第497話 騒動の元凶達
問題の連中の居場所は、青の群集の森林深部の東部になる平原エリアという事で、灰の群集のメンバーは隣接している灰の群集の森林エリアを経由して青の群集の人は案内役という事になってそれぞれが素早く目的地に向けて移動中。
赤のサファリ同盟については、雪山を突っ切ってそのまま陸路からの強行突破という事になっている。流石の赤のサファリ同盟でも遠いような気はしていたけども、地味にその地点の近くに転移の種を仕込んでいた移動種の人がいて、対人戦をしてもいいというメンバーに絞って死んでからリスポーンで飛んでいくという事になった。……そんな使い方もありなんだ。
そして、大勢の移動を問題の連中に悟られないように気をつけながら、青の群集の森林深部エリアまでやってきた。
これからの殲滅で問題の連中は叩き潰してやる。運営からも散々警告が送られてるみたいだし、その上であの喧嘩を売ったのならば自業自得だ!
青の群集の森林深部の東側の平原へ行く妨害をしているボスの沼ワニは、八つ当たり気味にみんなに瞬殺されている。まぁ俺達もちょっと前に瞬殺したけど。
そして全員が通れるようになる頃を見計らって、青の群集のジェイさん、斬雨さん、ジャックさんがみんなの前に姿を出してきた。灰の群集からはベスタとレナさんも行ってる。さて、これから殲滅作戦の開始だな。
「それでは作戦通り、私達、青の群集の先導で進みます。灰の群集の皆様は私達を盾にして下さって構いませんので」
「はっ、同じ群集でダメージが通らないって特徴を利用するとは、ズルい事を思いつくじゃねぇか、ジェイ」
「……私だってこの手段は好きで使う訳ではありませんからね」
「分かってるっての、そのくらい」
「だったら、あまり言ってやるな、斬雨。俺らがあいつらを抑え込めなかったのが元凶でもある。……今回はすまないな、ベスタ、それに灰の群集の人達……。俺らが情けないばっかりに、あんなバカ共が迷惑をかけて……」
そう言葉を発するのは青の群集のリーダーである双頭狼のジャックさんだ。……他にも知らない人がほとんどではあるけど、青の群集の人達がかなり集まってきていた。……そのメンバーは基本的に大型な種族ばかりである。
ここまで来る途中に聞いた話では問題の連中は、以前弥生さんにぶっ飛ばされて改心して抜けた連中を除いて、今は10人ちょっとの集団になっているらしい。まぁ戦力的にはこちらの方が上だと思うけども、奴らを一切逃す気はないので、ダメージを受けない青の群集の人達が俺らの盾になりつつ、一方的に攻勢を仕掛ける予定だ。
「ジャック、過ぎた事はもういい。そもそも問題があるのは暴れた連中の方だ。お前達が謝る必要はねぇよ」
「そうだよ、ジャックさん! わたしらに喧嘩を売ってきたのはあいつらなんだしさー。責任を取らせるべき相手は……あいつらだもんね?」
「お、おう……」
ベスタは割と冷静なようだけど、レナさんは完全にキレてるね。……赤のサファリ同盟の人達も、別々に動く事になった時は冷静を装ってはいたけど、あれは確実にキレてたね。別行動になる寸前に見たシュウさんの、抑えた怒りが滲み出ていてとても怖かった……。
「それではこれより、例の問題集団の殲滅を開始する! ただし、これから行う事は決して褒められた行為ではない。戦闘行為以外は俺らも処罰対象になり得るし、場合によってはPKとして黒い縁をしばらく表示される状態になる可能性もある。だから強制はしないし、参加するかは各自で決めろ。したくないというのを引き止めるのもなしだ。少しの間、考える時間を設ける。それでもいいという奴だけ残れ」
ベスタはあくまでも自分の意思で参加しろという事である。確かに運営が黙認するという状態ではあるから、処罰の対象になる事はない。でも、大人数で報復の袋叩きを行おうというのは決して褒められた内容ではない。……だからといって、弥生さんの、シュウさんの、灰のサファリ同盟のみんなの、青の野菜畑の人達の気持ちを踏み躙った奴らを放置なんてしておけないもんな。
青の群集の人達は他にも色々とあるんだろうけど、他のみんなも許せないという気持ちは同じようで立ち去ろうとする人は誰もいなかった。……ちょっとの期間、カーソルがPKの証の黒い縁取りになってもそれくらいは許容しようじゃないか。
「その度胸、確かに受け取った。闇の操作を使える奴は、全体を覆うように偽装をかけろ! 既にある程度の包囲は完了しているが、悟られないように注意しろ! ……それでは殲滅を開始する!」
そのベスタの作戦開始の合図に、集まっているみんなは静かに頷く事で了承の意を伝えていく。さぁ、ここから先は楽しくはない殲滅の開始だ。……普通にゲームを楽しみたいだけなのになんでこういう事になるのかな……。
<『始まりの森林深部・青の群集エリア2』から『ラルジュ平原』に移動しました>
そして、戦場となるラルジュ平原へと辿り着いた。ここの平原は別の平原へと繋がっていて、切り替わり地点が分かりにくいらしい。ちなみに整備クエストの対象は青の群集の森林深部に接している極一部との事。
ある程度進んでいけば、以前に俺らが行ったスターリー湿原と合流したまだ名無しの平原に切り替わるらしい。まぁ今日はそこまでは行かないので問題なし。
「この辺りのマップデータは持っていないから、ジャックに指揮は任せるぞ」
「……あぁ、ベスタ。それは青の群集で引き受けよう。奴らの溜まり場はこのエリアの南西部にある小規模な森の中だ。既に先行して包囲は完了している。辿り着き次第、問答無用で殲滅開始だ。ジェイ、最後の確認を頼む」
「えぇ、了解しました。先ほども説明はしましたが、灰の群集の人達は私たちへの巻き込み攻撃は心配しなくて良いですからね。もし死んだ人はランダムリスポーンをして、逃げようとする奴を捕捉して灰の群集か、反対側からくる赤のサファリ同盟へと連絡してください」
ジャックさんとジェイさんから改めての作戦の説明が終わり、闇の操作を持つ人が次々と闇を操作して自分達の姿を隠していく。木の人の割合が多くなっているので、闇に覆われた森の大移動みたいになってるな。
ただし、あくまでも相手側からこちらに気付かれなくするように闇の操作を前方に展開しているだけなので、移動そのものにはそれ程の支障はない。
「……アル」
「あぁ、分かってる。『根脚移動』『上限発動指示:登録1』『上限発動指示:登録2』!」
流石にジェイさんが作戦を立案した状態でアルが目立ち過ぎるのは分かっていたので、ここに来るまでの間に木へとログインを切り替え済みである。そしてその際に後回しになっていた新たなスキルを取得しておいた。
サヤが打撃系の連撃応用スキルの『連強衝打』を、俺は斬撃系のチャージ応用スキルの『万力鋏』を取得している。同じチャージ系の殴打重衝撃より必要な行動値が多かったのは誤算だったけど、試しに使ってみれば結構変わった性質をしていたので、これはこれであり。
ついでにロブスターの全身を伸ばした状態を維持し『大きさを望むモノ』で大型化も取得した。まぁいきなり使うかどうか不明ではある。……同調共有でロブスター側の新しいスキルの使用には登録が必要になったから、その分だけログインのし直しと登録の手間はあった。ま、その辺はそういう仕様だから仕方ないけどさ。
そうして闇に隠れながら進んでいき、そう経たないうちに歩みが止まっていく。……なるほど、森の中に光源が見えるし何やら大声での話し声も聞こえてくる。どうやら戦場に到着したみたいだな。ふむ、見えてはいないんだけど、小規模な森の中に拓けた場所がある感じか。
「くそっ、さっきから何度も何度も警告ってうぜぇんだよ! ジェイにしろ、ジャックにしろ、斬雨にしろ、うざってぇ!」
「まったく、あんな連中がなんで偉そうに仕切ってんだ! 何様だ、あいつら! くそ、俺の方にもまた警告かよ!」
「どいつもこいつも情報は盗んで来れねぇし、赤の群集の引っ込んでた臆病共にビビりやがって。さっきまで中立地点に行ってた奴らはどうなったんだよ、おい!」
「あの役立たず共なら、これ以上関わりたくないとか言ってログアウトしていったぜ」
「はぁ!? 自信満々で立候補して行ったんだろうが! ちっ、使えねぇ!」
一応目視できるぎりぎりの距離までは近付いてきたけど、無茶苦茶な会話の内容が聞こえてきている……。聞こえている声は5人か……? うーん、流石に獲物察知じゃ他の青の群集の人達も表示されるから人数の特定は無理か。
「お、到着したみたいだな」
「うわ!?」
「おっと、ケイさん、静かにな」
「……すまん。って、ライさんか?」
「おうともよ。赤の群集も準備完了したぜ。つっても赤の群集と隣接している青の群集の群集拠点種で逃さないように待ち構えてるくらいだけどな」
「そうなんだ。でもなんでまたライさんがここに……?」
「いやいや、俺だってあれは許せねぇからな。赤のサファリ同盟ってか、シュウさんが少人数で終わらせる気はなくて、転移の実も使って、それなりの人数を送り込んで来てるぜ」
「あ、なるほど、その手があったか」
転移の種と転移の実は登録が別枠だから、各初期エリアに対応した帰還の実を併用すればそれなりの人数は確かに送り込めるよな。シュウさんが前にやってたゲームでBANされる程にやり過ぎた片鱗が見え隠れしている気がする……。
「んで、俺がちょいと偵察してきたってとこだ。奴らは今は12人ほどいるぜ。ただ、近くでちょっと気になる奴を発見したんだが、そいつが関わってるのかが問題かもしれない」
「……気になる奴?」
「……ラインハルト、それはどういう事だ?」
「あー、ベスタさんか。まぁ、全くの無関係って可能性もあるんだけど……って、噂をすれば何とやらだぜ。一応現段階で刺激はするなって伝えてきたけど、どうなるかね? ほれ、あっち」
ライさんが指し示す……って擬態中でどっちを指し示しているのか分かりにくいんですけど!? ……うん、ここはベスタが向いている方向を見ておこう。
ん? 何やら集まっている俺らの隙間を縫うように、問題の連中へと近付いていく赤い色のティラノの人がいる。……あの動き方は間違いなく俺らに気付いているけども、完全に無視しているね。よく見てみたら、あの人は白いカーソルの無所属の人か!? そんな人が何でここに? あ、動きが素早くて名前を見そびれた……。
「お、来たか。まぁ座れや」
「……いや、それは遠慮しておこう。それより俺への用件を聞かせてもらおうか」
「ちっ、つまんねぇ奴だな。まぁいいや。ちょっと気に入らない連中をぶっ潰してぇんだが、手伝ってくんねぇか?」
「……ふん、しつこく嗅ぎ回ってきて呼び出してきたかと思えば、そんな下らない理由か。そういう内容なら断らせてもらう」
「いやいや、待てって! あんた、強い奴と戦う為に無所属になったって話だろ。標的は青の群集のジャックとその取り巻き連中と、灰の群集の検証勢だ。相手としては不足じゃねぇだろ?」
「……相手としては不足ではないし、願ったりの相手ではあるが……」
「あぁん? 話し中だぞ、どこ見てやがる?」
「……いや、なんでもない」
ちょ!? 相手としては不足ないってティラノの人の声がこっちに向けて言ってるのか……? さっき割って入っていった位置の人に気付くのは分かるけど、包囲してる俺らもティラノの人には完全に気付かれてるっぽいな。そして強い人と戦う事が目的とか、そういう人もいるのか……。
それにしてもあの問題連中はそんな事を企んでたのかよ。しかも自分達でやるわけではなく無所属で強いと思われる人の力を借りてって、どこまで……。
「だろ! そういう事で、よろしく……って、警告がうぜぇな!? ……は? 10分後にアカウント凍結だと……?」
「……なるほど、よっぽどの迷惑行為をしてきたようだな。相手には興味は惹かれるが、お前らみたいな連中に使われるのはゴメンだ」
「んだと、てめぇ!? こっちが下手に出てりゃ、好き勝手な事を!」
「今の状況に気付かない雑魚共には用はない。俺は帰らせてもらう」
「ふ、ふざけんな! てめぇら、こいつをやっちまえ!」
「おうおう、いくら強いからって人数差を舐め過ぎてんじゃねぇか?」
「ぶっ殺してやるぜ!」
「……用はないと言っている……が、少しだけ演出に手を貸してやろう。『自己強化』」
「ちょ!?」
「な、なにしやがる!」
「てめぇ!」
え、ティラノの人は自己強化をしたかと思えば、一気に駆け出して問題の連中を次々と宙に飛ばす様子が見て取れた。……しかも一箇所に積み上がるように吹き飛ばしているようである。クマが吹き飛び、オオカミが吹き飛び、サメが吹き飛び、ワニが吹き飛び、タカが吹き飛び……って、12人ふっ飛ばされたけど全員肉食系の種族ばっかじゃねぇか!?
いや、そこもツッコミたいけども、今はこの状況がどういう事かを正しく把握しなければ……。このティラノの人は間違いなくベスタやバーサーカー状態の弥生さんクラスの強さだ。さっきの会話から判断して、今の状況から敵になるとは思えないけども、決して油断出来る相手ではない。
「……俺がするのはここまでだ。後は好きにすればいい」
え、またティラノの人が俺らに向けてそんな言葉を発してくる。好きにしろという発言は俺らに向けてのものみたいだな。
「ちっ、こんな化物がどこに潜んでいやがった? ……とはいえ、ティラノが敵でないのは確定だ。総員、攻撃に移れ!」
ベスタが化物と評するって、ティラノの人は一体何者!? あ、ティラノの人は蹴り上がって森を飛び越えていった。くっ、今は立ち去ったよく分からない人の事は考えなくてもいい! 奴らを殲滅する事だけを考えよう。
そして青の群集の人達に隠れていくような形で、突撃を開始していく。さてと、ここは一発大技を出して制圧しておくか。まぁ俺がじゃないけどね。
「ヨッシさん、アル! 毒霧!」
「おうよ! 『アクアクリエイト』!」
「了解! 神経毒と麻痺毒の複合毒で『ポイズンクリエイト』!」
ヨッシさんとアルが発動した複合魔法であるポイズンミストは2つの昇華の効果を得て生成量と拡散速度と凶悪な毒性を持った、猛毒の濃霧を生み出していく。そして、その毒を受けてティラノの人が積み上げていった状態から立て直そうとしている問題の連中が次々と倒れ伏していった……。先に突撃した青の群集の人達も巻き込んでしまっているけども、そこは大目に見てほしい。灰の群集の人は無事だけどね。
「今度は、なんだ!? 何が起こった!?」
「敵襲だと!?」
「う、動けねぇ……」
悪巧みの交渉が決裂し、その直後の俺らの強襲にまるでついていけていない連中である。……だけど、いきなり理不尽な状況を作り出したのはお前らが先だ。そもそもさっきの会話で、更にトラブルを起こすつもりだったという事も分かった。……許す理由が欠片もないな。
「さて、俺らに喧嘩を売った落とし前をつけてもらおうか」
「何度も止めたのに、弥生が傷付く原因になったあんたらは許さないからね!」
「えぇ、いい加減我慢の限界ですしね」
「他の群集にも迷惑をかけちまったからな。てめぇらは、ここで終わりにしてやる」
「お前ら、運営からも警告は受けてるだろう? つー事でお望み通りぶっ潰してやる。ただし、ぶっ潰されるのはお前らだがな」
そうして灰の群集からはベスタとレナさんが、青の群集からはジェイさんと斬雨さんとジャックさんが毒霧の中へと移動し、それぞれの憤りを込めた宣戦布告を告げていった。
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