第465話 全滅して……


 ちょっとしたミスから成熟体のクラゲを相手にして全滅したけども、とりあえずエンへの帰還の実を使ってリスポーンしてきた。周囲を見てみると当たり前だけどエンのすぐ近くであり、みんなも近くにリスポーンしているね。


「……アルの木だけって、久々に見た気がするぞ」

「まぁそりゃそうだろうな。完全に切り離したのは久しぶりだしな」

「共生進化が解除されたら変な感じだよー!?」

「ケイだけはもういつも通りかな……?」

「ケイさんは共生進化じゃないからそうなるんだよね」

「まぁそれが特色だからな」


 支配進化から派生である同調化でそもそも分離自体が不可能な俺と違って、みんなは死んだ事で共生進化が解除になっていた。木だけのアルの印象が一番強いけど、クマだけのサヤに、クラゲを帽子みたいに被っていないリスのハーレさんに、纏火の効果も切れて普段の色合いに戻ってハチの針の先のウニがいなくなっているヨッシさん。

 最近は共生進化の状態が当たり前だったので、こうして単体になると違和感がかなりある。初めはこれが当たり前だったんだけど、慣れっていうのもあるもんだな。


「とりあえず、みんなは共生進化に戻してきたら?」

「そうだな。そうさせてもらうわ」

「戻しに行ってきます!」

「この場合だと2ndのリスポーンはどこになるのかな?」

「あ、そっか。そういや全滅したのは初めてだっけ」

「あー、それなら2ndにログインする際にどこでリスポーンするかは選べるぞ。2ndの方で持ってる帰還の実を使うか、既に設定してあるリスポーン位置でリスポーンしてここまで戻ってくれば問題ないだろ」

「それなら、共生進化が終わったらここに再集合でいい?」

「うん、分かったかな」

「了解です!」

「おう、それでいいぞ」

「ほいよっと」


 今は普通にエリア間の転移は使える訳だし、他のエリアでリスポーンしていても特に問題なく戻ってこれるよな。とはいえ、ログアウトや再ログインや多少の移動があるから待ち時間も発生するか。

 よし、その間にベスタに連絡しておこうかな。検証の方がどうなったかも気になるし、あの後のクラゲがどうなったかも気になるところではある。


「俺はみんなを待ってる間にベスタに連絡入れとくよ」

「あー、それは確かに必要か」

「ケイさん、よろしくねー!」

「おう、任せとけって」


 まぁ任せとけと言っても全員死にましたって報告をするだけなんだけどね。ベスタから現状の検証状況を聞く方がメインの用件だし。


「それじゃケイ、ちょっと行ってくるかな」

「出来るだけ早めに戻ってくるからね」

「ヨッシさん、別に焦らなくていいぞ。今日はもう検証に復帰は無理だろうしさ」

「まぁそれはそうなんだけど、気分的にね?」

「あー、まぁ確かになー」


 待たせる事になるのがはっきり分かっているのなら、気にする人は気にするよね。気にしない人は一切気にしないんだろうけど、俺らのPTにはそこまで時間に杜撰な人もいないか。……ハーレさんも寝坊はあっても、待ち合わせの時間を盛大に無視する事もないもんな。

 検証についてももう少しで11時になるし、これから砂漠までまた移動というのも厳しいだろう。うん、やっぱり早めに転移の種が欲しいとこだ。明日には手に入るから、もう少しの我慢だね。


 そうしてみんなが共生進化に戻す為にログアウトしていった。さて、今のうちにベスタにフレンドコールでもしようっと。……いや、ちょっと待てよ? ここで話すのはちょっとまずいか。赤の群集のプレイヤーの姿も見えるし、常闇の洞窟へ一旦移動しようっと。

 とりあえずエンから転移の場所を選んで……常闇の洞窟の中ならどこでもいいけど、今日の集合場所になってたとこにするか。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 よし、移動完了。誰かがいる気配もないし、ここでいいか。……流石にここには他の群集はいないとは思うけど、分かりにくいように地下湖の中に潜っておこう。水中なら流石に大丈夫だろ。

 さて、ベスタにフレンドコールをかけようっと。手が離せない状態なら出てくれない可能性もあるけど、ベスタはそれで怒るような人じゃないしね。ベスタへのフレンドコールをかけて……お、すぐに出てくれた。


「ケイか。見事に全滅してたな?」

「あ、もしかして見てた?」

「……あの砂丘は望海砂漠では一番高い場所だからな。その付近であれだけ逃げ回ってりゃ目立って当然だ」

「……そりゃごもっともで」


 砂丘の上に登って、その先が一望出来るんだからそりゃ高い位置ではあるよね。広大な海の水平線に見惚れて砂漠の方は詳しく見れていない内にクラゲとの戦闘になったから、あそこが一番高い場所とは知らなかったけども……。


「で、ケイが連絡してきたって事はアルマース達は共生進化のし直しってとこか」

「あはは、完全にお見通しかー」

「あれだけ盛大に殺られたら、大体の見当はつく。それで称号は手に入ったのか?」

「あ、それはバッチリだぞ!」

「それならばいい」


 あれで何の成果も得られずに、ただ全滅しただけだと悔しくて仕方ないもんな。みんなも無事……かどうかは別として、称号自体は手に入れたので成果はあった。

 まぁそれでも進化階位が違うから仕方ないとはいえ、一方的にボロ負けなのはあまり良い気分でもないけどね。……あのクラゲはいつか絶対に仕留めてやる!


「ところで、あのクラゲって今はどうなった?」

「あー、それか。……ちょうど今、目の前で未成体のサソリを傘の上に乗せ始めたとこだな」

「まさかの雑魚敵の回収中!?」


 そっか、そうやって他のエリアの敵を乗せて回収していって、また別のエリアにばら撒いていくんだね。という事は、今回収されているサソリもどこか別のエリアに合わせて適応進化して、変わったサソリに進化していくんだな。


「ちなみにだが、その回収が終わるまでは検証が出来る状態じゃないからな。聞きたい事があるなら今のうちに話しておくぞ。検証状況が気になってるんだろう?」

「心でも読まれてるの、俺!? ……まぁいいや。それで検証の方はどうなった?」

「一応、大体の事は気合入っている連中の頑張りもあって検証は終わったな。位置はあちこちに分散していたからクラゲの影響があったのは一部だし、俺は瘴気石を配って回ったからな。そのおかげでフィールドボスになるLvの条件も分かったぞ」

「お、マジか! Lvはいくつからでフィールドボスになるんだ?」

「最低でLv11からだ。Lv10以下ではフィールドボスにはならん」

「ほうほう、Lv11からか」


 そうなると最低でも+5の瘴気石が2個必要になるって事だね。スキルLv1の瘴気収束と浄化の光で強化出来るぎりぎりのラインってとこか。

 それにしてもあちこちに散らばって成長体を探しに行ったみんなが、たくさんのLv20の成長体を見つけたんだろうね。ベスタが補佐に回って、複数のPTで並行して数体の検証をしていたような感じかな?


 まぁ現状ではそこまでのLvのフィールドボスが再発生させられるなら問題もないか。この検証情報が広まれば瘴気収束とかのスキルLvも上がって、もっと強化は出来るようになるはずだしね。


「あぁ、それとだな。これはあくまでも望海砂漠というエリアでの話だからな」

「……え? あ、そっか。他のエリアもフィールドボスになる最低Lvが一緒とは限らないのか!」

「そういう事だ。まぁその辺はこれから時間をかけて検証していくがな」


 そりゃそうだよね。望海砂漠の雑魚敵のLvは大体がLv12前後だったし、もっと雑魚敵が高いLvになってくれば、フィールドボスの最低Lvが変動する可能性はかなり高い。そうじゃなければ、フィールドボスの方が雑魚敵よりもLvが低いのが当たり前になってしまうしね。


「とりあえず最低Lvについては分かった。他には何かあった?」

「あぁ、あるにはあったぞ。禍々しい紋様を消していない+5の瘴気石も使ってみたが、この場合は瘴気属性持ちのフィールドボスになるな」

「あ、そっちのパターンも試したんだ」


 そのパターンも試す為に禍々しい紋様を残したままの瘴気石も持ってきてたもんな。そんなに時間は経ってなかったとは思うけど、検証も早かったんだね。流石は、灰の群集の検証勢だ。手際が良い。


「ちなみに瘴気属性持ちのフィールドボスについては纏浄を使えば楽勝みたいだぞ。基本的には瘴気汚染がある以外は通常のフィールドボスと変わらんしな」

「纏浄があれば楽勝なんかい!?」

「纏瘴でも攻撃を受ける頻度が極端に下がるから優位にはなるぞ?」

「……あー、そっちも有利にはなるんだ。まぁ1日に使える時間制限があるし、デメリットがある分だけ強力ってことか」

「まぁそういう事だな。ちなみに禍々しい紋様ありと無しを混ぜて使った場合は確率で瘴気属性を得るようだ。まだ試行回数が少ないから確率はどんなもんか分からんがな」

「あー、確定ではなくなるのか」


 ふむふむ、とにかく瘴気属性のフィールドボスも生み出せるんだね。不動種での瘴気石の強化に必要という事もあるし、纏瘴も纏浄もイベント限定での特効の纏属進化ではなくて通常時でも役目はあるという訳だ。

 +6以上の禍々しい紋様ありの瘴気石を作るやり方が分からないけど、これはどこかの強化段階でまた浄化の光が必要になるのかな?


 一見無駄に見えても、無駄では無い要素が隠れている事もある訳だ。……意外な落とし穴が時々あるみたいだから、その辺は気を付けていきたいね。


「それじゃ今日の検証案件は全部終わったって事でいいのか?」

「あー、まぁ大半は終わったが1つだけまだ残ってるぞ」

「……他に何かあったっけ? あ、ちょっと待って、自分で考える!」

「……まぁ別に待つのは良いが……」


 えーと、確かにそう言われてみれば何かまだやってない事があるような気はする。……あ、思い出した。残滓に瘴気石を使ったらどうなるかってのがあったはず!


「残滓についての検証で合ってる?」

「あぁ、合ってるぞ。ただの残滓には効果はないのは確定出来たが、成長体のLv20の残滓が見つからなくてな」

「あー、そもそもLv20の残滓がいないのか……」


 それだと検証をしようと思っても根本的に不可だよな。それにしても成長体の残滓のLv20がいないと思わなかったな。普通に存在していると思ってたけども、そういう訳でもないのか。


「一応、残滓のLv20がいない理由については見当はつくんだが、まだ確証がないからな」

「え、何か理由があるのか?」

「……すごい単純な話だぞ。残滓のLv20が存在する為には黒の暴走種のLv20が倒されている必要があるからな。そしてその状況をプレイヤーに当てはめると、何が起きる?」

「あ、転生進化か! って事は、残滓にならずにLv1の未成体に進化してる可能性があるのか!?」

「そういう事だ。まぁまだその実物の確認は出来ていないんだがな」

「……それって、確認する術ってないんじゃね?」

「……現時点ではそうなるな」


 やっぱりそうなるよな。基本的に倒すとポリゴンとなってその場から砕け散っていくもんな。もしそれの進化系らしき種族がいても、それが進化した結果なのかの判別は出来ない。

 それにその場合だと黒の暴走種の中にいる精神生命体は解放されるから、瘴気強化種になる可能性もあるんだよね。ふむ、考えれば考えるほど、この実態確認は困難な内容か。


「まぁ残滓に関してはそれ程深く考える必要もないだろう。ただもしLv20の残滓を見つけたら報告してくれ。徒労に終わる可能性の方が高いが、俺らはこれから一応Lv20の残滓は探してみる予定だ」

「ほいよっと。頑張ってくれー!」


 まぁ見つからない可能性の方が高い気はするけど、もし見つけたら重要な情報ではあるからね。もし見つけたら、即座に報告欄に書き込むつもりでいようっと。


「さて、クラゲが飛び去ったからそろそろ切るぞ。まだ1戦も出来ていないPTがいるし、残滓の捜索は徒労になっても、各PTに1戦くらいはさせてやりたいからな」

「あ、そうなんだ。あー、俺らは時間的にも戻れそうにないから、検証は終了でも問題ない?」

「元々任意の参加で強制はしていないから、今みたいに一言声をかけてくれればそれで問題ない」

「それもそうだな。ということで、今日は俺らは検証は終了にするよ」

「あぁ、了解した。ケイ達とは俺はほぼ同じに動いていたから、報告を上げる必要はないぞ。俺の方でやっておくからな」

「ほいよ。いつもまとめ作業、ありがとな」

「なに、気にするな。俺が好きで勝手にやってるだけだからな。それじゃもう切るぞ」

「ほいよ。またな、ベスタ!」

「あぁ。またな、ケイ」


 そうしてベスタへの報告と最新の検証情報は手に入ったね。さてとそろそろみんなも戻ってきてる頃だろうし、エンの所に戻るか。


<『常闇の洞窟』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 さーて、みんなはもう来てるかな? 周囲を見てみれば、竜を首に巻いたサヤを発見。キョロキョロと周囲を見回している様子だね。あ、しまった。常闇の洞窟に行ってベスタと連絡を取ってた事を誰にも言ってなかったっけ。


「あ、ケイ、どこに行ってたのかな?」

「サヤ、悪い。待たせちまってたか?」

「ちょっとだけだけどね。ケイが居なくてビックリしたよ?」

「人目を避けてベスタに連絡を取りたかったから常闇の洞窟に行ってたんだよ。先に言ってなくてすまん」

「あ、そういう理由だったんだ。それなら仕方ないかな」


 どうやら俺の行動の意図はサヤに正しく伝わって、理解してくれたようである。そして、他のみんなはちょうど今再びログインしてきたようである。


「共生進化、復活ー!」

「やっぱり慣れた状態がいいね」

「ま、そりゃそうだよな」


 いつもの共生進化の状態でアル、ヨッシさん、ハーレさんも戻ってきた。とりあえずこれでクラゲに全滅させられた事の後始末は終わりである。さてとみんなにベスタからの検証情報を伝えてから、今日最後にやるべきの共闘イベントの報酬の最終決定もしないとね。

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