えて北に行けばミズキの森林って訳か。思ってたより近いもんだな」

「まぁ、確かにそうだよな」


 もっと遠いものと思っていたけども、意外とそうでもなかったな。……でもこれはLvが上がって安定して通れるようになったからなんだろうね。そう考えると俺らも強くなったものである。


「そういやケイ、経験値の増加アイテムを持ってたのにさっきのワニの時には使わなかったのか?」

「あー、それか。いやさ、アル以外の俺らって高校生だからテスト期間とかもあるじゃん? その間は流石にゲームやってる場合でもないから、そこでLv差が出来た時に埋める為に使おうかなーと」

「テストの話はいーやー!?」

「……ケイさん、ハーレは油断すると赤点を取りかねないから注意しておいてね?」

「ヨッシ!? それは内緒なやつー!?」

「よし、了解だ。その期間はVR機器自体を没収しとく」

「あはは、ハーレ、どんまいかな?」

「学生組はそういう面では大変だな。ま、ハーレさんの気持ちは分からんでもないが」

「あぅ……勉強は苦手なのです……」


 下手に悲惨な点数を取ったりしたらどっちにしても母さんからVR機器の没収にはなるはずだから、ここはテスト期間中にはしっかり勉強させておかないとな。まぁまだそれなりに先の話ではあるから、具体的な処置については間近になって考えようか。


「そういやヨッシさんとサヤって、成績はどうなんだ?」

「私はそこそこだね。少なくともハーレの悲惨な点数を回避出来るくらいに教えられる程度の成績ではあるよ。それよりサヤの方が凄いからね」

「ヨッシ、私はそんなにじゃないかな?」

「学年10位でそれを言うと、謙遜を通り越して嫌味になるからね?」

「……あはは? ところでケイはどうなのかな?」

「俺は平均よりちょい上くらいだな。ま、テスト前に慌てなきゃいけない程じゃないけど」

「へぇ、全員結構ばらつきがあるんだな。ま、まだちょっと先だろうけどテスト期間中は頑張ってくれや」

「……はーい、頑張ります……」

「もう、仕方ないなぁ……。ケイさん、テスト期間の時はVR機器の没収じゃなくて、ゲームのロックだけをお願い出来ない?」

「それは別に良いけど……あ、VR空間でテスト勉強でもするのか?」

「うん、まぁそんなとこ」

「それなら私も参加したいかな?」

「あ、うん。それならサヤも協力お願い」

「うー! 頑張るぞー!」


 少し気は早い気もするけども、とりあえず避けられないテスト期間の予定が決まっていった。ま、学生の本分は勉強ではあるからね。……少なくとも成績が悪くてゲーム禁止だけは避けたいから、それだけは絶対に回避しないとな。


「さてとテストの話はこの辺にしておいて、今はゲームを楽しんでやっていきますか。まずはどっちでもいいから『進化記憶の結晶』と砕け散った破片の捜索。それと並行してLv上げと面白いスクショの撮影って事で良いか?」

「もちろんさー!」

「同時にやる事がいっぱいかな!」

「でも、宝探しみたいで楽しいよね」

「だな。ま、予定通りに川沿いに下りながらちょいちょい周辺の探索ってとこか」


 同時にやっていく事は多いけども、今回の群集クエストとスクショのコンテストについてはこういう楽しみ方が正解なんだろう。


 ひとまず時間を確認してみれば、現在時刻は9時半を少し過ぎた頃。青の群集の森林エリアと赤の群集の森林深部エリアまでは結構距離があるという話だし、今日中には辿り着けなさそうかな?

 明日の昼間はハーレさんはバイトで、アルも午前中はログイン出来ないし、夜にはレナさん達とスクショを撮る先約済み。……下手をすれば到着するのは明後日の夜かもしれないけど、まぁ転移の種もあるからどうとでもなるか。


「ところでちょっと気になってる事があります!」

「気になってる事ってなんだ、ハーレさん?」

「少し先の方の川の真ん中の底に、何か大きな魚影っぽいものが見えてます! 魚影にしてはなんか変だけど!」

「……ほう? これは止まった方が良いか?」

「そうだな、アル。横まで行ったら止まってくれ」

「おうよっと」


 とりあえずハーレさんが気になる影が川の底にいるという事で、その確認をしていこう。ハーレさんの指し示した場所の近くまで行き、アルが移動を止めていく。さて、川底にいる大きな影とやらの正体を確かめてみようか。


「あー、確かに何かいるな。でも、姿がよく分からないな……?」


 川の水はそれなりに澄んでいて、割と見通せるんだけど暗い闇が纏わりつくようにしてその何かは姿を隠している。これは多分だけど闇纏いっぽいな。


「闇纏いの状態って、識別出来たっけ?」

「あー、先に看破が必要だったはずだ。もしくは光属性での攻撃」

「ほほう、光属性ね。よし、今日は昼間だし盛大にやるか!」

「あ、光の操作かな?」

「サヤ、当たり!」


 折角の快晴の昼の日なんだし、閃光や発光以外でも天然産の太陽の光を使わないとね。それに川の中なら、火がついて延焼するという心配もないだろう。


「そんじゃ真上に行って、ちょっと攻撃してくる。アルは水流の操作で打ち上げる準備しといてくれ」

「あー、まぁわざわざ水中で戦う必要もないか。敵の姿は分からんが、待機はしとくぜ」

「ケイ、水のカーペットで行くのかな?」

「え、まぁそのつもりだけど、どうかした?」

「せっかくだし、私の竜に乗って行かないかな? ちょっと色々活用してみたいんだ」

「あー、そういう手段も出来るようになったのか」


 大型化を取る前のサヤの竜ではクマが乗るのがギリギリのスペースだったけども、大型化が使えるようになった今ならば俺が乗っても大丈夫ではある。

 ふむ、俺とアル以外の他の人を乗せられる移動手段というのも重要ではあるかもしれない。俺自身も攻撃のみに専念出来るという利点もあるしね。


「よし、それじゃ今回は移動はサヤに任せた」

「うん、任されたかな! 『上限発動指示:登録1』!」

「ハーレさんは闇纏いを破ったら識別してくれ。ヨッシさんは状態異常の攻撃待機。正体次第で、何を使うかは決める」

「はーい!」

「了解!」

「それじゃ行くぞ、サヤ!」

「分かったかな!」


 サヤのクマが跨っている大型化した竜の頭の上に乗り、みんなへの指示出しも終了である。ここから先は敵の特徴にもよるので、臨機応変に対応だね。

 さてと川の真ん中辺りにいる謎の敵だが、闇纏いで隠している姿を表してもらおうか! てか、闇纏いって夜の日や真っ暗な洞窟の中なら脅威だけど、昼間の日の明るい時には攻撃の方向を隠すとか以外には意味なさ過ぎだよね。


<行動値を19消費して『光の操作Lv3』を発動します>  行動値 52/71(上限値使用:1)


 まずは闇纏いを破る為に太陽光を収束させていく。一気にレーザーまで収束していくのではなく、徐々に光の収束範囲を狭めていき、闇纏いの闇を光で照らしていく。お、闇纏いが消えたね。


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

 

 どうやらこいつは未成体の黒の暴走種だったようである。今は黒の暴走種の出現頻度は共闘イベントの時より少なくなっているから、これはラッキーだ。

 そして、姿を表した隠れていた相手の正体は……え、ちょっと待って。どこにいる……?


「どこに消えた!?」

「はっ! サヤが下から狙われてるよ!」

「え、私かな!?」

「サヤ、左に避けろ!」

「うん、分かったかな!」


 どうやら姿が見えない謎の敵は、サヤの竜の真下から死角を狙って攻撃をしかけてきているようである。……ちっ、真上から攻撃したのが裏目に出たのか。

 そして横から見ていたアルが回避の方向を指示してくれた事で、その攻撃を回避する事には成功した。……ははっ、この種族は予想外だったな。


「空中に出た今がチャンスだね。『並列制御』『アイスプリズン』『氷の操作』! ハーレ、識別!」

「了解です! 『識別』!」


 水中からサヤの竜に目掛けて噛み付こうと跳び上がってきた敵の姿は……かなり小さな黒いイカだった。大きさ的にはヨッシさんのハチと同じくらいか? ……明らかにここは淡水なんだけど、それは気にするだけ無意味か。完全に元の生態は関係なくなってるね。


 とりあえずヨッシさんの氷の檻に捕まっているので、まだ発動中の光の操作の向きと収束率を変えて、このイカに一撃加えとこ。

 お、ジュッと身が焼けるような音がして、光の操作の効果が切れた。効果時間が短かったのは闇纏いの相殺に使ったからだろう。……それにしても、短時間だったからかあんまりダメージはなしだね。


「……少し違うけど、ホタルイカの沖漬けを思い出すかな」

「じゅるり……。前にお裾分けで貰ったの、美味しかったよね、ケイさん!」

「あー、そういやそんなのもあったな」


 ちょっと前にアジをお裾分けしてくれたお隣の家の人が、旅行のお土産としてくれた事もあったっけ。……色こそこっちの方が黒いけども、大きさ的にはそんなもんか。


「まぁそれは良いとして、ハーレさん、識別情報をよろしく」

「はーい! 未成体Lv20の『闇突小イカ』で、黒の暴走種の闇突撃種! 属性は水と闇、特性は小型、突撃、軟体です!」

「……Lv20の敵が出たか」

「このイカは魔法型なのか物理型なのか、よく分からないかな?」

「これはバランス型なんじゃない? それより、かなり暴れてるのが不安なんだけど」

「まぁいいや。とりあえずこのイカをぶっ倒すぞ!」

「「「「おー!」」」」


 そうは言ったものの、かなり小さなこのイカはどう倒したもんかな。水から出したけども即座に弱っている様子もないし、特性の軟体って確かに打撃は効きにくくなったはず……。

 大きさ的にサヤやアルには不向きだし、ハーレさんの投擲も当てにくくなる。俺も水魔法や打撃攻撃は微妙だろうから、ここはヨッシさんとせっかく追加した俺の斬撃攻撃の出番かな。……まぁLv20で制限の多い相手というのはちょっと運が悪かった気もするけど、とりあえず頑張って倒そうじゃないか!

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