第477話 イベント報酬の活用方法


 そうして湖の畔まで移動してきたけども、ちょーと予想外の光景が広がっていた。え、何このお祭り騒ぎ……? なんかみんなが集まってるんですけど。


「おい、カイン! こっちにも火種をくれ!」

「こっちも頼む!」

「それなら、その辺に用意してある薪に火をつけて勝手に持っていってくれ!」

「お、これか。ほいよっと」

「誰か天然産の少し大きめの石を沢山持ってこい! 生成したのじゃ時間制限が面倒だ!」

「ほいよー! ちょっと岩山まで行ってくるわ!」

「それじゃPTを組んでいこう! 希望者、集まれ!」

「あ、それ行く!」

「俺も混ぜてくれ!」


 えーと、改めて観察してみると湖の畔でキャンプファイヤー的な大きな火を扱っているカインさんがいるのは割とよくある事なので良いとして、その周りに魔法で生成した即席の竈っぽいものが複数あるのは気のせい……?


「お、ケイさん達も来たんだねー!」

「あ、レナさん。……これ、どういう状況?」

「ありゃ? 知ってて来た訳じゃないんだね?」


 うん、まぁ何となくは想像出来てはいるんだけど、知ってて来た訳じゃないのは間違いないね。これはみんなの検証の方が早かったっぽいな。

 それとは関係ないけど、レナさんのリスの脚の爪が少し鋭くなっている気がする。そういや鋭い爪を追加するって言ってたっけ。でも短い爪だから、サヤの爪みたいに伸縮するようになってるのかな? そしてレナさんには共同体の所属のひし形マークはないから、未所属なんだね。ふむ、あちこちに行ってるみたいだしその関係かな?


 まぁ、それは今はいいや。とりあえずレナさんは現状の目の前に広がる光景について知ってそうだし、聞いておこうっと。


「レナさん、詰め合わせ系の報酬の器って食器や鍋代わりになるのは確定でいいのか?」

「うん、それで間違いないよー! ただ、一度使うと耐久値が表示されるようになるから要注意ね」

「あ、やっぱりそうなんだ。あはは、みんな、私達で検証する必要はなくなったみたいだよ?」

「まぁそういう事もあるさー!」


 ふむふむ、耐久値があるって事は永続的に使える訳じゃないんだね。周囲をパッと見た感じでは肉の詰め合わせのフライパンっぽい感じの土器で焼いてる人が多い感じか。手で持ったり、根で持ったり、土の操作で支えてたりと色んな手段で焼いているようである。

 急に竈が消滅しているところもあるし、あれは魔法で生成した窯か。その辺の対応のためにさっきの石を集めてくるPTの募集があったんだろうね。


 うーん、灰色のひし形マークがある人も結構いるし、所属を確認してみればちょいちょい灰のサファリ同盟の本部所属の人がそこそこいる。この辺の検証も侮れないな。


「これ、検証はどうする?」

「……やるだけ無駄足みたいかな?」

「はい! 少し気付いた事というか、思い付いた事があります!」

「はい、ハーレさん、どうぞ」


 何に気付いたのかは分からないけども、ハーレさんも地味に鋭いところはあるからね。特に食べ物が関わる事であれば尚更の事である。


「レナさん、壺を火にかけている人が少ないのは何でですか!?」

「あー、それ? 何かを煮込むにしても、調味料が殆ど無いから微妙って言ってたよ。今やってる人達は海水で魚を煮てるんだったかな。なんか、そういう料理があるんだってね?」

「えっと、海水で煮る料理って言ったらマース煮だったかな……? 確か沖縄の方の料理だったはず……」

「おー!? そんなのあるんだね、ヨッシ!?」

「食べた事も作った事もないんだけどね。うん、でもそれくらいなら出来そう」


 へぇ、沖縄にはそんな料理があるんだな。沖縄とか行ったことないから全く知らなかったよ。それにしても調味料不足はどうしようもないよな。まぁゲームの性質上、シンプルな味付けのみになるのも仕方ないとは思うけどね。


「……ねぇ、ヨッシ。ちょっと思い付いた事があるんだけど、言ってみて良いかな?」

「いいけど、どうしたの、サヤ?」

「煮るのとは違うんだけど、お湯は沸かせられるんだよね? お茶とかって無理なのかな?」


 ほうほう、確かにお茶ならばもしかしたら可能性はあるかもしれないね。お茶を飲みながらまったりと過ごすというのもありか。


「あ、そっか。お湯があるなら、お茶は出来るかも。……レナさん、お茶の葉って見つかってる?」

「ごめん、その辺はよく知らないや。でもお茶なら出来そうではあるね。サヤさんが気になったのはその辺り?」

「ううん、別の事かな。ヨッシ、発火草とか癒水草とか沢山あったじゃない? あれって、煮詰めたらどうなるのかな?」

「……その可能性は考えてなかったよ」

「お、何か新発見の予感! そういう話なら、ちょっとラックを呼んでくるから待ってて」


 そう言ってレナさんは駆け出していった。灰のサファリ同盟のメンバーが結構いるし、フレンドコールではないって事は、ラックさんも今はここにいるんだろうね。


「サヤ、ナイスな目の付け所さー!」

「ハーレ、まだ気が早いかな? 試してみないと分からないしね」

「ま、それでもあれらに他の用途があるってのは充分あり得るからな」

「そうだといいな。ヨッシさん、内容にがっかりしてたしね」

「……あはは、ケイさんの言う通りだね。これであれらに他の用途があれば嬉しいね。そっか、お茶って手段があるかもしれないんだ。うん、これは嬉しいかも!」


 現状ではあの系統の草には実との合成にしか用途がないもんな。まぁそれはそれで有効活用は出来るんだろうけど、不動種の手による合成が必須だしね。ここでヨッシさん自身が出来る他の加工手段が見つかれば、あのがっかり感も無くなるはず。まぁ成功した上で、その効果にもよるんだろうけどね。


 少し待っていると、リスの2人がやってきた。レナさんがラックさんを連れてきてくれたようである。


「お待たせー。ラックを連れてきたよー!」

「みんな、面白い提案があるって聞いたよー! 氷結草とかでお茶を作ってみたいんだって?」

「そうだよー! サヤの発案です! ラック、出来そう!?」

「うーん、ちょっとやってみないと何とも言えないね? お茶に関しては今日になってハーブが何種類か見つかったから、ハーブティーを試してみようって話にはなってたんだけどね」


 ほうほう、ハーブがあったんだ。まぁあっても不思議ではないものではあるか。とは言っても、ハーブの種類とか俺はろくに知らないぞ……?


「あ、ハーブって見つかったんだね? 何があったの、ラックさん?」

「とりあえずはカモミールとかラベンダーとかペパーミント辺りだね。そのままでも効果があるのかと思ったけど、意外と効果はないみたいでさ。調理の風味付けにはなっても効果は上がらなかったよ」

「へぇ、そうなんだ? うーん、種類も多いから全部に効果を設定すると多過ぎるのかもしれないね」

「うん、灰のサファリ同盟としてもヨッシさんのその結論と同じだよ。それで一応純粋にハーブの効能が出るハーブティーを試してみようって事になったんだ」

「……なるほどね。ハーブティーってドライとフレッシュのどっちで試してみるの?」

「とりあえずは乾燥は出来てないからフレッシュだね。氷結草とかもそれでやってみる?」

「まずはそっちから試してみた方が良さそうだね。まずはーー」


 そこから先はヨッシさんとラックさんの2人で話し込み始めていた。うん、途中から何を言ってるのか全然分からない。母さんなら時々紅茶とかを飲んでるし、確か庭でハーブを育ててた気もするから分かるかもしれないけど、その辺は興味がないからさっぱりである。


「アル、ハーブティーとか分かる?」

「あー、その辺はさっぱり分からんな」

「だよなー。俺もよく分からん」

「ハーレはお茶とか興味はあるのかな?」

「あるにはあるけど、今はお母さんに入れてもらうしか手段がないです! そしてヨッシは地味にお茶好きです!」

「……ヨッシさんってお茶好きだったのか。それはそうと、サヤ。ハーレさんが自力でお茶を入れようとした日には俺の家のコップが悲惨な事になるから……」

「あ、そういえばそういう話だったかな……?」


 食事絡みになるとハーレさんは壊滅的な被害を引き起こすからね。その辺はハーレさん自身も、家族の全員も承知している事実である。そんな危険な事は流石にさせられない。……お茶を入れる行為ってそんなに危険なものだったかという疑問も出てくるけども、色んな前例があるから怖いんだよな……。

 それにしてもヨッシさんはお茶好きなのか。ラックさんと話の盛り上がり具合から見ると、ラックさんもそうみたいな感じがするよね。


「はいはい、お茶で盛り上がるのは良いけど、ラックさんもヨッシさんもみんなを置いてけぼりはその辺までねー!」

「あっ!? みんな、ごめん!?」

「……あはは、ついね?」

「ともかくお茶は試してみるって事で良いの?」

「うん、そのつもりだよ、レナさん。ヨッシさん、手伝ってもらえる?」

「え、あ、ちょっと待ってね。みんな、ちょっと手伝ってきていい?」


 お茶好きという事らしいヨッシさんとしては是非参加していきたいってところなんだろう。まぁ特に急ぎの事もないし、時間としてもまだ9時を過ぎたくらいである。ヨッシさんの氷の昇華が少し遅れる可能性はあるけども、これも絶対に今日中に取得しないといけない訳でもない。

 俺も含めて、他のみんなの特訓とかはここでも出来るしね。ヨッシさんがそうしたいというのであれば、反対する理由もない。ヨッシさんは普段、これをしたいって主張する事も少ないしさ。


「ヨッシさんさえ良ければ別にいいぞ。いいよな、みんな?」

「おう、問題ないぜ!」

「うん、私も問題ないかな」

「もちろんさー! 試飲、出来るよねー!?」

「ハーレさんは飲む気満々かい!?」


 いや、それでこそハーレさんと言ったところだけどね。ここでそれを言わなきゃハーレさんではないとすら言えるかもしれない。……流石にそれは言い過ぎか。


「みんな、ありがとね! それじゃラックさん、色々と試してみよう!」

「そだね! 材料は灰のサファリ同盟で出そうか?」

「あ、私も結構な数を交換してるから、自分の分は自分で出すよ。ケイさん、竈を作るから手伝ってくれない?」

「それは別に良いけど、さっきの感じだと天然の石のほうが良さそうな感じじゃなかったっけ?」

「あ、それもそうだったね。うーん、それならーー」

「それなら適度な大きさな石はいくつかあるよー! 私じゃ投げれないけど、拾っておいたのがあるのさー!」


 そう言いながら、ハーレさんが岩とは呼べないけども、それでもリスの身体の大きさからすれば大き過ぎる石を沢山出してきた。ふむふむ、これだけあれば石を積み重ねた即席の竈は作れそうである。


「そういや色んな移動の合間に拾ってたっけ。うん、ハーレ、ありがとね」

「どういたしましてー!」

「それじゃ私は竈を組むのを手伝おうかな? ヨッシ、やり方って分かる?」

「あ、やった事はないからそれは微妙かも……?」

「ヨッシさん、そっちについては灰のサファリ同盟で補佐するから大丈夫だよ。『灰のサファリ同盟・土木班』出番だよー! 竈を組める人、1人こっちを手伝ってー!」


 ほほう、灰のサファリ同盟に土木班っていうのもあるんだね。うん、思った以上に灰のサファリ同盟は組織的に凄い事になっているようである。


「おー、ラック、呼んだか?」

「うん、呼んだよ。えっと、このハリネズミの人が土木班の1人のダインだね。ダイン、例のハーブティーともう1つ同じような検証をしたいから、お湯を沸かす為の竃を用意してもらえない?」

「……もう今日だけで何個目の竈だって気もするが、まぁここで量産しておくのもありか。よし、任せとけ! てか、もうちょいで手が空くやつもいるから、もう少し多めでも行けるぜ?」

「そっか、それじゃ何ヶ所か用意をお願いね! さてと、水はすぐそこ湖の水を使おうかな。あ、ケイさん達はどうする?」

「私の我儘だから、みんなは好きにしてていいよ?」


 ヨッシさんは好きにしてて良いって言ってるし、検証の間はどうしようか? 天然の石で竈を作るなら俺の土の昇華の出番もなさそうだし、ただ見ているだけというのもちょっと時間が勿体無い。……となれば、今のうちに砂の操作をLv3まで上げるのが良いかもね。


「よし、アル! 俺は砂の操作のLv上げをするから、相手してくれ」

「お、そういう事なら俺も水流の操作を鍛えるか」

「私は風の操作で浮きながら見物してます!」

「えっと、私も見学してようかな……? ハーレが見物で、ケイとアルで特訓なら1人になるし……」

「それならわたしが相手しよっか?」

「え、レナさん良いのかな?」

「いーの、いーの! わたしは何処かに所属してる訳でもないからねー!」

「……そういう事なら、特訓の相手をお願いしても良いかな?」

「もちろんさー! ふっふっふ、わたしも新しい特性に合わせた戦法の調整もしたいしね」


 なるほど、レナさんは新たに増えた脚の鋭い爪を使った攻撃の実戦訓練をしたかったんだね。それならサヤは申し分ない特訓相手という事になるんだろう。サヤも打撃の特性を追加しているんだし、お互いに利のある特訓になりそうだ。


「よし、それじゃヨッシさんとラックさん達のお茶の検証が終わるまでは、各自特訓って事で良いな?」

「おう、問題ねぇ!」

「問題ないかな!」

「了解です!」

「みんな、ありがとね」

「さぁ、検証を始めるよ、ハーレ、ヨッシさん!」

「特訓の方も始めようかー!」

「「「「「おー!」」」」」


 イベント報酬で貰ったアイテムの詰め合わせが入っていた器の検証の予定からは随分と逸れたけども、これはこれで重要な内容にはなってきた。まぁそれほど長時間かかるとも思えないから、その間に特訓をしつつ待機だね。

 これらの検証が終わり次第、雪山へ移動してヨッシさんの氷の昇華を手に入れないとね。まぁその時の時間次第にはなるけども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る