第494話 何が起きたのか


 雪山の中立地点に来てみれば何やら騒動の真っ最中であり、ひとまずは状況が落ち着いて来たようである。さてと当事者っぽい弥生さん達のところにはレナさんが行ってるけど、赤の群集や青の群集の人達が集まっていっているので状況が飲み込みきれていない俺達が行っても邪魔なだけだな。

 でも今のこの状況については詳細が知りたいから、他に誰か知ってる人はいないかなー? お、ちょうどいい奴を発見。よし、あいつなら多分この状況が分かってるだろ。


「みんな、ちょっと事情を知ってそうな奴を連れてくるけど良いか?」

「あー、まぁ良いんじゃねぇか? 詳しい状況は知りたいしな」

「はい! 賛成です!」

「私も賛成だけど誰を連れてくるのかな?」

「あ、あそこにフラムさんが居るね。ケイさん、連れてくるのってフラムさん?」

「ヨッシさん、大当たり!」


 という事で、視界に入っているフラムの2ndのツチノコを補足。これより事情聴取の為に捕獲を開始する!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 68/69(上限値使用:1): 魔力値 197/200

<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 49/69(上限値使用:1)


 よし、少し小さめの石の生成は完了。少しずつフラムに近付けて行くけども、フラムはまだ気付いていない。ただ弥生さん達の様子を見ているだけで誰かと会話している様子もないから、特に邪魔をする事にはならないだろう。


「はっ!? 攻撃か!?」


 あ、危機察知が働いて気付かれたっぽい。だけど回避行動が遅いし、一気に捕まえてやる! よし、追加生成で岩にして固めて捕獲完了。やっぱりフラムは近接の動きはまだまだ悪いね。捕獲は相当簡単だったし、とりあえずアルのクジラの背中の上まで持ってきて、ツチノコの頭を下に向けて逆さ吊りにしてっと。


「ちょ、一体なんだ!? あ、ケイの仕業か!?」

「よ、フラム。さっき叫び声が聞こえて駆け付けたとこで、詳細が分からないんだよ。ちょっと教えてくれない?」

「教えるのは別に良いけど、普通に声をかけろよ!? っていうか、なんで逆さ吊り!?」

「……先月の頭に、俺が座ろうとした椅子を後ろから引き抜いたのは誰だったっけ? あれのせいで俺が軽くだけど手首を痛めたのは知ってるよな?」

「え、ケイさんが怪我してたのってそれが原因だったの!?」

「おう、その犯人がこいつだ」

「……ぐっ!? それを言われると反論できん……」


 普段から余計な事をしてなければ俺だってまともに対応するんだよ! とりあえず捕獲した時のダメージは最小限に抑えたんだし、自業自得という事でさっさと情報を教えてもらおうか!


「という事で、知ってる事をさっさと吐け。別に口外禁止の内容って訳じゃないんだろ?」

「いや、まぁ灰の群集も関わってるトラブルだったし、話すのは問題ないけどさ……」

「ほう? ならば言い淀んでないで、さっさと吐け。さもないと……」

「ちょ、ケイのハサミが鋭くなってないか!?」


 先月の怪我のことを思い出したらちょっと腹が立ってきた。ふふふ、こうなれば鋭利になったこのロブスターのハサミでフラムのツチノコの頭を挟んで、いつでも切り落とせるように……。いや、流石にこれはやり過ぎか。

 ふー、少し落ち着け。捕まえた時点でとりあえず反撃は終わりでいいだろ。一応はあの時の怪我については謝罪も治療費も貰ってはいるんだ。これ以上は悪ふざけの範疇を超えるから、やめておこう。

 

「分かった! 分かったから、普通に説明するから、とりあえず降ろしてくれー!?」

「ほいよ」

「おわ!? 『アースクリエイト』『土の操作』!」 


 とりあえずフラムを拘束している岩の向きを上下反転させて、着地しやすいようにしてから解除。岩から解放された途端にアルのクジラの背中の上に着地しようとして、思いっきりバランスを崩して転がっていき、生成した小石で落下を防いでいた。

 ……うん、魔法の使い方そのものは上達しているみたいだけど、キャラ操作の方が微妙なのは健在のようである。まさか1メートルもない高さからの着地で、こんなに盛大にバランスを崩すとは……。


「あっぶねー、落ちるとこだった!?」

「……今回は捕まえた俺も俺だけど、流石に今の着地くらいは普通にしてくれ……」

「俺だっていきなり過ぎてびっくりしたんだよ!? あらかじめ分かってたら、あのくらいでバランスを崩したりしないっての!」

「あー、予想してない動作ではバランスを崩すよなー。……椅子があるはずの場所に無かったりすればねぇ……?」

「これは藪蛇だった!? あれはホントにすまんかった!」

「……ケイ、話が進まないんだが?」

「あ、悪い、アル。……という事で、大真面目に何があったんだ?」


 アルが話を本題へと進めようとしてくれているし、私情で脱線させ過ぎてもあれなのでこれ以上はやめておこう。さっきチラッと灰の群集にも関係していたって口走っていたし、内容が気になるところではある。


「あー、俺も全部を見てたって訳じゃないから分かる範囲になるけど、良いか?」

「おう、とりあえずそれでいいぞ」

「んじゃ、まずは事の発端だな。えーと、ケイ達って今回の報酬の合成アイテムの詰め合わせでお茶が作れるっていうのは知ってるか?」

「それならちょっと前まで私達も検証してたよー!」

「うん、そうなるね。それが関係しているの?」

「なるほど、灰の群集でのお茶について大体は検証済みってのはケイ達が関わってたのか。まぁそりゃ灰の群集があんな事をするわけ無いもんな」

「……あんな事って何かな……?」

「マジで何があったんだ、フラム?」


 お茶の検証が関わってるというのもよく分からないし、灰の群集のあんな事をするわけが無いってどういう事だ? 弥生さんのバーサーカー化と騒動の元凶っぽかった青の群集の一部の連中との繋がりも見えてこない。冗談抜きでここで何があったんだ?


「ちょっと説明が難しいな……。えーと、確認なんだけど中立地点で青の群集の『青の野菜畑』って共同体が氷結草茶について広めたって話は知ってるか?」

「あー、そういやそんな話も聞いた気はする」


 雪山に入る直前にたまたま会った蒼弦さんがそんな事を言っていたね。既に氷結草茶については広まっているから隠して使う必要はないって教えてもらって、実際にみんなで氷結草茶を使う事になったもんな。


「知ってんのなら話は早いか。今回の発端はそこなんだよ」

「……え、どういうことなのかな?」

「なんであれが騒動の原因になるのー!?」

「……状況がいまいち分からないね」

「……あー、フラムさん、灰の群集も関わってるって言ったな? それに俺らが検証済みだってのを聞いて、納得もしてたよな」

「……アル?」


 どうやらこの様子だとアルは何かしらの可能性に思い当たったようである。俺ももうちょい考えてみるか。まずこの件には灰の群集も関係していて、青の群集の共同体がお茶を広めていた。そして騒動の渦中にはジェイさん達を悩ませていた問題のある集団と、ブチ切れたと思われる弥生さん。

 そういやあの連中は弥生さんに向かってなんと言っていた? ……確か難癖をつけたのは悪かったとかだよな。そして斬雨さんはあいつらが灰のサファリ同盟へ、喧嘩を売ったとも言っていたような……。あー、何となく予想がついた。


「……フラム、青の群集の一部の奴らは灰のサファリ同盟にお茶について難癖をつけたんだな?」

「ケイもそう考えたか。あいつらが言ったのってこんなとこじゃねぇか? 『青の群集の共同体が見つけた手段を灰のサファリ同盟が盗んだ』とかそんな感じでな」

「はは、大当たりだよ、ケイ、アルマースさん。俺も直接聞いた訳じゃないから具体的にどういう風に言ったのかは分からないけど、青の野菜畑が情報公開してから、灰のサファリ同盟が使い出すまでが早過ぎるって感じでな」

「……それは流石に聞き捨てならないかな?」

「私もそれは許せないね!」

「……そっか、そんな事があったんだ……」


 青の群集の問題ある連中って、本気でそんな事をやりやがったのか。青の野菜畑の人達はおそらくそんな意図はないはず。湖の共同調査と掲示板でチラッと見た程度ではあるけどネタ好きではあっても、そんな悪意を持った人達だとは思えない。

 それにあの連中は灰の群集へのスパイ行為もしていた。……スパイがうまく行かないからって、戦力的には強くはない灰のサファリ同盟を標的にして、貶めようとした訳か。……あー、聞いてたら段々と苛ついてきた。


「まぁ灰のサファリ同盟やケイ達が別経路で見つけてたみたいだし、嫌な気分になるのは分かるぜ。それで灰のサファリ同盟の人達と言い争いになってたからな。……オオカミ組の人達が離れた時だったし、普段指揮をしてる人達も不在だったとこを狙われたみたいだぜ」

「げっ、そういやラックさん達はまだこっちに来てないんだっけ……」

「……オオカミ組も俺らとすれ違いで森林深部に戻っていたしな」


 実力行使で追い払える人が不在の時を狙われたのかよ。くっ、そういう状況だったなら雪山に来た時点ですぐに立ち寄っておくべきだった……。っていうか青の群集の問題の連中、ふざけんな! 自分達はスパイをしにきておいて、自力で検証してた俺らに情報を盗んだとか言いがかりだと?

 あ、みんなも段々と苛立っているのがなんとなく分かる。うん、俺も同じように苛立っているからよく分かるよ。


「……まぁその騒動を聞きつけて、弥生さんが駆け付けたんだけどな? もう乱闘寸前まで行ってて、仲裁しようとした弥生さんに攻撃を仕掛けた青の群集の奴がいて、それでブチ切れちゃってな……」

「……そこから後は俺らが到着してから見た通りになるんだな……」

「タイミング的にそうなるか……」


 弥生さん、わざわざそんな事態を他の群集なのに仲裁しようとしてくれたんだ。……ジェイさんと斬雨さんも慌てて駆けつけていた様子だったけど、それには間に合わなかったんだな。


「俺の知ってる範囲は、とりあえずこんなもんだ。これで良かったか?」

「おう、充分だ。フラム、ありがとよ。あと、弥生さんにありがとうって伝えといてくれ」

「お、おう。……なんか怖いぞ、ケイ。それにみんなも……」

「……それはフラムが気にしなくて良い」

「……あー、そうだな」

「これは私達、灰の群集に向けて売られた喧嘩かな!」

「そだね! 気を遣ってくれた弥生さんを怒らせたのも許せないよ!」

「……流石に直接的に喧嘩を売られたら黙ってられないよね」


 あの連中は基本的に青の群集に任せて、スパイをしてきたら撃退すれば良いくらいに軽く考えていた。だけど、中立地点となったこの雪山で灰のサファリ同盟に対して貶める行為をしてきた挙げ句に、仲裁をしようとしてくれた弥生さんにも盛大に迷惑をかけた。

 弥生さんのバーサーカー状態によって痛めつけられていたけども、それでは俺らの気が済まない。なんだか弥生さんの様子も変みたいだし……。ルストさんも言ってたけど、ゲームをゲームとして普通に楽しめなくする連中なんだよな、あいつら。


「わっ!? 弥生さん!? それにみんなも大丈夫ー!?」


 そうしていると背後からラックさんの声が聞こえてきて、シュウさんに寄り添われている弥生さんの元へとラックさんが駆け出していった。……弥生さん、掲示板では対人戦を解禁するっぽい流れだったけども、こういう形での大暴れについては本意ではないみたいだしな……。もしかしたらあの状態って相当なストレスになってるのかもしれない。

 赤の群集も、青の群集も、灰の群集も、ここに集まっているどこの所属の人も弥生さんの様子を心配そうに見ている。……これはやっぱり本格的にあいつらを許す訳にはいかない。


「ちっ、報告を受けて慌てて来てみれば……。おい、ケイ!」

「……ベスタ」

「……皆まで言わなくていい。事情は承知している」


 そうか、流石はベスタだね。……ベスタ自身もあまり良い気分ではない感じのようだ。まぁこの状況を見て平然としている人も少ないか。


「シュウは……無理か。ジェイ、斬雨、ルスト、ちょっと来い!」


 そうベスタは大声で呼びかける。集まっている人達はその声に反応し、すぐに呼ばれた3人もやってきた。……流石に今の状況で弥生さんとシュウさんを離す訳にはいかないから、ルストさんなのだろう。


「……ベスタさんですか。……これは協力するしかありませんね」

「あー、まぁ流石にそうなるわな。あいつら、やり過ぎだ」

「……売られた喧嘩は買いましょう。えぇ、対人戦が好きではないですが、そうも言ってはいられませんし!」

「既に分かっているならいい。ふざけた真似をしたあいつらには落とし前はつけさせてもらうぞ」


 そしてそのベスタの怒りの籠もった声に、静かにみんなが頷いていた。……青の群集の一部の人達が一枚岩になってジェイさん達に協力出来ないというのは、人としての相性もあるから仕方ない面もあるだろう。

 だけど、悪意を持って楽しんでいる人達の邪魔をしようというのなら、それ相応の対応をさせてもらおう。喧嘩を売ったのはあちらが先だ。やり返される覚悟くらいはあるはずだよな?

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