第472話 イベント報酬の確認 前編


 ミズキの森林へと転移してみれば、すぐ目の前にはこのエリアを見納めに来ていたルストさんの姿があった。そしてそのルストさんに襲いかかる何かが来ている!?


「あ、やっと見つけた! ルスト、早く移動するよー!」

「ん? あ、弥生さんか」

「弥生さん、私もそう何度もーー」

「まだまだ甘い!」

「ぐふっ!?」


 闇の中から突如として現れた大型化した弥生さんがルストさんに噛み付こうとしたのを、ルストさんが木を倒すようにして回避していた。まぁその直後に踏ん張っている根を払われて倒されて、踏みつけられてはいたけども……。

 割といつもの光景にはなってきてるけど、いきなりだとやっぱりびっくりするなー。


「お、ケイさん達だ。……昨日、灰の群集は雪山以外でも色々やってたみたいだね?」

「……さぁ、何の事やら……?」

「あー、大体内容の見当はついてるから別にいいよー。無理に詮索する気もないしね」

「……何ですと?」


 えー、もう弥生さんには昨日の検証内容の見当がついてるの……? うーむ、やはり赤のサファリ同盟は油断できないな……。


「ライさんから具体的に何をしてたのかは分からないけど、纏瘴を使った不動種がいたって話は聞いたからさー。再現するのはこの後にフラム君がログインしてからにはなるけどね。まぁ瘴気石の強化方法が見つかったってとこだよね?」

「…………」


 やばい、完全に見抜かれている。くっ、あの場所にライさんがいた事そのものが失策か! いやでも、この話の仕方ならば、まだフィールドボスの誕生の法則までは辿り着いていないはず!


「うんうん、そりゃどうとも答えられないよねー! ま、これより先は自分達で確かめるから気にしなくていいよ」

「……弥生さん、そろそろ踏みつけるのは止めていただけませんか? というか弥生さんはシュウさんと森林エリアで演出を見てたのでは?」

「ルストが単独行動するのが悪い! 今日はシュウさんが外食に連れて行ってくれるって話なんだから、イベント演出を見たらすぐに切り上げるって話だったよね? なんで1人でこっちで見てるのさ?」

「いえ、しばらくは立ち入れないですし見納めをしておこうかと……そんなに待たせましたっけ……?」

「そういう訳じゃないけど、思った以上に演出が長かったから急ぐの! 演出中って地味にフレンドコールが使えないみたいで、演出を見ながらこっちまで連れに来たんだから! ちょっと遠いお店を予約してるんだから、移動時間を考えたらぎりぎりだからね!?」

「……え? あ、確かに時間的にはぎりぎりですね!? これは失礼しました!」

「そういう事だから、ルストは急ぐ! ケイさん達、慌ただしくてごめんねー!」

「あー、いやそれは別に良いけど……」

「それじゃまたね! ほら、ルスト、急ぐ!」

「分かりましたから、引き摺らないでください、弥生さん!?」


 そうしてルストさんは弥生さんに少し引き摺られていき、2人とも転移の実を使ったのか姿が消えていった。どうやらシュウさんが何処かで外食の予約をしていて、それ程時間の余裕がなかったっぽいね。

 予想以上に今回のイベント演出は長めではあったのが影響してたようである。……まぁリアルでの件は近場ではないみたいだったし、元々時間がかかるのを承知でイベント演出だけでも見ようとしてたのかもね。


 っていうか、演出中にはフレンドコールは使えないのか。演出を見るのに邪魔が入らないようにという配慮かな……? あ、設定項目を見てたら演出中にフレンドコールを受けるかどうかはオンオフが出来るようになっててデフォルトではオフになっているんだな。これは地味に知らなかった。


 弥生さん達のリアルでの外食事情については、まぁどうでもいいんだけど……思った以上に弥生さん達は瘴気石の情報……いや、厳密には用途の推測は出来ていそうな感じである。これは早い段階で赤の群集ではフィールドボスについての検証情報は出てくると考えた方がよさそうだな。


「赤のサファリ同盟はやっぱり凄そうかな?」

「赤の群集を立て直せるだけの情報を持ってた集団だしねー!?」

「そう考えると、昨日の検証情報はどこまで独占的に行けるかは分からないね」

「だよなー。まぁそれは仕方ないけど、早めにそれっぽい情報が得られたのはラッキーだな」


 とりあえず赤のサファリ同盟が瘴気石に関する検証を行う可能性が高い事をまとめで報告しておこうっと。

 さて、問題は青の群集かな。返り討ちにしたスパイ勢もライさんと同等の情報は持っていたはずだけど、それがどの程度伝わっているかだな。……ジェイさん達に反発している連中って事だし、青の群集をまとめているジェイさん達の元に情報が伝わってるかどうかが全くの未知数か。

 うーむ、ここは連携が取れていない事をありがたがるべきか、それとも苦労してそうなジェイさん達に同情するべきか、微妙に悩むところ……。


「それにしても弥生さんとルストさんは予想外の慌ただしさだったな……」

「あはは、確かにそうだね。とりあえず、まだ赤の群集の人もそれなりにいるみたいだし場所を移動しない?」

「これはマップで赤の群集の人が居ない地点を探すのが良さそうかな?」

「ヨッシとサヤの意見に賛成さー!」

「ま、それが無難だろうな」


 視界に入るだけでも5〜6人くらいは赤の群集の人もいるからな。何人かは転移で戻っていってるみたいだけど、全員ではないからね。流石に今の段階で強制排除をする気はしないし、ここはヨッシさんの言うように俺らの方が移動するのが良いだろう。

 その為にもまずはミズキの森林のマップ情報の表示をして、赤の群集の人の位置確認っと。あー、やっぱりまだチラホラと赤いマークが点在しているね。えーと、少し色が暗転している赤いマークはなんだ……?


「チラホラと赤の群集の人はいるけど、暗転してるのはなんだ……?」

「それはログアウト中の表示だった筈だよー!」

「あ、ログアウト中か」


 なるほど、確かにログアウト中の位置情報も重要ではあるか。急に横にログインしてきても厄介だし、そこは避けて……うん、南西の端の方には普通に赤いマークも暗転してるマークも無いから問題なさそうだ。

 俺のミズキの森林のマップはまだ全部は埋まってないけど、群集の所属マークだけはマップの埋まり具合とは関係なく表示されるのはありがたいね。とりあえずその場所まで行ってみるか。


「南西の方に空いてるとこがあるから、そっちに行ってみるか」

「あ、ホントだー! ケイさん、道案内は私がするよー!」

「そういやハーレさんがここの全域マップを持ってたっけ。それじゃ任せた!」

「了解です!」

「そういう事なら、ケイの水のカーペットに乗っていくのが早そうかな?」

「それもそうだね。ケイさん、いい?」

「おう、任せとけ!」


 ということなので、みんなで水のカーペットに乗ってミズキの森林の南西部に移動だね。まぁ位置的には森林深部との切り替えの少し手前くらいなもんかな……?

 ま、とりあえず色々と報酬のチェックをしに行こうじゃないか! いざ出発ー!




 今のミズキの森林では、もう経験値的に美味い敵もいないので水のカーペットを飛ばし気味に目的地に向けて移動している。


「あ、ケイさん! 目的地に辿り着いたよー!」

「ほいよ。案外早かったな」

「ケイの移動速度、ちょっと上がってないかな?」

「あ、それは私も思ったね」

「……そうか?」


 特別スキルのLvが上がった訳でもなければ、極端にLvが上がってステータスの影響が大きくなった訳でもないんだけどな。可能性としては使い込んでいる事で、扱いに慣れてプレイヤースキルの方が向上したか?

 あー、でも操作系スキルのLv1でも前よりは扱うコツは掴んだし、そういう方向性での上達はあっても不思議でもないか。いまいち実感はないけど。


「ま、それはいいや。とりあえずハーレさんとヨッシさんのアイテムの詰め合わせの内容を確認してみようぜ」

「はーい! まずはお肉だー!」


 テンションが上がり気味のハーレさんがまず、肉の詰め合わせを出していく。って、ちょい待った! 何、この土器みたいな少し深みのある鍋っぽい器!? え、この容器については予想外なんだけど!?

 サイズ的にはハーレさんが抱えて持ち運べるくらいなのでそれほど大きくはないけども、地味に色々と出来そうな予感がするぞ。うーん、例えるとすれば少し不格好で取っ手のない小さめのフライパンってとこか? その上に肉の切れ端みたいなのが乗っている。


「……これって、容器が意外と使えそう?」

「これはちょっと予想外かな」

「ハーレさんの選択、意外と当たりだったのかもしれん」

「えっへん! それじゃ中身を見ていくねー!」


 うん、今回は自慢げになるのも分かる。この容器、意外と重要かもしれないしね。……こういう器があるって事は、作り方さえちゃんとやれば作れるって事なんだろうな。

 ちょっとこの辺は作り方をリアル側で調べてみようっと。もしかしたら作れる可能性は充分あるかもしれない。

 

 ちょっと待った。ハーレさんが肉を持ち上げていくと大きさが変わっていってるんだけど!? ……なるほど、容器の大きさと実際にある肉の量は比例しないのか。流石はゲーム的な不思議仕様!


「えーと、中身は牛肉と羊肉と鶏肉と鹿肉と猪肉だねー! 結構大きいのが各3個ずつー!」

「……意外と目新しいのはないか?」

「でも全部『上質な』ってついてるよー! 固定値回復だけど普通のよりかなり回復量が多いねー!」

「あー、質が良いのか。……って事はそれも何処かで入手可能か……?」

「多分そうだと思います!」

「加工すれば、回復量はもっと良くなりそうだよね」

「その時は、ヨッシ、お願いねー!」

「うん、それは任せて。……下手に失敗は出来なさそうだけどね」


 肉に関しては容器を含めて考えても、結構な大当たりっぽいね。まぁ戦闘中に気軽に使える回復アイテムではないから、戦闘後に早く回復させたい時に使えそうではある。


「それじゃ次は魚を行くよー! あ、こっちも器が違うね」

「今度は竹細工のザルっぽい感じだな」

「あ、これは嬉しいかも。干しザルだね」

「どう使うのかな?」

「えっと、シンプルに干物が作りやすいかな。後はドライフルーツとか?」

「あー! それってラック達がやってたねー!」

「あれは木の板でやってたけど、多分こっちの方がやりやすいとは思うよ? ほら、ハーレ、私のお婆ちゃんが梅干しを作ってたのを見た事あるでしょ?」

「うん、あったね! そっかー、そういう風に使えるんだね!」


 ふむふむ、こっちの容器も用途有りと。竹はあるから、竹細工のザルなら作ろうと思えば作れるっぽい気はするね。でもまぁ、簡単とは行かない気もするけども……。

 そしてザルの上には魚が乗っている。っていうか、魚の種類はどれも別物っぽいな。こっちもパッと見との容量は違うんだろうね。


「えっと、アジ、イワシ、タイ、ヒラメ、サンマ、タコ、イカ、エビ、ニジマス、シャケだね。全部2匹ずつかー。刺し身もいけるし、塩焼きが美味しいのも多いね」

「わーい、やったー! こっちも全部が上質だねー!」

「何か、肉と合わせて豪華なバーベキューが出来そうだな」

「うん、それは出来るとは思うよ。……回復アイテムとしては勿体無いけどね」

「それは確かに勿体無いかな……?」


 おそらく上質なこれらのアイテムを手に入れる方法はあるんだろうけど、流石に現段階では追加入手が不明な状態でバーベキューに使うのは勿体無いかな?

 でもハーレさんは少しくらいなら単純に食べたくて食べる事もあるような気はする。まぁそれでも結構な量は交換しているから問題はないけどね。


「それじゃ次は果物だー!」

「……今度はザルじゃなくて籠か」

「ちょっとした入れ物に良い気がします! インベントリに入れる前に纏めておくのに便利そう!」

「あー、確かに」


 基本的にインベントリに入れてしまえば良いだけだけど、この籠はインベントリから出した状態でいたい場合とかには便利そうだよな。


「えっと、蜜柑とブドウがHPの回復で、レモンとリンゴが魔力値の回復だー! これは各10個ずつ!」

「お、蜜柑とレモンは既にあるから微妙な気はするけど、ブドウとリンゴは良いな!」

「アルが作れるのと少し被るから、果物は少し外れかな?」

「この辺は干してドライフルーツに……あ、ケイさんはドライフルーツは苦手なんだっけ?」

「あーうん、まぁな」

「それなら、これはシャーベットとかにしようかな? ハーレ、それでいい?」

「基本的にそれでいいけど、少しだけドライフルーツも欲しいです!」

「そっか。それじゃ半々くらいで、そういう風に加工しようかな。ケイさんもそれでいい?」

「ハーレさんの報酬だし、全部ハーレさんの好みでも問題ないぞ?」


 ハーレさんの受け取った報酬の扱いを俺の好みで決めるのも間違ってる気はするからね。他に代替アイテムが無い訳じゃないんだから俺がワガママを言うところではない。それを決めるのはハーレさんの権利である。


「ヨッシ、半々でお願いねー!」

「ハーレさん、それでいいのか?」

「うん、いいよー! ケイさんが苦手なのは私が一番知ってるし、元々みんなで使うつもりでいたもんね! 少しは欲しいのも作ってもらうけど!」

「そっか、そういう事なら遠慮なく気遣いを受け取っておくよ」

「うん、それでいいのさー!」


 そっか、何だかんだでハーレさんは食欲も優先してはいたけども、みんなで使えるように交換する報酬を選んでたんだね。まぁ食欲とその気遣いの割合がどっちが大きいのかは分からないけども……。


「それにしても、器は予想外に良い収穫だったな」

「そだねー! でも大きさと中身の量が釣り合わないよ?」

「あー、そういやそうだな」


 ハーレさんがそれぞれの器から中身をインベントリに移していったけども、どう考えても中身の方が多いんだよな。うーん、流石はゲーム的な不思議仕様……。


「うーん、詰め直してみようっと!」

「……どうなるかな?」

「私は収まらないに1票で」

「俺もヨッシさんに同じ」

「……私もそんな気がするかな?」

「どうなるかなー!?」


 そうしてハーレさんが果物を籠に戻していく。さて、これで果たしてどうなるか?


「あ、これ以上は入らないねー!」

「一度出したら、見た目通りの容量に変わるのか」

「でもこれはこれで使いやすいんじゃないかな?」

「そだね。沢山持ち運びたいならインベントリを使えば良いだけだしね」

「だねー! とりあえず、器もゲットさー! 全部開けるとインベントリを圧迫するから、他のは必要になるまで開けずに置いておきます!」

「ま、その方が良いだろうな」


 1つの器のアイテムの中から10種類以上に増えるんだから、今はまだ下手に開けない方が良いだろう。まぁ器が必要になるか、中身のアイテムが必要になった時に出せばいい。


「それじゃ次は私の合成アイテムのセットを見ていこうかな」


 次はヨッシさんが報酬で交換した合成アイテムのセットの中身の確認だね。こっちは食材系よりも未知の要素が多いもんな。どんなものが入っているのか、楽しみだ!

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