第480話 砂の操作と水流の操作
さっきの岩に擬態した成熟体のヤドカリの白い光が一体何なのかものすごい気になる所ではあるけど、もう逃げていなくなったからどうしようもないな。……もの凄く気にはなってるけど。
ヨッシさんや灰のサファリ同盟の人達はお茶の検証を再開していってるし、サヤとレナさんも特訓を既に再開していた。さてと、俺らもだな。
「なんか思いっきり脱線したけど、勝負再開!」
「それは良いんだが、的はどうするよ? 大きめの岩はもうねぇぞ?」
「あっ……」
そういえばそうだった。的に使おうと思っていた岩は成熟体のヤドカリの殻だった訳で既にここにはいない。うーん、周りを見回してみても同じくらいの大きさの岩はないな。
……ここの湖の底にでも丁度良いのがあったりしないかな? そうだよ、その手があるじゃないか! ここの湖は一回だけちょっと潜って水砲ザリガニと遭遇して逃げた場所だけど、その後に改めて潜ったことはない。よし、ここは手早く潜って岩を見つけて戻ってくるとしよう!
「なぁアルさん、何の話?」
「ん? あぁ、ザックさんはさっきログインしたとこだから知らないよな。さっきの成熟体を普通の岩だと思って、特訓の的に使おうと思ってたんだよ。それがああいう事で、宛が外れてな?」
「そうそう、そういう事! アル、それなんだけどーー」
「へぇ、そうなのか! 確かに同じようなのはないもんな。そういう事なら俺が的を作ろうか? 毒の球でも充分な的にはなるだろ!」
「お、マジか! そういう事なら、ザックさんに頼むわ。良いよな、ケイ……ってどうしたよ?」
「……いや、何でもない」
ザックさんが好意で言ってくれているのが分かるから、せっかく思いついた事が言えなくなった……。純粋に協力してくれると言ってるんだし、ここで不満を表明するのは流石に失礼過ぎるもんな。……よし、さっき思いついた手段は無かったことにしよう!
「そういう事なら、ザックさんよろしくな!」
「おうよ! で、的が必要って事は魔法か操作系の特訓か?」
「操作系で俺とアルでどっちが先に的に当てるかの勝負だな」
「ほうほう、ちなみに何の操作系スキル?」
「俺は砂の操作」
「俺が水流の操作だな」
「おぉ、2人とも応用スキルか! そりゃいいや、特等席で見学だな!」
なんだかザックさんの気合が入っているような気もするけど、まぁいいか。それじゃお茶の検証がいつ終わるかも分からないので、サクッと砂の操作の特訓をしていこう。
改めて距離を取って移動をしていき、ザックさんが湖畔で、アルが湖の上、俺がアルとザックさんの位置までの距離と同じくらいの陸地の場所に着地っと。水のカーペットからは下りたけど、解除までは必要ないか。その辺に置いておこうっと。
「ザックさん、合図は頼んだ。俺とアルの直線上になるのだけは避けてくれれば、的の設置位置は任せる!」
「おう、任せとけ! それじゃ生成したらそれが合図な!」
「ほいよ!」
「おう、了解だ!」
さてと、アルと俺の距離は同じに設定してある。俺とアルの直線上に的があるとただの速度勝負になるから、少し位置をずらしてお互いに妨害ありでやらないとね。速度重視でもいいんだけど、ここは敢えて操作技術の勝負と行こうじゃないか!
「おっし、それじゃいくぜー! 『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」
そのザックさんのスキル発動により、毒の球が生成された。まぁそれほど大きくはないんだけど、この勝負の的としては充分な大きさだ!
「『アクアクリエイト』『水流の操作』!」
勝負開始という事でアルは即座に水を生み出して支配下に置いていき、的である毒の球に向けて水流を作り出していく。でも水量はそんなに多くはないな。アルめ、後から追加生成する気か。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 66/67(上限値使用:3): 魔力値 197/200
<行動値を20消費して『砂の操作Lv2』を発動します> 行動値 46/67(上限値使用:3)
俺も即座に砂を生成し、すぐに支配下に置いて砂を飛ばしていく。砂漠でちょっと使った感じでは砂の密度を変えたりするのに細かな制御がいるみたいなんだよな。砂を塊として動かすのなら、岩の操作や水流の操作ほど難しくはないという印象。
「おらよ!」
「お、的狙いじゃなくて、先に砂を狙ってくるか!」
「挙動勝負じゃケイ相手だと勝ち目はないからな。まずはその砂を封じ込めてやる」
「出来るもんならやってみろ!」
「あぁ、そうさせてもらおうか」
その俺の宣言と同時に、アルは俺の砂を水流の中へと呑み込んでいく。ふむふむ、これで水流の中に砂を閉じ込めて、脱出させる為に加速させて支配時間を削るつもりみたいだな。まぁ、避けようと思えば出来なくもなかったけど、ちょっと試したい事があるしそれをやってみようっと。
ふふふ、俺の方が水流の操作は使い慣れているんだ。その特徴も分かっている。今はただ砂の制御を緩めて、ただただ水流に流されるようにしておくのみ!
「……ケイ、あっさりと捕まったが何を企んでる?」
「そりゃ、まぁ勝負に勝つ方法?」
「ちっ、これを破る手段はもう思いついてんのかよ!?」
「まぁねー」
アルの操作する水流を利用して、砂を操作を緩めにしたままで加速させていく。水流の中に閉じ込めれば砂を封じられると思ったのは判断ミスだぜ、アル! 水流に逆らう事なく、砂を徐々に加速させていってっと。
「くっそ、逆に加速に使うのかよ!?」
「そういう事だな! ほいよっと!」
水流の角度を見極めて、水流で無駄なく加速させた砂を最短距離で的を狙える位置から一気に加速させて、水流から抜け出しそのまま毒の球へと砂をぶつけていった。よし、今回は俺の勝ち!
とりあえず不要になった砂の操作は一旦解除。アルも水流の操作を解除していた。まぁ何度も使う必要があるから、この辺の手順は必須である。
「お、ケイさんの勝ちだな! なんかよく分からんけどすげぇな!」
「……まったく、あっさりと対抗策を見つけるもんだな」
「ふふふ、俺の方が水流の操作は使い慣れてるからな!」
「まぁそりゃそうなんだがな……。よし、行動値を回復させたらもう1戦だ!」
「受けて立つぞ、アル! 目指せ、全勝!」
「……その可能性が高そうなのが微妙な心境になるな……」
まぁそうは言ってもアルの操作も決して悪いわけじゃないんだけどね。ただ、魔法と操作をメインの攻撃手段にしている俺としては負けたくない所なんだよね。
そうして少しの間、行動値の回復に専念していた。まだ余裕はあったのに流れで回復する事になったけど、これって無理に回復させる意味あったっけ?
「よし、行動値は全快だな。ケイ、続きをやるぞ」
「ほいよ。ザックさん、また的をよろしく!」
「おうよ! んじゃいくぜ。『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」
そして2戦目が始まった。さて、次はアルはどんな手でやってくるかな?
「『並列制御』『水流の操作』『水流の操作』!」
「湖の水を使うのはズルくねぇ!?」
「こうでもしなきゃ勝てる気がしないんだよ!」
くっ、アルめ。地形的に湖に大量の水があるのを活用してきたか。2つの水流に対応するとなると……いや、流石にまだ動きがぎこちないな。よし、これならこれで良いだろう。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 66/67(上限値使用:3): 魔力値 197/200
<行動値を20消費して『砂の操作Lv2』を発動します> 行動値 46/67(上限値使用:3)
アルの2つの水流の片方が俺の砂を目掛けてやってくるが、今回もまたあっさりと飲み込まれておこうっと。天然産の水で魔法産の砂を相手取るのは下策だぞ。
「ちょ!? 砂が流れを乱しまくって制御が!?」
「ふふふ、天然の水での水流の操作で魔法産の砂を抑えきれるはずがないからな」
よし、もう片方の水流で的を狙うつもりだったみたいだけど、俺の砂で乱しまくった水流の制御に手間取っているようだ。……あれ? でもアルがこんな簡単なミスをやらかすか……? はっ、もしかして!?
「なんてな? 油断大敵だぜ、ケイ」
「あ、制御に手間取ってたのはハッタリか!?」
「お、今度はアルさんの勝ちだな。いやー、2人ともすげぇなー」
くっ、もう1つの水流が的に命中してた。今回は俺がアルを甘く見過ぎていたか。俺が砂で水流を乱すのに対抗するように操作をするのは本気でやってたんだろう。でもそれはあくまでも囮で、まともに操作出来なくなってたように見えたもう1つの水流が本命だった訳だ。
わざとまともに操作出来ないように調整していたってことなんだな。思いっきり油断したー!
「……まだそんなに減ってない行動値を回復したとこから、そもそも仕込みだったんだな?」
「ま、そういう事だ。全快させておかないと並列制御では使えないしな」
「……確かにそりゃそうだ。もう1戦、やっとく?」
「おう、そうしようぜ。まだLv3に上がってないからな」
「まぁそれが目的だもんな。ザックさんももうしばらく付き合ってもらっていいか?」
「おう、問題ないぜ!」
「んじゃ、また行動値の回復からか」
「お、良いのか? また並列制御でやるぞ?」
「別にそれでもいいよ。勝負にはしてるけど、目的はLv上げだしな」
「……それもそうだな。それじゃ回復し次第、次をやるってことで」
「ほいよっと」
あくまでも目的はアルの水流の操作と、俺の砂の操作をそれぞれLv3まで鍛える事である。勝負という形式にしているけども、実際にはそこまで勝敗に拘ってるわけでもないからね。まぁやるからには勝ちたいところではあるけども……。
「アル、ちゃんと湖の水は戻しとけよー!」
「ケイみたいに津波にはしねぇから、心配すんな」
「うぐ!?」
それを言われると反論し辛いんだよね……。普段の状況なら多分津波を起こしたとしても怒られることはないだろうけど、今はこの湖の畔で竈を作って盛大に火を扱ってる真っ最中。……うん、割と荒らすのは前提な感じのこのゲームでも、今の状況で荒らしてしまえば流石にマズい気がする。
アルもそれは承知しているようで、丁寧に水流の操作に使った水を湖に戻していた。まぁ、そうなるよねー。
そしてまた行動値の回復の時間を設けていく。この勝負の前にもそれなりには熟練度稼ぎはしてたから、あとどのくらいでLv3になるかな? お茶の検証が終わるまでには上がっておいて欲しいんだけどね。
「よし、それじゃもう1戦やりますか!」
「おうよ! ザックさん、頼んだぜ」
「任されたぜ、アルさん! 『ポイズンクリエイト』『毒の操作』!」
通算3度目の勝負がこれで開始である。さて、アルは今度はどんな手で来るかな? 今度は油断せずに対応しきってみせる!
「行くぜ! 『アクアクリエイト』『並列制御』『水流の操作』『水流の操作』!」
「げっ、今度は両方で来るのかよ!?」
これは特訓場所の設定を間違えたかな? アルは湖の水と魔法産の水の両方を操作していき、うまく使い分けてくるね。えーと俺から見て右側の水流が湖の水で、左側が魔法産の水か。
「そんでもって、こうだ!」
「え、あれ!? どっちがどっちだ!?」
くそう、アルめ。2つの水流を湖の中に流し込んでどっちがどっちか分からなくしてきた。魔法産と天然産だと威力に変化が出るから、どっちか分からないのは地味に厄介だぞ。
ともかく俺は俺で砂の操作を発動しなければ! っていうか、俺もアルも互いに出し抜く事を考えて直接、的は狙ってないな。……ふむ、いっそ無視してそっちを狙うか?
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 66/67(上限値使用:3): 魔力値 197/200
<行動値を20消費して『砂の操作Lv2』を発動します> 行動値 46/67(上限値使用:3)
<熟練度が規定値に到達したため、スキル『砂の操作Lv2』が『砂の操作Lv3』になりました>
あ、砂の操作が目標Lvに到達した。よし、これで俺の方の予定は完了だ! とはいえ、勝負中だし……って、あ……。うわー、アルの水流が的に直撃してるじゃないか……。
「アルさんの勝ち! ってか、ケイさんどうしたよ?」
「……いくらなんでも隙だらけ過ぎるぞ、ケイ?」
「スキルLvが上がったのに気を取られてた……。いやでも、アルの操作も早くなってない!?」
「お、マジか。まぁ荒々しいだけで狙い自体はつけにくい訳でもないしな。それはそれとして今回は俺の勝ちだな」
「くっ! いくらなんでも油断し過ぎた!?」
砂の操作が目標Lvに到達したのは良いけども、我ながらこの負け方はない。これは猛省しておかなければ……。
「おーい、サヤ、レナさん、アルさん、ケイさんー! お茶の検証結果が出たよー!」
「だとよ、ケイ」
「聞こえてる……。それじゃとりあえず特訓はここまでか……」
ハーレさんが検証の終了を伝えてきた事だし、特訓については時間切れだね。アルはまだ水流の操作はLv3にならなかったみたいだけど、俺はぎりぎりで目標達成だね。
あ、そうだ。特訓に付き合ってくれたザックさんにお礼を言っておかないと。親しき仲にも礼儀ありだ。
「ザックさん、ありがとな」
「良いってことよ! ところでお茶って何やってたんだ?」
「あー、そういやそれも知らなかったか」
ザックさんはタイミング的にここで何が行われていたかの確認は一切出来てなかったもんな。今更言っても遅いけど、行動値の回復中にでも説明をしておくんだった。
とりあえずザックさんに簡単にお茶の検証内容を説明して、検証を行っていた方へと移動していく。さて、どんな結果になったんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます