第496話 許せない連中
青の群集の一部の連中へ単独で報復に向かおうとしたシュウさんは、ベスタの一喝によりひとまずの落ち着きを取り戻して一度ログアウトをしていった。
さて簡単に報復とは言うけども、既に弥生さんとルストさんに殺られた連中はこの雪山エリアにはいないだろう。そうなると、それ相応の準備が必要となってくる。
「ベスタ、どう動く?」
「……まずは犯人の特定と位置の割り出しだな。ジェイ、斬雨、その辺り青の群集に任せて大丈夫か?」
「えぇ、問題ありません。目撃者も多くいるでしょうし、私達としても問題視していた集団なので普段の溜まり場は把握しています。ですが……」
「……問題は既にログアウトしてた場合だな。ジェイ、それについてはどうするよ?」
「……おそらくまとめ役はログインしているでしょう。前々から確認していた通りでこの時間帯には今回の実行犯以外の連中もそこにいるはずです。私はここで青のサファリ同盟と野菜畑の方々と共に実行犯の洗い出し等の情報の収集と伝達を行います。斬雨はジャックと合流して、逃げられないように各初期エリアへ伝達をよろしくお願いします」
「おう、了解だ!」
今の段階で下手に口を挟むと邪魔になりそうなので、今はベスタの指揮に任せていこう。……下手を打って、元凶共を逃してしまうのはマズいからね。
それにしても、ジェイさん達も明確に問題視していて、対応自体は検討をしていたみたいだね。……それが間に合わず今回みたいな事が起こってしまったんだろうけど、悪いのは楽しんでいる人達を悪意を持って邪魔にきた連中である。
「よし、青の群集の情報を頼りに奴らを叩き潰す。赤のサファリ同盟はどれだけ人員が出せる?」
「あーうん、やっぱりそうなるよね。まぁ俺らとしても気に入らない話ではあるし、これはログインしてるメンバーでの総力を上げてだね。フラム、みんなに伝達をお願いね」
「もうやってます、ディーさん!」
「そういう処置だけは早いよな、フラム!」
「戦闘は得意じゃないから、こういうとこで頑張ってるんだよ!?」
「おう、戦闘ももっと頑張れな! これが片付いて弥生さんもシュウさんも戻ってきたらまた盛大に鍛えてやっからよ!」
「……ガストさん、冗談きっついなぁ」
「いやいや、アーサーにしても水月にしてもどんどん強くなってるからな。これ以上差をつけられてどうするよ?」
「うっ、それもそうだった……」
赤のサファリ同盟は弥生さんとシュウさんが不在という事にはなるけども、それで機能不全を起こすような集団ではないようである。……っていうか、フラムが赤の群集の森林での対外的な窓口役になってるって話だし、意外と役立ってんのか。
「……ベスタさん、今ここで言うのもどうかと思うのですが、1つ気になる事が……」
「……分かっている。ルスト、心配しているのは俺らが報復行為に出ることに対する処罰だな?」
「……えぇ、そうなります。元々の原因があちらにあるとはいえ、この行為は大丈夫でしょうか?」
「ちっ、確かに下手を打てば俺らが処罰対象になりかねんか……。さて、どうする……」
あ、そうか。つい頭に血が上っていて失念していたけど、これはルールに則った対戦ではない。……完全に怒りに任せた数の暴力による褒められた行為ではないことではある。いや、それはもう別に良いか。
「いや、ケイ、それは別に良くはないからな? シュウさんがやろうとした事と同じになるぞ……?」
「……アル。まぁ、そりゃそうなんだけど、あんな奴らに配慮なんて必要あんの? 自分達が気に入らないからって、他人に悪意をぶち撒けて、いざ反撃を食らいそうになったら被害者面をするのを許すって!?」
「いや、まぁそりゃそうなんだがな……」
困ったようにしているアルだけど、俺は自分が間違っているとは思わない。青の群集の内部での勢力争いだから関与しないってのが甘過ぎた。赤の群集でもウィルさんは誤って引っ張り出してしまった、悪質なプレイヤーが山ほどいたんだ。
出会う相手も人であるという事も忘れて、悪意全開で傷付ける奴らなんて……!
「み、みなさん! そ、その心配は、要らないっすよ!」
「……誰だ? ……あぁ、青の野菜畑のリーダーか」
「そうっす、ベスタさん! 青の野菜畑のリーダーの、大根の煮付けっす!」
なんだか気後れするような雰囲気で現れたのは、思いっきり見た目は大根の人なんだけど、名前が煮付けさん……? これはまた思いっきりネタに走った名前だね。……青の野菜畑はネタ好きって事だったけど、これは紛うことなくネタ好きな人である。
とりあえずそれは良いとして、報復行為に心配が要らないというのはどういう事なのだろうか……?
「……とりあえず話を聞こうか、煮付け」
「はいっす! その前に1つ謝らせて欲しいっす! オイラ達が不用意に氷結草茶を広めたのが発端でこんな事になって申し訳ないっす……」
「それは違うよ、煮付けさん! みんなから聞いたけど、中立地点は冷気対策が必須だから負担にならないようにってしてくれたんだよね。赤のサファリ同盟が敵の排除で、私達の灰のサファリ同盟が氷結草の栽培をしてるから、自分達も何かしたいって事でやってくれたんだよね? それは何も悪い事じゃないよ!」
「……ラックさん。そう言ってもらえるとありがたいっす……。でも申し訳なくて……」
ラックさんが落ち込んだ様子の煮付けさんを元気付けるように言葉を続けていく。あー、青の野菜畑の人が氷結草茶の事を広めた理由がいまいち分からなかったけど、そういう理由だったんだ。
中立地点だからこそ、青の野菜畑の人達は自分達でも役に立てるようにと善意からやった事だったんだな。……これを聞いたらなおさらあの問題の連中の事が許せなくなって来たんだけど……。
「……ちっ、こっちにも悪影響を出してんのかよ。胸糞悪い……」
「す、すみませんっす!」
「いや、お前たちが悪い訳じゃない。……言い方が悪かったな、すまん。ところで心配はいらないとはどういう事だ?」
「あ、はいっす! オイラ達、一度ログアウトして、一連の問題行為をいったんに報告を上げてきたっす。そしたらいったんが連中にすぐに警告を送ってくれたんっすけど、明確に無視したそうっす。……もう少し苦情が多くなれば、累積警告でアカウント凍結になるそうっす。……個人差もあるらしいっすけど、酷すぎればBANにもなるそうっす」
「……なるほど、アカウント凍結か」
「状況は把握してるから、今回の件は処分が決まってから実際に処分が行われるまでの間の戦闘行為だけは見なかったことにするって事っす!」
「……ほう? 戦闘行為だけは……か」
「そうっす。中継や暴言とかはアウトみたいっすけど、倒し過ぎた場合にPKとして少しの間でもカーソルの縁が黒くなるのを許容するならって事みたいっす」
「……なるほど、運営も思い切った事をするものだ。いや、これくらいしなければ不満が爆発しかねないか……」
おいおい、アカウント凍結が間近な状況って、どんだけ問題行動を起こしてるんだよ……。……いや、でも今ここで中立地点を作ることは、いったんは問題ないと言っていた。
むしろ他のプレイヤーへの妨害行為は駄目だとも言ってた気がする。というか、凍結が決まってから少しの間なら、PKとして黒い縁取りが出来る覚悟があるなら戦闘行為自体は黙認なんだな。アウトなのは晒し行為になる中継とか……多分スクショも駄目だろうな。暴言や罵詈雑言がアウトなのは元々の事だし……。こういう処置って事は運営としても迷惑なプレイヤー集団なんだろうね。
「おい、ジェイ!」
「なんでしょうか、ベスタさん?」
「伝達事項だ。そこに集まってる奴らと、これまでに連中から嫌がらせを受けたやつは、いったんに苦情を入れてこい。それで奴らは最低でもアカウント凍結処理になる。それと今の条件付きの黙認も伝えておけ。リスクの方を言い忘れるなよ」
「……えぇ、了解です。皆さん、聞きましたね? 心当たりのある方は、一度ログアウトをして苦情をお願いします!」
「はっ! あのバカ共もとうとう年貢の納め時か!」
「……あいつらに何度も狩りを邪魔された……」
「そうか、運営への苦情って手があったのか」
「……仲裁しようとした弥生さんへ攻撃した事は許さない!」
「俺らの事も好き勝手に言いやがったよな、あの野郎共!」
「情報泥棒だのなんだの、好き勝手言いたい放題!」
その情報がみんなに伝わってすぐに、みんなの怒りが再燃していた。……うん、俺らはスパイされかけたのを撃破した程度だけども、もっと直接的に不快感を与えられた人は多かったようだ。……でも流石に俺らのPTはそこまで苦情を申し立てられる程の直接の被害は受けていないから、流石にこれは出来ないな。
「……ルストさん、ちょっと酷な事な気もするんだけど、弥生に被害報告をしてもらってくる事は出来る?」
「……そうですね。弥生さんは精神的な異常の検知で強制ログアウトになってたようですし、弥生さんさえ大丈夫なのであれば可能だとは思いますが……。ですが、レナさん、それは……」
「……無茶を言ってるのは分かってるよ。でも、ここを乗り切るなら一番の決め手になり得るから……」
「……分かりました。一度ログアウトして、弥生さんの様子を見つつシュウさんと相談してきます」
「うん、よろしく。あと、弥生に伝言をお願い。『みんな、戻ってくるのを待ってるからね?』って伝えておいて」
「……了解しました」
そっか、弥生さんは自発的なログアウトではなく、強制ログアウトだったのか。セーフティが働いての強制ログアウトともなれば、そりゃシュウさんもキレるよな。直接的な振動とか以外なら、早々セーフティで強制ログアウトってなる事はないし……。
そしてルストさんはログアウトしていき、他にも苦情を言える内容がある人達が続々とログアウトしていった。……半数くらい減った気がするんだけど、結構な人数いたはずだよね!?
「……どんだけの人数に迷惑かけてたんだよ、あの連中……」
「……確かにな。ケイ、スパイされた件では流石に苦情は無理か?」
「あの程度じゃ流石に無理じゃね?」
「気に入らないけど、確かにあれは厳しそうな気はするかな……」
「私もそう思います! 下手に微妙なラインの報告もしたら、逆に凍結しにくくなる可能性がありそう!」
「そだね。そこは私もハーレに同意だね」
「ま、あんだけの人数が行ってれば大丈夫だろ」
具体的に全員の受けた被害は分からないけども、あれだけの人数がいればもう逃げ切れる状況でもないだろう。さてと、後は運営は黙認してくれるという事だし、後は位置を特定して殲滅するのみだ。
「……斬雨からフレンドコールですね。少し失礼します」
そこでジェイさんに斬雨さんから連絡が来たようで、ジェイさんが少し離れていく。あの連中の位置について何か分かったんだろうか?
お、そうしている間にハイルング高原の方から、何人かが集まってきていた。見覚えのある羽の生えたヘビ……ケツァルコアトルの人とか、水月さんとか、アーサーもいるな。これは赤のサファリ同盟が勢ぞろいでやってきたみたいだね。
「……あの惨状を繰り返したバカ共が出たと聞いたが、何処だ? ガスト、ディー、説明しろ」
「ラピス、気持ちは分かるが、慌てんなって。今は青の群集の方で、現在地を特定中だ」
「……ガストがそう言うのならば待とう。時が来れば血祭りに上げてやる」
「……まぁ聞いている限りでは、気持ちは分かります」
「俺は少し前の自分を思い出すー!?」
ケツァルコアトルの人はラピスラズリって名前になってるけど、ラピスさんと呼ばれているみたいだね。そして水月さんとアーサーは事情を把握済みと……。
そして少し前の自分を思い出しているのか、アーサーは悶絶していた。……まぁ、今は全然問題ないけど、アーサーも会った時は酷かったもんな。
「……えぇ、分かりました。では、逃さないように監視をお願いします。はい、動けるようになればまた連絡をしますので。はい、任せましたよ」
そんな断片的な会話が聞こえながら、ジェイさんが戻ってきた。聞いた感じでは問題の連中の包囲が完了したというところだろうか。ははっ、そんなに時間は経ってないはずなのにもう下拵えは完了っぽいな。
「ジェイ、準備は整ったと見て良いんだな?」
「えぇ、ベスタさん、その認識で構いません。奴らの現在地は青の群集の森林深部の東部の平原になります。どうやら運営から警告が届いている事と、先の弥生さんとルストさんによる返り討ちで難癖をつけることに失敗した事で言い争っているそうです」
「……くだらねぇ連中だな。だが、好都合だ」
「えぇ、そうですね。青の群集の各初期エリアでの監視網ももう少しで用意出来るそうですので、凍結が確定した時点で動き始めましょう」
「あぁ、それで良いだろう。今回の騒動、恐怖を刻みつけた上で、奴らのアカウント凍結によって報いを受けてもらうぞ!」
そのベスタの何度目かになる宣言に、集まっているみんなの熱気が上がっていっている。そういや苦情の報告の為にログアウトしていたみんなが続々と戻ってきているね。……あ、いつの間にかシュウさんが戻ってきている。……弥生さん、大丈夫なのかな?
「……みんな、すまかなかったね。弥生はとりあえずは落ち着いて、今はルストが側に居てくれている。……少し弥生には辛い事にはなったけども、弥生自身が被害報告も上げてきた」
そっか、とりあえずは弥生さんは大丈夫なんだな。それにシュウさんも怒ってはいる様子だけども、さっきみたいに我を忘れている様子もない。
「弥生はここに戻って来たいと言った。だから、僕はその為に全力を以て動く。……そして、いったんからの伝言になるね。『被害報告を受けた該当プレイヤー集団は複数の悪質な規約違反に該当する為、個別に処罰内容は変わるものの、最低限でも数日間のアカウント凍結は確定となりました。被害を受けたプレイヤーの方々がどう対応されるかは重大な規約違反にならない限りは、追求は致しません』という事だよ」
ははっ! 規約違反にならない限りにおいてはあいつらに何をしてもお咎め無しってか! 規約違反に該当するのは、粘着行為や、罵詈雑言、誹謗中傷、他のプレイヤーへ妨害行為などである。……もうそれらに違反しまくって凍結される連中相手なのであれば、節度さえ守れば問題なしか。
この中で気を付けるべきは罵詈雑言や誹謗中傷くらいなものか。……これなら黙々と黙って仕留めていけば問題はないだろう。
「ふっ、良くやった。行くぞ、てめぇら!」
そしてそのベスタの号令により、青の群集の問題集団の殲滅作戦が開始となった。参加メンバーは赤のサファリ同盟、青の群集で奴らを快く思っていない人達、そして灰のサファリ同盟や俺らレナさんやベスタ。さて、これまで好き勝手やってきた報いを受けてもらおうか!
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