第498話 報復の殲滅


 毒霧の中へと何人かが入っていき、問題の連中へと怒りの籠もった声を放っていく。うわー、まずないとは思うけども、このメンバーを怒らせた状態で敵に回したくはないな。

 そしてもう必要も無くなったので、闇の操作による偽装は次々と解除されていた。ここから問題の連中の殲滅開始だ。


「げっ!? ジェイ、斬雨、ジャック!? それに灰の群集のベスタだと!?」

「ちっ、あのレナまでいやがる……! 一体何が起こってんだよ!?」

「うわ、囲まれてるじゃねぇか! いつの間に!?」

「知るか! てか、この大人数はなんなんだよ!?」

「てめぇら、なんの真似だ!? こんな事、許されるとでも思ってんのか!?」


 麻痺毒と神経毒の効果を受けて身動きが取れなくなっているけども、口の悪さは健在のようである。……許されると思ってるのかだと……? よりによって、お前らがそれを言うのか。もういいや、元々対話なんか期待してなかったけど、こいつらの発言を聞くだけで腹立たしい。……ただ暴言とかには気をつけないと……。


「アル、デブリスフロウで……」

「おう……いや、待て、ケイ」

「……は? なんで待つ必要が……あぁ、そういう事か」


 なるほど、上空を見上げて見ればアルがストップをかけたのも納得だ。俺らも怒っているのは間違いないけども、あの人が来たのならばここは譲ろう。

 視線の先には大型化している様子の大きなタカと、その背に乗っている白いネコの姿が月明かりに照らされている。他の赤のサファリ同盟の人はまだ見えないが、一番来るべきシュウさんがガストさんに乗って真っ先にやってきたようだ。


「っ!? 赤のサファリ同盟だと!?」

「なんで赤のサファリ同盟が出てくる!?」

「んな事、知るか!」

「ビビってんじゃねぇ! どうせ引きこもってた連中だ!」


 うっわ、確かに赤のサファリ同盟初めは表に出てきてなかったのは事実ではあるけども、こいつらいくらなんでも甘く見過ぎだぞ。……俺も今日知ったばかりではあるけど、シュウさんは怒らせると尋常でなくヤバい。


「……あぁ、声を聞いているだけで不愉快だよ。……ガスト、準備はいいかい?」

「おうよ、シュウさん。『ウィンドクリエイト』!」

「……まずは1度目。『エレクトロクリエイト』」


 ガストさんとシュウさんによるテンペストの発動によって、毒霧をも吹き飛ばす雷を帯びた竜巻が荒れ狂い、問題の連中と共に青の群集の人も灰の群集の人も巻き添えになっていく。……この辺は避けるのが難しいから作戦の想定内だし、元々同意も得ている内容なので問題はない。

 そして、次々と巻き上げられた人達が落下していく。なんとかHPが残っている人もいるけど、問題の連中は4人ほど生き残っていた。種族としてはライオン、ヒョウ、ワニ、クマか。


「くそ、ふざけんじゃねぇ! お前ら、とりあえず逃げるぞ!」

「ちっ、気に入らねぇが、ボスの言う通りか……」

「何だってこんな事に……」


 ほほう、ライオンがボスなのか。あ、シュウさんもそれに気付いたようで標的をライオンに定めたみたいである。


「僕は逃げて良いと言ったかい? 『並列制御』『光の操作』『閃光』」

「ぐっ!?」

「まだまだこれじゃあ、足りないね。『強風の操作』」

「な、なんの真似だ! 赤のサファリ同盟!」

「……それは僕の台詞だよ。人を傷付けておいて、反撃を受けないと……なぜ思っているんだい?」

「ひっ……!」


 そしてボスらしきライオンは完全にシュウさんに捕まって、天然の風を使った強風の操作で作り出した乱気流の風の球の中に閉じ込められていた。その中で洗濯機の中の洗濯物のようにグルグルと回され続けている。……魔法産に比べるとそんなに強力にはならないのに、シュウさんは天然の風でここまでの芸当が出来るのか。


「ひっ!? 化物共!?」

「言ってねぇで、さっさと逃げるぞ! 『自己強化』『高速疾走』!」

「アル、水流! サヤ、そっちのクマは任せた!」

「分かったかな! 『魔力集中』!」

「おう! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」

「くっ、水流の操作!?」

「この程度、飛び越えりゃいいだろ!」

「そう言われても、逃げれねぇんだよ!」


 逃げ出そうとしていくヒョウとクマに向けて、アルが水流を操作して逃げるのを妨害している。ははっ、自分達から喧嘩を売ったくせに、何様のつもりだ、こいつら!

 クマはサヤに任せたから、俺はヒョウの相手だ。どうせ逃げたところで後から追い詰めて仕留めるけども、その前に1回は死んでもらう! 


<『夜目』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 69/69 → 69/70

<行動値上限を35使用して『大型化Lv1』を発動します>  行動値 69/70 → 35/35(上限値使用:35)


 通常のロブスターのままでは確実に大きさが足りないから、大型化を利用して1メートルくらいまで大きくなっていく。ヒョウのHPは大幅に減っていてもう瀕死気味なので、新たなコンボを叩き込んでやる。ただ、大型化の行動値の使用量が多過ぎるので、夜目を切る必要があったけど。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 20/35(上限値使用:35)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を20消費して『殴打重衝撃Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 0/35(上限値使用:35)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ロブスターを大型化した状態で、左のハサミで万力鋏を、右のハサミで殴打重衝撃を発動していく。ははっ、この手段は道中で試しに発動してみたら、ちょっとジワジワといたぶる感じになっていたから使いどころに悩みそうだったけど、こいつら相手にはそんな配慮はいらないや。


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>

<『殴打重衝撃Lv1』のチャージを開始します>


 新たに取得した万力鋏のスキルの特徴は、ハサミで挟んだ状態でチャージを行いながら拘束し、最大値に達した時に切り落とすというもの。その特殊な拘束性能がある分だけ、行動値の消費は増えている。

 魔力集中を発動する余地すらないんだけど、逃げているヒョウはHPは残り僅かだ。……だからといって瞬殺してもらえると思うなよ?

 

「アル!」

「行ってこい、ケイ!」

「く、来るんじゃねぇ!」

「もう口を開かないでよ! 『連速投擲』!」

「ぐっ、ぐはっ!?」


 苛立った声を上げながらハーレさんが銀光を放ちながら投げているのは、いつか貰った毒弾だな。そして俺はアルの生成した水流の中に入り逃げ惑っているヒョウへと一気に距離を詰め、その首筋へと大きくなった万力鋏の発動中の左のハサミで挟んでいく。


「ぐっ!? くっ、は、離れろ!?」

「嫌なこった! 自分らがした事を後悔しとけ!」

「くっ、こんなふざけた形で殺られてたまるか!」

「……いい加減、うるさいんですよ。『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「ぐっ、ジェイ! 汚ねぇぞ、てめぇ!」

「……どの口がそれを言いますか。ケイさん」

「おう」


 ジェイさんもまた相当に苛立った声で、生成した岩でヒョウを固めて身動きを封じている。これなら万力鋏の欠点であるチャージまでの間に振り払われる可能性も低くなった。まぁ、アルの水流に翻弄されて右往左往してた口だけのこいつらに振り払われるとも思ってなかったけど。


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>

<『殴打重衝撃Lv1』のチャージが完了しました>


 そしてどちらのチャージも完了して、眩い銀光を放っていく。……まぁ本当なら魔力集中と凝縮破壊Ⅰがあればもっと威力は上がるんだけどね。今回は別の形で威力を上げるからいいや。


「まずは1回」

「ふ、ふざーー」


 その言葉を待たずに俺は左のハサミに力を入れて万力鋏でヒョウの首筋を切断していき、その左のハサミに右のハサミを上から叩きつけるようにして殴打重衝撃を発動した。一気に勢いを増した切断でヒョウの首筋を切り裂いていく。

 よし、思いっきり手応えはあり。斬撃を打撃で威力増強させるという手段自体は可能みたいだね。……でも切断した手応えはあっても、ゲーム的な処置として首は流石に切り落とせないか。首以外なら切り落とせたりもするんだけどな。まぁいいや、今のでヒョウのHPは全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていったし。


「……よし」

「ケイ、ひとまずは終わったかな。今はリスポーン位置の捕捉待ちだよ」

「そっか。サヤ、サンキュー」


 俺がヒョウを仕留めている間に、サヤは他のみんなと協力しつつクマを仕留めたみたいである。他の生き残りもベスタやレナさんが、ボスのライオンはシュウさんや赤のサファリ同盟によって始末されていた。


「……何があったのかは知らないが、思った以上にやるな」

「っ!? さっきのティラノの人か?」

「それに答える義務はない。……無意味に呼び出されたが、無駄足にはならなかったか。これは、ウィルの言ってた通りだな」

「……っ!? どういう事だよ!?」

「そう慌てるな。……今は敵ではないからな」

「っ!?」


 ティラノの人に一気に距離を詰められたけど、全然反応出来なかった……? それにウィルさんの名前がここで出てくるだと!? 確かにウィルさんと同じ白のカーソルの無所属の人ではあるけど、何か繋がりがあるのか?

 あ、ようやく名前の確認が出来た。このティラノの人の名は羅刹……か。一体、この人は何なのだろう?


「……今日はこれくらいにしておこうか。また逢う日を楽しみにしておく」


 その言葉を言い残して、ティラノの羅刹はあっという間に姿が見えなくなった。……無所属にあんな人がいたのか……。いや、深く考えるのはやめておこう。今はまだ他にやる事がある。

 一度夜目を切ったから視界が悪くなっているので改めて夜目を発動しておくか。それにひとまずは大型化ももう必要ないだろう。


<『大型化』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 2/35 → 2/70

<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 2/70 → 2/69(上限値使用:1)


 よし、これで良い。さて、ここから奴らが運営に凍結処理されるまでが正念場だ。俺らの全力をもって、逃しはしない。




 そこからは運営からの連中への凍結までの時間との勝負であった。お、目の前にランダムリスポーンをしてきた標的を発見。今度はオオカミか。


「あ、見つけた!」

「またかよ、ちくしょう! ログアウトする隙もねぇ!?」

「……それは自業自得かな。『連強衝打』!」

「サヤさん、ナイス! 『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『連爪回襲撃』!」


 戦闘行為を中断してしばらく待たないとログアウトは不可能な仕様になっているからね。……普通なら、複数の箇所でリスポーンを選べるんだからこういう事態はほぼ不可能ではある。でも今回はこいつらが敵に回した相手の数は何十倍もの人数だ。


 サヤの新たな打撃の連撃系の応用スキルで銀光を放つ打撃を打ち込み軽く吹き飛ばし、その反対側ではレナさんが伸ばした爪で吹き飛ばされたオオカミに斬撃を加えていく。そしてその間に吹き飛ばした分だけ距離を詰めたサヤが次の一撃を打ち込み、足場として操作している小石で位置調整をしながらサヤの攻撃の勢いを利用するようにレナさんも次の一撃で切り裂いていた。

 共に連撃系のスキルである為、一撃毎に威力が増していきあっという間にオオカミのHPが全て無くなりポリゴンとなって砕け散っていったね。……一応経験値は入ってくるんだけど、この経験値は嬉しくないな……。


「さて、次に行くか」

「そだな、アル。……あー、気分悪い戦闘だな……」

「……確かに気分が良いものではないかな。でも、こうでもしないとみんな楽しめなくなるし……」

「……まぁ、ケイの気持ちも分かるぜ。……だが、好き勝手やる連中を野放しにするとそれこそゲームが終わりに近づきかねないからな……」

「あーうん。確かに運営がろくに対策せずに、荒れに荒れてサービスが終わったゲームもそれなりにあるしな……」


 今まで何個かVRMMORPGをやった事はあるけども、物によっては運営が見切り発車過ぎて荒らしは溢れるし、アイテムの増殖バグは放置だし、無法地帯になって、嫌気がさしてすぐにやめたのもあるからな……。

 そういう面ではここの運営はそれなりに対応してくれているから好感は持てる。今回の件だって、ちゃんと凍結対応には動いてくれたしね。まぁまさか限定的とはいえ報復行為が黙認されるとは思わなかったけど。……本来ならばそういう悪質なプレイヤーがいないのが一番良いんだけど、流石にそれは防ぎようがないのが現実だ。


「あ、情報共有板経由で最新情報が出たよ!」

「ハーレさん、どんな内容だ?」

「えっとね、ベスタさんからだね! 『凍結処理の完了を確認。報復はこれで終了する』だってー! 」

「……そっか。やっと終わったか」

「……ものすごく気疲れしたかな……」

「……あはは、私も同感……」

「今日は新しく始まったクエストどころじゃなかったな……。それに結局、雪山の中立地点もろくに見れなかった……」

「あ、そっか。辿り着いた時にはもうトラブルの渦中だったもんね……。……弥生、大丈夫かな……?」


 決して後味の良い終わりとは言えないけども、これ以上の処置は運営の判断に委ねよう。……まぁ暴言や罵詈雑言、他のプレイヤーの妨害や嫌がらせに関しては度が過ぎればBAN対象にもなるみたいだし、今回の元凶の全員がBANされるかはまだ分からないけど、主犯格と実行犯は可能性は高そうである。


 まぁとりあえず俺が倒したのが3人だから、PK判定までには至らなかったね。……そういやPK判定って何人以上倒したらだったっけ……? 進化の都合もあるから短時間で結構な人数を仕留めるとかじゃ……あ、ヘルプを見ればいいか。

 えーと、1時間に同意のない戦闘行為で10人以上仕留めるか、20人以上に攻撃を仕掛けたらPK判定か。その人数が増えれば、増えるに従って黒い縁取りも拡大していくと。


「追加の連絡ー! 『これから集まる意味もないから、自由に解散してくれ』だってさー!」

「ほいよっと。……そういう事らしいけど、どうする?」

「あー!? 雪山で転移の種の登録を忘れてたー!?」

「「「「……あっ」」」」


 しまった、元々今日はあそこに転移の種を設置して、明日はそこからスタートして赤の群集の森林深部と青の群集の森林エリアまで行ってみる予定だったのに……。状況が状況だったとはいえ、完全に忘れてた……。


「およ? そのガッカリ具合って事は、どこか行きたいとこでもあったのー?」

「あー、うん、一応」

「今まで全く行ったことない赤の群集の森林深部と、青の群集の森林のとこに行ってみたかったんだよ」

「ほほう? あ、それなら良い情報はあるよー?」

「え、レナさん、それってマジ!?」

「うん、マジだよー! 現在地がここなら……うん、割とすぐ近くだね。ここから東に行ってまだ命名クエストが終わってない平原まで行って、そこを川沿いに進んで行けば青の群集の森林に繋がってるよ。ちょっと距離はあるけどね」


 まさかの現在地からでも行けるルートがあったという情報だった。流石は色んなエリアを渡り歩いているレナさんである。よし、そういう事ならそっちから行ってみるのもありだろう。

 

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