第471話 共闘イベントの終了演出 後編
色々な事実が判明した事で、その場は沈黙に支配されている。まぁ色々と衝撃の事実ではあったもんな。とはいえ、いつまでもこの沈黙は続かないだろう。
『……しんみりしていても仕方ありませんし、そろそろ進化を始めましょうか』
[……そうだな。よろしく頼む]
『では始めます』
そうサイアンが沈黙を破って宣言する。まぁいつまでも進化を先延ばしにする必要もないし、サクサク進んで下さいな。そして惑星浄化機構の進化が始まると同時に大地全体に振動が走り、空が光の膜に覆われていく。いや、これは惑星全体が進化の時の光の膜が発生しているんだろう。
[……今度は力が漲って来るような事はないのだな?]
『今回は特化した状態から安定化させる進化ですからね。力の出力は落ちますが、力の制御は安定するはずです』
[そうなのか。それでは進化が終わるのを待とうではないか]
そうして惑星浄化機構の進化が進んでいき、惑星を覆う光の膜が砕け散っていった。その破片がハサミで挟んでいた還元の種へと吸い込まれるように落ちてきて、その姿を変えていく。
その光の降り注いでいく光景は、それはまた神秘的なものであった。あ、光を吸い込んだ還元の種が3つの球に分裂したね。
<『スキル強化の種』を1個獲得しました>
<『転移の種』を1個獲得しました>
<『転移の実✕10』を1個獲得しました>
分裂した3つの光の球がそれぞれキャラの中に吸い込まれるように消えていき、インベントリの中に入って報酬アイテムの獲得になった。ふむふむ、これが報酬の獲得演出か。
「イベント報酬はこれで使えるようになったかな?」
「多分そうだろうな」
「さっきの光景、綺麗だったねー!」
「ハーレ、スクショは?」
「もちろん撮ったよー!」
相変わらずハーレさんはこういう時は抜け目ないな。しっかりとさっきの光景のスクショは撮っていたか。さてと、まだイベントの演出は終わってないから続きを見ていかないとね。
それにしても今回の演出は結構長いな。まぁ世界観的にはかなり重要な話ではあったけどね。これから出てくる可能性のある敵の正体が分かったわけだし。
「おっと、揺れたか」
「進化が完了かなー!?」
「前も地面が揺れてたし、そうじゃないかな?」
「多分そうだろうね」
大地が脈打つように少しだけ揺れて、その一度の揺れもすぐに落ち着いていった。前の時の進化よりは大人しい感じではあったね。
『さて、これで進化は完了です』
[ふむ、確かにこれは今までよりも力は弱いが安定しているな。これならば惑星の浄化も安定して出来るだろう]
『つっても、時間はかかるよな?』
[……おそらくはな。だが、これはじっくり時間をかけて行うのがいいだろう]
『いんや、それに関してはちょっと提案があるぜ』
『セキ、何を考えている……?』
惑星浄化機構の進化が終わってグレイ達の会話に戻ったかと思えば何か雲行きが怪しくなってきた……? セキは一体何を提案しようっていうんだろうか?
『なーに、定期的に全員で協力しようって話だ。ついでに機械人とやらへの対抗手段を鍛える為でもあるな』
『……とりあえず聞くだけ聞きましょうか』
『話自体は簡単だぜ。各地で奪い合ったエリアがあるだろ? あそこに定期的に瘴気を噴出させてもらって、一定期間の占有権を奪い合うってのはどうだ?』
『……いきなり無茶な提案をしてくれるな』
『……ですが、決して悪い提案ではないと思いますよ?』
えーと、各地で奪い合ったエリアという事は競争クエストのエリアって事か。俺らの馴染みのある場所ならミズキの森林だね。前々から競争クエストの再戦はあるとは思っていたけども、こういう形で再戦になるのか。
[……良いのか? そなたらが大規模ではないとしても浄化の力を行使できるのだから、定期的に少しでも瘴気を除去してくれるのならば助かるが……]
『だとよ? どうする、グレイ、サイアン?』
『……急な話ではあるが、確かに悪い話ではないか』
『私は賛成ですよ。ただし、事前に通達した上で同意した者だけで行う事を条件としてもらいます』
『おう、それは良いぜ。で、グレイはどうすんだ?』
『……仕方あるまい。戦闘訓練という意味合いを兼ねるなら悪い話でもないだろうしな』
『よし、それで決まりだな! で、いつやるよ?』
『……それはまた改めて協議だ。この場ですぐには決められん』
『そうですね。流石に急な話ではありますし……』
『ま、そこは仕方ねぇか。とにかくそういう事で決定だな。頼むぜ、【惑星浄化機構】!』
[あぁ、その際は任されよう]
おー、これで時期こそまだ未定だけど競争クエストの再発生が確定か。ふむふむ、定期的に一定期間の占有権を奪い合うっていうイベントになるんだな。
今度は各初期エリアからの増援もあるだろうし、どの群集も差はあっての強化はされている。油断しないようにしつつ、強くなっていかないとね!
『……ところでよ』
『……今度はなんだ?』
『仲間になったのにいつまでも【惑星浄化機構】ってのはないんじゃねぇか?』
『……セキにしてはまともな意見だと……?』
『おいこら! どういう意味だ、グレイ!?』
『言ったままの意味だが?』
『よし、上等だ! その喧嘩、買ってやろうじゃねぇか!』
あ、また揉め始めている。長同士がこうも仲が悪いんじゃ、そりゃ方針が分かれて3つの勢力になって当然か。
『……グレイ、程々にして下さいね?』
『……すまん。先程のは余計な一言だったな』
『はっは! 怒られてやがるぜ、グレイ!』
『……あなたもですよ、セキ?』
『ぐっ!? 俺もかよ!』
[……どういう関係性なのだ、そなたらは……]
根本的に設定上はプレイヤーやNPCの精神生命体も元々は人間だった訳だし、セキ、グレイ、サイアンの3人については人間だった時からの知り合いだったとかそういう事なのかもしれないね。
『あー、とにかくだ! 【惑星浄化機構】に名前を付けようぜ!』
『……まぁ、そうだな。その案自体には賛成だ』
『それは私も賛成ですね』
[……良いのか、我に名前をつけてもらっても?]
『何言ってんだ、良いも悪いもあるかよ! てめぇは俺らの敵じゃなくて、もう味方だ。それだけで理由としては充分だ!』
[……そう、か。我はそなたらの仲間なのだな]
『まぁそういう事になるな。……それで、セキ、言い出したからには良い案はあるのだろうな?』
『いや、ねぇよ?』
『…………』
『…………』
[…………]
『おい!? 全員揃って黙るなよ!?』
行き当たりばったり、ここに極まれりって感じだね。折角、惑星浄化機構への名付けという提案をしたのに、これだとグレイにさっきみたいな事を言われても仕方ないだろう。……ここでビシッと良い名前を提案していれば良い感じだったのに台無し感が酷いなぁ……。
『……気を取り直して、私達の方で考えてみるか。サイアン、何か良い名前はないか?』
『……そうですね。それでは【クォーツ】というのはどうでしょうか?』
『……なるほど、石言葉か』
[【クォーツ】に石言葉……? その名は水晶の別名では無かったか……?]
『あぁ、そういえば地球の情報を全て入れていた訳ではありませんでしたね。石言葉という物がありまして、【クォーツ】は浄化や調和という意味でしてね。それに魔除けや霊石として扱われていたという物でして』
『お、そりゃ【惑星浄化機構】にはぴったりな名前じゃねぇか! へぇ、石言葉なんてもんはろくに知らなかったが、そんな意味があったんだな』
『……セキの言葉は無視でいい。【惑星浄化機構】、お前としてはこの名はどうだ?』
[意味を聞いて気に入った。我は今この時より、【クォーツ】と名乗る事としよう! 名に恥じぬ役目を果たす事もここに誓おう]
『おうよ! 頼むぜ、【クォーツ】!』
『【クォーツ】、これからよろしく頼む。時間はかかるかもしれないが、協力していこうではないか』
『そうですね。改めてお願いしますよ、【クォーツ】』
<以上で共闘イベント『瘴気との邂逅』は終了となります>
<イベント報酬のアイテムの使用が可能になりました。アイテムによって使用場所が限定されているものもあるので、その点はご注意下さい>
<競争イベントの対象エリアの勝利群集への占有権が復活します。どのエリアでも所属群集に関係なく、一度に限り帰還の実の使用が解禁されていますので他の群集の方は早めの撤退を推奨します>
<不定期に『競争クエスト』が再開催となります。事前告知の後に開催となりますので、参加される方は進化や強化をしていきましょう>
<再開催の『競争クエスト』では命名クエストは発生しませんので、その点はご了承下さい>
<また共闘イベント終了に伴いまして、『黒の暴走種』の出現頻度と、『黒の暴走種の残滓』の『黒の瘴気強化種』化の頻度が低下します>
お、グレイ達の姿も消えたし、色々と通知も出たし、これで完全に共闘イベントは終了みたいだね。とりあえずミズキの森林を始めとした、競争クエストで勝ち取った専有エリアの仕様はこれで元に戻る訳か。命名クエストについては初回の競争クエストのみの特典なんだな。
そして再開催の競争クエストの開催までは占有権は保持出来るという事か。よし、これで他の群集の目を気にしなくて済むエリアが復活だ。
あー、でも暴走種と瘴気強化種の数は減少か。共闘イベントは進化ポイントを稼ぐボーナスステージってとこだったんだろうね。進化ポイントは多過ぎるくらいに稼げてたし、流石にあれが標準状態ではなかったんだな。
「共闘イベント、完了だー! アイテム詰め合わせのチェック、開始ー!」
「もう開けるんかい! いや、まぁ別に良いけどさ」
「ハーレ、ちょっと待ったかな!」
「サヤ、何ー!?」
「気になるのは分かるんだけど、ミズキの森林に移動してからにしない?」
「あ、そっか。ハーレ、他の群集の人も同じように交換してる人もいるだろうけど、ここはサヤの案が良いと思うよ」
「そっかー! 他の群集の人もいるにはいるから、チェックは他の群集の人には見えないところでだね!」
「その方が良いか。久々にミズキの森林が占有に戻った訳だしな」
まぁ占有権は元に戻ったばっかりだからまだ赤の群集の人もいるだろうけど、その辺は気にし過ぎても仕方ないね。仕様が占有状態の時のものに戻ったのなら、マップから他の群集の人の所在地は一目で分かるし、それを見ながらやれば問題はないはず。
アルがいれば樹洞の中でも良いんだろうけどね。桜花さんのとこの樹洞を借りるという手もあるにはあるけど、あそこは他の群集の人も出入りするし、占領する訳にもいかないもんな。
同じ報酬は他の群集の人も貰っているだろうけど、その辺のチェックは自分達でやってもらわないとね。わざわざ目立つ群集拠点種で開ける必要もないか。まぁ開けてる人もチラホラいるっぽいけど、そこは気分的な問題である。
「ま、それじゃとりあえずミズキの森林まで移動するか」
「「「おー!」」」
という事で移動開始! まぁ目の前にエンがいて、ミズキの所には転移で行けるからすぐなんだけどね。でも混雑はしてるから、ここは飛んでいくのが正解かな。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 70/70 → 69/69(上限値使用:1)
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 69/69 → 67/67(上限値使用:3)
よし、これからミズキの森林に行くなら夜目は必要だから、水のカーペットと一緒に発動しておいてっと。さて、水のカーペットに乗ってエンの上の方から転移にアクセスしていけばいいだろう。
「みんな……って、自力で飛んでるのか」
「もちろんさー!」
「まぁ手段はあるからね?」
「みんなと違って、私は初めから飛べるしね」
「そういやそうだよな。ま、いいか」
みんなが色んな手段で飛べるようになってるんだから、周囲に警戒が必要のない時はそれぞれ自由に飛べば良いだけだもんな。みんなで長距離を移動する時には水のカーペットか、アルのクジラに乗るのが効率はいいんだろうけどね。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>
そしてやってきました、ミズキの森林! ……ん? 何か見覚えのある蜜柑の木の人がいるような……?
「……しばらくはこのエリアには踏み入れられなくなりますか。まぁ仕方ない事ではありますが、残念ですね……」
若干気落ちしたように項垂れている蜜柑の木は……うん、ルストさんみたいだね。あー、赤の群集であるルストさんは、ミズキの森林からは退去しなきゃいけなくなるから名残惜しんでいる感じかな?
「……ですが、雪山の本拠地もありますからね。そちらで頑張って……おや、ケイさん達ではありませんか」
「おっす、ルストさん」
「こんにちはー!」
「何をやってたのかな?」
「この場所の見納め?」
「いえ、イベントが終わってしばらくはこのエリアには立ち入れなくなりますからね。ヨッシさんの言うように見納めをしておこうかと思いまして」
「あー、なるほど」
このミズキの森林については灰の群集にとっては占有権の復活にはなったけど、赤の群集であるルストさんにとっては容易には立ち入れない場所に戻る訳か。
まぁルストさんに限って言えば、強行突破である程度は居座る事も出来そうな気もするけどね。……流石にメリットも薄いし、ルストさんはそういう事をする人でもないか。
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