第486話 移動の準備完了


 さて、取引を開始したものの悩み続けている桜花さんである。やっぱり現状じゃ取引材料としては厳しいか。


「悪い、流石にまだ価値を判断しきれないな」

「……やっぱり現段階では厳しい?」

「まぁ実際に使ってみて効果もだが、他のパターンも試しているんだろう? そっちも含めて考える必要があるからな……」

「……これはまだ全部は試せてないし、そっちもやっぱり必要なんだね」

「そういう事になるな。まぁこれだといつも通りの果物とかの方がいいかもしれんが、効果次第では在庫も少しは欲しいとこでもあるな……。おし、今すぐでなくても検証が終わってからの交渉でもいいぜ?」


 あえてお茶という言葉を出すのは避けているヨッシさんと桜花さんだね。ふむ、これは先に氷の小結晶を貰ってからお茶に関する検証が終わってその効果に合わせて取引量を変動させるって事でいいのかな? 現時点では有用なのかまだ分からないのに、桜花さんも思い切った事を提案してくるね。


「え、桜花さん、いいの?」

「誰でも良いとは言わねぇが、みんなには恩があるからな。それくらいなら優遇するぜ?」

「んー、でもそれはそれで申し訳ない感じもするから少し考えさせて。あ、それとなんだけど、こっちは価値的にどう?」

「ま、どうするかは任せるぜ。普段通りの果物とかでも歓迎だしな。んで、そっちは例の詰め合わせ報酬の器か。これの価値は申し分ない……が、こっちも現時点では取引としてはなんとも言えないな」

「え、駄目なの?」

「駄目じゃねぇんだが、器が便利って前情報が一切無かったからな。報酬で余分に持ってるやつがそんなにいないっぽいんだよ。どの程度手放す人がいるかにかかってるから、しばらく様子を見る必要があってな」

「あ、そうなんだ」

「ま、現時点で取引するなら……昨日のあれの2体分ってとこか」

「……桜花さん、それマジで?」

「……まだ価値は上がる可能性はあるが、俺としては現時点ではそんなもんだと思ってるぞ」


 ふむ、あえてぼかした言い方をしているけども、フィールドボスの誕生に必要な+5の瘴気石を2体分……つまり4個分の価値はあるのか。持っておきたい気もするけどまだ価値が上がる可能性もあるなら、流石に手放すのも早計か。って、俺のじゃないっての!


「……ヨッシさん、どうする?」

「……心が惹かれるところではあるけど、耐久値もあってずっと使える訳でもないし、数はあってもまだ手放したくはないね」

「ま、そんなとこだろうな。で、取引はどうする?」

「はい! 今回は普通に果物で交換で良いと思います! 回復アイテム、余り気味だしねー!」

「お、ハーレさんが食べ物を手放すとは珍しいな?」

「ケイさん、私だって食べ物で時々取引してるからねー!?」

「あ、そうだったのか。そりゃ失礼」

「ぶー! ケイさんは私の事をどう思ってるのさー!?」

「え、食欲魔人?」

「あー酷いんだー!?」


 いやいや、ここにいるみんなが納得するように頷いてるけどね? その辺に関しては俺の思い過ごしではないと自信を持って言えるぞ。


「……話が進まんからケイとハーレさんはその辺にしといてくれ。桜花さん、数的にはこんなもんでいいか?」

「おう、問題ねぇぜ、アルマースさん!」


 ちょっと脱線している間にアルが持ってる食材を取り出して取引を進めてくれていた。ともかくこれで氷の小結晶の確保は完了である。どれだけ使うかは氷結草茶の効果によるけど、その確認をしに行かないとね。あと、元々の目的のヨッシさんの氷の昇華の獲得だ!




 桜花さんから3時間で4人分の氷の小結晶を交換して、雪山に行く準備は完了である。って、そうでもなかった。今回はレナさんもいるから、レナさんの分も確保しないといけないのか。


「レナさんの分はどうする? 俺らで出すか?」

「その心配はいらないよー! わたしは自前で常に確保してるから問題ないさー!」

「……流石はレナさんだな」

「ふふふ、そうですとも! それじゃ雪山に向かって出発だねー!」


 レナさんに関しては全くの無意味な心配だったようである。まぁあちこちに出没するレナさんなら各種エリアに対応出来るだけの準備はいつでもしてそうだよね。


「レナさんの準備も良いなら、それで問題はなさそうかな?」

「そだねー! それじゃ大急ぎで雪山まで移動さー!」

「お茶の件で時間取らせちゃったからね。少し急がないと……」

「よし、アル、クジラに切り替えだ! 上空を全力で飛んでいくぞ!」

「よし来た! あ、ケイの水流は今回は遠慮してくれるか?」

「ん? それは別に良いけど……水流の操作のLv上げもするんだよな?」

「まぁな。ちょっと揺れる可能性も高いが、みんな良いか?」

「そういう事なら問題はないかな?」

「いざとなれば飛び降りて逃げるさー!」

「アルさんなら大丈夫だと信頼してるね」

「ハーレさんとヨッシさんの反応が対照的だねー! さて、アルさんのお手並みを拝見!」

「だとよ、アル?」

「プレッシャーをかけてくるな、おい!?」


 まぁアルだって操作系スキルの制御は非常に高水準だし、上空を飛んでいく限りでは他の人を巻き込む可能性も低いはず。まだ水流の操作が万全ではないとはいえ、どの程度の速度が出るのか気にはなるんだよな。


「それじゃちょっと切り替え……いや、せめてハイルング高原に行ってからにするか」

「だな。ここで切り替えても木の上に座礁した感じになるだけで問題もないけど、あっちに行ってからーー」

「はっ!? ケイさん、アルさん、それだよ!」

「え、何が?」

「ハーレさん?」


 今度はハーレさんは一体何を思いついたんだろうか? あー、もしかしてスクショのコンテスト絡みで何か良い事でも思いついたのか?


「ケイさん、正解です!」

「……もしかして、また声に出てた……?」

「うん、バッチリです!」

「……マジか」


 うーむ、完全に無意識での癖みたいだから一筋縄ではいかなさそうだね。普段から意識して癖の矯正をしなければ、思考の駄々漏れが解消されないな……。っていうか、もうその辺は堂々と言ってくるんだね。……注意として言ってくれてるのか、からかって言っているのか、それが問題であるけども。


「あーケイさん達、申し訳ないんだが待ってる人もいるからな?」

「あ、そうだった!? これは失礼しましたー!」


 桜花さんは俺らが先客だったから最優先で対応してくれたけど、取引が終わってから雑談をしてる場合じゃなかった。……慌てて他の待ってた人達に頭を下げてから、桜花さんの樹洞の中から撤退だー!


 ……ん? フーリエさんとシリウスさんの所に、どこかで見覚えのある4人組がいるね。あ、昨日俺がアドバイスしたシマウマと、ヒョウと、人参と、ハリネズミの4人組か。へぇ、何か談笑してるし、もしかしてこの6人でPTとかになったりするのかな?


「おい、ケイ、行くぞ!」

「分かってるって!」


 俺らより後から始めた人達があんな風に楽しそうにしているのを見ると、なんだかホッとするね。頑張ってくれよ、フーリエさん達!




 そうして桜花さんの樹洞から出ていく。さてとちょっとした脱線もあったけど、雪山に向けて出発だな! おっと、その前にさっきハーレさんが言いかけていた事の詳細を聞いておくべきかな?


「ねぇ、ハーレ? さっきは何を思いついたの?」

「えっとね! 桜花さんに纏瘴をしてもらって、アルさんに纏浄を使ってもらって、突撃していく感じー! 出来れば電気の昇華持ちの人も呼んで夜の日に撮りたいです!」

「あー、面白そうな構図ではあるな。てか、俺が撮られるのは前提なのか。まぁ別に良いが」

「でも、それは桜花さんに許可を貰わないと駄目じゃないかな」

「うー! そこが誤算だったー! それに電気の昇華を持ってる人にも頼まないとー!?」

「ハーレさん、面白いのを思いつくね! よし、わたしもそれに便乗させてもらおうかなー?」

「レナさん、大歓迎だよー!」


 ここでレナさんも参戦か。まぁスクショコンテストも控えているなら、今のうちから色々撮りたくはなるんだろうね。スキルや纏属進化を活用して、天候や時間帯も考慮した上で撮りたいスクショを演出しながら撮るというのも今回の楽しみ方なのかもしれない。

 でもまぁ、流石に今日これからは無理だろうね。しばらく桜花さんは手が離せそうにないし、電気の昇華持ちは……思いつくのはシュウさんと風雷コンビくらいか。流石に赤の群集のシュウさんに手伝いは頼めないから、風雷コンビに頼む事になるか……?


「よーし、それなら実行は明後日の土曜日にしようー! みんな、時間は空いてる?」

「あ、土日の昼間は私が無理です!」

「そっか、ハーレはバイトだったね」

「そうなのです!」

「あらま、そうなんだ。それじゃ、土曜の夜はどう?」

「夜なら大丈夫さー!」

「それなら夜で決定ねー。あ、他のみんなは大丈夫?」

「俺は問題なし!」

「俺も大丈夫だ」

「私も大丈夫かな」

「同じく私も大丈夫だよ」


 昼間はバイトのあるハーレさんも夜は大丈夫だし、他のみんなも問題はないか。なんだかレナさんとハーレさんを筆頭にして、なし崩し的にスクショの撮影会が計画されていってるなー。まぁ別にいいんだけどね。


「よし、それじゃわたしも予定は開けとくねー。あ、電気の昇華については心当たりの人がいるけど、わたしの方で誘っておこうか?」

「レナさん、それって風雷コンビか?」

「あー、あの2人じゃないよー。あの2人は多分スクショ絡みのイベントは興味ないんじゃないかなー?」

「え、そうなのかな?」

「うん、そうだよー。あの2人は情報収集はするし、偶発的に新情報を見つけたら報告も上げてきてくれるけど、サファリ系プレイヤーでも検証系のプレイヤーでもないからねー」

「……そういや検証は性に合わないって昨日会った時に言ってたっけ」


 そっか、時々あの2人は情報共有板で見かける事もあったけど、検証をメインにしている訳ではないんだな。まぁそれでも情報の報告をしてくれてはいたんだから、ありがたい話ではあるね。


「ちなみに、声をかける予定の人はケイさん達は会った事ないと思うよ?」

「ほう? 俺らが会った事ない人か」

「……一番行ったことの少ない草原エリアの人か……?」

「レナさん、その人ってどんな人?」

「どんな人だろー!?」

「ふふふ、それは会ってのお楽しみさー! まぁ、気さくな人だから予定さえ合えば引き受けてくれると思うよー!」


 後で桜花さんにも確認する必要はあるけども、これで土曜日の夜の予定は1つ決定だな。レナさんが誰を連れてくるのか気にはなるけど、そこは会ってのお楽しみという事にしておこう。

 さてといつまでも脱線していると、いつになっても雪山に辿り着かないのでそろそろ完全に軌道修正をしないとね。


「さて、なんか明後日の予定も決まったし、今日は予定通りに雪山に出発するか!」

「おうよ。まずはハイルング高原まで行くか」

「そこでアルさんがクジラに切り替えて、大急ぎで雪山まで移動だねー!」

「アル、任せたかな!」

「いつも移動をありがとね、アルさん」

「ま、これくらいどうって事もねぇよ。んじゃ、飛ぶ前にみんな乗ってくれ」


 そのアルの言葉を受けて、サヤが小さくなったクジラの上に乗り、俺はアルのクジラと木を繋ぐ根の上に、ハーレさんは定位置の巣に、ヨッシさんとレナさんは木の枝の上に素早く移動していく。まぁ、この辺は大体いつもの場所ではあるけどね。


「よし、それじゃ行くぜ! 『上限発動指示:登録1』『移動操作制御』! んでもって、小型化解除!」


 そうして水のカーペットを生成して、その上で空中浮遊を発動し、木々の上まで浮かび上がってから小型化を解除して通常の大きさのクジラへと戻っていく。よし、これでサクッとハイルング高原まで行ってから、アルがクジラにログインし直して現状のアル単独での最高速度の実験をしつつ移動だね。

 さて前に俺とアルとの合わせ技での最高速度の実験は地表近くでやったから失敗だったけど、今回は上空に水流を展開して行けるはず! 実用レベルで使えると色々とありがたいけど、実際やってみないとなんとも言えないんだよな。


 もしそれなりに安定して使えるようであれば、移動は完全にアルに任せて情報共有板を見てくるのもありかもしれないね。今回の群集クエストで見つけなければいけない正体不明の『???』についても調べなきゃいけないもんな。さて、一体何を見つければいいのやら……。

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