第491話 かつての再来
ヨッシさんはスキル強化の種で氷の操作はLv6になっている。この状態で大量の氷……というか雪ではあるけど、それを操作すれば昇華になるはず。
「ヨッシさん、どう?」
「バッチリだよ。これで氷の昇華は手に入ったね」
「よし! おめでとな、ヨッシさん!」
「目的通りだな。ヨッシさん、良かったな」
「うん。ケイさん、アルさん、ありがと」
本日の目的である俺の砂の操作Lv3と、アルの水流の操作Lv3と、ヨッシさんの氷の昇華の取得はこれでクリアだな。サヤとハーレさんはチャージの応用スキルをLv2にしてからって話だったね。あ、でもサヤは凝縮破壊Ⅰを、ハーレさんは連鎖増強Ⅰも狙ってたよな。うん、まだまだ強化の余地があるね。
あ、そういえば折角斬撃の特性を追加したのにまだスキルを取得していなかったっけ。……よし、滑り終わって中立地点に行ったら斬撃の応用スキルを取得しようっと。
「さーて、ケイさんの迎撃の準備開始ー! 『魔力集中』『重脚撃』!」
「レナさん、それは流石にやり過ぎじゃないかな!?」
「大丈夫、大丈夫! 相手はケイさんだしねー!」
「そだねー! 『魔力集中』『爆散投擲』!」
「え、ハーレもなのかな!?」
「ふっふっふ、レナさんが蹴り上げた後を狙うのです!」
「サヤさん、わたしをケイさんが来る場所に投げてもらってもいいー?」
「……この2人を止められる気はしないかな。うん、分かったよ、レナさん」
あのー、PT会話から思いっきり物騒な計画が練られているのが聞こえてくるのは気のせいですかね? 少し下った所にいるリスの2人から、徐々に強くなっていく銀光が見えているのも気のせいかな? そしてサヤの諦めたような声が聞こえたのも気のせいだよね!?
「ケイ、諦めろ。普段の状況からしたら、判断自体はそれほど間違っちゃいない」
「まぁ、そうなるよね?」
「これ、俺の自業自得なの!?」
いくらなんでもダメージがないとはいえ、ここまでしなくても良いと思うんだけどなー。ふむ、当てられたくなければ、自力で止めて回避してしまえば良いだけか。ふふふ、その方向でいってみようか。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 68/69(上限値使用:1): 魔力値 197/200
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 49/69(上限値使用:1)
まずは目の前に少し小さめの石を生成し、それを岩の操作で支配下におく。今まではこの大きさの小石は支配下におけなかったけど、追加生成が可能になった事でその辺の制限は緩和されたっぽいね。
そして岩を追加生成してロブスターの頭とハサミは出すようにして、それ以外の部分をラグビーボールみたいな形に覆っていく。ふむふむ、自分自身を固める形になるから身動きは取りにくいけど、移動自体は岩の操作で出来るから問題なし。……滑っていかないようにちょっと浮かせておこう。
それにしても自分でやっておいてなんだけど、これは普通のソリではない気がする。でもどこかで見た事はあるような感じのものにはなってる気がするんだけど、なんだっけな? 名前が出てこない……。
「……ケイ、これだとソリって言うよりボブスレーじゃないか?」
「あっ、それだ! ふー、思い出してスッキリした」
「……意図して作ったわけじゃないのかよ」
「まぁな!」
「あはは、まぁケイさんらしいんじゃない?」
「ま、そういう事にしといてくれ。それじゃヨッシさん、アル、準備はいいか?」
「私はいつでも良いよ。でも上手く滑らせれるかは分からないけどね」
「……速度が出過ぎそうな気もするな。よし、それなら……『自己強化』『高速遊泳』!」
「お、アルも速度重視か。んじゃやりますか!」
「おう!」
「了解!」
そうしてヨッシさんの操作する雪の上に、ボブスレーっぽいソリを乗せて……うん、突撃モードとでも呼ぼうかな、これ。突撃モードでヨッシさんが氷の操作で操る雪の上を滑り始めていく。
その隣にはアルが泳いで並走していた。アルのクジラの背中の上から、ヨッシさんが人工的な雪崩っぽいものを作ってくれているので徐々に速度が増していく。これが応用スキルの氷雪の操作なら、もっと勢いよく大規模に出来るんだろうな。
「って、ちょっと待ったー!? これ、勢いつき過ぎー!?」
「……やっぱりそうなったか」
「……ボブスレーって速度を競う競技だったよね、確か。あ、私の操作範囲から出ちゃった……」
思った以上に急激な加速になった事で、制御がままならない。あ、バランス崩してグルグルと回転し始めたー!? やばい、これは完全に失敗した! ゲーム仕様として酔うことはないけど、自分がどっちを向いているのかが分からない……。
くっ、一度浮かび上がってから体勢の立て直しを……って上はどっちだー!? えぇい、こっちだ! ぎゃー!? 真下だったっぽくて、少し埋もれたー!?
「サヤ! ハーレさん! レナさん! ヘルプー!」
「あらま、大惨事だね。ハーレさん、手前の雪をぶっ飛ばしてくれる? サヤさん、わたしをケイさんに向けて投げて」
「了解です! いっくよー!」
声は聞こえているけど、姿をまともに見れる状態ではなかった。だけど、俺の突き進む方向から何かが爆発していき、少し勢いが落ちていく。これは、聞こえていた内容的にハーレさんの爆散投擲か。おっと、ほんの少し浮遊感があるって事は爆発の勢いで少し浮いた?
「……あはは、過剰過ぎると思った準備が役立ちそうかな……。レナさん、いくよ。『魔力集中』『強投擲』!」
「ナイスだよ、サヤさん! これでどうだー! あ、少しズレちゃった」
そしてそこに強烈な衝撃が加わってきた。あー、これ一方向に思いっきり吹っ飛んでるっぽいから、レナさんに蹴り上げられたな。……少し打点がズレたみたいで、回転数が上がってますけどね!? そして、ソリの先端の岩が砕け散ったけどね!?
「わっ!? 盛大に空中で回転してるけど、どうしよう!?」
「……ハーレ、連続で投擲して回転の勢いは削げないかな?」
「あ、そうだね! やってみるよー! 『連投擲』!」
「お、お、おっ? あー、狙いは良いけど少し威力が足りない感じかな?」
「はっ!? ここでこれを取得したのは今ここで使えという事!」
とりあえず今自分が空中で回転中なのは分かった。そしてその後に連続して何かがカンカンと音を立てて、回転の勢いを少しだけ落としてくれたのも分かった。……ん? 何か違うものにぶつかったような感じもするけど、何だろ?
まぁそれはいいか。とりあえず現状の立て直しが最優先だし、自力で岩の操作の全力で勢いを止める! ……てか、ハーレさんはこのタイミングで何を取得した……?
「新スキルのお試しさー! 『連速投擲』!」
「あ、ハーレ! 連鎖増強Ⅰが取れたのかな!?」
「えっへん!」
次々と投げつけられる銀光を放つ腕から投げられた弾が、回転の勢いをどんどん削いでいく。……このタイミングで、連速投擲と連鎖増強Ⅰが取得になったのか。それは良いんだけど、3撃目でほぼ回転の勢いは止まってるんだけど、まだ来るの!?
「ちょ、ハーレさん! もう大丈夫だからストップ!?」
「折角だから最後まで投げるのさー!」
「ちょ、マジか!?」
まだ体勢を完全に立て直せる状況でもない。くっ、あれを受け続ければ岩が全て破壊されて落下は免れない。ハーレさんは楽しそうに新スキルの実験をしてるようだし、こうなったら岩の追加生成で防御だ!
よし、ハーレさんが投げてきている方向に防御を展開して防いでいる内に体勢を立て直して……あ、やば。連続して魔力集中の攻撃を受けたから生成した魔法産の岩が完全に破壊されたー!?
くっ、頭部にも投擲が当たったみたいで朦朧の状態異常になってしまった。着地の為のスキルを発動したいのに、上手く発動が出来ない……。
今回は俺の完全な見込み違いによる盛大なミスで、ハーレさんはその対処をしてくれているんだけど、流石にやり過ぎじゃない……? いや、俺も人の事は言えないか。……まぁ、死ぬわけでもないし、ここは大人しく雪の上に落下するか……。って、あれ?
「……まったくハーレも無茶をするかな」
「……サヤ?」
「ケイも無茶し過ぎ。大丈夫かな?」
「……あー、うん。とりあえずは大丈夫そうだよ」
「そっか、それなら良かったよ」
「……サヤ、サンキュ」
「どういたしましてかな」
どうやら落下の寸前にサヤが竜に乗って受け止めに来てくれていたようである。……うん、少し情けないと思う半面、少し嬉しかったかもしれない。
「おーい、ケイ! 凄い事になってたが、大丈夫か!」
「ケイさん、大丈夫?」
「あー、何とか大丈夫」
後から遅れて……というよりは俺が早くなり過ぎてただけだけど、追いかけて下ってきたアルとヨッシさんも心配してくれていた。……うん、流石に今回は色々と無茶をやり過ぎたね。発想としては悪くはないけども、改良の余地がありまくりだな。
「あっはっは! あー、楽しかった!」
「私は連速投擲と連鎖増強Ⅰをゲットです!」
「……あー、良かったな」
「あー!? せっかく止めたのに、扱いが雑なんだー!?」
「……途中で連速投擲を止めるか外してくれれば、素直に感謝出来たんだけどな……」
あれは完全に過剰攻撃だったし、ちょっと素直に感謝しきれなくても仕方ないよね……。いやまぁ助かったには助かったんだけど、心境としては複雑である。とはいえ、俺が言い出してやった事が原因なんだから、流石にこの扱いは無いか。
「……ハーレさんもレナさんもありがとな」
「ふっふっふ、あの程度は任せておきなさいー! ……ちょっとミスったけど」
「そうともさー! でも、今回は失敗してたけど攻撃には使えそうだよねー!?」
「それは私も思ったかな」
「……ところでさ、そこで巻き込まれたっぽい敵はどうするの?」
「あ、そういや何かが当たってたような気もするね」
ヨッシさんにそう言われて気付いたので、その方向を見てみればピクピク弱々しく動いている白い長ネギがいた。……うん、雪山にいるにはどう考えてもおかしい種族だけどそこ気にしても仕方ない。今更な事だしね。
ちゃんと黒いカーソルにはなってるし、プレイヤーと勘違いしているって事はなさそうだ。うん、プレイヤー巻き込んだ訳ではなかったようで何よりだよ。
「……これ、長ネギか?」
「見たまま、そうなんだろうな。真っ白だけど」
「ちょっと当たっただけにしては瀕死過ぎる気もするかな?」
「この長ネギって、もしかしてLv20の成長体じゃない!?」
「あ、それはありそうだね」
「およ!? という事は、フィールドボスの素材になる個体だよねー!? わたし、昨日の夜は居なかったからまだ見てないんだよねー!」
「あー、そういやそうだっけ」
確かレナさんは用事があって昨日夜はログインしてなかったんだよな。そういう事ならフィールドボスを誕生させたいとこではあるけど、もう1体成長体を探す必要があるし、瘴気石もないんだよな。それに場所が悪いという事もある。
「確か赤の群集と青の群集にはまだ内緒だったよねー!?」
「あ、うん。一応はまだ秘密にはなってるね」
「そっかー。そりゃそうだよねー」
ちょっと残念そうな声音のレナさんだけど、そもそもフィールドボスにする為の材料がない……あ、レナさんが持ってるって言ってた気もする。でももう1体必要だしな。
ふむ、突発的に発見する事があるなら今度から1体分は生み出せるだけの瘴気石は確保しておいたほうがいいか。幸いな事に灰のサファリ同盟の護衛報酬でもらえるって事になってたし、その手段で手に入れていくのがいいのかもね。
「うん、仕方ない! この長ネギはこの近くに閉じ込めておこう!」
「え、どうやるんだ? 魔法じゃそんなに長時間保たないよな?」
「ふっふっふ。ここは雪山で、氷の操作を使えるヨッシさんがいるんだよ!?」
「え、私?」
「そうだよー! っと、その前に識別、識別! 無意味な個体じゃ意味ないからねー! 『識別』! うん、問題なくLv20の瘴気強化種の成長体だね」
「それなら個体としては問題はないか」
レナさんがどうやって長ネギを閉じ込めるつもりかは分からないけども、確かにフィールドボスの進化に使える個体じゃなきゃ意味ないから、識別は大事である。それにしても雪山と氷の操作で閉じ込めるって、どうやるんだ?
「あ、分かったかな! レナさん、かまくらを作るんだね?」
「サヤさん、大当たりー!」
「え、かまくら? 成長体を閉じ込められるほどの強度ってあるの?」
「さぁ、知らない? ま、駄目だったら駄目だったで良いから、ちょっと手伝ってくれない? みんながログアウトした後にもう1体探してから、わたしが個人的に他のエリアに持っていってフィールドボスの誕生をしてみるからさー」
「それは別に良いけど、時間は大丈夫かな?」
「えーと、今は何時だ……?」
時計を見てみれば10時半ってところである。まぁこのくらいの時間ならなんとか……。流石にこれから他のエリアに探しに行ってというのも、まぁ出来なくもないか。なら中立地点まで行って時間が余れば探しに行くみたいな感じで良いかもしれないね。
流石に赤の群集や青の群集のいる場所にヒントとなるLv20の成長体は持ち込めないから、ここで閉じ込めておけばいいか。でもかまくらってそんな短時間で作れるものなのか?
「時間自体はまだ大丈夫だけど、かまくらってそんなに簡単に作れるのか?」
「普通に作ったら短時間じゃ無理だねー」
「うん、結構厳しいと思うかな」
「でもここはゲームだからねー。氷の昇華になってる氷の操作なら、さくっと作れるよ?」
「え、マジで?」
「え、そうなのかな!?」
「へぇ、そうなってんのか」
「かまくらって入った事ないよー!?」
「……レナさん、その情報はどこから出てきたの?」
「あはは、確かに気になるところだよねー」
そういう情報が既にあるという事は誰かが既に試した事があるという事だ。あ、もしかしてここに来る途中にあった沢山の雪の塊ってもしかして!?
「氷結洞の入り口前にあった雪の塊ってもしかしてかまくら……?」
「そうそう! ケイさん大当たりー!」
「……やっぱりか」
そういう事であれば、作り方が定着しているのは納得である。そっか、あの雪の塊はかまくらだったんだな。……あのかまくらを何に使っているのかが、少し気になるところだね。無意味に作っているとも……いや、無意味な可能性も否定は出来ない気もする……。
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