第478話 新たな戦法


 ヨッシさんがラックさん達と共にお茶の検証を始めたので、その間は特訓して待機である。俺達だけなら俺の岩の操作とかの出番はあったんだろうけど、灰のサファリ同盟のメンバーが大勢いるなら出番はないしね。

 それに俺もアルもそれぞれに砂の操作と水流の操作の特訓をしたいところではある。ここは良い機会だし、実用段階になるLv3までサクッと上げておきたい。そして、共に操作系スキルの特訓なら操作勝負といこうじゃないか!


「アル、砂の操作と水流の操作で勝負!」

「おう、いいぞ。いいんだが、ちょっと木に切り替えてくるわ。特訓なら木に専念した方がやりやすいからな」

「あー、確かにその方がいいか。アルは湖に浮いとくか?」

「場所も場所だしそれが良いかもな。よし、すぐ切り替えるから待っててくれ」

「ほいよっと」


 一度アルがクジラから木に切り替えるという事で、クジラを着陸させた状態で一度ログアウトしていった。まぁ共生指示で発動も出来るようにはしてたみたいだけど、移動しない状況であれば木でログインしてる方がやりやすいよな。とにかくアルが再ログインするまでは待機だね。


「あっちはあっちでやる気いっぱいだねー! サヤさん、わたし達も勝負してみる?」

「え、レナさんと勝負かな?」

「ちょっとサヤさんとは戦ってみたかったんだよねー?」

「そういう事なら私もやってみたいかな!」

「それじゃ決まりねー! 1撃をまともに入れた方が勝ちでいい?」

「うん、問題ないかな」


 お、どうやらサヤとレナさんが戦うようだね。この2人はどっちもプレイヤースキルは高いから、どういう勝負になるのかは気になるところではある。


「ケイさん、合図よろしくー!」

「ケイ、お願いかな」

「ほいよっと」


 アルがキャラの切り替え中だから、合図をするのには手の空いている俺が適任か。他のみんなは……あ、作業してるのかと思ったら、思いっきり見物状態になってるよ。まぁ、その気持ちは分からなくもない。

 さてとサヤもレナさんも臨戦態勢に入っているね。小さなリスと大きなクマが向かい合っているというのも奇妙な光景だけど、まぁこのゲームでは今更な話か。それじゃハサミを振り上げてからのー!


「試合開始!」

「『自己強化』『並列制御』『アースクリエイト』『強脚撃』!」

「わ!? 『共生指示:登録2』!」


 俺がハサミを振り下ろすと、即座にサヤよりも高くジャンプしたレナさんが少量の砂を生成してオーバーヘッドキック的な感じで蹴って散らばしていた。それに対してサヤは電気の弾を首の竜から放つ事で迎撃している。

 いきなりそういう手で来るか、レナさん!? サヤの竜の電気魔法での迎撃という咄嗟の判断も良かったけど、生成と蹴飛ばすのを並列制御にする事でタイムラグを減らすとはやはり侮れない。それにダメージの発生しない状態では全体的な速度も上がる自己強化が最適なんだろうな。


「あちゃー、サヤさん相手にはやっぱりこの程度じゃ無理っぽいねー。それじゃ、これでどうだ! 『伸縮爪』『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『爪刃乱舞』!」

「あ、小石を掴むのかな!? 『自己強化』『爪刃乱舞』!」


 レナさんの脚の爪がリスとしては異常に大きく変わっていき、サヤの爪の連撃と互いに打ち合っていく。へぇ、小石を足場にするんじゃなくて、手で掴んで位置調整に使ってるのか。そして蹴りによる連続攻撃だけど、爪刃乱舞って蹴りって形でも発動出来るんだね。

 あ、お互いに連撃が終わった状態でサヤが竜に乗って距離を取ったか。うん、流石に意表を突かれた感じだし、仕切り直したいとこではあるね。


「まだまだー!」

「私も負けないかな!」


 今度はスキルなしでの打ち合いが始まった。身軽なレナさんは小回りを効かせて蹴りを主体に攻撃していくけど、サヤは竜に乗ってそれを上手く回避していく。どちらも使える手段が増えてきているし、プレイヤースキルも高いので中々決定打は入りそうにない。

 レナさんもサヤも自己強化を使っているから攻撃速度は通常より早いけど、どっちも上手く凌いでるね。ただ対照的なのはサヤはクマの体格を生かして踏ん張っているのに対して、レナさんはあえて勢いを殺さずにわざと吹き飛ばされる事もある点かな。近接でもこういう所で違いが出るんだね。


「これで決めるかな! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連閃』!」

「およ? 爪刃双閃舞じゃないんだね。それならわたしも! 『アースクリエイト』『操作属性付与』『連爪回蹴撃』!」


 そこからは石でコーティングされたような脚で連続の銀光を放つ回し蹴りを繰り返すレナさんの攻撃を、サヤが風属性で速度を増した爪の銀光を放つ連撃で受け流すという形になっていく。

 あー、これはLv差と付与した属性の追加効果で地味に差が出てるね。サヤの風で速度は対抗出来ているけど、レナさんの回し蹴りという特徴に土属性の重量増加による威力増加が影響してるっぽい。ちょっとサヤが押されている。


「うっ、でもまだかな! 『上限発動指示:登録1』『爪刃双閃舞』!」

「およ!? 腕に竜を巻き付けて雷纏い!? 『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『連蹴撃』!」

「逃さないかな!」

「わー!? ありゃ!?」


 押されていたサヤが右腕に竜を巻き付け、雷纏いを発動させていく。なるほど、サヤも考えたな。これなら迂闊に打ち合って竜纏う雷に触れる事があれば、少なからず麻痺が発生する可能性はある。

 それにしても小石を2個生成して足場に使い、連続蹴りを駆使してサヤの連撃を回避していく。その回避方法は凄いんだけど、レナさんは土の操作がまだ微妙っぽいな。サヤの攻撃を全部回避したものの、最後に踏み外してすっ飛んでいってるよ。


「ふふっ、上手くいったかな。レナさん、少し慌てすぎだよ?」

「ぐぬぬ! 同じ群集だから麻痺効果はないのに盛大にミスったー!?」

「まだまだいけるよね、レナさん」

「もちろんさー!」


 あ、そういや同じ群集だから基本的には状態異常は効果ないんだった……。これは俺までついうっかりだったね。うん、ハッタリというのも時には有効か。


 そして再び攻防が始まっていく。さっきは押され気味だったサヤも竜を牽制に上手く使う事で、Lv差による動きの差を縮めているね。ふむふむ、竜が良い感じだけど、サヤはまだ打撃の特性を活かした攻撃はしてないな。

 サヤもレナさんも今までとは違った感じの戦い方をしてるけど、これはまだレナさんは馴染んでないみたいである。ふむ、同じ近接メインでも単独進化と共生進化で戦い方って結構変わってくるんだな。


「おー、盛り上がってんな?」

「お、アル、戻ったか」

「おうよ。で、これどういう状況?」

「あー、まともに1撃を先に入れた方が勝ちの勝負中になってるぞ。アルが切り替えに行ってからすぐ始まったな」


 再ログインして戻ってきたアルに簡単な事情は説明をしておかないとね。それにしても他のみんなはいつの間にやら検証作業をしながらの見物に移行している。俺らもアルが戻ってきた事だし、特訓をしていくべきかな?

 あー、でもサヤとレナさんの勝負の決着ってのも気になるんだよね。うーむ、その辺はアル次第にはなりそうだ。


「……なるほど、それでこの状況か。少しサヤが押され気味みたいだな」

「まぁレナさんは単独進化っぽいし、Lvは上だもんな」

「あーそういやそうなるのか」


 それを考えれば押されているとはいえ、プレイヤースキルでステータスの差を埋めているサヤもやっぱり凄いところだね。アルも興味津々のようだし、この決着がつくまでは見ておこうかな。


「ぐぬぬ、やるね、シャ……サヤさん!」

「あ、レナさん噛んだね」

「だなー」

「レナさん、ドンマイです!」

「あはは、そういう事もあるよね」

「見物してる外野、うるさいよー!? 検証するんじゃ……ってちゃんとやりながら見てたー!?」

「当たり前だっての! お、こっちのお湯は沸いたぞ」

「それじゃフレッシュから行ってみよー! ヨッシさん、草は細かく切っておく?」

「そのままのと、切り刻むのを両方試してみるのが良いかも? 発火草を切り刻むのはやるね。『斬針』!」

「うん、よろしくー! 誰か空きのある壺の土器、余ってないー?」

「おう、こっちにあるぞ。ほれ、空きを2個だ」

「あ、ありがとねー! それじゃ片方には発火草をそのまま入れてっと。ヨッシさん、切り刻むのは終わったー?」

「終わったよ。はい、これどうぞ」

「うんうん、ありがとー! それじゃお茶になるか、検証開始ー!」


 どうやら見学しながらでも順調に検証は進んでいたようである。っていうか、ハーブよりも先に発火草で試してみてるんだね。……あ、違う。他のグループがハーブティーの方の検証をやってるみたいだから、同時進行なのか。


「おっしゃ、ラベンダーのハーブティーは出来たぞ」

「効果は……あ、10分間の物理ダメージの軽減なんだ。効果量は1%でそんなに高くないから気休め程度だね」

「みたいだなー。ペパーミントは魔法ダメージの軽減か。こっちも10分で、効果量はこっちも1%だ」

「ハーブティーは気休め程度のダメージ軽減なんだな。まぁ、あれば良いけど必須級ではなさそうか」


 ほうほう、灰のサファリ同盟の検証メンバーから漏れ聞こえてくる内容的にどうやらハーブティーの効果はダメージ軽減系のバフみたいだな。聞こえてきた範囲では1%ではそれほど効果は高くないから、どちらかというと嗜好品の類なのかもね。……まぁ効果量については、上げる手段もありそうな気もするけど。


「……なんだか気が削がれちゃった気がするけど、レナさん続きはどうするかな?」

「……あはは、わたしもそれは同感。うん、決着は対戦機能が正式に実装されてから改めてやろう! まだお互いに扱いきれてないとこも多いみたいだしねー」

「……確かにそうかな。まだ新しい特性に合わせたスキルの強化も出来てないしね」

「やっぱりまだ手を隠し持ってたねー!」

「そういうレナさんこそ、連撃系が増えてたかな。それに戦法自体も前とは違うよね?」

「うん、今はこの脚の爪に合わせて手札を増やしてるところだよ!」

「それじゃその辺も含めて普通に特訓かな?」

「そうだねー。そうしよう!」


 あ、決着付かずで勝負は終わりになって、普通の特訓を始めたね。まぁレナさんのプレイヤースキルの水準は高かったとはいえ、今日はどことなくぎこちなさもあったもんな。まだ万全に扱いこなせている訳じゃないんだろう。……ま、今日の夕方に追加した特性を使って既にこれだけ動ければ充分な気もするけどね。


「さて、見物も終わったし俺らもやるか!」

「おう、良いぜ! それじゃ俺は湖の上でやるか。『上限発動指示:登録1』『移動操作制御』!」

「俺はみんなのいない反対側にいくか」

「あー、確かにその方が良いかもな」


 そうしてアルはクジラを浮かせ、その下に落下防止の水のカーペットも用意していく。これなら空中浮遊が切れたとしても湖への落下は防げるね。

 俺は俺で検証中のみんなを巻き込まないように、人の少ない対岸側に移動しようっと。制御の甘い水流の操作と砂の操作での勝負だからな。流石に規模が大きくなるし、検証の邪魔はしないようにしないとね。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 69/69 → 67/67(上限値使用:3)


 よし、とりあえず移動用に水のカーペットの生成完了! サッと跳び乗って湖の対岸へ移動だー!


 そんなに長距離でもないので、すぐに移動完了である。さてとさっきの検証状況なら、おそらくそんなに時間はかかりそうにはない。……せっかくならサヤとレナさんの勝負の見学中に砂を操作しとけば良かったな。まぁ今更言っても仕方ないけど……。

 とにかく済んだことは良いとして、アルとの勝負をやっていこうじゃないか。あ、その前にルールを決めておかないと……。応用スキルだと通常スキルの操作系スキルとは規模が違うからね。


「アル、どういうルールでやる?」

「あー、その辺は考えてなかったな。……ケイ、1つの標的にどっちが先に当てるかってのでどうだ?」

「ん? お互いに当てる訳じゃないのか?」

「流石にお互いの大きさも操作の規模もこれまでと違いすぎるからな。……あっちにある岩を標的にするのでどうだ?」

「あー、この岩か。でも位置的に微妙じゃね?」


 大きさとしてはかなり大きめな岩だから的としては良いんだけど、ちょっと俺の移動した対岸からはズレている。まぁ俺やアルが位置を変えればいいんだけど、そうすると検証の邪魔になりそうな気もする微妙な位置なんだよな。

 あ、でも岩の操作があるんだから移動させれば良いだけか。……それにしてもこの大きな岩って前はこんなとこにあったっけな……? 何度もこの付近には来てるけど、見覚えがないぞ。


「……なぁ、アル。こんなとこに岩なんてあったっけ?」

「前はなかったと思うが、誰かが岩の操作の特訓で使ったヤツなんじゃねぇか?」

「あー、そうか。そういう事もあるよな」


 よく考えたら当たり前といえば当たり前か。今日の共闘イベントの終了でミズキの森林が灰の群集の占有に戻ったけども、そうでなかった昨日まででも特訓が出来ない訳じゃないもんな。誰かが使って、そのまま残っていたって認識で良いんだろうね。


「よし、それじゃこれをちょうどいい場所に移動しとくか」

「ケイ、任せたぞ」

「おうよ」


 さてと的用の岩を移動させてから、アルとの勝負の開始だな。それじゃ岩の操作を行ってみよー!


<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 64/67(上限値使用:3)


 これであの岩を支配下に置いて……あれ? 支配対象に出来ないんだけど、なんでだ……? 何か少し嫌な予感がしてきたんだけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る