第476話 共同体の結成
そんな風に話している内に、もうエンの姿が見え始めてきた。アルの水流と水のカーペットのコンボは結構速い。今はまだ水流の操作のLvが低くて制御は甘いから蛇行しまくったりしているけど、水のカーペットで角度調整をすれば、基本的には浮いているクジラの方には影響は少なかった。
前は俺とアルの2人で似たような事をして速度が出過ぎた事もあったけど、アル1人で制御するならもっと安定するだろうしね。
「とりあえず雑談はそこまでだな。もう到着するし、水流の操作は解除するぞ」
「思った以上に早かったなー」
「水流の操作が思った以上に便利だからな。ま、早めにLv3にはしたいとこだが……」
「……あはは、制御が甘くて蛇行しまくってたもんね」
「それはまぁ仕方ないな。Lv3になれば安定するだろ」
とりあえずアルの水流は消滅して、水のカーペットと空中浮遊で浮いている状態になっている。基本的に操作系スキルは基本スキルでも応用スキルでもLv3が実用Lvの基準だからね。そこまでは比較的上がりやすいから、出来るだけ早くに上げておくべきである。俺の砂の操作もだね。
「まぁな。とりあえず今日の俺の目的は水流の操作をLv3にすることだな」
「それなら俺は砂の操作をLv3だな」
「私達はさっき言った通りだねー!」
「そうなるかな?」
「ま、そうなるよね」
さっき話してはいたけども、サヤもハーレさんもヨッシさんも既にどういう方向性に強化するかは決定済みだからね。アルに関しては移動しながらでも鍛えられるし、俺の砂の操作も昇華で生成が可能になったから場所の制限はない。
そういう条件で考えるのなら、場所に制限があるヨッシさんの氷の昇華も取得が最優先か。
「それならアルの水流の操作で雪山まで移動しつつ、背中の上で特訓して、ヨッシさんの氷の昇華狙いが良いか?」
「あ、そうしてもらえるとありがたいね」
「それで決定さー!」
「私もそれがいいと思うかな」
「俺も賛成だぜ。まぁ今はエンの場所に到着したし、先に共同体を結成しようぜ」
「「「「おー!」」」」
みんなで予め苦戦しながらも共同体の名前は考えてあるし、とうとう共同体の結成である。それにしても実装された当日だから若干混雑しているか。でもまぁ空中からだと空いているのはありがたい。まぁ飛べる人が増えたのか、前よりは空中も混むようになってるけどね。
改めて上空からエンの場所を見回してみれば、流石に共同体の実装って事もあり、今日は人がいつもより多い。全員が全員って訳じゃないだろうけど、結構共同体を作る人はいるんだね。
あ、よく見れば共同体のメンバー募集してる人や、所属出来る共同体を探している人もいるっぽい。まぁ俺らみたいに早いうちから固定メンバーになってない人も多いだろうし、この機会に交流を深めていくんだろう。
「ケイ」
「ん? なんだ、アル?」
「なんだじゃねぇよ。リーダーはケイがやるんだから、ほれ!」
「あ、PTリーダーの権限の変更か」
ぼんやりと周囲を見てたけど、そういや共同体の結成時にPTのリーダーがそのまま共同体のリーダーになるんだった。まぁ多分後からでも変更は出来るだろうけど、初めからそうなるようにしてた方がいいか。
「それじゃ、ケイ、結成は任せたかな!」
「よろしくね、ケイさん」
「ケイさんに任せるのさー!」
「名前、付け間違えるなよ? 『グリーズ・リベルテ』だからな」
「分かってるって。流石にそんなミスはしない」
よっぽど変な入力ミスでもしない限りは大丈夫なはず。えーと、共同体の結成の手順としては3人以上のPTを組んだ上で群集拠点種へ申請で良かったはず。
折角ならエンに話しかけて結成といきたいとこだけど、地上は混雑しているのでいつものように空中でだな。さてと共同体の結成、やっていきますか。
「お、ケイさん達も共同体の結成か?」
「あ、紅焔さんもこれから結成?」
いざ申請をしようと思ったら、隣で紅焔さん達が飛んでいた。ライルさんはいるけど、ソラさんとカステラさんの姿が見えないからログインしてないのかな? そして辛子さんがいるという事は、もしかして……?
「おうともよ! これから『紅蓮飛行隊』を結成する!」
「……紅焔さんの好み全開になってない?」
「そうなんですが、まぁ他にいい案も出なかったもので……。まぁ辛子さんもメンバーに加わって、全員が飛行が可能な種族なので、それでも良いかという事になりましてね」
「辛子さんは、紅焔さん達のとこに入るのー!?」
「ま、そういう事だな。何かあったらよろしく頼むぜ!」
「なるほどね」
辛子さんは昨日の時点で紅焔さん達から勧誘を受けていたみたいだし、それを正式に受けたという事なんだろうね。それにしても西洋系のドラゴンと小鳥……多分スズメかな? そしてカブトムシとクワガタとタカのPTか。
ライルさんの2ndの木は別としても、基本的には全員が空を飛べる種族の集団だから『紅蓮飛行隊』なんだろう。紅蓮については間違いなく紅焔さんの趣味だろうけども。
「そういえば、ソラさんとカステラさんはどうしたのかな?」
「あー、2人とも今日は都合が悪くてログイン不可なんだよ。明日はライルが都合が悪くて、明後日は俺の都合が悪くてな」
「随分とまぁタイミングが悪かったんだな」
「そうなんだよ、アルマースさん! ホントは全員でやりたかったんだけど、仕方ねぇから今日いるメンバーだけで結成だけはしておこうって事になってな」
「まぁそういう事情じゃ仕方ないか」
全員が全員、いつでも都合よく集まれる訳じゃないからこういう事態も発生するんだね。それを考えると夕方は無理だったけど今は全員揃っている俺らは良かった方なのかもしれない。
「って事で、俺らは3人で先に結成してから後でメンバーの追加で対応だ! ライル、辛子、結成するぞ!」
「えぇ、お願いしますね、紅焔」
「頼んだぜ、紅焔!」
そうして紅焔さん達も共同体の申請を始めていた。よし、それじゃ俺達も今度こそ共同体の申請をしていこう。
「それじゃ、俺達の方も申請を始めるぞー!」
「「「「おー!」」」」
という事で、エンの近くでメニューを開いてっと。お、新しく『共同体』って項目が出来てるから、そこを選択。えーと、『共同体の申請条件を満たしています。申請しますか?』って表示されてるね。これは迷う余地なしで『はい』だね。
お、画面が切り替わった。えーと、申請メンバーの一覧に俺ら5人の名前と1stと2ndの種族が書いてあるね。キャラ毎に別の共同体には所属は無理みたいで、自分の全キャラが同じ共同体に所属になるんだな。
まぁ共生進化や支配進化で同時に扱う事も結構あるし、これはそういう仕様にするしかないんだろうね。3rdが解放されれば、それもここに追加なんだろう。
よし、ちゃんとリーダーは俺に指定されてるし、メンバー一覧に全員の名前もちゃんとある。確認のボタンを押して、次の画面へと移動だ。
さて、次は共同体名の入力か。えーと、注意事項としては同名登録は不可なんだね。ま、同じ名前の共同体があると混乱するし、これは当然の仕様だな。共同体名は『グリーズ・リベルテ』と入力して、重複がないかの確認っと。……よし、重複はなしだね。
そこまでいけば再び画面が切り替わって、最終確認画面みたいだね。リーダー名、メンバーの一覧、指定した共同体名が表示され、共同体を申請するというボタンがある。これを押せば申請は完了して共同体の結成になるんだろう。
「よし、必要事項の確認と入力は完了! 結成するぞー!」
「「「「おー!」」」」
みんなの元気な返事もあったので、申請ボタンをポチッとな。
<ケイをリーダーとして、共同体『グリーズ・リベルテ』の結成が完了しました>
おぉ、結成完了のアナウンスが出たね。改めて共同体の項目を見てみれば、リーダー表示やメンバーの一覧などが表示されるようになっていた。よし、これで無事に共同体の結成は出来たね。
あ、みんなの名前の前に灰色の菱形マークがついたね。注視してみれば、『グリーズ・リベルテ』所属と表示された。これでどこの共同体の所属かが分かるようである。
「共同体、結成完了だねー!」
「無事に結成出来て良かったかな!」
「そだね。名前が被らなくて良かったよ」
「確かに散々悩んだのに名前の考え直しはキツいもんな。……ところでケイだけマークが違うぞ?」
「え、マジ!?」
自分じゃ分からないけど、俺だけマークが違うってなんで!? ……もしや、これが例のバグとかいうやつか! くっ、仕方ない。後でバグ報告をーー
「ケイ、アル、待ったかな! それ、リーダーの証明みたいだよ」
「あー、そういう事か」
「あ、なるほど。ちなみにどんなマーク?」
「ひし形のマークの外側に白い縁取りがあるよー!」
「ほほう?」
バグではなくて、リーダーの証としてマークが白く縁取られているのか。あ、周囲で結成が終わったっぽい共同体の人達の中にもちらほらと白い縁取りのひし形マークの人がいるね。あれが共同体のリーダーの証なんだな。
「さてと、ヨッシさんの氷の昇華を取りに行きますか」
「その前に容器の検証じゃねぇか? 詰め合わせで容器が手に入ったとは聞いてるぜ?」
「うん、そうだね。私もそっちを先にやりたいかな」
「ヨッシさんがそう言うならそっちが先でいいか。その検証の後で雪山に行くって事で良い?」
「それでお願いするね」
「おう、了解だ」
「はーい!」
「うん、それで良いかな」
よしよし、それでこれからの予定は確定だね。まずミズキの森林まで戻って、ハーレさんとヨッシさんが報酬で手に入れた器……特に土器っぽいやつが火にかけても大丈夫かが重要だもんな。
その検証が終わったら桜花さんの所に行って氷の小結晶を手に入れにいこう。それから雪山へと急いで移動して、ヨッシさんの氷の昇華の取得と、雪山での中立地帯を見に行くのも良いかもね。
「あ、くっそ!?」
「……紅焔、どうしました?」
「どうした、紅焔?」
そうしてこれからの予定を決めていると、何やら悪態をつく紅焔さんと、その様子を気にするライルさんと辛子さん。はて、何か問題になる要素なんて……あ、もしかして……。
「……紅焔さん、もしかして名前被り?」
「……ケイさん、それ、大当たりだ……」
うっわ、思いっきり紅焔さんが落ち込んでるし……。名前被りは仕方ないとはいえ、これと決めていてそれが駄目だと落ち込みもするか。
「……困りましたね。どうしましょうか、紅焔、辛子さん?」
「あー、確かにどうしたもんだろうな? ちょっと変えて登録し直すか?」
「……あぁ……、俺の付けたかった名前が……」
「ほら、落ち込むなって、紅焔さん」
うん、紅焔さんの気持ちは確かに分かる。俺だってみんなで考えて決めた『グリーズ・リベルテ』が被ってて登録出来なかったらショックだっただろうしね……。
「……まぁ早いもの勝ちだとこういう事もあるよな」
「紅焔さん、どんまいかな」
「もっと良い名前にしろって思ったらいいんじゃない?」
「紅焔さん、そうだよー! もっと良い名前があるさー!」
「まぁ俺らも散々悩んだしな。紅焔さん、頑張れ!」
「……そうだな。よし、もっと格好良い名前を考えてやる! ライル、辛子、命名会議をやるぞ!」
「こうなった以上は仕方ありませんね。そうしましょう」
「よっしゃ、良い名前を改めて考えようじゃねぇか!」
とりあえず紅焔さんも落ち込みから回復して、ライルさんと辛子さん共に新たな共同体名を考える事にしたようである。うん、良い名前に決まるといいね。
「それじゃ俺らはミズキの森林でやる事があるから、もう行くな?」
「おうよ、ケイさん! 情けないとこ見せたな!」
「ま、気持ちは分からないでもないから問題ないって」
「そう言ってくれると助かるわ! それじゃまたなー!」
「またな、紅焔さん!」
そうしてみんながそれぞれに紅焔さん達と別れを告げていく。そういや完全に会話を聞いてた訳ではないけども、何やら地上の方で取り乱している人もいるから名前被りは他でも発生しているっぽいね。
うん、俺らの共同体名は被ることなく結成出来て良かったね。あれだけ散々悩んで決めたのが駄目になったらキツイもんな。
「さてとミズキの森林まで戻って、検証していくぞー!」
「「「「おー!」」」」
次にやる事は決まっているから、サクサクとやっていこう! という事でミズキの森林まで転移である!
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>
さて、転移ですぐにやってきたミズキの森林である。占有権が灰の群集に戻ってるから、あちこちで特訓しているような音や光が見えたりはしてるね。
マップを見てみれば少しだけ暗転している赤いマークは残っているけど、基本的にはもう赤の群集の人は引き上げているようだね。湖の付近には赤の群集はいなさそうなので、そこまで行くか。
「湖の辺りには赤の群集はいなさそうだし、そっちに行こうぜ」
「おう、それで良いぜ」
「うん、賛成かな」
「そしたら器の検証さー!」
「そだね。まずはあの器がどう使えるかが問題だし、検証しないとね」
「それじゃ、アル、移動任せた!」
「おうよ」
移動速度が上がってるから、それほどは気にならないけどミズキと、ここの湖はそこそこ離れてるもんな。サクッと移動してから、器の検証を済ませてしまわないとね。
ヨッシさん的にはがっかりな様子だったので、それを覆せるだけの成果があればいいんだけど。まぁ何事もやってみないとね。
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