第470話 共闘イベントの終了演出 前編


 夕方でログイン出来ていないアルは仕方ないとして、他のみんなとは合流出来たし、イベント演出まではそんなに時間はない。という事なので、このままエンの近くで待機である。

 まぁ別にどこのエリアにいても良いって話だったけど、敵との戦闘になる可能性がかなり低いここが一番良いんだろうね。


「どんな演出だろうねー!?」

「とりあえず、惑星浄化機構の進化は確定だよな」

「ミズキの森林とかはどうなるのかな?」

「どうなんだろ? まぁ見れば分かるんじゃない?」


 そんな風に雑談をしながら、イベント演出の開始を待っていく。さーて、どんな演出か楽しみだね!


<規定時刻になりましたので、共闘イベント『瘴気との邂逅』の終了演出を開始します>


 よし、17時が来たからイベント演出の始まりだ。お、灰の群集の長のグレイと青の群集の長のサイアンの姿が目の前に現れてきたね。その前に浮かんでいる光ってる球体はもしかして惑星浄化機構かな? それにしても赤の群集の長のセキの姿が見当たらないな。


『同胞達よ、時間を取らせてすまない。……おい、サイアン。セキはまだか?』

『……セキは遅刻のようですね。同胞達を無駄に待たせるのもあれですし、先に進めておきましょうか』

[我は構わぬが、そなたらはそれで良いのか?]

『元々対立しているのだから、問題はない』

『……えぇ、そうなりますね。それでは【惑星浄化機構】、貴方の安定化の進化を再度執り行いましょう』


 え、赤の群集の長は遅刻なんかい! いや、キャラのイメージ的にはなんとなく間違っていない気はするけども! えー、まさかのNPCの遅刻から始まるとは思わなかったぞ。

 それはそうとして、光ってる球体は惑星浄化機構で間違ってはいないみたいだね。ん? 光っててかなり分かりにくいけど、よくよく見れば表面が地球儀みたいな事になってるし、これって惑星の姿そのものか?


『ちょーっと待ったー! おいこら、てめぇら、何先に始めようとしてんだよ!?』

『……ちっ、うるさいのが来たか』

『おーい、グレイさんよ? 共闘が一先ずこれで終わりだからって、喧嘩売ってんのか!?』

『何も言われたくないのであれば、遅刻をするな。赤の群集だけで事を運んでいる訳ではない事を忘れているとは言わせんぞ』


 おー、なんかグレイとセキの雰囲気が険悪になってるよ。……まぁ方針の違いで3つの派閥に分かれてるんだから、その長同士が仲がいいって訳もないか。今までは緊急事態でそうも言ってられないから、お互いに我慢して共闘が成立してただけなんだろうね。


『……はぁ、緊急性が無くなるとこうなりますか……。セキ、グレイ、待たせているのですから喧嘩なら後にしていただけませんか?』

[……うむ。我が言うのもあれだが、サイアン殿の言う通りだと思うぞ]

『……だそうだ。おとなしくしていろ、セキ』

『んなっ!? 俺が……あー、分かったからその殺気を抑えてくれ、サイアン……』

『分かっていただけたなら何よりです。それでは私は進化の為の調整を行いますので、グレイ、お任せ出来ますか?』

『あぁ、同胞達への説明は私が行おう』


 ふむふむ、やっぱり共闘イベント中の協力体制が特殊例なだけで、普段はこれが普通なのか。グレイとセキが特に相性が悪いって感じっぽいね。サイアンについては……うん、基本的には温厚な感じだけど怒らせると怖いタイプのキャラみたいだな。

 それにしても俺らに説明か。これがいったんの言ってたイベント報酬の演出の事かな?


『同胞達よ、下らない事に時間を割いて申し訳ない。早速ではあるが、本題の説明へと移らせてもらおう。先程サイアンが軽く口にはしていたが、数時間前に【惑星浄化機構】の再度の進化に必要な進化情報が揃った』

[我の為に力を貸してくれて、感謝の言葉しか出てこない。皆の者、感謝する!]

『そういう事だ。それと進化情報の蓄積の際に、良い意味での誤算があった』


 ほほう? 大量の進化ポイントという形で進化情報を提供したって事にはなるんだろうけど、それは惑星浄化機構の進化に使うんだからそのままじゃ報酬なんて出ないよな。

 まぁその辺はゲーム的な処理で理由なしでも良いんだろうけど、そこに理由付けをする演出がこれって事か。


『既に手にしている者もいるだろう。【惑星浄化機構】の浄化へ特化した進化の副産物として、特殊な結晶体が発生し、それを群集拠点種の力で加工したものだ。性質を調査した結果から【還元の種】と名付けさせてもらった』

『てめぇら、それを絶対無くすんじゃねぇぞ! それはなぁ!』

『……セキ、割り込んでくるな』

『ちょっとは俺にも喋らせろや!』

『……はぁ、勝手にしろ……』


 赤の群集の長は我が強いなぁ……。まぁ赤の群集自体が邪魔するものはぶっ倒せみたいな集団の設定になってるから、これはこれで長としてのキャラ設定としては間違ってはいないのか。


『おう、そうさせてもらうぜ! そいつは【惑星浄化機構】のこれからの進化に使う進化情報と繋がっててな。ちょーっとばっかり進化の規模がデカイって事なんだが、その余波の受け皿代わりにもなってんだよ』

『……セキ、それでは説明になっていませんよ?』

『うるせぇよ、サイアン! これから説明すんだよ!』


 うん、惑星浄化機構の進化が影響するというのは分かるけど、それ以上はよく分からん説明だ。やはり赤の群集の長という事か……。セキは間違いなく説明が下手だね。


『とにかくだ、そいつを持ってれば【惑星浄化機構】の進化と同時に、てめぇらが提供した進化情報量に応じた規模の変化が発生するって寸法よ! んでもって、てめぇらがそれぞれ望む力へ還元する物に変化するように群集拠点種の方で調整してるぜ! すげぇだろ!』

『……まぁそのように調整出来るようにしたのは私ではありますが……』

『……セキが自慢する事ではないな』

『うっせーよ!?』


 ほうほう。なるほど、惑星浄化機構の進化の余波で還元の種がイベント報酬へと変化するんだな。へぇ、粋な演出ではあるじゃないか!

 望む力っていうのが、予め指定していた報酬アイテムって事なんだろうな。ただ単純に受け渡されるよりはこっちの方が面白味があるね。


[面白いな、そなたらは]

『そういえば、あなたにはまだ聞けていない事がありましたね?』

[我もそなたらに聞きたい事があるのだが、まずはそなたらの聞きたい事に答えよう]

『……サイアン、進化は良いのか?』

『今は最後の調整中ですので、少し待っていただく必要がありますからね。ですので、その間にでも話しておこうかと思いまして』

『なるほど、そういう事か。それならば良いだろう』


 あ、そういえばまだ色々と惑星浄化機構とか、プレイヤー達の故郷を滅ぼした奴らに関する事の説明も不完全なものだったっけ。ここでその辺の説明が入るんだね。


『聞きたい事はこれだ! てめぇはこの星の浄化の為に作られて、作った連中は諦めて放棄していったみたいな事を言ってたな。それに俺らの故郷を滅ぼした連中についても知っているな?』

[あぁ、知っている。そなたらの故郷を滅ぼしたものと、我を作り出したものは同一の存在だ。そして奴らを生み出したこの星の人類を滅ぼしたのも、惑星自体を死の星に変えたのも奴らである]

『……この惑星の人類を滅ぼしたというのはどういう事だ?』

『……奴らを生み出した、人類ですか……? 【惑星浄化機構】、もしかして奴らの正体は!?』

[サイアン殿の予想の通りだろう。奴らは……この星で技術発展した人類が生み出した人型の機械……【機械人】である]


 ちょ!? え、あいつらって人間じゃなかったの!? まさかの人型の機械……つまりロボットとかアンドロイドとかそういう系統か。……もしかして、元々この星に住んでいた人類がロボットを生み出して、反乱に遭って全滅した……?

 そしてその際に大量の瘴気が発生して、自然の浄化作用が機能しなくなるまで汚染されて、この惑星は一度滅んだのか。うわー、まさか生物じゃないとは思わなかったよ。……でも惑星浄化機構も惑星の浄化と半ば融合していたとはいえ、機械ではあったんだよな。

 今までの話の中でも瘴気の影響を受けない連中みたいな話もあったような気はするし、その辺は示唆はされてたって事か。


『……はっ、そういう事かよ。機械だからこそ生命を殺す瘴気の影響も少ないって訳かよ!』

『……奴らの目的はなんだ?』

[これは我の推測になるが構わないか……?]

『あぁ、それで構わない。私達は奴らについて何も知らない。知らなさ過ぎる……』

[……そうか。あの映像を見る限りはそうであろうな。……だが、あの映像が推測する要因にもなっている。奴らの目的は、命のない機械ではなく、生物になる事だろう]

『……なん……だと? なんで俺らに対する大虐殺がそんな理由になる!?』


 ふむ、生物になるのが機械人の目的なのか。えーと、今までの設定からすると瘴気と浄化の循環が発生する事が生物である証明みたいな感じだったっけ。あー、なんとなく流れが読めてきた。


『セキ、落ち着きなさい。……奴らは生物である為の条件を探る為に瘴気を利用して生物の定義を探り、自分達を生物へと変換する方法を探っている。そういう事ですか?』

[あぁ、我の推測はそうだ。そしてそれはーー]

『今の私達が手段を持っているという訳か』

[そうだ、我を生物へと進化させたようにな]

『くそったれ! そういう事かよ!』

『……なるほど、私達を助けてくれた精神生命体の方達が奴らを探す事を止めた訳ですね。下手をすれば私達自身が今の状態こそ狙われかねないという事ですか』

[……そうなるな。おそらく、奴らがこの地に舞い戻ってくる可能性もあるだろう]


 ですよねー。これは次の共闘イベントのフラグが立った気がする。まぁ絶対とは言えないけど、全ての群集にとって機械人は共通の敵なのは間違いない。

 それにしても俺らプレイヤーを精神生命体にして助けてくれた精神生命体達も、その機械人達の事は警戒しているのかもね。倒さずに放置しているのか、倒す事が出来ない理由があるのかが気になる所ではあるけども。


『はっ! 来たら返り討ちにしてやるまでだ!』

『……不本意ながら、セキに同意しよう』

『……そうですね。その時が来たら、今度こそ守りきりますよ』

[それには我も協力しよう。奴らは我にとっても敵である]

『【惑星浄化機構】の進化が終われば今回の共闘は終わりだが、万が一の時は再び共闘でいいな?』

『ま、それしかねぇよな!』

『えぇ、それについては確約しましょう』


 うん、確実に共闘イベントで機械人の来襲とかはありそうだ。うーん、今までのプレイヤーと同系統になる敵とは違って、全く別の敵にはなりそうだね。

 まぁその辺はまだ先の話だろうし、イベント告知があってから考えればいいか。


[我の知っている事はこれくらいだ。参考になっただろうか?]

『あぁ、充分だぜ!』

『今まで正体が分からなかった奴らの正体が分かったのは大きいな』

『そうですね。……ところで【惑星浄化機構】の聞きたい事というのはなんでしょうか?』

[それはだな……。そなたら、何故この言語を使えるのだ……? それは地球という遠く離れた惑星の言語の1つの筈だ]

『っ!? なんでそれを知っている!』

『……異常に見知った生物が多いとは思っていたが、偶然ではなかったのか?』

『……地球は私達の滅ぼされた故郷の名です。【惑星浄化機構】、事情をお聞かせ願いますか?』

[……なんと、そなたらの滅ぼされた故郷であったのか……。なんという因果なのだ、これは……]


 え、あの滅ぼされた惑星って地球だったの!? ちょ、全く関係ない惑星だと思ってたけど、これは衝撃の事実!? そうなるとゲーム的な仕様で日本語なんじゃなくて、ガチで日本語を使ってるって設定だったのか!?

 でもどうやってこの全く別の惑星に地球の言語があるんだ? それに生物も地球由来のものってことになるよな。


[……これを見てくれ。そなたらに心当たりはないか?]

『ん? なんだ、こりゃ?』

『……なるほど、そういう事か』

『どういう事だよ、グレイ?』


 何やらデータベースみたいな文字列や、四角い金属の箱みたいなものや、色んな動植物の写真等が表示されていく。あー、なるほどね。


『……これはかつて地球が健在だった頃に、どこかにいるかもしれない他の惑星の知的生命体に宛てた地球の情報を集めたものだ』

『……懐かしいですね。世界中のあらゆる言語、動植物の情報、そして半ば悪ふざけで絶滅した生物のDNA情報も含めていましたっけ』

『妙に詳しいみたいじゃねぇか、サイアン?』

『えぇ、これを送り出すのに私も関わっていましたからね』

[そうか……。これにはサイアン殿が関わっていたのか。この情報は惑星の表面だけとはいえ、生物の痕跡が一切無くなったこの惑星の再生を行う上で非常に役に立った。感謝する]

『いえ、私としてもこんな形で役に立っているとは思いませんでしたよ』


 うわ、物凄い壮大な話になってきた。この惑星は地球とは全く別の惑星ではあるけども、そこにいる動物も植物も全ては地球由来のものであったって事か。そっか、そういう設定になってたんだな……。

 このゲームの舞台となっている惑星にかつて住んでいた人類が生み出したのが機械人だったという事も、その機械人によって滅ぼされたのが地球だったというのも衝撃的だったけど、こういう設定が後々のイベントに向けての布石になっているんだろうな。

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