第489話 お茶の使い方


 情報収集というよりは探索方針の決定って感じにはなったけども、それはそれで重要ではある。他の重要だと判断出来る材料としては、メンテ明けから発見されたハーブが存在している事もか。ハーブ以外にも今まで採集が不可能なものが新たに存在しているかもしれないしね。


「ケイ、ハーレさん、もうすぐ着くぞ」

「あ、もう到着か」

「はーい! 早かったねー!」


 ハイルング高原の上空を飛ばしたアルの水流に乗って、情報共有板を見ている間に雪山の手前に到着したようである。うん、時間配分はピッタリだね。……まぁただの偶然だけども。

 まだ雪山に突入する為の纏氷の用意が出来ていないので、アルがその場で水流の操作を解除して水のカーペットと空中浮遊だけに戻していく。自己強化と高速遊泳については既に時間切れにはなってたようだね。


「情報収集の成果はあったかな?」

「んー、明確に探すものは断定は出来なかったけど、捜索に向けての行動方針は決まったぞ」

「あ、そうなんだ? どんな方針になったのかな?」

「えっとね、基本的に自分達の適正Lvの場所を探せって! でも、基本的にいつも通りの自由行動だからそれが絶対でもないってさー!」

「ま、何を探すか分かってない段階では妥当な内容か」

「ふーん、そういう内容になったんだ。ふっふっふ、そういう事なら色んな場所に行ってきたわたしの出番だね!」

「あー、レナさん? 今日は時間もそんなにないし、そこまで本格的な探索はやらないぞ」

「あれぇー!?」


 本格的に捜索をするのであれば、色んなエリアに行っているレナさんの意見は参考になるのは間違いないんだけど、今日はそこまでする時間はなさそうなんだよな。

 ともかく、今日予定しているヨッシさんの氷の昇華は確実に手に入れないとね。時間が少しでも余ればちょっとくらいは探索したいけど、時間に関しては用事が終わってからでないと何とも言えないところである。


 さてともう目の前には雪山へのエリアの切り替えの場所が見えている。ふむ、夜の日に見る雪山というのも不思議な感じだね。月明かりに照らされて、白い雪がぼんやりと光ってる風に見えるんだもんな。あ、少しずつ満月だったのが欠けてきているね。周期は分からないけど、月の満ち欠けもあるんだな。


 それにしても中立地点になったという事もあって、出入りしている人達が多い。お、オオカミ組の一団が雪山の方から出てきたね。


「ボス! あのクジラの人、アルマースさんっすよ!」

「お、マジじゃねぇか! よし、丁度いい。少し話をしてくるから、お前らは先に行っててくれ」

「「「「おう!」」」」

「了解っす!」


 ん? 何やら1人だけ残って、他のオオカミの人達は森林深部に向けて走っていってるね。聞こえてきた声の感じでは蒼弦さんがアルに用事がある感じか?


「おーい、アルマースさん達! ちょっと話があるから、乗っていいか!?」

「おう、構わないぞ! ケイ、頼めるか?」

「ほいよ。蒼弦さん、足場を作るからそれで登ってきてくれ!」

「お、マジか! そりゃ助かる!」


 多分蒼弦さんなら自力で登ってこれそうな気もするけど、ここは利便性の確認も兼ねて土の操作で扱える限界の大きさを探っておこう。岩の操作が別に存在するから、大きさの際限なく操作出来るとも思えないんだよな。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 68/69(上限値使用:1): 魔力値 197/200

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します>  行動値 65/69(上限値使用:1)


 とりあえず蒼弦さんの目の前に可能な限り最大の大きさの石を3つ生成していく。……ふむ、直径50センチくらいの平べったい飛び石みたいなのが限界か。でもまぁ、これが3つあるのであれば足場としては充分か。

 さてと、この3つの石をそれぞれに動かして、上へと登ってこれるように位置調整をしないとね。それで蒼弦さんなら登ってこれるだろう。


「あらよっと! ほい! ほいよ! よし、到着!」

「ナイス、蒼弦さん!」

「ケイさんこそ、良い足場の配置だったぜ!」


 という事で、無事に蒼弦さんがアルのクジラの背の上に到着である。それはまぁ良いんだけど、話っていうのは一体なんなんだろうね?


「蒼弦さん、話って何さー?」

「ん? あぁ、レナさんもいたのか。あ、ダイクさんなら中立地点にいたぞ?」

「なんですと!? ふふふ、それは良い事を聞いたねー!」

「で、蒼弦さん、話の内容ってのは?」

「あー、そうだった。例のお茶の話なんだがな……?」

「……ほう?」


 ふむふむ、お茶に関する話か。赤のサファリ同盟や青のサファリ同盟がいるから使用には気付かれないように気をつけろって改めて注意って感じだろうか?


「あれな、青の群集のある共同体が雪山の中立地点で作っちまってな? まぁまだ氷結草茶だけなんだが、ついさっき大々的に広まったから、もう使用の制限は気にしなくていいぜ」

「……え、マジで?」

「おう、マジだ! まぁ材料そのものを栽培してたのもあるし、野菜に拘ってた集団がな?」

「蒼弦さん、それって『青の野菜畑』って共同体じゃねぇか?」

「お、アルさん知ってんのか。その通りだぜ」

「あぁ、まぁ掲示板で見ただけだがな」

「あー、そういやそんな書き込みもあったっけな」

「青の群集の野菜畑のみんなかー! 色々やってたのは知ってるけど、やるねー!」


 そういえばネス湖の探索の時にも参加していた野菜集団が確か掲示板で名乗ってた気がする。……あ、思い出した。命名クエストでネス湖って名前に誘導したネタ好き集団だったっけ。また変わった集団が青の群集にも居たもんだね。

 というか、当たり前のようにレナさんはその人達の事を知ってるんだね。……もうどこで誰と知り合いだったとしても驚かないよ。


「ま、そういう事なんで今作れている氷結草茶については無制限で使用解禁だ。環境適応は纏氷よりは効果は薄めだが、飲む量で効果が上がる性質みたいだからその辺を気にしてくれな! あんまり少な過ぎると効果も出ないしな」

「おー!? 飲む量で効果が変わるんだー!? 試飲の時に効果があるのかよく分からなかったのはそういう訳なんだー!」

「沢山飲めば、それだけ氷に対する耐性が強くなるのかな?」

「多分そうなんだろうね。でも無尽蔵にある訳じゃないから、量には気をつけないと……」

「ま、そういう事だな。ちなみにどれだけ飲んでも効果時間は30分で変わらないからなー!」

「なるほどね。蒼弦さん、わざわざ情報サンキュー!」

「いやいや、これくらいどうって事ねぇよ。んじゃ、俺はそろそろ戻るぜ」


 そう言って蒼弦さんはアルのクジラの背の上から飛び降りて、先に戻っていったオオカミ組の人達を追いかけていった。たまたま遭遇しただけではあるけど、わざわざ知らせてくれるとはありがたいね。


「よし、それじゃ折角の情報だしみんなで氷結草茶を飲んでみるか」

「あ、私は必要ないからみんなで試してみてね。多分今回の雪山に行く分には足りると思うけど、そんなに沢山ある訳じゃないしね」


 ヨッシさんの言うように、まだ大量生産が出来ているって訳でもないもんな。でも聞いた限りでは需要は高そうだね。属性によっては進化の軌跡の代わりに、環境適応用のアイテムとして使えそうである。

 お茶なら属性を付与する必要もないだろうし、状況によって纏属進化と使い分けになるのかもしれない。まぁとりあえず試してみるのがいいだろう。既に青の群集が広めたなら使っても目立たないしね。


「そういえば氷結草茶ってどんな味なのかな?」

「えっと、スポーツ飲料だったよ!」

「まさかのスポーツ飲料!?」

「そだよー! 発火草茶はリンゴジュース、旋風草茶はメロンジュース、硬化草茶はカフェオレ、麻痺草茶はレモンジュース、発光草茶はフルーツオレ、漆黒草茶はコーヒーだったよー! ただし出来立ては種類によっては温かくて変な感じだから、基本的には冷めるの待つのが推奨です!」

「……色から連想できる味になってるんだな」

「……もはやお茶の味じゃないな」

「別に良いんじゃない? 飲み慣れた味があるっていうのも良いよねー!」

「……そこはレナさんの言う通りか」


 確かに味にツッコミを入れたい気持ちは非常に大きいけども、全く未知の味になるよりはよっぽど飲みやすくはある。……まぁ個人の好みでその辺の味は苦手という人もいるだろうけど、それに関しては一時的にでも味覚はオフに出来るしそれで対応ってところだろうね。


「はい、みんなの分を注ぎ終わったよ。もう冷めてるから、飲んで効果が出たら雪山に行こうよ」

「ヨッシさん、サンキュー!」

「ありがとよ!」

「ヨッシ、ありがとね」

「わーい! ヨッシ、ありがとー!」

「およ? わたしの分もあるの?」

「うん、あるよ。レナさんだけ仲間外れってのもあれだしね」

「ヨッシさん、嬉しい事を言ってくれるねー! よし、お礼にこれを進呈さー!」

「え、レナさん、強化済みの瘴気石を貰ってもいいの?」

「うん、問題ないよー。まだ何個か持ってるしねー!」


 一体いつの間に何個も手に入れているのかが気になるところだけど、レナさんに関しては気にするだけ無意味なんだろう。

 さてと竹の器に入れられたスポーツ飲料味の氷結草茶を飲んで、雪山へと突入していこうじゃないか。それからまずはヨッシさんの氷の昇華を取得して、その後に中立地点の見学をして、明日はここからスタート出来るように転移の種の登録をしておかないとね。


「それじゃ、これを飲んだら雪山に突入だ!」

「「「「「おー!」」」」」


 ヨッシさんは飲む必要もないんだけど、ノリで一緒に声は合わせていたね。とにかく、グイッと一気に飲んでしまおう。……お、マジでスポーツ飲料の味だ。ふむ、飲みやすくてこれはいいな。


<氷属性への耐性が少し上昇しました> 効果時間:30分


 お、耐性上昇のメッセージが出て、画面の端に効果時間のカウントダウンも出たね。ふむふむ、これで氷属性で対応しなければならない環境に対しての効果が得られる訳か。


「みんな、耐性は得られたか?」

「ばっちりさー!」

「私も大丈夫かな」

「おう、問題ないぜ」

「わたしも大丈夫だねー!」

「よし、みんな大丈夫みたいだな」


 元々大丈夫なヨッシさんは別として、他のみんなはちゃんと耐性は得られたようである。お茶で耐性を得る場合には特に見た目に変化はないみたいだね。

 さて、この耐性ってのがどこまで効果があるかは実際に試してみないとわからないけど、蒼弦さんが言ってた限りでは多分大丈夫だろう。


 そうしてアルのクジラの背に乗ったまま、雪山エリアへと突入していく。さーて、やる事は色々あるんだしサクサクやっていかないとね。いつの間にやら10時も結構過ぎてるし、のんびりし過ぎない程度にやっていかないと。


<『ハイルング高原』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>


 これで雪山への突入は完了である。そうそう、掲示板で見た雪山の名前はニーヴェア雪山だったね。……どういう意味なんだろう? よし、ここはアルに聞くのが一番だな。


「あー、ケイ。悪いが、ニーヴェアの意味は俺も分からん」

「……もしかして、また声に出てた?」

「いや、今回は声には出てなかったけどな……」

「ロブスターのハサミが動いてたねー!」


 あ、そっちですか。っていうか、それでなんで内容が分かるのさ!? 意識して声に出さないように気をつけてたのに!


「癖があるから考えてるタイミングは分かりやすいんだけど、内容自体は単純に想像しやすいかな?」

「あ、そうなんだ……。てか、2つの癖の矯正って難しくね?」

「ケイさん、何事も地道が大事なのさー!」

「……なんかハーレさんに言われるのは釈然としないけど、言ってる事自体はそうだよな……」


 今日、レナさんの発言によって自覚した無自覚での癖が数時間で抜けるはずがないのは自明の理ではある。……これは時間をかけて直していくしかないな。まぁ、これまでと違ってみんなが教えてくれるようになったしね。……それでもタイミング的に読みやすいと言われたのだけはどうしようも出来ない気はするけども。


「ふむ、冷気で弱っていく気配は全然ないな」

「みたいだな。こりゃ、雪山エリアに来るには必須アイテムかもしれん」

「氷結草の栽培も、大きな意味が出てきそうな感じかな?」

「偶然だけど、色々役立ちそうだよねー!」

「そうだね。ここを中立地点にするなら、常用出来るアイテムは必須だよね」


 ここを活動拠点とする赤のサファリ同盟には特に重要なアイテムな気はするね。青の群集の野菜集団が広めたというお茶だけども、既に赤のサファリ同盟では量産に移ってるのかもしれない。


「ま、それは良いとして、まずはヨッシさんの氷の昇華の取得からだな」

「わざわざ時間を確保してくれてありがとね、みんな」

「仲間なんだし、気にすんな!」

「そうだぞ、ヨッシさん。昨日は検証もあったとはいえ、俺とアルの昇華の取得に付き合ってもらったんだしな」

「そうともさー! みんなで、一緒に楽しむんだよ、ヨッシ!」

「そうだよ、ヨッシ。私達には遠慮はいらないかな!」

「おー、やっぱりみんなは仲良いねー!」


 そんな風に話しつつ、これからすべき事は決定した。……何か妙な視線を感じる気はするけども、それはとりあえずスルーで! なんだかこっちを見ている青の群集の人が地味に気になるんだけど、それは後回し!

 さー、結構予定より時間がずれ込んだヨッシさんの氷の昇華を手に入れていこう! ここだと目立ちそうだから、ちょっとで良いから雪山の上に行ってみるべきかな?

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