第16章 共同体の発足

第469話 報酬の受け取り


 今日の授業も終わり、これから家へと帰るところである。あ、母さんからメッセージが来てるな。えーと、アイスの割引クーポンを手に入れたから、家族みんなの分を含めて買ってきてくれって内容か。あと切れかかっていたマヨネーズもだね。

 まぁ気温が高くなってきてるからアイスが欲しい時期にはなってきたもんな。今も思いっきり蒸し暑いし、母さんに頼まれたのとは別に自分の分の安いアイスでも買って帰ろうっと。


「それじゃ圭吾、またな」

「おう、またな」

「って、どっち行ってんの?」

「ん? アイスとマヨネーズを買いにスーパーだけど?」

「またアイスかい!」

「慎也が無駄遣いして、金を持ってないのが悪いだけだからな?」

「うぐぐ、否定が出来ない……。くっ、それならゲーム内でカキ氷食うだけだ!」

「あ、それ、俺のPTメンバーの発案だぞ」

「それは一応知ってるよ! ありがとな!」

「それじゃ暑い中、自転車で頑張って帰れよー!」

「あーくっそ! 家が近い奴が羨ましい!」


 そんな風に悪態をつきながら、慎也は自転車で走り去っていった。うん、暑い中を自転車でご苦労さん。さてと俺は俺でスーパーに買い物に行こうっと。



 ◇ ◇ ◇



 そしてスーパーでの買い物を済ませて家に帰ってきてから、冷蔵庫の冷凍室に箱入りのカップアイスを放り込んでおく。マヨネーズは未開封だし、予備の調味料を纏めて置いている場所に置いておけば良いな。それにしても……。


「……なんか疲れた」


 思わず独り言が出てしまった……。まさかスーパーの店員のおばちゃんに、晴香が今度アルバイトする事について捕まるとは思わなかったよ。いや、うん、あのおばちゃんは近所の人だし、小さな頃から顔は知ってるけどさ……。

 最近元気が無かった晴香が、夏休みに引っ越した幼馴染に会いに行きたいからって理由でバイトの面接に来たって嬉しそうに語ってくるとは思わなかった。というか、近所の人達から結構心配されてたらしい。まぁ改めてよく考えたら、ヨッシさんもこの近くに住んでた訳だからおかしい反応でもないのか。


「たっだいまー! あれ、兄貴どうしたの!?」

「あー、うん、いや別に?」

「……? まぁいいや! アイス、アイスー! 兄貴、買ってきてくれたんだよね!?」

「あー、母さんから聞いてた?」

「うん!」


 嬉しそうな笑顔で冷蔵庫を開けてカップアイスを取り出してるな。まぁ元々家族みんな用って事だし別に良いか。それと近所のおばちゃんについても、晴香自身に言う必要もないよな。うん、そういう事にしておこう。


「さてと、アイス食ったらゲームやるか」

「おー! って、兄貴はなんで別のアイスを持ってるの!?」

「ん? 自腹で買った。あっちのアイスは晩飯後のデザート用」

「あー!? 昨日の私の真似だー!」

「ま、そういう事。ちなみに今日の晩飯って何?」

「今日は聞いてないから知らないよー!?」

「あ、そうなのか。まぁいいや、さっさと食っちまおう」

「はーい!」


 まぁいつでも聞いているという訳でもないし、その辺は別に良いかな。晩飯に合わなければ明日にでも食べればいいし、その辺は気にしない方向で! 



 ◇ ◇ ◇



 一番安いアイスバーを食べ終えて、ゲームへとログインしていつものいったんの場所へとやってきた。晴香も今頃は同じようにしているのだろう。


 さて今日のいったんの胴体部分の文字はどうなってるかな? 今日はそれなりに予想は付くんだが……『定期メンテナンスは無事終了! 共闘イベント【瘴気との邂逅】も終了となりました。報酬はいったんから受け取れますので、詳細はいったんまで! 17時よりイベント終了演出がありますので、ログイン中の方はお見逃しなく!』となっていた。

 うん、普通に普通でまともな内容だった。ちょっと変なのを期待してたけど、ちゃんと告知する時はちゃんとやるんだね。


「いったん、イベント報酬って今でも受け取れるのか?」

「うん、それは出来るよ〜。ただ、イベント終了演出が終わるまでは受け取っても使用は出来ないから要注意ね〜」

「……え?」


 報酬を貰ってもすぐには使えないってどういう事だ? てっきりすぐにでも使えるものと思ってたけど、実はそうでもないのか?


「えっと、演出上の都合でね〜? 17時を過ぎれば使えるようになるから、あと少しだけ我慢してくれるかな〜?」

「なるほど、演出上の都合なのか。ま、急ぐ訳ではないから別にいいけど」


 スーパーで予定外に時間を取られてしまったので、もう少しで16時半くらいにはなってるもんな。あと30分ちょっとくらいなら、待ったところで大した事はない。それに土の昇華は自力で手に入れたから、すぐにはスキル強化の実を使う事もないしね。


「とりあえず受け取るだけはもう出来るんだよな?」

「うん、そうなるね〜。受け取っておく〜?」

「……そうだな。受け取っておくわ」


 晩飯の時に再ログインした時でも別にいいんだけど、もう受け取れるなら受け取っておけばいいだろう。特に後にする必要もないしね。


「受け取りだね〜。えーと、君の報酬は……うん、これだね。内容を確認していくよ〜」

「ほいよっと」

「えっと、まずここでしか使えないのは『空白の称号』が1個、『特性付与の水』が1個だね〜。これはここで保管になるけど、問題ないかな〜?」

「……問題あるって言ったら、その場合はどうなるんだ?」

「えっとね、インベントリの方に送られるけどゲーム内じゃ使えないからただの枠潰しになるね〜」

「インベントリに無意味に送れるのかよ!?」

「運営の遊び心ってやつだよ〜。僕には理解不能なんだけどね〜」

「……盛大に同意しておくよ」


 空白の称号や特性付与の水を使うのはログイン場面じゃないと駄目って表記になってたのに、なんでインベントリ送りに出来るようになってるんだよ!? ツッコミ待ちの無駄仕様なのか!? 


「え〜と、次に行っても良いかな〜」

「……よろしく」

「はい、了解です〜。それじゃ次は『スキル強化の種』が1個、『転移の種』が1個、『転移の実✕10』が1個だね〜。間違ってはないかな〜?」

「おう、合ってる」

「報酬アイテムに間違いは無しだね〜。それじゃゲーム内で使えるようになる報酬を渡しておくよ〜」

「ほいよっと」


 そうしてどこからともなく現れた光る卵っぽい物を渡されていく。……なんで1個の大きめな卵……? あ、違う。これ、卵みたいな形ではあるけど大きめな種っぽい。ふーん、渡されたものが1個しかないってことはこれがイベント演出とやらで報酬に変化する感じかな?

 あ、いつものログインボーナスを受け取るみたいに消えていったから、インベントリに送られたかな?


「別にやらなくても問題はないんだけど、イベント演出時にはインベントリから出しておけば良い事あるかもね〜?」

「あ、何かの演出があるんだな?」

「それは見てのお楽しみ〜」

「ま、それもそうか」


 いったんが演出時にはさっきの種をインベントリから出しておけと言う以上は、確実に演出はあるね。まぁここは無粋な詮索はせずに、大人しく指示に従っておこうかな。


「それとこれはいつものログインボーナスね〜」

「ほいよ」

「後はスクリーンショットの承諾をお願いします〜」

「おう!」


 いつものようにログインボーナスを受け取り、スクショの一覧を受け取っていく。さてと今回のスクショは……あ、やっぱり昨日の検証の件のが多いな。お、双頭の竜のスクショが多いね。ただ、岩で固めているのをボコっているスクショなので迫力はいまいち……。

 今回は灰の群集の人からのみだけみたいだし、全部承諾で問題ないな。ただ次からは共闘イベントも終わったんだから、同じ群集のみに戻しておかないとね。


「いったん、今回は全部承諾でよろしく」

「はいはい〜。そのように処理しておくね〜」

「それで次からは基準を前に戻すけど、もし忘れてたりしたら注意してもらうって事は出来る?」

「僕に高負荷がかかってなければ問題ないよ〜」

「……負荷があったら駄目なんかい!」

「そりゃそういう場合って、僕の処理が間に合ってないって状態だからね〜?」

「あ、そういやそうなるのか」


 思わずツッコミを入れてしまったけど、当たり前といえば当たり前の話か。いったんだって無制限に処理し切れる訳じゃないのは、これまで何度かバグった事から確定な事実である。まぁ機器増強もされたんだし、早々そんな事もないだろうけどね。

 さてととりあえずここでの用件は済んだ訳だし、ゲーム内に行ってハーレさんと合流するか。この時間ならサヤもヨッシさんも、もうログインしてるだろうしね。


「それじゃそろそろ行くわ」

「はいはい〜。今日も楽しんできてね〜」

「おうよ!」


 そうして今日もいったんに見送られながらゲームの中へと入っていく。それほどイベント演出までの時間もないから、色々やっていくのはイベント演出を見終わってからかな?



 ◇ ◇ ◇



 そしてゲーム内へとやってきた。今日は夜の日だから暗い事は暗いけど、ログアウトしたのがエンのすぐ側だから灯りは充分ある。っていうか、エンの周辺の木や植物達はほぼ復活してるね。

 うん、これでこそ群集拠点種のすぐ側って感じだ。淡い光を放ち続ける植物の神秘的な光景があってこそである。


 それは良いとして、手早くログインボーナスを使っておこうっと。


<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>

<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>

<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>


 よし、これでログインボーナスの確保は問題なし。そういえば今、インベントリを見た時に見覚えのない『還元の種』というアイテムがあった。それがイベント報酬として貰ったアイテムかな? ちょっと取り出してみるか。


<インベントリから『還元の種』を取り出します>


 おー、見事に光り輝いている卵型の種が出てきたね。これくらいならハサミで挟んで持てそうかな? 多分破壊は出来ないだろうから、挟んで持っておこうっと。

 良く周りを見渡せば、俺と同じように卵型の種を取り出して持っている人も多いみたいだしね。っていうか、結構人が集まってきてるっぽいな。まぁイベント演出まではそんなに時間もないし、みんなここで演出を見る待機をしてるんだろう。


「アリスさん、いっくよー!」

「いつでもどうぞ、ハーレさん!」

「『強投擲』!」

「そこ! 『並列制御』『受け止め』『強投擲』!」

「おー!? 聞いた通りだー!? 『受け止め』!」


 何やら聞き覚えのある声がするかと思ったら、還元の種でキャッチボールをしているっぽいリスが2人……。てか、ハーレさんは何やってんの? 相手のリスの人は昨日、カメ・ラクダを相手に一緒に戦ったアリスさんか。


「あ、ケイも来たのかな」

「ケイさん、こんにちはー!」

「おっす、サヤ、ヨッシさん。ちなみにハーレさんとアリスさんって何やってんの?」

「えっと、キャッチボールかな?」

「……うん、それは見れば何となく分かる」

「ハーレがログインしたての時に、偶々隣にアリスさんがいてね? 受け止めた弾を投げ返す手段があるって話になってね?」

「……それで実際に試してた訳か」


 そんなにハーレさんと俺とではログイン時間に差はなかった筈だけど、ハーレさんの方がそれだけのやり取りをするくらいの時間分くらいは先にログインしてたんだな。……うん、俺のツッコミが少し時間ロスになった気もする。


「まぁ、悪い事ではなさそうだし別に良いか。で、みんなも還元の種は出してるんだな」

「そういうケイこそ出してるかな?」

「まぁ、これは出してみたくはなるもんね」


 サヤは竜の手で還元の種を持っていて、ヨッシさんは統率のハチが還元の種を抱えていた。まぁ種族が違えば全然姿が違うんだから、持ち方は人それぞれになるよな。


「アリス、やっと見つけたぞ! みんな揃ってるから、こっち来い!」

「あ、ツキノワ! みんなしてどこ彷徨ってたの?」

「逸れたのはアリスの方だからな!?」

「あれ、そうなの? ハーレさん、PTのみんなと合流出来そうだから、また今度ねー!」

「うん! アリスさん、またねー!」


 そうしてアリスさんを探しに来たらしき、クマのツキノワさんとアリスさんが合流していった。向かってる方向的には崖の上から見物するみたいだね。

 アリスさんと別れたハーレさんは還元の種を大事そうに抱えながら、俺達の方に駆けてきていた。うん、今は大事そうに持ってるけど、さっき思いっきり投げてたよね? まぁイベント報酬が破壊出来るとは思えないから別に良いけどさ。


「ケイさん遅かったねー!?」

「あー、まぁちょっとな」

「色々とツッコミを入れたい要素もあったから、ケイはツッコんでたんじゃないかな?」

「そういえばスルーはしたけど、変わった所もあったよね」

「だったねー!? 私は後でツッコミ入れてくる予定です!」

「わざわざスルーした後から改めてツッコミ入れるんかい!」


 うん、やっぱり俺がツッコミを入れてたのが時間のズレが出た原因ではあるようだ。後は多分スクショの整理の効率の違いかな?


「まぁツッコミは良いとしてだ!」

「あ、誤魔化したかな?」

「誤魔化したね?」

「ケイさんが誤魔化したー!」

「それは別にどっちでもいいだろ!? とにかくアルがいないのは仕方ないけど、17時のイベント演出まではここで待機で良いか?」

「うん、そのつもりだったから賛成かな」

「同じく賛成です!」

「ま、それほど待つ訳じゃないしね」

「よし、それじゃそれで決定!」


 まだ17時までには時間はあるけども、何かを大々的にやる程の時間はない。みんなの同意も得られた事だし、ここは17時の共闘イベントの終了演出を見ていくという事で良いだろう。さて、どんな演出かな?

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