第483話 知らないところでの動き
ひとまず灰のサファリ同盟の暴徒化未遂も収まったし、選ぶ気はないけど成熟体への進化先が1つ出てきたし、割と良い感じではある。それにここでのお茶の検証も終わったしね。ヨッシさんの交換した報酬は無駄にならなさそうでなによりである。
さてと、それじゃ改めて桜花さんに連絡して氷の小結晶を調達してから雪山に行かないとね。
「それじゃ桜花さんにフレンドコールをーー」
「ん? ケイさん、俺に用事か?」
「って、すぐ側にいたんかい!」
「いや、そう言われてもな? ちょうど今やって来たとこだぞ?」
「あ、そうなんだ」
フレンドコールをしようとした瞬間にすぐ近くの木の人の枝から、当人からの返事が来るとは凄い偶然もあったもんだ。桜花さんはメジロで出張してきているみたいだし、これはお茶絡みで材料でも取引に持ってきたのかな?
「桜花さんは出張取引ー!?」
「おう、お茶の検証をしてるって話を聞いて在庫にある草系を持ってきてな! ところでなんだが、灰のサファリ同盟のあの反省会っぽいのって何やってんだ?」
「あれはさっき、テンション上がり過ぎての暴走の反省会なのさー!」
「あー、何となく分かったわ……。時々見かけるあれか」
「え、時々あるのか!?」
何か軽い感じで桜花さんがそんな事を言ってるけど、ああいう形の暴走って今までもあったの!? いや、赤のサファリ同盟のルストさんとかがある意味では近い感じではあったけども、灰のサファリ同盟でもあんな事が普段からあったとは知らなかったぞ……。
「なんだ、ケイさんは知らないのか。あー、でも基本的に他のエリアに行ってることが多いなら変でもないか。そういやアルマースさんなら見たことあるよな?」
「ん? そんなのあったか……?」
「ほら、何日か前の深夜に新規のサファリ系のプレイヤーがハイテンションで声をかけまくってたやつ」
「あー、そういやそんなイタチがいたな。あれって、サファリ系プレイヤーだったのか」
「俺も後から灰のサファリ同盟から聞いたんだけどな。あの時は新規の人だったけど、時々あるらしいぜ、テンションが上がり過ぎて暴走する事」
「……そうなんだ」
なるほど、強さは関係なしにルストさん的なサファリ系プレイヤーは一定数は存在しているって事なんだな。……まぁハーレさんとかもそういう一面はあるし、新しい群集クエストはスクショが絡んでくるからね。まったく気持ちが分からないって事もないかな。
それはそうとして、別に気になる点があるにはある。いや、まぁ、特に悪いとかそういう内容でもないんだけどさ。
「てか、アルと桜花さんってもしかして俺らがログアウトした後に一緒にやってたりする?」
「おう、そうだぞ。たまに果物の取引も兼ねてな」
「そういう事だ! メジロはメジロで育成しておきたいから、俺としても助かってるぜ」
「あー、なるほどね」
アルはアルで、俺らのいない間に行動はしてるんだね。まぁいつも俺らが先にログアウトするんだから当たり前といえば当たり前だよな。
「アルは桜花さんと一緒にやってるだけなのかな?」
「いや、そうでもねぇぜ? その時々で違うが……そうだな。ケイ達が知ってる人なら、ダイクさんとか、タケさんとか、イッシーさんとかと一緒になる事はたまにあるな」
「はーい! わたしもねー!」
「……レナさんは、結構な頻度でダイクさんを連行してないか?」
「そうでもない時もあるよー?」
「あーまぁそういやそうか……?」
「なんで疑問系なのさー!?」
ふむふむ、ダイクさんがレナさんに妙に気に入られているのは相変わらずっぽいね。それにしても、意外と俺らがいない間にアルも交流があるんだね。俺らが知ってる人って言い方からすると、俺らは殆ど交流のない深夜帯によく居るプレイヤーとかもいるんだろうな。
「あ、そうそう。それで思い出したけど、昨日の検証の時にクマのツキノワさんがリーダーのPTがいただろ?」
「そういえば昨日一緒に戦ったかな」
「はい! 今日の夕方にそのPTのアリスさんとフレンド登録しました!」
「ハーレはアリスさんとなんか意気投合してたもんね」
「お、そうだったのか」
夕方にイベント演出が始まる前にハーレさんはアリスさんとキャッチボールをしてたもんな。……報酬の還元の実でだけど。まぁ同じ投擲メインのリス同士だし、気があった感じなんだろうね。
「それで、そのツキノワさん達がどうかしたのか?」
「まぁ単純な話だ。俺自身はそれほど交流があるって訳じゃないんだが、あのPTは森林エリアの検証勢の主力なんだよ。主に深夜帯メインのな」
「あー、森林エリアかつ深夜帯の検証勢なのか」
「そんなに気にしてはなかったけど、そういう事もやっぱりあるのかな」
「まぁログイン出来る時間って人それぞれだしね」
「あー!? もしかして、アリスさんに目撃されたのって私が夜更かししてた頃ー!?」
「そっか、その可能性は充分あるのか」
ハーレさんが俺の妹だと発覚する前は、アルと一緒に深夜もやってたんだもんな。その時に目撃されていたという可能性は充分ありそうだ。ま、実態は分からない……っていうかフレンド登録したんなら普通に聞けば良いだけな気もするけどね。
それにしてもツキノワさん達が検証勢なのは昨日のフィールドボスの発生の検証に参加してた時点でほぼ確定ではあったけど、俺らとは基本的に活動エリアも時間帯も違う人達だったんだな。もしかしたら、知らない間にまとめの情報でお世話になってたりもするのかもしれないね。
「昨日は盛大にフィールドボスの検証してたとは聞いたけど、あそこの他のメンバーがあの時間帯に居たってのは珍しいね? アリスさんは割と夕方とか夜にもいるけどねー?」
「まぁその辺は別に良いんじゃないか? レナさんもそういう詮索は嫌だろ」
「あはは、それはケイさんの言う通りだねー! それじゃそこは気にしないって事で、そろそろ出発の準備をしようかー!」
「だな。桜花さん、氷の小結晶のトレードを頼める?」
「お、そこが俺に対する本来の用件か! あー、メジロの手持ちじゃそんなに個数がないから、一旦桜の方まで来てもらえるか?」
「予定してなかっただろうから、それは仕方ないか。みんなもそれで良いか?」
「問題なしさー!」
「私もそれで良いかな」
「てか、元々その予定だったしな」
「うん、私もそれでいいよ。あ、でもさっき言い忘れてたことがあって〜ちょっと試しておきたい事もあるんだけど、ちょっと良い?」
「試したい事……?」
「あー!? 確かに忘れてたー!?」
なんだかヨッシさんが試したい事があるらしいけど、なんだろう? 氷の昇華の取得は雪山に行く第一目的だから今更言うような事でもないし、赤のサファリ同盟の本拠地兼中立エリアの雪山支部の見学も同様である。
「ごめん、ケイさん達! みんなに言い忘れてた事があったよー!?」
ん? 何かを思い出すように慌ててラックさんがこっちにやってきたね。え、何か俺らに伝える事があったんだろうか? そういやお茶の件の話の最中に群集クエストが始まったし、まだ説明が終わってなかったのかもしれないのか?
「みんな、ごめん! 群集クエストの件で、試してもらいたい事が抜け落ちてた!」
「ラックさん、大丈夫。今、私が説明しようと思ってたから」
「ちょうど今、その話をしようとしてたところさー!」
「あ、そうだったんだ。うーん、私から説明させてもらってもいい?」
「ラックさんがそうしたいなら私はそれでいいよ」
「ありがと、ヨッシさん。えっと、それじゃこれはハーレにお願いになるね。氷結草茶で、雪山で凍傷を防げるか試してもらえない?」
あ、言い忘れてたって内容はお茶の属性耐性が環境適応にも使えるかっていう内容か。ふむ、これは確かに重要な内容かもしれない。もし氷結草茶で環境に対応出来るなら纏氷が必須ではなくなるもんな。
「それは良いけど、何で私ー?」
「それは赤のサファリ同盟も青のサファリもいるからだね。纏氷をしてなくても、巣に隠れられるハーレなら気付かれにくいでしょ?」
「あ、それもそだねー!」
「あー、中立地帯にして他の群集も当たり前にいるから、灰のサファリ同盟としては試しにくいのか」
「そう! ケイさん、その通り!」
ふむふむ、確かに当たり前のように出入りする灰のサファリ同盟のメンバーなら赤のサファリ同盟にも青のサファリ同盟にも一発で見抜かれる可能性は極めて高いか。お茶については多分他の群集でも早い段階で見つけそうではあるけども、わざわざ教える真似をする必要もないもんな。
そういう意味では巣の中に隠れられて遠距離メインのハーレさんは、検証をする人材としては適任なのかもね。まぁお茶による属性耐性がどれ程の効果があるかは全くの未知数だけども……。
「そういう事なら引き受けるよー! でも赤のサファリ同盟に見つかったらごめんねー!」
「……あはは、その可能性はかなり高いから駄目そうなら無理に隠し通さなくても良いからね」
「了解です、ラック!」
「……ルストさんや弥生さんが居たら、確実にアウトだろうな」
「……アルに同意かな」
「……私も同じく」
「俺も同意だけど、その辺は運次第だろ。さてと、それじゃ桜花さんの桜のとこまで行くか」
「それじゃ出発だー! あ、わたしをPTに入れてくださいなー!」
「あ、そういやそうだった」
既にレナさんをPTに入れた気になっていたけど、まだだったんだよね。これは失敬! さてとレナさんにPT申請を出してっと。
<レナ様がPTに加入しました>
これで今日の臨時メンバーはレナさんで確定だ。さてとそれでは氷結草茶でもし駄目だった時の為に桜花さんの桜で氷の小結晶を確保してから、ヨッシさんの氷の昇華の取得と、おまけで色々とやっていこう!
あ、でもその前にやっておくべき事があったんだった。今ベスタは……灰のサファリ同盟の反省会が終わるのを待ってるみたいだね。ただ、何かに集中してる感じでもあるからまとめ機能の編集作業をしてるっぽい。
「ちょっとベスタに用事があるから、みんな少し待っててもらっていい?」
「うん、分かったかな!」
「おうよ」
「あ、だったら今のうちにヨッシさんとハーレさんにさっき作った氷結草茶をいくつか渡しておくね」
「え、それなら私が作った分を使うよ?」
「ヨッシさん、今回は私達灰のサファリ同盟からの検証依頼だから気にしなくていいよ。はい、サヤさんの発案の分も含めてさっき作った他のお茶も少しだけど進呈するからねー! 余ったら好きなように使ってね」
「……そういう事なら、ありがたく受け取っておくね」
俺がベスタの元へと移動していく間に背後からそんな声が聞こえてきていた。ヨッシさんが材料を沢山持っているとはいえ、既に完成したものがあるならその方が楽でいいよな。さて、俺は俺でやるべき事をしていこう。
「おーい、ベスタ!」
「ん? どうした、ケイ?」
「まとめの俺らの報告欄の名称の置き換えを頼みに来た」
「あぁ、その件か。ほう、ケイ達の共同体名は『グリーズ・リベルテ』か」
「そうそう。『ビックリ情報箱』から『グリーズ・リベルテ』に変更してもらえないか?」
「……それ自体は別に構わんが、しばらくの間は両方を併記するぞ?」
「え、何で併記?」
併記したら、置き換えにならないじゃないか!? ビックリ情報箱というあだ名を少しでも弱めたいというのに、それじゃあまり意味がない!
「……いや、不満なのは分かるんだがな?」
「だったら置き換えでよろしくお願いします!」
「いや、一応併記には理由はあるからな?」
「……どんな理由?」
「共同体名の知名度が理由だ。今まであだ名で通じてたのを、決まったばかりの名称に置き換えたら知名度に問題がある。……灰の群集なら問題ないとは思うが、『ビックリ情報箱』=『グリーズ・リベルテ』っていうのを認知させてからでないとな」
「あー、そう……いう……事か……」
「露骨に落ち込むな。共同体名が定着すれば、置き換えはするからな」
「事情は了解……。とりあえず、併記でよろしく……」
「……まぁしばらくは我慢してくれ」
「……ほいよ」
ベスタに言われた通り、今日決定したばかりの名称のみにしたら問題になりかねないっていうのは確かにもっともなんだよな。ビックリ情報箱ってあだ名で俺らのPTが呼ばれてたからこその専用報告欄なんだから、同一のPTというか共同体であるという共通認識がなければトラブルが発生する可能性は否定出来ない。
俺らの正式な共同体名のグリーズ・リベルテが定着するまでは併記するしかないよな……。うん、ちゃんとあだ名であるビックリ情報箱がグリーズ・リベルテと正しく呼ばれるようになるかが、少し不安になってきた。でも、他に手段がある訳でもないから仕方ないか……。
「……戻ったぞー」
「ケイ、なにか元気ないかな?」
「ま、理由は大体想像はつくがな」
「……あはは、あだ名のビックリ情報箱から脱却出来る……?」
「何となく出来ない気がしてきています!」
「およ? みんなはあのあだ名は気に入ってないの?」
「「「「「もちろん!」」」」」
「あらま、見事な異口同音だねー! わたしは『渡りリス』は気に入ってるんだけど」
「俺も『桜鳥商店』ってあだ名はついてるぜ」
「へぇ、桜花さんにもあだ名ってついてたんだ」
「おうよ! 他のプレイヤーに認められた証拠でもあるんだから、誇ってもいいとは思うがな。まぁ『ビックリ情報箱』だと微妙な心境にもなるか」
「そう! そうなんだよ、桜花さん!」
あだ名をつけられる事と、そのあだ名を気に入るかは別問題だからね。最近は実態に合わせてPTに対するあだ名という認識自体は増えてきてるみたいだけど、出来れば他のあだ名が良いんだよなぁ……。
うまく行くかはわからないけども、グリーズ・リベルテで定着して欲しいところである。まぁどうなるかは、時間が経つのを待つしかないか。
よし、いつまでもこの件を考えてても仕方ないから、予定を進めていこうじゃないか。まずは桜花さんの桜にとこまで移動だね。
「とりあえず桜花さんの桜のとこまで移動するぞー!」
「「「「おー!」」」」
「みんな、元気いいねー!」
「さて、取引って事だな。まぁ、ケイさん達には世話になってるし、お得にしときますぜ!」
それじゃ気を取り直して、雪山に行く準備をやっていこう! 赤のサファリ同盟の本拠地と中立地帯となっているのも気になるし、栽培に成功した氷結草も気になるもんね。
それに今回の群集クエストで探さなければならない『???』についても情報を集めていきたいところ。色々とやる事はあるけども、頑張っていくぞー!
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