第464話 成熟体の脅威


 徐々に迫りくる……って、成熟体クラゲの移動速度って早!? え、もう海を通り過ぎて砂漠の上まで来てるじゃん!?


「ハーレさん、連絡急げ! アル、逃亡体制でいくけど、俺の水流の操作で流すぞ!」

「おう、まだ俺の水流の操作はLvが低くて無理だからな!」

「ヨッシさんは氷の防壁で防御担当、サヤはヨッシさんが受け止めて破壊される前に攻撃を逸らせ!」

「了解!」

「分かったかな!」


 進化階位が違うから倒す事はまず不可能だ。……すんなり殺されて終わりという手段もあるにはあるけど、それは嫌だしね。

 そうなると俺とアルの2人掛かりで全力で回避して、サヤとハーレさんとヨッシさんにはその支援を頼むのが良いはず。とにかく、死ぬのは不可避としても称号だけは取ってやらないとね。


「連絡終了です! 敵対判定を受けたPT以外は基本的に攻撃対象にならないから、私達の好きにやって良いってー!」

「そっか。余計な事さえしなければ巻き添え自体は無いんだな……」


 でもあれだけ離れた距離からのスクショにも反応するって相当厄介ですよねー!? うん、今回はもう過ぎた事でどうしようもないけど、今後は気をつけよう。


「それで残りの検証に必要な事は他のメンバーでどうとでもなるから遠慮なく死んでこいって!」

「やっぱりそうなるよなー!?」


 今はまだ成熟体には勝てないのが分かっているし、そもそも俺らでないと駄目な事はないから、そういう判断になるのも仕方ないけどね……。まぁ他のメンバーが襲われないだけでも良しとしよう。


<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>

<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 そうやって話しているうちに、発見報酬が得られる位置までクラゲがやってきたよ。うっわ、アルのクジラよりデカいクラゲだ……。


「みんな、急いでアルに乗れ! アル、行くぞ!」

「おうよ! ちっ、こういう事になるならクジラでログインしておきたかったぜ」

「それを今言っても仕方ないかな!?」

「みんな、危ない! 『並列制御』『アイスウォール』『氷の操作』!」


 急いでみんながアルに乗り込んで行く間にクラゲの触手が俺らに向けて上部から振り落とされてきて、ヨッシさんが慌ててそれを防いでいた。……でも、既に氷の防壁に亀裂が入って破られる寸前である。


「これ、私だけじゃ無理! サヤ!」

「うん! 『魔力集中』『強斬爪撃』! うっ、これは硬いかな!?」

「でもこれなら! えい!」


 竜に乗ったサヤがヨッシさんの受け止めている触手を右横から爪で斬りつけ、それによって少しだけ横にズレた触手を、ヨッシさんが氷の防壁の傾きを変えることで受け流していった。

 そしてその直後に氷の防壁の耐久値が無くなって砕け散っていき、アルの左側に逸れた触手が砂漠の上へと叩きつけられていく。うっわ、凄い威力で砂塵が舞ってるし……。


 魔力集中や自己強化を使っている様子はないのにこの威力って事は、少しでも下手な対応をすれば即死してもおかしくないな。……回避に専念したいとこだけど、これはそうも言ってられないか。


「ケイさん!?」

「ケイ!」


 って、ヤバい!? 目の前に迫っているクラゲの他の触手から、突きが放たれてきてるし!? くっ、位置的に完全に俺が狙われてるじゃん!? まだ俺を含めて、みんなはアルに乗れてないのに、これはキツイぞ!?

 でもさっきのヨッシさんの受け流す方法で全く防げない訳じゃないのは分かった。博打にはなるけど考えてる時間はない!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 57/62(上限値使用:1): 魔力値 185/200

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 47/62(上限値使用:1): 魔力値 170/200

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 両方を魔法砲撃で砲撃化して、左右のハサミから突いてきている触手に向けて土の塊を撃ち出していく。狙いは触手に当たる直前の部分で複合魔法化が狙い! 魔法砲撃を切ってなくて良かったー!


<『複合魔法:アースプロテクション』が発動しました>


 よし、うまく複合魔法になった半球状の土の防壁でクラゲの触手の突きを受け止められた。……でも1発で耐久値が6割以上削られたんだけど!? えぇい、今はそこを気にしても仕方ない! とりあえず強引にでも向きを変えて、攻撃を逸らさないと。


「みんな、今のうちにアルの上に急げ!」

「うん、分かったかな!」

「了解です!」

「ケイさん、私は援護するよ! 『複合毒生成:麻痺毒・腐食毒』『同族統率』! 行け、ハチ1〜3号!」


 ヨッシさんが2種類の毒を持たせた統率のハチを放っていく。応用の猛毒を使いたいところではあるけど、行動値の消費が多くなるから仕方ないな。

 あっという間に統率のハチは巨大クラゲに仕留められていくけども、囮としては充分役立ってくれた。今の間にみんなはアルの背の上に退避出来たからね。


「ケイ、急げ!」

「分かってる!」


 とにかく急いでアルを流す為の水流と、緊急迎撃と防御用を兼ねた岩の生成もしていこう。急げ、急げ、急げー!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 46/62(上限値使用:1): 魔力値 167/200

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 44/62(上限値使用:1): 魔力値 164/200

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 あ、やっべ。これ、岩の操作を使うだけの行動値が残ってないじゃん!? 焦ってるからミスったか! いや、それは仕方ない。でも即死さえ防げれば、良いのなら……よし、土の操作で扱える範囲の大きさで生成しよう。

 でも岩にならない範囲の大きさの石ってどんなもんだ!? えぇい、俺が乗れるくらいの大きさで、1回でも直撃を防げさえすればいい!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 25/62(上限値使用:1)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 19/62(上限値使用:1)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 即座に生成した大量の水と俺が乗れる程度の大きさに生成した石の両方をそれぞれ支配下に置く。それで石に飛び乗ってアルの背に乗り、アルを水流に流していく。


「アル、とりあえず一旦距離を取るぞ!」

「おう!」


 突発的なこんな状況でさえなければ、このクラゲの相手はアルのクジラの方でのログインでやりたかったとこなんだけどね。事前準備なしでそんな余裕なんかないんだから今ある手段で頑張るしかない。

 とりあえず生成した石を俺の周囲で浮かせつつ、アルを流して距離を取って……ちっ、全力で水流を流してはいるけども流石に成熟体となれば移動が早いか。全然引き離せない。


「ハーレさん、さっき拾ってた砂漠の砂を投げろ! 大して威力はないだろうけど、嫌がらせくらいにはなる筈だ!」

「了解です! 『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」

「サヤとヨッシさんは連携して触手の迎撃!」

「分かったかな!」

「了解!」


 ハーレさんが砂をばら撒いていくのをクラゲが鬱陶しそうに弾き飛ばしていく。……少しだけ移動速度が鈍ったか? よし、今のうちに少しでも加速! 


「やった! 効果があるみたい!」

「そうみたいだな」


 ダメ元だったんだけど、意外と広範囲に対する嫌がらせ的な行動が効果あるのかもしれない。称号の条件にもなっているんだし、それなりの攻略しやすくなる特定行動が設定されているのかもね。

 とりあえずこれでひたすら逃げ回っていけば何とか……なるか? この速度で水流の操作をして、果たして生き延びれるのか?


「ケイ、水流の操作の効果が切れたら俺の水のカーペットに切り替えるぞ。速度は水流ほどは出ないが、回避には使えるだろ」

「……それもそうだな。でも移動操作制御だと不意のミスが危ないから手動発動で頼むぞ、アル!」

「おう、了解だ!」


 そうだよ、今は俺だけが水の昇華を持っている訳じゃない。効果時間が切れたら、アルの水のカーペットで蛇行しながら回避優先で行けばいい。……出来れば速度の出る水流の方がありがたいけど、選り好みできる状態じゃないしね。


「よし、反撃はしなくていいからとにかく逃げ回るぞ!」

「了解さー! あ、ケイさん、折角だし識別しておく!?」

「そんな余裕がある!? 『並列制御』『アイスウォール』『氷の操作』!」

「少なくとも私とヨッシは無理かな!? 『アースクリエイト』『操作属性付与』『強斬爪撃・土』!」


 どう見ても俺もサヤもヨッシさんもそんな余裕はない。いや、識別の情報は欲しいんだけどね? うわっと!? サヤとヨッシさんが逸した触手とは別の触手が襲いかかってきたよ。ふー、ぎりぎりのところで流れの向きを変えて、横から石を叩きつけて回避成功っと。


「ハーレさん、今は無理! やるなら『格上に抗うモノ』の称号を手に入れてからだ」

「はっ!? そっか、そのタイミングでいいんだね!?」

「ま、死んでも良い状態になったらって事だけどな!」


 今は思った程は苛烈な攻撃ではないから何とか避けられているけども、威力自体は即死級の威力だもんな。成熟体相手に生き残れるとは思ってはいないけど、まぁその寸前に情報と称号だけ手に入れてやる!




 そうしてしばらくの間、成熟体のクラゲから逃げ続けていく。途中で何度かアルの水のカーペットに交代し、今はアルが回避に専念して俺は行動値の回復中。

 何度かこの状態にはなったけど速度が出ないからかなり危険な位置ではある。だけど、サヤが爪刃双閃舞や連閃を駆使して襲い来る触手を逸らして凌いでいた。うん、役割分担は大事だね。


「『連閃』! ハーレ!」

「了解です! 『爆散投擲』!」


 お、ハーレさんの爆散投擲がクラゲに直撃……全然効いてないけど、鬱陶しそうにして少し動きが鈍ったか。応用スキルで何とかこの程度ってのが恐ろしいけどね!? えぇい、行動値の回復はまだか! 水流の操作が発動できればもうちょい楽になるんだけどな……。


 とにかく逃げ続けて分かった事といえば、このクラゲは前に遭遇したクジラとは違って物理攻撃がメインってとこだね。現時点では範囲攻撃がないだけマシだけど、その代わり通常のスキル攻撃ですら即死級の威力があるんだよな……。


「げっ!? 自己強化を発動した!?」

「うっわ、マジか……」


 何も強化なしの状態でぎりぎりの回避だったっていうのにここで自己強化とか……。そういや逃げ続けて何分経ったかな?


<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『格上に抗うモノ』を取得しました>

<スキル『行動値増加Ⅱ』を取得しました>

<既に『行動値増加Ⅱ』を取得していますので統合し、スキル『行動値増加Ⅲ』に変化しました>

<スキル統合により、スキル『行動値増加Ⅱ』は失われます>


<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『格上に抗うモノ』を取得しました>

<スキル『行動値増加Ⅱ』を取得しました>


 お、格上に抗うモノの取得が出来た! そういやロブスターの方は行動値増加Ⅱは持ってなかったっけ。まぁロブスター側の行動値を使う事もないから別に良いか。というか、称号取得のタイミングが自己強化の発動条件かな? まぁ、それは今はいいや。


「みんな、称号は取れたか!?」

「おう! 問題なく取れたぜ!」

「私も取れたかな!」

「私も取れたよー!」

「私も大丈夫!」

「よし、それじゃもう死んでも大丈夫だな。識別、いくぞ!」

「「「「おー!」」」」


 なんとか必死に逃げ回ったお陰で全員が『格上に抗うモノ』は取れたようである。それでは最後に識別だけして、この戦闘も終わりだね。


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 43/69(上限値使用:1)


 おっと、クラゲの触手が銀光を放ち始めたぞ……。あー、こりゃぎりぎりでの称号取得だったっぽいね。いや、称号を取るまではある程度の猶予はくれる感じかな? これは基本的には逃げ一択だな。


『浮遊島クラゲ』Lv3

 種族:黒の暴走種(浮遊徘徊種)

 進化階位:成熟体・黒の暴走種

 属性:風

 特性:浮遊、徘徊、刺突、伸縮


 あー、前に掲示板で見た情報と大差はないのか。まぁ、それでもここまでやったなら充分だろう。そしてこの情報を確認した直後に、クラゲの銀光を放つ連続突きが俺らに襲いかかってくる。


<『同調打撃ロブスター』のHPが全損しました。『同調強魔ゴケ』が大幅に弱体化します>


 その攻撃は誰も避けられずにそのクラゲの攻撃を受けて、俺はロブスターが死んだ。アルは先にクジラが死に、共生進化が解除されて空中に木が放り出されていく。サヤは竜が、ハーレさんはリスが、ヨッシさんはウニが死んでいた。

 生きている方も辛うじてHPが残っているだけで戦線復帰が出来るような状態ではない。それにアルのクジラが死んだので、ヨッシさん以外は落下中である。あー、アルの水のカーペットも完全に破壊されたし、やっぱりこりゃ無理か。


「これは俺のリスポーン位置で復活するだけ無駄だな」

「だな。帰還の実でエンのとこで復活で良いか?」

「いいよー!」

「まぁそれしかないかな?」

「うん、まぁそうなるよね」


 片方が完全に死んで、空中から落下していく最中にそんな話をしていく。アルの水流がまだ使えるけど、これは足掻くだけ無意味だろうしね。……既に追撃の触手が振り上げられてるもんなー。

 そして、アルの木が死に、サヤのクマが死に、ハーレさんのクラゲが死に、ヨッシさんのハチも死んだ。成熟体って強いなぁ……。


 生きているのはロブスターの残した甲羅にいるHPのないコケの俺だけである。……まぁロブスターが死んだので盛大に弱体化中なんだけどね。そしてクラゲは俺を仕留めるつもりのようで、触手が1本だけ毒々しい色合いに変わっていく。

 なるほど、俺を仕留める手段は毒ってわけか。まぁ、称号を得られるまで逃げ切ったし、健闘したって事で良しとしよう。


<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 そうして俺は……俺達のPTは成熟体のクラゲによって全滅した。ふふふ、今回は出来る限りの事はしたけども、いずれ成熟体に進化したら真っ先に仕留めてやるから覚悟しておけよ!


 さてと、森林深部用の帰還の実を使ってリスポーンしようっと。予定外の事で途中離脱になっちゃったけども、みんなが続けている検証についての続報を聞いておかないとね。

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