第485話 人気の不動種


 俺の変な小声出していた癖が発覚して若干凹みつつも、森林深部の桜花さんの桜の木の上空まで辿り着いた。……癖の発覚で少し精神的なダメージを受けたものの、これからは気をつけていくという事で気分を切り替えよう!


「さて、到着だねー! アルさん、かなり順調に空飛ぶクジラに成長したねー!」

「まぁな。後は水流の操作がLv3になれば、とりあえず目標は達成だ」

「もうバッチリと実用段階かー!」


 なんかレナさんが仕切ってるけど、それは別に良いか。正直、レナさんについては抑え込める気もしないので自由にしてもらった方がお互いに気楽でいいかもしれない。

 それにしてもレナさんの言うように、アルのみでも安定して移動できるようになったのは感慨深いものはある。空中浮遊のレベルをもっと上げれば自由度はもっと上がるんだろうけど、最低限の空飛ぶクジラは完成したと言ってもいいだろう。


「それにしても、この集まってる人達ってもしかして桜花さんの取引待ち?」

「あー、まぁそうなるな。ボチボチ集まってたか」

「桜花さん、人気だねー!」

「ま、他の取引系の不動種は割と似たようなもんだがな」

「またまたー、桜花さんってば謙遜しちゃってさー! 色んな場所の不動種の人は見てきたけど、桜花さんは評判いいよー?」

「お、お世辞でもありがとよ、レナさん!」

「んー、お世辞じゃないんだけどなー。まぁ、いっか」


 へぇ、渡りリスというあだ名をつけられているレナさんがそういう評価をするという事は、やっぱり桜花さんはやり手なんだね。そして桜花さんが戻ってきたのを確認した周囲にいた人がぞろぞろと集まってきているし、人気があるのは間違いないな。

 

「……桜花さん、これって俺らは待っといた方がいい?」

「いや、この場合はケイさん達の方が先客だから問題ねぇぜ」

「あー、俺らの方が先客なんだ?」

「基本的に俺が対応を受け付けた順だぜ。俺だっていつでもいるって訳じゃないから対応の予約は受け付けてないしな。それに直接対応ほど自由度はないが、俺自身がどれかのキャラでログイン中なら多少の自動取引は可能だしな」

「え、そんな機能があるのかな?」

「おう、あるぜ。現状だと30種類までは事前設定しておいた交換条件でのアイテム交換が可能だな。まぁ基本的に回復アイテムと進化の軌跡を登録してるぜ」

「おー!? それは便利そうだねー!」

「ま、直接取引が良いって奴も多いけどな。ちなみに、この設定中なら樹洞にも入れるからな」

「お、マジだな。樹洞の入り口が開いてるぞ」

「あ、ホントだね」

「ほう? どれどれ?」


 アルとヨッシさんが樹洞が開いているのを確認したみたいだけど、俺もちょっと覗き込める位置にズレて確認してみよう。お、マジだな。樹洞が開いていて、その中で何かをしてるっぽい人が何人かいるね。

 ふむふむ、これまで樹洞が開いている不動種の人は何度も見かけた事はあるけども、こういう仕様があるとは知らなかったね。もしかすると、今まで見た不動種の人でもこの機能を使ってた人もいるのかもしれない。うーん、不動種って知れば知るほど他の種族とは別物だよな。


「さてと、俺はちょっと待ってる連中に説明してから桜にログインし直してくる。ケイさん達は樹洞の中で待っててくれ」

「ほいよ」

「さてと、それじゃ俺は小さくなっておくか。『上限発動指示:登録2』!」


 桜花さんはそう言うと、桜の木まで飛んでいって集まって来ている人達に話しかけていた。まぁ俺らが先客だから、少し待ってくれっていう説明なんだろう。そしてアルはアルで、小型化しなければ森林深部の中には降りれないので小型化して、牽引状態へ変更である。


 あ、そうしている内に桜花さんは大体の事情説明が終わったのか、メジロの姿がなくなったね。メジロをログアウトして、桜の木に切り替え中なんだろう。


「それじゃ樹洞の中で待ってるか」

「「「「「おー!」」」」」


 とりあえず待っていてくれという事なので、大人しくみんなで樹洞中に入って待機である。桜花さんが桜の木でログインし直してくるのを待たないとね。

 それにしても樹洞の中に入ってみれば、普通に灯りがある。……桜の木のスキルが発動出来ているとも思えないんだけど……あ、中で雑談してる人が光源を用意してるみたいだね。チラホラと色んな種族の人がいるようである。……ん? ちょっと見覚えのある感じの人が2人ほどいるね。


「あ、ケイさんだ! こんばんはです! あ、レナさんもいる!?」

「え、あ、マジだ!?」

「お、フーリエさんと……そのフレンドの人だな」

「そういや、俺は名乗ってなかった!? 俺はシリウスって言います」


 あー、見覚えがあると思ったら物理型でマリモみたいに球状になってるコケのフーリエさんと、トンビのシリウスさんか。そういやフーリエさんにアドバイスをしたのって桜花さんの前だったんだよな。丸いマリモみたいな状態のコケになってるけど、あれからどうなったんだろうか?


「あれから、育成は進んだ?」

「あ、はい! 成長体のLv16までは育ったので、もう少しで未成体に進化出来ます! 突撃毒ゴケって進化先が出てるんで!」

「お、毒持ちのコケで突撃系か」

「はい! ケイさんのアドバイスのおかげです!」

「あの時のアドバイスが役に立ったのなら良かったよ」


 新規の物理型のコケの人って事で、フーリエさんには俺の育成とは違う方向性のアドバイスをしたんだったよな。うんうん、参考にしてくれてその方向性に強化してくれているというのは嬉しいところだ。


「シリウスさんも同じくらいかなー?」

「俺もフーリエと大体同じくらいですね」

「ほうほう、頑張ってるねー!」

「まだまだ弱いけど、頑張りますよ!」

「おー、その意気だ! 頑張りたまえー!」

「うっす!」


 レナさんはレナさんでシリウスさんに激励をしていた。まだまだサービスが開始してからそれほど長期間は経ってないけども、後から始める人達の定着っていうのも大事だしね。少し時間がある時くらいはこうやって交流するのも悪くはないだろう。


「……あー、フーリエさんって前にケイが色々教えてたってコケの人か?」

「そういえば夕方だったから、アルはいなかったかな?」

「うん、そうなるね」

「そうだったねー!」

「……そういや、みんなして覗き見してたんだっけか?」

「え、覗き見されていたんですか!?」

「おいこら! みんなして顔を逸らすな!?」


 くっ、サヤもハーレさんもヨッシさんも思いっきり明後日の方向に視線が行ってるし……。この辺の息はピッタリだね、3人共。


「おう、戻ったぜ……って、どうしたんだ?」

「桜花さん、おかえり。って、あの時は桜花さんも覗き見してたよな!?」

「おぉう? いきなり何の話……って、あの時の話か。いや、俺の場合はログインしたら目の前だったんだからな? そういやそっちの3人は俺の幹に隠れて覗いてたっけな」

「やっぱり覗き見されてたんですね!? いや、別にいいんですけどね!」

「……まぁフーリエさんが良いなら別に良いか。そもそも覗かれてたのは俺だしなー」

「あ、そうだったんですか?」

「ま、そういう事。悪意とかはないから気にしなくて大丈夫だぞ」

「そうですか。それじゃ気にしないでおきますね」


 あの時は確実に俺がフーリエさんにアドバイスをしているのを面白がって見てただけだろうしね。まぁ害があった訳でもないし、もう済んだことだから気にしても仕方ないな。


「サヤ、ハーレさん、ヨッシさん、面白がるのも悪いとは言わんが程々にな?」

「うっ、アルに注意されるとは思わなかったかな……。以後気をつけます」

「了解です!」

「……これは確かに反省だね」

「アル、よく言ってくれた!」

「ま、ケイだけの時なら別にいいんだけどな。他の人がいる時はやめとけって事で」

「味方かと思ったらそうでもなかった!?」


 うーむ、とはいえ俺も面白がって悪ふざけをすることが無いとも言えないから、この辺はお互い様か……。別に本気で怒ってる訳でもないし、程々であればまぁ良いのかな。


「あー、それでケイさん達、そろそろ取引の方は良いか? もうちょい雑談してるならそれでも良いが、順番を少しずらす事になるぞ?」

「おっと、それは流石に困る。フーリエさん、シリウスさん、俺らはこれから用事があるから、今日はこの辺で勘弁な?」

「あ、はい、分かりました! 偶然でしたけど、また会えて嬉しかったですし、前のアドバイスは本当にありがとうございました!」

「フーリエはずっとお礼を言いたいって言ってたもんな。俺からもお礼を言わせて下さい。アドバイス、ありがとうございました!」

「いやいや、あれくらいどうって事ないって。それじゃ予定があるから、悪いけど……」

「「はい!」」


 うんうん、元気の良い返事だ。そのうち強くなって、一緒に戦う事があれば良いんだけどね。まぁ、それはフーリエさんとシリウスさんの今後の成長次第である。


「よし、それじゃ桜花さん、氷の小結晶の取引をよろしく!」

「あいよ! とりあえず2時間分くらいあればいいか?」

「あー、長期滞在をする気はないからそんなにはいらない……か?」

「はい! ケイさん、提案です!」

「ん? ハーレさんどうした?」


 何かハーレさんとしてはやりたい事でもあるんだろうか? あ、そういや雪山を滑りたい的な事を言ってたような気もしないでもない。この前は結構ギリギリでその時間は取れなかったもんな。


「明日、雪山の反対側の雪の森林に行ってみませんか!」

「あ、それいいかも。せっかく転移の種も手に入れたんだし、使ってみるのもいいかもね?」

「桜花さん、雪山の先に雪に覆われた森林があったのは見たんだけど、その先がどうなってるか知らないかな?」

「あー、あっちのほうか。それなら平原エリアが広がってるぜ。南に進めば青の群集の森林と赤の群集の森林深部にも辿り着くしな」

「青の群集の森林エリアって、桜花さんが移籍前にいた場所じゃねぇか?」

「おう、アルマースさん正解だ」


 ほほう、それはちょっと興味深い内容ではあるね。寡黙な青の群集の不動種の人がいるのもその森林エリアだったはずだし、俄然興味が湧いてきた。


「よし、それじゃ明日は赤の群集の森林深部と青の群集の森林の並んでるとこを目指して行ってみるか!」

「へぇ、敵情視察か。それも面白いかもな」

「どこのエリアでも違った特色はあるから、面白いと思うよー!」

「おー! レナさんのお墨付きだー!」

「まだ灰の群集と隣接してないところに行ったことないもんね。私もその案には賛成かな」

「……青の群集の一部の人が気にはなるけど、その辺の確認も含め行ってみるのもいいかもね」


 みんなからの反対意見は特になしみたいだね。何気に初期エリア間を陸路で移動するのは初めてなんだよな。まぁ今日中に辿り着くのは多分無理だから、明日にでもジェイさんに連絡してみて大丈夫なのか聞いてみようっと。


「それじゃ桜花さん、予定変更で多めに氷の小結晶を頼む」

「あいよ! えーと、ヨッシさんは必要ないから他の4人分を3時間分で、合計24個くらいあればいいか?」

「あー、それくらいはあった方が良いか。うん、それじゃそれでよろしく」

「あいよ! で、トレードは何にするんだい?」

「あ、それはヨッシさんからよろしく」

「了解。えっと、桜花さん、取引画面出してもらえる?」

「ほう? 実物を出せないって事は新しいもんか? ほいよ、取引画面!」

「これなんだけど、どう?」

「……へぇ、これがミズキの森林で作ってた例のやつの完成品か?」

「うん、その成果品。具体的な効果量がまだ試せてないんだけどね」


 お、早速ヨッシさんが作ったばかりのお茶を取引材料にしたんだね。桜花さんも俺らや灰のサファリ同盟がミズキの森林で何かを作っていたのは把握しているらしい。……そういや桜花さんはあそこに出張取引に来てたんだから、氷結草とかの原材料の配達とかを頼まれていたのかもしれないね。


「……ふむ、これは判断が難しいとこだな」


 どうにも悩み出してしまった桜花さんではある。そっか、耐性を得られるとは言ってもまだ実際に使ってみた訳じゃないから、具体的な効果量が分からないんだもんな。……流石に取引に持ってくるには早過ぎたのかもしれない。

 それでもとにかく今は桜花さんの判断を待とう。駄目なら駄目で今までの様に果物とかで取引をすれば良いだけだしね。

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