第467話 共同体の名前


 さてと、明日の定期メンテナンス後に迫った共同体機能の実装に合わせて本格的に名称を決めていく事になった。……すんなり決まってくれれば良いんだけど、うまく行くかな……?


「誰か何か案がある人ー?」


 ……うん、見事に反応はなしっと。ハーレさんの食い意地満載の『食べ物発掘隊』は満場一致で却下になったし、アルの『エクスプローラーズ』も微妙ではある。発案したアル自身が推してこないところを見ると、アルとしても微妙なとこだったのかもね。


「うーん、パッと良いのも思いつかないから、名前に入れたい要素とかでも上げてみるのはどうかな?」

「あ、それいいかも?」

「サヤ、ナイスアイデアだよ!」

「確かにその手段はありだな。よし、行き詰まってるしそれでやってみるか」

「ほいよ。それで、名前に入れたい要素か」


 手段としてはありといえばありだね。俺達の行動方針を組み込んで、それを共同体名にするのも良いかもしれない。名前に入れたい要素となると何がいいかな? 


「はい! 入れたい案があります!」

「ハーレさん、どんな案だ?」

「5人組ってのを入れたいです!」

「5人組かな? うーん、それっぽい単語なら英語でファイブとかかな?」

「ちょっと英語だと微妙だね……。アルさん、他の言語で良さそうなのない?」

「……そうだな。フランス語で5を表すサンクとか、音楽用語で五重奏って意味のクインテットとか、ちょっと方向性を変えて五芒星とかってのもどうだ?」

「ほうほう。サンクにクインテットに五芒星か」


 英語だけでなく、他の言語で表すってのも良いかもしれないね。うーん、でも五芒星は何か違うな……。俺としてはサンクとクインテッドが良いような気もする。

 それはそうとして5人組の意味を名前に入れるって事は、俺らの共同体には人数が増える事はないって事かな? まぁ、下手に新メンバーを誘う気も予定もないから別に良いけども。


「一応みんなに意思確認。俺らの作る共同体に新規メンバーを入れる予定はないって事でいい?」

「そのつもりさー! サヤとヨッシと話し合ってたもんね!」

「サヤの人見知りもちょっとあるしね。ケイさんとアルさんは色々あって一緒に行動になったけど、元々は私とサヤとハーレの3人での予定だったからね」

「うん、そういう事になるかな」

「あー、そういやそうだったな。俺以外は間接的なのもあるとはいえリアル方向からの接点がある訳だし、下手にメンバーは増やさない方がいいか」

「それもそうか。んじゃとりあえず名前に組み込むかは別として、増やさない方向で良いんだな?」

「それでいいのさー!」

「うん、そういう事でお願いかな」

「ちょっとワガママな事になるけど、ごめんね?」

「まー、気持ちは分かるから問題ないぞ。なぁ、アル?」

「そうだな。俺もそれで問題ねぇぜ」


 よし、そういう事でとりあえず俺らの作る共同体については、基本的にメンバーの増員は考えないという方向性で決定だね。それじゃその方向性を考慮に入れて、名前の候補を上げていこうじゃないか。

 数字だけだと流石に厳しいし、他に入れたい要素……やっぱり気まぐれに自由に動きたいし、その辺も入れてみるか。


「俺的には、自由でフリーダムとか、気まぐれ……って英語でなんだっけ?」

「英語で気まぐれだとカプリースだな」

「おー、自由とか気まぐれとかも良いねー!」

「……でも、やっぱり英語だと何か微妙だね」

「うん、確かに何か語感がこれじゃない感が強いかな……」


 みんなからは意味自体に不評はないけども、語感については不評っぽいね。まぁ『ファイブフリーダム』とかは俺も微妙な気はするけど……。アルがフランス語辺りでの読みを把握してるみたいだし、ちょっとここはアルに頼らせてもらおうかな。


「アル、自由とか気まぐれってフランス語だと何て言うんだ?」

「……簡単に聞いてくれるが、俺もそんなに詳しい訳じゃないから間違ってても知らんぞ?」

「それでも良いから、頼む!」

「アルさん、お願い!」

「ここはアルが頼りかな!」

「無茶振りしてる気はするけど、アルさん、お願いできない?」

「……まぁこればっかりは仕方ねぇか。えーと、自由と気まぐれだったな。確か自由はリベルテで、気まぐれはカプリスだな」

「ほうほう。リベルテとカプリスか」


 フランス語で統一するなら、さっきの5を表すサンクと合わせて『サンク・リベルテ』とか『サンク・カプリス』って感じかな。うん、これは悪くない気がするぞ。でももうちょい何か物足りない感じもする……。


「そういえばさっき出てた五芒星とかはどうなのかな?」

「あー、和名も悪くはないけど、他のと合わせるのが難しくないか?」

「言われてみればそれもそうかも……。うーん、灰の群集なんだし灰のサファリ同盟みたいに灰色とかも入れてみるのはどうかな?」

「はっ!? それなら『灰の五芒星』とかだね!? ……なんか微妙!?」

「それだと他に同じ共同体名で被るのが出てきそうだね」

「……ヨッシの言う通りだね! これは却下さー!」


 なんとなくしっくり来ないし、被る可能性は充分ありそうではある。という事で『灰の五芒星』は却下! 


「……灰色か。英語ならグレイかグレー、フランス語ならグリーズってとこか」

「へぇ、灰色ってフランス語だとグリーズって言うのか。それなら灰の群集の5人組って事で『サンク・グリーズ』とかどうよ?」

「あ、それは良さそうかな!」

「おー! それ良いねー!」

「うん、それは私も良い気がする」


 おぉ、思いつきで言ったものの、みんなからは意外と好感触! 微妙に違う気はするけど、どことなく同じような語感を聞いた覚えもあるから結構良いんじゃないか?


「『サンク・グリーズ』か。意外と悪くは……いやちょっと待て。ケイ、悪いがそれは止めておいたほうが良い」

「え、何でだよ、アル?」

「アルさん、何か問題あるのー!?」

「……厳密には『サンク・グリーズ』そのものに問題があるって訳じゃないんだがな。少し似た名前で『サングリーズ』ってのがあるんだよ」

「……『サングリーズ』? えっと、何処かで聞いた覚えが……」


 さっきの聞き覚えがある感じがしたのは、それの事か? えーと、何処で聞いたんだっけな……?


「……簡単に説明するぞ。『サングリーズ』ってのは北欧神話でのヴァルキリーの1人の名前だ」

「……それって何か問題があるのか?」

「名前の方に意味があってな? 『とても乱暴な』とか『とても残酷な』って意味があるんだよ」

「……え、マジ?」

「こんなとこで嘘を言っても仕方ないだろ。……ジェイさん辺りに『サングリーズ』って呼び方に変えられる可能性があるから、『サンク・グリーズ』はやめとけ」

「……あはは、ジェイさんならその可能性はありそうかな?」

「そだねー!? 残念だけど、これも却下さー!」

「……中々、名前を決めるのも難しいね」

「……だな」


 『サンク・グリーズ』は良いと思ったんだけど、まさかの落とし穴があった。……うん、ジェイさんがもし知っていれば冗談抜きで有り得そうな話だから、残念だけど諦めよう。流石に自分達で付けた名前を少しイジっただけで、乱暴とか残酷という意味になるのは嫌だしね。

 他に良い案は……あ、別に5人に拘る必要もないんだよな? それならこういうのはどうだろう?


「それじゃ『グリーズ・リベルテ』ってのはどう?」

「灰色と自由か。まぁ俺らっぽくもあるし、灰の群集の方針でもある内容だし、悪くはないんじゃないか?」

「私も良いと思うかな」

「私も良いと思うけど、ハーレはどう? 5人組の要素が消えちゃったけど、良い?」

「絶対にそれじゃないと駄目って拘りがある訳じゃないので大丈夫です!」


 よしよし、5人組である事そのものを名前に入れる事はハーレさんとしては絶対的な条件では無かったみたいだね。他のみんなからも好意的な反応だし、今回のはさっきの『サンク・グリーズ』とは違って何か問題があるという訳でもなさそうだ。

 それに灰の群集の基本方針を象徴するような名前にはなったし、結構いい感じになったと思う。


「それじゃ『グリーズ・リベルテ』で決定で良いか?」

「賛成です!」

「私も賛成かな」

「私も賛成」

「俺もそれで良いぜ」


 みんなの同意も取れた事だし、結構良い名前になった気はする。少なくともみんなの反発を受けながら『ビックリ情報箱』に決めるよりは桁違いに良い結果になったんじゃないだろうか。


「満場一致って事で、俺らの共同体名は『グリーズ・リベルテ』に決定だな!」

「それじゃ明日の夜に全員揃い次第、共同体の結成かな?」

「まぁそうなるな。結成はPTを組んだ状態でエン……ってか群集拠点種に申請すればいいんだっけか?」

「うん、確かそうだったはずだね」

「それじゃ夜の集合場所はエンのとこだねー!」

「ほいよっと。まぁ一番最後は俺なんだろうけど」

「ちゃんと待ってるから、そこは心配すんな」

「分かってるって」


 流石にそこで置いてけぼりにされて、先に共同体を結成される事は心配していない。悪ふざけでからかい合う事はあっても、悪意のある仲間外れをするような事はないのは知ってるからね。


「それじゃ共同体の名前も決まったし、時間も時間だから今日は解散だな」

「あー、もう11時半が来てるのか」

「それでも今日中に名前が決まって良かったね!」

「そうだね。明日に持ち越しになってたら、みんなが合流してから決めるしかなかったかな」

「アルさんがフランス語を知ってたのも重要だったしね」

「あー、知ってるって言っても完全に合ってるかどうかは結構怪しいけどな」

「アル、その辺は俺らじゃ全く分からなかったから、助かったって。ぶっちゃけ名前だからそれっぽければ、問題なし!」

「ま、それもそうか」


 厳密に文章として訳す訳じゃないんだし、単語の意味さえ全く別物とかでなければ問題はないはずだしね。灰色の自由って意味から盛大にズレてなければ大丈夫さ!


「まぁグリーズにも北欧神話に関わる話が無いわけじゃないが、特に問題はないだろ」

「……え、そっちにも何かあるの?」

「女巨人の名前だが、まぁさっきみたいな物騒な意味はなかったはずだ」

「あ、そうなんだ」


 ふむふむ、そんなに北欧神話は知らないけど問題がないなら別にいいか。北欧神話の登場人物の名前だとしても、それとは別に灰色という意味があるのは間違いないだろうしね。

 さてとこれ以上はもう時間切れだし、そろそろログアウトしていかないと。


「それじゃ今日はこれで解散!」

「あ、ケイ、ちょっと待ったかな」

「……どした、サヤ?」

「横槍入れてごめんね? でもみんな、新しい帰還の実は貰ったかな?」

「……あっ」

「あー!? 忘れてたー!?」

「私も忘れてたね……」

「全員忘れてたっぽいな。サヤ、ナイスだ!」

「いえいえ、どういたしましてかな」


 初の全滅からの帰還の実の使用だったから、新しいのを貰うのを完全に忘れていた。……まぁ他の初期エリアへの帰還の実もあるから無くてもなんとかなるけど、再取得はしておくべきだよな。とりあえず、エンの目の前だしすぐにもらっておこうっと。


「よし、それじゃ今日はこれで解散! 明日からどんなイベントやクエストがあるか分からないけど、頑張っていこう!」

「「「「おー!」」」」


 そうしてみんなと解散して、今日は終了である。アルはいつものようにもう少しやっていくみたいだけど、俺も含めて他のみんなはログアウトしていった。



 ◇ ◇ ◇



 ログアウトをすれば、いつものようにいったんの場所へとやってきた。胴体部分には『明日は定期メンテナンス! 共闘イベントの報酬アイテムの指定を忘れずに! それと共闘イベントの終了演出についてのお知らせがあります』とある。

 報酬については尤もな注意事項だね。もう1つの終了演出っていうのはどういう内容だ? まぁいったんに聞いてみれば良いか。


「なぁ、いったん。共闘イベントの終了演出ってどういう感じ?」

「えっとね〜。具体的な内容は言えないけど、まだ演出は最後まで終わってないからね〜。それの演出を行う時間についてかな〜」

「あー、そういや最後の進化がまだだっけ」


 今回の共闘イベントの最終段階は【惑星浄化機構】の再度の進化が最後の筈だもんな。そっか、その演出がいつ行われるかっていうお知らせなのか。


「イベントの最後の演出は明日の17時からだね〜。どこでも見れるけど、初期エリアで見る事をお勧めするよ〜」

「あ、どこでもいいのか。……それって見そびれた場合は?」

「その場合は追憶の実をここで使ってくれれば演出は見れるよ〜」

「あー、なるほど。そういや追憶の実があったっけ」


 手に入れた当初にその時点でのものはほぼ全部見てるって言われたから、1回使ってからその後は存在を忘れかけてたよ。そっか、そういやそういうアイテムもあったよな。今なら結構見れてないのも結構見れるんじゃないだろうか?


「……ちなみに今見れるのって何がある?」

「色々あるにはあるけど、その前に追憶の実を全部揃えてくるのが先かな〜?」

「あー、それもそうか」


 各初期エリアの群集拠点種から1個ずつ貰えるけど、まだ貰ってないのが残ってるな。まずはそっちを貰ってくるのが先だね。……よし、今度の週末はハーレさんがバイトで日中にはログイン出来ないから、そのタイミングで見てしまおうっと。


「それじゃ追憶の実については週末にでもするわ」

「はいはい〜。それじゃスクショの承諾をお願いします〜」

「ほいよ」


 そしていつものようにスクショの承諾処理をしてっと。あー、そういや明日からのイベントかクエスト次第では群集のみに戻す必要もあるんだな。


「とりあえず今日までは全部許可で」

「はいはい〜。そう処理しておくね〜」

「それでなんだけど、いったん、次のイベントって何?」

「それはまだ秘密だね〜」

「そっか。まぁそれはしゃーないか」


 次のイベントかクエストについては事前告知はなしか。という事は何かの条件を満たしてからの群集クエストの可能性がありそうだね。まぁそれはやっていけば分かるか。


「それじゃ今日はこれで終わりにするわ」

「お疲れ様〜。またのお越しをお待ちしています〜」

「おうよ」


 そうしていったんに見送られながら現実へと戻っていく。さてと、色々済ませてから寝るとしますか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る