第481話 次のクエストの開始


 お茶の検証をしていたみんなの所へ行ってみれば、そこには竹の器に入れられた色んな色のお茶があった。赤っぽいのとか、茶色っぽいのは普通にあるんだろうけど、青っぽいお茶って一体どんな味なんだ……。

 アルは浮いていると見難いので、地面へと着陸済みである。湖畔だと適度に降りれるだけの広さがあっていいね。


「ヨッシ、どうなったかな?」

「今から説明するね。結論から言うと、サヤの予想は大当たりでちゃんと加工したアイテムになったよ。それぞれの草が属性への耐性を上げる効果みたいで、名前は『◯◯草茶』だね」

「ほうほう、随分とそのまま名前なんだ? 属性への耐性を上げるって事は、一時的なバフアイテム?」

「うん、そうなるね。例えば発火草なら火属性への耐性、癒水草なら水属性への耐性って感じかな。まぁそれほど効果は高くなさそうだけど、敵によっては使えるかもね」

「あー、まぁ少しでもダメージを減らしたい時はあるもんな」


 ハーブティーの方の効果と合わせて考えれば、お茶系は色んなダメージ軽減の為のアイテムって訳か。まぁ効果はそれほど高くはないとはいえ、火属性の敵を相手にする時とかには使えるかもね。


「ヨッシさん、さっきフレッシュとかドライとか言ってたのはどうなったんだ? っていうか、そもそもどういう意味?」

「あ、それね。えっと、乾燥させてない茶葉とかからお茶にするのがフレッシュで、乾燥させた茶葉とかからお茶にするのがドライだね。今回試したのはフレッシュの方だよ。ね、ラックさん」

「うん、そうなるねー。ドライの方は明日から、草原エリアと荒野エリアで干していくよ。多分、干したものの方が効果は上がりそうな気もするからね」

「あー、なるほどな。乾燥させるのはその2つのエリアが良いって話だったか。それはラックさん達の灰のサファリ同盟でやるのか?」

「うん、そうなるね。これは草原支部と荒野支部の検証案件になるから、後で情報を回しておかないと……」


 ほうほう、やっぱり共同体の結成によって灰のサファリ同盟は本格的な組織化になったみたいだね。各初期エリアにそれぞれに支部があって、役割分担もしているみたいだから効率は上がってそうだ。


<規定条件を達成しましたので、群集クエストを開始します>


 うお、唐突に群集クエストが始まった!? 次にあるのは群集クエストじゃないかって予想はしてたけども、ホントに群集クエストだったな。さてと、何が条件で始まってどういう内容のものなんだろうか?


「群集クエストが始まったねー! 今度はどんなのだろ!?」

「群集クエストだから、群集内でやるのは確定かな?」

「ま、そうだろうな。戦闘系のイベントが続いてたし、今回は探索系に1票だ」

「あー、やっぱりアルもそう思うか。流石に競争クエストの再開催は早過ぎるもんな」

「競争クエストについては追って告知するってなってたしね。私も探索系な気はするよ」


 アルとヨッシさんの予想は探索系のクエストか。一番最初のマップ作成とか、群集クエストではないけど調査クエストとかも存在してるしね。そこら辺のものになる可能性は結構ありそうだ。

 まぁこれからグレイが出てきて、説明はあるだろうし待てばいいか。お、グレイの姿が出てきたね。


『同胞達よ、先の共闘への協力は感謝する。さて単刀直入にはなるのだが、一旦の落ち着きを取り戻したところでこの地の調査について段階を進めようと考えている』


 ほほう? この惑星浄化機構……えーと、名前はクォーツになったんだっけ。共闘も終わり、クォーツの進化も片付いたから、イベントとしては停滞していた調査を活発化させようって内容か。アルやヨッシさんの予想通り、探索系のイベントっぽいね。

 まぁ共闘イベントの消化期間の間に色んな場所にも行ったけど、転移の種が手に入った今ならばもっと遠くに行きやすくもなるもんな。あ、それを見越してのあのイベント報酬か!


『調査と言っても、これまでに確認したものの報告でも構わない。もちろん改めてこれから調査を行うのでも問題はない。それらの情報提供に対しては、相応の報酬も用意する予定だ』


 お、探索して情報提供をしていくって内容みたいだな。ふむふむ、常闇の洞窟のマップ情報の提供の事を思い出すね。あの時のマップ情報の提供では情報ポイントが貰えたから、今回の報酬は情報ポイントかな?


『提供する情報については視覚の保存情報や一部で確認されている先の段階に進化している個体の情報が望ましいが、地形情報等についても受け付けている。あの更なる進化の個体についてはまだ未知の部分が多いが、もしかしたら同胞達よりも進化が早い何かの要因があるかもしれん。だが、その調査にも危険性が伴う為、各自の判断で何を調査するかを決めてくれ』


 ほほう、視覚の保存情報ってもしかしてスクショの事か。そして先の段階に進化している個体って、成熟体の事だよな? ふむふむ、これまでのスクショを含めてスクショを提供するか、成熟体の情報を提供してくれって事だな。

 それにしても成熟体の進化の要因か。……もしかしたら、結構遠い場所に経験値が多く貰えるような何かが存在する……? これは経験値ボーナスエリアの存在の示唆かな。経験値の多いカニとか設定されてるし、特定の場所か敵でそういうのがいるのかもね。


『あぁ、それとだ。群集拠点種達に相談し、長期的に共同で行動する為の小規模グループを結成した事は把握している。互いに協力しながら頑張って欲しい。そしていつも言っている事だが、これらの調査は強制ではなく自由意志での参加とする』


 共同体って、群集として小規模グループを作っていけとかいう内容ではなくて、群集拠点種にプレイヤーが自発的に相談して結成しているって事になってるんだ。そして短期的なPTではなく、長期的に一緒に活動するという位置付けになるんだね。

 それとこれはいつもの事ではあるけど、あくまでもどのイベントやクエストも基本的には自由参加なんだね。まぁ共闘イベントの時は規模が大きかったから参加者も多かったっぽいけど。


『それでは同胞達の健闘を祈る』


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》が開始されました>

<群集拠点種にて、スクリーンショットと成熟体の発見情報の提供により情報ポイントが入手可能になりました>

<群集拠点種にて、情報ポイントとの交換可能アイテムが追加されました>

<複数存在する『???』を全て発見する事で、クエストクリアとなります>

<提供されたスクリーンショットは提供する際に同意していただければ、後日開催予定の『第1回スクリーンショットコンテスト』へとエントリーされます。希望される方は、是非ご参加ください。詳細については後日の告知となります>


 そしてグレイの姿は消えていった。わー、思った以上に情報が沢山だー。これは宝探し的な探索要素と、スクリーンショットのコンテストの事前エントリーと、情報ポイント稼ぎの複合クエストか。


「思った以上に盛り沢山だな」

「だな。予想外のものもあったりはしたが、これはやりがいがありそうだ」

「ケイさん、私はスクショコンテストにエントリーします!」

「まぁ、ハーレさんはそうだろうな」

「あはは、確かにハーレには見過ごせない内容かな」

「ケイさんも出してみたら? 氷結草の群生地とか、結構ありじゃない?」

「あー、あれか」


 確かにあれはエントリーしても申し分ないものではあるけども、今はもう公開状態になってる場所だからな。俺よりもスクショを撮るのが上手い人は多いだろうし、あれで勝てる気はしないなぁ……。


「うーん、あそこってもうサファリ系プレイヤーが行ってそうだしな……」

「あ、それもそっか。でもダメ元で出してみるくらいなら良いんじゃない?」

「……ヨッシさんのその言葉も一理ありか。出して損する事もないだろうし、ダメ元で出してみるか」

「おー! ケイさんもスクショコンテストに参戦だー!」

「ケイもハーレさんも出すのは良いんだが、これって結局どういうコンテストになるんだ? 後日告知って事は、まだ詳細不明だろ?」

「それは私も気になったかな。確かオフライン版の公式サイトでスクショコンテストをやってた時は、公式グッズ化だったよね?」


 あー、そういやそんなのもあったな。リアルで使える小物やら、そのスクショを再現したVR空間のデータとかを数量限定を販売して、受賞者には好きなのがいくつか貰えるってのだったっけ。確か、賞によって貰える個数が変わるんだったよな。


「オフライン版では無理だったけど、今回は頑張ります!」

「おー、ハーレさん頑張れよ!」

「ま、賞品があるかも分からんが、全力で楽しめばいいだけか。何を探すのかよく分からんが、宝探し的なものもあるみたいだしな」

「確かにそれもそうかな?」

「あはは、まぁそうなるよね。あ、でもハーレ、土日はバイトなんじゃ?」

「昼間は無理だけど、夜に頑張ります!」


 気合い充分なハーレさんの答えであった。まぁ明確な終了時期も不明だから、土日までには終わっている可能性も否定は出来ないけどね。

 さて成熟体の早い進化の秘密について探れば良いんだろうけど、具体的に何を探せばいいんだろう? そもそも何ヶ所なのか何個なのかも不明だからなー。ヒントなしで探すのは大変そうだし、群集のみんなで情報共有をしながらになりそうだね。


 それはそうとして、さっきから意図的に無視はしていたんだけども灰のサファリ同盟のテンションの上がりっぷりが凄い。


「ふふふ、今回ばかりは全員敵だ!」

「いやー、それはどうだろ? PTや共同体で協力するからこそ、撮れるものもあると思うよ?」

「わー!? 色々と検証があるのに、これは厳しいー!?」

「ちょっと検証控えめにして、自由行動を増やす?」

「それ、賛成ー!」

「レナさん、護衛お願いします!」

「「あー!?」」

「……護衛がいないと厳しいね」

「「「「「レナさん!」」」」」

「およ!? ちょ!? みんな、殺到しないでー!?」


 うん、プレイヤースキルが飛び抜けているレナさんの元に灰のサファリ同盟のみんなが群がっていってる。まぁレナさんと灰のサファリ同盟のみんなは良く顔を合わせているだろうし、そういう風にもなるよね。


「護衛は良いけど、わたしだけじゃそんな大人数は無理だからー!? ほら、そこにはケイさん達だっているし、カインさんだっているよー!?」

「ちょ!? レナさん!?」

「うわっ!?」

「……あはは、みんな頑張ってねー!」


 レナさんが俺らやカインさんの名前を出した途端に無数の視線が突き刺さってくる。ヤバい、レナさんの事を他人事みたいに思ってたらこっちに矛先が向いた!? これはみんなテンションが上がり過ぎてる感じだね……。


「絶対にレナさんじゃないといけないんじゃないんだ!」

「プロメテウス、頼む!」

「俺の名前はカインだよ! そう呼んでくるやつの護衛はやらん!」

「そう言うなよ、プロメテウス!」

「しつこいわ!」

「『ビックリ情報箱』のPT! 護衛を頼む!」

「いや、こっちを頼む!」

「私達をお願いします!」

「いやいや、ちょっと待って!? みんな、落ち着いてくれ!?」


 いかん、落ち着いてくれと言っても全然落ち着く気配がない。くっ、サファリ系プレイヤーにとってはこれまでのクエストやイベントの中では一番やる気になるタイプのものなのはよく分かったけど、この状況はどうしたものか。ここは逃げるのが正解……?


「……ケイ、とりあえずここは逃げるか?」

「……アルもその結論なんだな。その方が良いかも……」

「この状況は予想外さー!?」

「みんな、ちょっと落ち着いて欲しいかな!?」

「……聞こえてなさそうだね」

「ケイさん達、逃げるなら俺も連れて行ってくれ!」

「……そうだな。カインさん、急いでアルに乗ってくれ。みんなも急げ!」


 サヤが落ち着くように呼びかけてくれているが効果はあまりないみたいだし、ここはひとまずみんなのテンションが落ち着くまで距離を取るのが無難か。

 悪気はないのは分かってるし、別に護衛自体は特に問題ないんだけどこの状況は決して良いとは言えない。くっ、灰のサファリ同盟という組織にはこんな弱点があったとはね! あ、しれっとレナさんは小石を足場にして逃げていってるし!?


「……まったく、何やってんだ、てめぇら」

「ベスタ!?」

「リーダー!?」

「……はぁ、仕方ねぇか。ケイ、カイン、上空で盛大に昇華魔法を爆発させろ。ショック療法だ」


 良いとこに来た、ベスタ! でも、上空でスチームエクスプロージョンをぶっ放せと……? まぁ同じ群集だからダメージもないし、落ち着かせるのなら効果はあるのか。

 

「……無茶言うね、ベスタ。カインさん、良いか?」

「ま、しゃーないだろ。リーダーが来たなら後はどうにかしてくれるだろうしさ」

「それは確かに……」


 この場を収めるにはベスタが適任なんだろうけど、みんなまだ気付いてないっぽいしね。スチームエクスプロージョンで意識を強制的にぶった切って、ベスタの存在を認識してくれれば多分なんとかなるはず!


「ケイさん、行くぜ。『ファイアクリエイト』!」

「おうよ!」


 そういや当たり前のように受け入れてたけど、カインさんって火の昇華持ちなんだね。流石は聖火の人とかプロメテウスとか呼ばれてるだけはある。ま、それは良いとして俺も水を生成しないと。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 66/67(上限値使用:3): 魔力値 197/200


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/200


 半ば暴徒となっている灰のサファリ同盟のみんなの上部で、轟音を上げて水蒸気爆発が発生していった。その爆発の余波で、軽く吹き飛ばされていくみんな……。あ、何が起きたのか分からずに呆然としている人が多いね。


「……待ちかねていた種類のイベントだってのは分かるんだが、これでちょっとは冷静になったか?」


 呆然としていた灰のサファリ同盟のみんなに、ベスタがそんな風に言葉を投げていく。強攻策ではあったけども、とりあえずはこれでみんなは少しは冷静になったらしい。ふー、一時はどうなるかと思ったよ……。

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