第493話 中立地点へ


 雪山で取るべきものは取り終えたので、今度こそ中立地点に行って見学だね。そこで少し落ち着いてから、バタバタしてて放ったらかしになっていた斬撃の特性を活かす為の応用スキルを取っていこう。他にも使えそうなスキルがないかも見ておきたいしね。

 あ、氷結草茶の効果が切れた。即座に死ぬわけでもないけど、ロブスターのHPが少しずつではあっても目に見える形で減っている。……群体数は現時点では特に減っていく様子はないか……? 


「あぅ!? リスはそれほどでもないけど、クラゲのHPが目に見えて減ってきたよー!?」

「うぉ、俺も木がちょっとやべぇ!?」

「……私はクマも竜もすぐに極端に弱りそうではないかな?」

「あはは、寒さが苦手なのが極端に分かれたね」

「ふっふっふ、哺乳類以外の海産系と植物系は寒さには基本的に弱めだからねー! 凍傷になるともっと勢い良く減っていくから要注意だよ! って事で、わたしはこれだー! 『纏属進化・纏氷』!」


 そう言いながらレナさんは纏氷を行っていく。……まだヨッシさんは氷結草茶は持ってたけど、遠慮して自前の進化の軌跡を使ったのか。固定メンバーじゃないという事でちょっと気を遣わせてしまったか……。


「レナさん、氷結草茶はまだあるよ……? それにレナさんだって材料は提供してくれてたんだから遠慮しなくても……」

「あ、ヨッシさん、これって別に遠慮したからじゃないからね!? これ、使い捨てじゃない方の輝石だから!」


 どことなく申し訳なさそうな雰囲気になったヨッシさんの様子を見て、レナさんが慌てたように事情を話していた。なるほど、レナさんって氷の進化の輝石を持っていたのか。もうすぐ11時だし、効果が1時間ある進化の輝石での纏属進化なら今日中はカバーしきれるから使っただけみたいだね。

 そういう事情なのであれば、使わない方が勿体無いのかもしれないね。……それにしてもレナさんが氷の進化の輝石を持ってるとは思わなかった。


「レナさんって、氷の進化の輝石を持ってたのか」

「あれ? アルさんには見せたことなかったっけ? ほら、夜中に海エリアでさ?」

「……いや、それは特に覚えはないが……」

「あれぇー? あ、そっか。あれはシアンさんとセリアさんだったっけ! ごめん、ごめん、クジラ違いだったよー!」

「……まぁそれは別に構わないが、なんで海エリアで氷属性なんだ……?」

「うん、河口付近で一般生物のウナギを見つけて、氷ジメにする為にねー!」

「おー!? 一般生物のウナギだー!? レナさん、食べたのー!?」

「それが残念ながらアイテムとしては獲得出来ずでさー! 生け捕りにしないと駄目で、その上アイテム化の確率低いっぽいんだよね、ウナギ。1匹は獲ったけど、うっかり落としてシアンさんが丸呑みにしちゃったしさー」

「へー、そうなんだー!?」


 ほうほう、ウナギはただ倒せば獲得出来るって訳じゃないのか。……ふむ、もしかすると上質な食材シリーズの獲得方法って生け捕りか? いや、これだけじゃまだ何とも言えないか。でもこういう生け捕り要素があるのなら、何かしらの仕組みはありそうである。って、そんな話をしてる間にどんどんHPが減ってますがな!?


「……ヨッシさん、悪いんだけど氷結草茶を貰えない? HPが地味に思いっきり減ってる」

「あー!? クラゲが凍傷になったー!?」

「……俺もやばい」

「あ、みんな、ごめん! 今、用意するね」


「あらま、変なタイミングで脱線させちゃってごめんね」

「……まぁそういうこともあるんじゃないかな?」


 なんか既に対策済みのレナさんと、俺やアルやハーレさんほど、HPの減りの速度が早くないサヤは気楽な風に会話をしていた。くっ、この状態は2人にとっては他人事か!? ……まぁ俺が同じ立場なら、同じような反応をしそうな気はするから何とも言えないけどね。



 とりあえず大慌てでヨッシさんが用意してくれた氷結草茶を飲んでいき、事なきを得た。ついでに蜜柑も食べておいてHPも回復である。ふー、氷結草の栽培は成功しているという話だし、ちょっとトレードして材料を増やしてヨッシさんに量産してもらっておくべきか。


「ヨッシさん、中立地点に行ったら氷結草をいくらかトレードしてこない?」

「それもそうだね。報酬でもらってるのも結構あるけど、無尽蔵にある訳じゃないし、そうしよっか」

「あ、ケイさん、ヨッシさん。それはまだ無理だと思うよー?」

「え、そうなのか?」

「うん、現状ではね。栽培には成功したけど、数はまだそんなに増やせてないんだよー。まぁそのうち時間で解消するとは思うけどね」

「あー、そっか。まだそんなに時間が経ってないもんな」


 俺達が氷結草の群生地を見つけたのが3日前で、その後から始めたんだからそんなに大量生産するのは流石に無茶か。むしろその数日で栽培が出来る状況まで持っていったのが凄いのかもしれないね。


「ぎゃー!?」


 そんな事を考えていると男の人の叫び声が聞こえてきた。……ここで叫び声が聞こえるというのはなんか妙な感じだな。一体何事だ?


「およ? 叫び声……?」

「場所は……中立地点の方か? みんな、どうするよ?」

「アル、ここは見に行くしかないだろ?」

「ケイさんの言う通りさー! 気になるから行ってみよー!」

「私もそれが良いと思うかな」

「私も賛成。何となくあんまり良い内容ではない気もするしね」

「よーし、それじゃアルさんに乗って急いで移動するよ!」

「「「「「おー!」」」」」


 突如として響き渡った叫び声をきっかけに、大急ぎでアルに乗って移動を開始していく。……中立地点で叫び声が聞こえてくる可能性としては、普通に敵に遭遇して取り乱して逃げているか、もしくは群集同士の諍いの可能性である。……なんか嫌な予感がしてきたぞ。



 そうして大慌てで灰のサファリ同盟が陣取っている氷結洞の入り口の前へと辿り着いた。……あ、なるほど、一目見ただけで大体の状況は察しがついた。嫌な予感が的中か……。


「や、止めてくれ! 俺らが悪かったから!」

「あははははははははは!」

「ぎゃー!」

「おい、関係ない奴は赤のサファリ同盟の本拠地まで逃げろ! ついでにシュウさんを呼んでこい!」

「おう!」

「逃げろー!」

「早くシュウさんを呼んでこなきゃ!」


 うん、青の群集の何人かが怯えながら大型化した黒いネコの弥生さんから逃げ惑っている。あ、ちょうど今、1人仕留められたね。灰の群集の人達は上手く刺激しないようにしつつ、氷結洞の中へと駆けていく人と、多数あるかまくらの影に隠れている人がいるみたいだね。


「……短期間に何度も弥生がまた暴れてるって、ちょっとまずいんじゃ……? それで、弥生を怒らせたのはあの連中か……」

「レナさん、あの青の群集の人達の事は知ってるのか?」

「うん、まぁね。あの連中だよ、青の群集で今色々と面倒事を起こしてるのって」

「そうなんだ!?」

「……弥生さんがあの状態になってるって事は、何をやったのかな?」

「……あんまり想像はしたくないね」

「……確かにな」

「あー、とんでもない事になってるね、もう……。あの連中にはわたしも警告はしたんだけど、無視して好き勝手するならあっちはどうでもいいや。シュウさん、近くにいるよね……? いないとまずいんだけど……」

「レナさんがそういう言い方をするのって初めて見た気がするぞ……?」


 普段のレナさんならもっと明るい感じなのに、どこか苛立ちの混じった不機嫌そうな雰囲気になっている。……正直に言えば、若干怖い雰囲気だ。いや、苛立ちもあるけど、焦ってる感じでもある……?


「……ケイさん、わたしは聖人君子でも何でもないからね。楽しくやるのが信条だけど、それをわざわざぶっ壊す人を許す気はないよ?」

「あー、まぁそれには同意」


 確かに青の群集での騒動は聞いてはいるし、俺らもスパイという形で遭遇してはいる。……レナさん自身が楽しくやれるように警告をした上で、それを無視した相手を庇う必要性は欠片もないか。というか、あの連中は具体的に何をやって弥生さんを怒らせたんだろうか?


「ちっ、騒ぎを聞いてきたが遅かったか」

「……そのようですね。おや、アルマースさんではありませんか。それに皆さんもお揃いですか」

「あ、ジェイさんと斬雨さんか。……なんかピリピリしてるけど、ここで何があったんだ?」


 ジェイさんは以前見た岩の操作で斬雨さんを突き刺した岩で浮かぶのではなく、細長い岩に斬雨さんが鞘に収められたような状態でタチウオの顔が出ており、その上部にジェイさんのカニが脚を埋め込んで固定したような状態で飛んでいた。

 どうやらジェイさんと斬雨さんの2人で移動しやすくなるように試行錯誤を繰り返した結果のようである。俺自身が岩の操作を使ってみて思ったけども、やっぱり汎用性が高いな。……この状態からなら、上空から斬雨さんの投下も可能なんじゃないか?


「いえ、ちょっとトラブルが発生したと聞いて慌てて来たんですが……既に遅かったようですね」

「ちっ、あのバカ共、灰のサファリ同盟に喧嘩を売ったとか聞いたが、予想以上の大惨事になってんじゃねぇか」

「……灰のサファリ同盟に喧嘩を売った?」


 ジェイさんも斬雨さんもこの状況に慌てて駆けつけてきた様子みたいだけど、どうやら今弥生さんに虐殺されているのは、例の青の群集の問題連中が灰のサファリ同盟に喧嘩を売ったのが原因っぽい? ……何がどうしてそうなった!?


「ひっ!? 難癖をつけて暴言を吐いたのは謝る! だからーー」

「ギャーギャーうるさいのはこの口かな? あはははははは!」

「ひっ!? うわぁぁぁぁぁ!」


 俺らが来た時点で4人ほどいた青の群集の人は次々と銀光を放つ弥生さんの連撃によって仕留められていく。そして最後の1人になったカバの人の口に大型化した弥生さんの銀光を放つ爪が今まさに突き刺さろうとしていた。


「弥生!」

「……え? あ、シュウさん? ……え、また……やっちゃっ……た……?」

「大丈夫だよ、弥生。ルスト、ここは少しお願いしてもいいかい?」

「……あまり気は進みませんが、分かりました」

「……ははっ……助かった……のか?」

「そんな訳ないでしょう!」

「ひっ!?」


 そこに慌ててやってきたようなシュウさんの1言であっさりと正気に戻っていく弥生さんと、何やら激高しながら大暴れを開始したルストさんであった。……うん、シュウさんの存在ってもの凄く重要なんだな。

 っていうか、弥生さんはまた落ち込んでるね。やっぱりあの状態は弥生さん自身としては不本意な状態なんだろう。……いや、なんか様子が変だぞ……。シュウさんが寄り添っていてよく分からないけど、弥生さんが動く気配がない……?


「シュウさん、近くにいて良かった! あ、みんなごめん! わたし、ちょっと弥生のとこに行ってくるね」

「ほいよ」


 それだけ言ってレナさんはアルのクジラの背から飛び降りて弥生さんの元へと駆けていく。旦那であるシュウさんがいるから大丈夫だとは思うけど、今の弥生さんの状態はあまり良さそうには思えないな。

 そういやレナさんは弥生さんの事は呼び捨てだけど、結構親しかったりするんだろうか? ……考えても分からないし、無理に詮索するのもマナー違反だからやめとこ。というかそれどころじゃなさそうだし……。


「なんで! 大人しく! 普通に! ゲームをゲームとして! 楽しめないんですか! 弥生さんが! 好んであの状態に! なっているとでも!」

「ひっ!? わ、悪かった……! だ、だから……もう、止め!?」

「謝れば済むってもんじゃないんですよ!」

「ぐはっ!」


 あ、ルストさんが騒動の原因だったっぽいカバの人を仕留めたみたいである。ルストさん、思いっきり機嫌が悪そうに根で滅多刺しにしてたな……。うん、まぁ言葉を聞いている限りではその気持ちは分かるけど。

 さてと予定外の事態になったけど、どうしたもんかな? とりあえずジェイさんと斬雨さんに詳しい状況でも聞いてみるか。


「片付いたっぽいな。ジェイ、どうする?」

「……流石に弥生さんに申し訳ないので、感謝と謝罪をしに行きますね。ケイさん達とは少し話をしておきたかったですが、今回はすみません。状況が状況なので……」

「悪いな、ケイさん達。今回の件は、俺らの青の群集の問題に赤のサファリ同盟を巻き込んだ形になっちまったからな」

「あー、そういう事なら仕方ないって。弥生さんが思いっきり凹んでるみたいだから、フォローをしに行ってあげてくれ」

「えぇ、もちろんです。……弥生さんの様子が変ですね?」

「……マジだな。ケイさん達、慌ただしくて悪いな」

「……いや、状況が状況だから仕方ないって」


 詳しい事情を聞きたかったところだけど、流石にそれどころではないようでジェイさんも斬雨さんも行ってしまった。シュウさんとレナさんがフォローに回ってるみたいだけど、どうも弥生さんの様子がおかしいみたいだし、この状況はどうしたものだろう……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る