第490話 雪山で思いついた事


 ニーヴェア雪山の麓までやってきて、氷結草茶のおかげで雪山の冷気にも耐えられている。纏氷の効果よりは劣ると言う話だけど、このお茶の効果は素晴らしいね。

 まだ確認はしてないからはっきりとは言えないが、環境への適応効果はあるけども氷属性のダメージ軽減には役立たないとかそんな感じかな……? まぁ雪山に行くのに必ず氷属性が必要になるよりは使い勝手は良いからありがたいけどね。


「そういやさっきは脱線したけど、ニーヴェアってどんな意味? ……ついでに今更だけどハイルングも」

「ほんとに今更だな!?」

「ハイルングはドイツ語で癒やしだねー! ニーヴェアはイタリア語で白!」

「へぇ、レナさん詳しいんだ?」

「ふっふっふ、別に詳しくはないのさー! 気になってネットで調べただけだからね!」

「……あ、そうなんだ」


 うん、博識かと思って少し芽生えた尊敬の念はすぐに消え去っていったね。……まぁ元ネタがあるのであれば、ネットで調べたらすぐ出てくるか。


「ハイルングとかニーヴェアって、そんな意味だったんだー!?」

「地名には色んな言語が混在してるんだね」

「……これって共闘イベントの終了演出にあった、地球の情報が関係してたりするのかな?」

「あ、それはあるかもねー!?」

「……ネス湖とかも選択肢にあるから、運営の遊び心も混じってる気はするけど」

「あー、まぁ確かにそこはケイの意見に同意だな」


 他のみんなも同意するように頷いている。多分世界観としての要素はあるんだろうけど、ネタ好きな運営の人がいるのは間違いないだろう。まぁエリアの命名については多数決なんだから、最終的にはプレイヤー次第って事になるんだろうけどね。


 さてと、いつまでも雪山の麓にいても仕方ない。この周辺は中立地点になったこともあって、それなりに出入りしている人がいるもんな。人の出入りが結構あるからか、踏み固められて道みたいになっているしね。浮いてる人も多いけど……っていうか、それは俺らもか。

 その道はこの前俺たちが氷柱を採集した氷結洞の入り口の方へと向かっている。なるほど、あの辺が中立地点になってるって訳か。まぁ、そこは後で行くとして……。


「アル、サッと水流の操作でちょっと上の方まで行こう」

「あー、この近くだとちょっと目立ち過ぎるか。よし、任せとけ!」

「それで、ヨッシさんは氷の昇華の取得だな」

「それが早そうではあるね。うん、そうしようか」

「さー、そうと決まれば出発だー!」

「元気いっぱいだね、ハーレ」

「今日こそはこの雪山を滑り降りるのです!」

「あ、いいね、それ! わたしもやろうかなー?」

「……あはは、私は遠慮しておくね?」

「私はちょっとやってみようかな?」


 動物の革……あれは前によく使ってたシカの革か。それを両手で大事そうに抱えているハーレさんの姿があった。あー、あれをソリの代わりにして雪山を滑り降りて遊ぶ気か。まぁ、本格的に頂上まで登るつもりもないし、ヨッシさんの氷の昇華はここから少し離れた程度の場所であれば充分なはず。

 その場所から、後で行く洞窟に向けて滑り降りて来るくらいなら問題もないだろう。というか、それに関しては俺もちょっとやってみたい。革じゃなくて岩の操作で岩の板を作ってみるけどさ。……あ、ちょっと試してみたいことを思いついた。


「よし、ハーレさんのその滑り降りる案に乗った!」

「おー!? ケイさんも乗ってきたー!?」

「……ケイ、今度は何を企んでる?」

「え、あれ? これは考えてる事は読まれない?」

「何かを企んでいるのまでは分かるけど、ケイのこういう時の思いつきの時は流石に内容は読みにくいかな……?」

「へぇ、そうなんだ」


 うーん、みんなにバレバレな時と全然通じない時の2パターンがあるって事か? この感じだと俺が思い付きで実験をする時の具体的な内容については予想が出来ていないって感じか。

 でもそういう時でも、戦闘中なら全面的に信用してくれるし、状況によって合わせてもくれるのでありがたい話だね。……普段はからかわれてる事も多いけども……。


「ま、いいや。思いついた事は後で実際に見せるとして、とりあえず出発で!」

「あー、確かに時間も勿体無いからその方が良いか。それじゃ出発するぞ!」

「「「「おー!」」」」

「水のカーペットは……残り時間が微妙か。よし、水のカーペットは解除して速度は控えめに行くぞ。『高速遊泳』『共生指示:登録1』『共生指示:登録2』! おっ?」

「ん? どうした、アル?」

「あー、いや水流の操作がLv3になっただけだ」

「お、アル、やったな!」


 これでアルの水流の操作については実用段階へと突入である。まぁ上がった際のスキル発動は上がる前のLvで発動するから、安定した水流になるのは次に使う時からになるけど、それは仕様の問題だから仕方ないか。

 そして空中にある水流に乗って、少し雪山の上の方へと移動開始である。うん、やっぱり蛇行はするけども、これも今回で最後だろうね。


「アルさん、おめでとー!」

「およ? 共生指示で呼び出しても熟練度って溜まるんだね?」

「あ、そっか。レナさんは単独進化だもんね。熟練度は数字が出ないから分かりにくいけど、共生指示からなら熟練度は溜まるみたいかな」

「ほうほう、なるほどねー。今は使う予定はないけど、良い情報ありがとー!」

「いえいえ、どういたしましてかな」


 ……俺は共生進化の時期は短かったから、その辺の仕様は知らなかった気が……。もしくは今の今まで忘れていたかもしれない。……直接自分に関わらない仕様って忘れてたり、知らなかったりしても仕方ないよね!? うん、そういう事にしておこう。


「……ん? クジラに何か進化先が出たぞ」

「……へ? 木の水流の操作が上がって、何でクジラの進化先が……って、もしかしてあれかー!?」


 木の操作系スキルのLvが上がった事で、クジラに解禁される進化といえば心当たりは思いっきりある。進化階位が違うんだから同じ条件なはずはないけども、おそらくアルのクジラに出た進化先はこれだろう。……でもそれだと俺に出ないのはなんでだ? 既に支配進化から派生した同調になってるから……? まぁ、これもそのうち分かるか。


「アル、強制進化が出たな?」

「おう、当たりだ。これってあれだよな? 支配進化で支配される側の進化だよな」

「それで間違いない。って事は、木の方で成熟体での支配進化の条件を満たしたんだな」

「ま、そういう事になるんだろうな」

「はい! どんな条件になったのかが気になります!」

「それは私も気になるかな?」

「私も同じく。アルさんは次の進化で支配進化狙いだったよね?」

「およ? アルマースさんって支配進化の選択肢ってあったんだねー? そっか、そっか、確かにクジラと木だと選びにくかっただろうねー!」

「まぁな。未成体の時だと大きさや浮かべる高さの問題で見送ったからな」

「まぁ、そうなるよねー!」


 アルは色々と不都合があると判断して未成体での支配進化は見送りにしたんだもんな。不都合さえ無ければ今日だけでも何回かキャラを切り替えている訳だし、支配進化の方が向いてるのは確実なんだけどね。


「それで、アル。木の方の進化条件ってどうなってんの?」

「あー、確認したいとこだが木に切り替えないと分からないな」

「……そういや共生進化はそんな仕様だったっけ」

「ま、ヨッシさんの氷の昇華の取得が終わってから確認するさ」

「あー、それもそうだな」


 既に水流の操作で雪山を登っている最中だもんな。ここで無理に中断して確認しなければならない程、切羽詰まっている状態でもないからね。やる事を済ませてからで充分である。


 そんな風に話している内に、少し雪山を登ったところまで辿り着いた。……それは良いんだけど、途中で上から見た時に氷結洞の入り口付近に雪の大きな塊みたいなのが複数見えたんだけど、あれは一体何だったんだろうか?

 ……まぁそれも後で行くんだし、その時に確認すればいいか。まずは何事も順番にである! いい加減、今日は色々と脱線し過ぎだしね。


「アルさん、この辺りでいいよ」

「ほいよ。それじゃ水流の操作は解除して、浮いとくか」

「うん、ありがと。それじゃ氷の昇華の取得を始めるね」

「ヨッシ、頑張ってかな!」

「ヨッシ、頑張れー!」

「……あはは、雪を操作するだけなんだし応援は必要ないと思うんだけどね」

「ヨッシさん、そういう時は素直に受け取っておくもんだよー!」

「……レナさん。うん、それもそうだね。サヤ、ハーレ、応援ありがとね」

「どういたしましてかな!」

「えっへん!」


 なんでハーレさんが胸を張って自慢げなのかがよく分からないけど、まぁそこは気にしない方向で。


「あ、ヨッシさん。ちょっとさっき思いついた事を試したいから、操作した後そのまま待機にしてもらえない?」

「……それは良いけど、ケイさん何するの?」

「岩の操作でソリを作って、雪崩に乗って突撃」

「……よし、サヤ、ハーレさん、レナさん。先に滑り降りて止める準備をしといてくれ」

「アル!?」


 止められる可能性は少しは考えていたけど、まさかの迎撃準備!? いやいや、岩の操作も併用するから、そのまま突っ込むような事はないぞ!? 雪崩とは言ったけど、あくまでヨッシさんに制御してもらったままでやるつもりだしさ! あ、ヨッシさんにこれは言ってないや。


「あはは、面白そうだねー! うん、迎撃役は請け負ったよー!」

「了解です!」

「……危なそうなら容赦はいらないかな?」

「あぁ、赤の群集と青の群集の人が巻き込まれないようにだけは注意してくれ」

「はーい!」

「レナさん、頑張ろうね」

「そだねー! 被害が出ないように頑張ろー!」

「……あの、みんなして被害が出るのを前提にしてない?」

「「「「もちろん、してる!」」」」

「……見事な異口同音だなぁ」


 これから試す事にはヨッシさん以外には思いっきり被害が出るのを前提にされてるね……。まぁこれまでにも心当たりがない訳でもないから、反論がし辛いとこではある。でも、被害が出ない方法だって考えてない訳じゃないんだよ!


「ヨッシさん、アル、俺と並走してもらうのは可能? ヨッシさんには氷の操作を継続してもらって欲しいし、アルにはヨッシさんを乗せて最終的に水流で受け止めて欲しいんだけど……。一応自力で止める予定ではあるけどさ」

「なんだ、元々止まる手段も考えてたのか。それを先に言ってくれよな」

「言う前に対策を始めたのはアルだよな!?」

「ケイさん、それは良いんだけどどれだけの速度になるか分からないから、やっぱりサヤ達に迎撃の用意をしてもらってた方が良いんじゃない?」

「ぐっ!? 確かにそれはそうかも……」


 ここはなんだか癪ではあるけども、大人しくみんなに止めるのは任せようかな……。思いついたからには試してみたいというのもあるし、実行する事自体は止められていないしね。よし、それじゃその方向でやってみよう。


「……それじゃ、その方向性でお願いします」

「って事だ。サヤ、ハーレさん、レナさん、任せたぞ」

「了解です! はい、サヤ、レナさん、これどうぞ!」

「あ、ハーレさん、ありがとー!」

「私は革はいらないかな?」


 レナさんはハーレさんからシカの革を受け取って、雪山を滑っていく準備をしていた。それとは対照的にサヤは革を受け取ってはいなかった。

 あ、なんとなく今までのサヤの行動パターンからどうする気か読めたぞ。これは竜に乗ってスノボみたいに滑り降りていくと見た!


「え、それじゃサヤはどうするの!?」

「それは、こうするかな!」

「おー!? 竜に乗ったー!?」

「あ、やっぱりか」

「ハーレさん、サヤさんに続くよー! いやっほー!」

「あー!? サヤもレナさんも待ってー!?」


 予想通りに竜をスノボみたいにしてサヤは雪山を滑り降りていき、それを追いかけるようにレナさんとハーレさんが鹿の革に乗って勢いよく滑り降りていった。

 ほうほう、サヤは見事なバランス感覚で滑り降りていくし、レナさんもハーレさんも危なげなく滑り降りて……あ、ハーレさんが盛大に転倒した。でもすぐにサヤが竜で飛んで助けに行ったので事なきを得たか。


「おーい、ハーレさん! 大丈夫かー?」

「盛大に転んだけど、ダメージないから大丈夫さー!」

「あはは、これ、怪我の心配がいらないから楽しいねー!」


 どうやら特に問題も無かったようである。てか、普通に楽しそうだね。まぁ雪山で遊びたがっていたし、これくらいは別に良いか。


「この辺まで降りてれば大丈夫かな?」

「そだね。それじゃ始めよっか」

「ヨッシさんは俺に乗ったままで良いんだよな?」

「うん、そっちの方が操作に集中出来るしね」

「よし、それなら良いか。ケイは一旦降りるんだよな?」

「おう、そのつもりだぞ」


 岩で作るソリも用意しないといけないしね。この手段についてはまだスキルの取得が出来てないけど、応用方法も考えてるんだよな。場合によってはアルの水流の操作と組み合わせてもいいしね。


「それじゃ始めるよ。『氷の操作』!」


 そうしてヨッシさんが雪山に積もった雪を支配下に置いていく。さてと、ここから実験開始だね。……まぁ予定とは違った思いつきの実験だけど、上手く行けば応用範囲は広いはず! とにかくやるだけやってみようじゃないか。

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