第463話 望海砂漠の由来


 砂漠を進んできて、もう目前には小高い砂丘がある。前方への視界は完全に遮られている感じではあるけども、みんなで歩いて登っていってもそれ程高くもないからすぐ頂上に辿り着くね。それに今のアルなら飛んで高度を上げてしまえば簡単に登れるだろう。


「よし、砂丘の目前まで到着!」

「どうする? 俺が一気に高度を上げるか?」

「はい! 砂丘に沿って登っていきたいです!」

「私もハーレに賛成だよ」

「ハーレさんとヨッシさんは普通に登るのを希望だな。アルとサヤは?」

「え、あ、うん。私もそれでいいよ。……その間だけ、情報共有板から離れててもいいかな?」

「この距離と高さならそう時間もかからないから良いんじゃねぇか? あ、俺もそれで構わんぞ」

「ほいよっと。それじゃ、さくっと砂丘登りでもするか。サヤもその間くらいは情報共有板は気にしなくて良いぞ」

「うん、分かったかな!」

「それじゃ出発だー! あぅ!?」


 そう言いながらハーレさんが砂漠の上に飛び降りていき、勢い余って砂に足を取られて転けていた。そしてそれを心配するように、サヤとヨッシさんも降りていく。サヤは流石のバランス感覚で見事に着地し、ヨッシさんはそもそも飛んでいるので着地の問題はなかった。


「ハーレ、大丈夫かな?」

「ハーレ、大丈夫?」

「大丈夫さー! ところで、この砂って持って帰れないかな!?」

「……そういえばどうなのかな?」

「試してみればいいんじゃない?」

「それもそうだね! ……あ、採集出来たよー! それにスタック可能だー!」

「へぇ、スタック可能なのか」


 ふむふむ、砂漠の砂がスタック可能で採集が出来るなら、ハーレさんの散弾投擲の弾として使えるね。そういや砂を生成すれば散弾投擲の弾として使えるんだから、天然産の砂が採集出来ても不思議ではないのか。


「そういう事ならサヤも採集していったらどうだ?」

「え、アル? あ、そっか。スキルで使わなくても、不意打ちで目潰しとかには使えそうかな?」

「まぁ、そういう事だな。相手次第では有効だろ?」

「うん、確かにそうかな。水月さんとかを相手にするなら、隙を作るのに使えるかも」


 サヤもハーレさんと同様に砂を採集しだしていた。ふむふむ、確かに水月さんとかを相手にするなら不意打ちで隙を作るのには有効かもね。まぁそれが有効なのは初めての時だけだろうけど、それでも重要な手札である事は間違いない。


「とりあえず採集は完了さー! サヤももういいー!?」

「うん、そんなに沢山はいらないから、問題ないかな」

「それじゃ、砂丘の頂上を目指していきますか!」

「「「「おー!」」」」


 俺も号令をかけると同時に、砂漠の上へと着地っと。少し予定は狂ったものの、改めて砂丘へと向かって進みだしていく。

 うーん、砂地だから普通に歩きにくいね。……まぁいつも飛んでばっかというのもあれだから、こういう独特なエリアに来た際には少しくらい自力で歩いてみるのも良いだろう。楽な手段ばっかり選んでたら、いざって時の対処が遅れるしね。


「……あれ?」

「どうした、ハーレさん?」

「ここに何か埋まってない!?」

「……砂丘の途中に何かが埋まってる?」


 ハーレさんの指差す先には、確かに砂に埋もれた岩の一部が僅かに隠れていた。……これは何かありそうだな? でも、これって比較的分かりやすいし、誰も見つけてないとも思えないね。


「今聞いてみたけど、それってもう発見済みだっていう話かな。まとめにあるって」

「あー、ちょっとまとめを見てみるか。……ふむ、その岩を除けた先は、既に発見済みの小規模な洞窟だとよ」

「やっぱり発見済みだったか」

「発見済みなんだねー!? 残念……」


 サヤとアルが手早く情報を確認してくれていた。未発見だとは思えなかったし、やっぱり既にまとめ情報にも載ってた場所か。それなら今すぐに調べる必要もないかな。まぁどういう洞窟なのかは少し気になるけども……。


「アル、この洞窟は具体的にどういう場所だ?」

「あー、ここのは特に変わった所は何もない砂丘の反対側に繋がっているだけみたいだな」

「……ここのはって事はまだ何かあったりするのか?」

「正解だ。この砂漠のあちこちに小規模な地下洞窟の入り口があるんだとよ」

「え、アルさん、それホント!?」

「あぁ、ホントみたいだぜ。ただ、何かありそうな感じではあるが、明確な何かは発見出来ていないらしい」

「うー!? それ、気になるねー!?」

「ハーレ、気持ちは分かるけど今日は目的が違うからね?」

「うん、分かってるよー! とりあえずここの洞窟が外れなら、スルーして砂丘の頂上に行くのさー!」

「探索するのならまたの機会にかな?」

「ま、そうなるか」


 何かがありそうな洞窟がこの望海砂漠に点在しているというのは気にはなるけども、今日の目的とは一致しないもんな。なんとなく雪山の氷結洞と同じような雰囲気も感じるし、何か合成アイテム系の草の群生地とかがありそうな気はする。

 もしそうだとしても、群集を上げての検証中に脱線していくのもあれだし、今回はスルーで良いだろう。少なくとも大々的にまとめにある場所はね。


「あ、ごめん。そろそろ纏火を再使用しないとまずいから、少し待って貰っていい?」

「ほいよ。って、俺も乾燥適応を再使用しないとやばい!?」


 気が付けば現在時刻は10時半の目前で、砂漠に入ってから既に1時間近くが経とうとしていた。


<『特性の種:乾燥適応』の効果が切れました>


 そして、その直後に乾燥適応の効果が切れた。って、やばい!? コケの群体がどんどん減ってるし、ロブスターのHPも凄い勢いで減り始めた!? これが砂漠の乾燥の猛威!?


「わっ!? ケイさんとヨッシが凄い勢いで弱っていってるよ!?」

「ちっ、2人とも再発動を急げ! ほら、とりあえず水だ!」

「アルさん、ありがと! 急がないと! 『纏属進化・纏火』!」

「アル、サンキュ!」


 対策が切れて一気に弱り始めた俺とヨッシさんの状況を見て、咄嗟にアルがインベントリから取り出した水をぶっかけてくれたお陰で弱る速度が鈍ったね。アル、グッジョブだ!

 アルが稼いでくれた時間ですぐに乾燥適応をしてしまわないとまずいな。ここまで急激な速度で弱るとは思ってなかったぞ。


<『特性の種:乾燥適応』を使用します>


 よし、これで再適応は完了っと。急激に弱っていく状態もなくなったし、乾燥対応は必須だね。今度からはしっかりと効果が切れる時間を確認して、予め水の中に退避しておこうっと。


「とりあえず、ケイもヨッシさんも大丈夫そうだな?」

「おうよ! いやー、少し焦ったぞ」

「うん、私も。時間には気を付けないと危ないね」

「そうだよねー! ヨッシ、蜜柑の果汁のジュースをくださいな!」

「あ、私も欲しいかな」


 そういえば水分を取って脱水の状態異常にならないようにって話だったな。……それとは関係なしに俺は俺でHPと群体数を回復させておく必要もあるけど、みんなは水分をしっかり取っておかないとね。


「……補充しないともうあんまり数がないから、普通の水じゃ駄目? 果汁はHP回復用に置いておきたいしさ」

「それなら仕方ないさー! それじゃアルさん、水をくださいな!」

「少ないなら節約した方がいいもんね」

「おうよ! って、そのままじゃ飲みにくいだろうから、竹の器を出してくれ」

「はーい!」

「これでいいかな?」


 サヤとハーレさんがそれぞれのサイズに合った竹のコップをインベントリから取り出して、水を受けられるように待機していく。うん、これは竹を採りに行っておいて正解だったね。

 別に無くても水が飲めない訳ではないけども、気分的にはこっちの方が良いもんな。


「それじゃいくぞ。水を取り出して……よし、『水の操作』!」

「アルさん、ありがとー!」

「アル、ありがとね」

「どういたしまして。さてと、俺も飲んどくか」


 サヤとハーレさんの持っている竹のコップにインベントリから取り出して操作した水を入れていき、それで残った水をアルはクジラの口の中へと放り込んでいく。

 そしてサヤとハーレさんも竹の中に入った水を飲み干していった。これでとりあえずはみんなの乾燥対策は大丈夫かな。よし、俺は俺で弱った分は回復しておこうっと。……たまにはあれも使うか。


<行動値を1消費して『治癒活性Lv1』を発動します>  行動値 61/62(上限値使用:1)


 ロブスターの全身から少し淡い光が放ち始め、自然回復よりも少し早めに徐々にHPが回復していく。とはいえLv1だから仕方ないけど、回復量は微々たるもんだね!?

 俺は基本的に後衛だから被弾も少なくて自己回復系のスキルを使う機会はあまりないんだけど、これは無駄発動でも鍛えておくべきか……? 昇華になれば他の人も回復出来るようになるって話だし……。


 まぁ、今はとりあえずHPと群体数の回復が先だね。治癒活性ではアイテムでの回復量も増える訳だしな。……その前に、群体数の回復をしておくか。


<行動値を3消費して『増殖Lv3』を発動します>  行動値 58/62(上限値使用:1)


 ロブスターの背中以外にコケを増やす必要まではないので、Lv3で発動っと。……よし、これでコケの方は問題ない。後は蜜柑を取り出して、食べておこうっと。うん、甘くて美味い!

 あ、ヨッシさんも蜜柑を取り出してHPの回復をしていた。まぁ俺もヨッシさんも、それなりにHPは減ったもんな。……よし、回復も済んだみたいだし、いい加減砂丘の頂上へと行こう。もうあと少しってとこまでは登ってるしね。


「ちょっと色々と脱線したけど、今度こそ砂丘を登り切るぞ」

「おー!」

「ハーレ、待ってかな!」

「焦らないの、ハーレ!」


 ちょっと予定外の脱線で我慢し切れなくなったのか、砂丘の頂上へと向かって駆けていくハーレさんと、それを追いかけていくサヤとヨッシさんであった。


「アル、俺らも行くか」

「だな。さて、どんな景色になってるものやら」


 エリア名や紅焔さん達がこっちの方面を勧めてきた事から大体の想像はついてはいるけども、実際に見てみるとどんなもんだろうね? オフライン版では海に面した砂漠とかはなかったし、砂浜とかとはまた違った感じだとは思うんだけど、こればっかりは実際に見てみないとな。


「わぁ!?」

「思ったように言葉が出ないかな」

「あはは、うん、サヤの気持ちは私も分かるよ」


 先に砂丘の頂上へと辿り着いたサヤとハーレさんとヨッシさんは、見た景色に対しての感想の言葉が思い浮かんで来ないようである。へぇ、そんなに凄い光景なんだ? かなり楽しみになってきた。

 そうしている内に俺とアルも砂丘の頂上に到着。さーて、どんな景色がーー


「……すげぇな、これ……」

「……エリア名が望海砂漠になった理由がよく分かった」


 砂丘から見渡せるのは、単純に言ってしまえば砂漠と海である。だけど、今いる砂丘から北に向けてそれなりの距離の砂漠と、その先に広がる広大な海が一望出来るようになっていた。

 今いる地点からは海の先に陸地は全く存在しておらず、太陽光がキラキラと水面が反射しており、水平線がどこまでも広がっている。


 そして、その海までの間にある砂漠の濃いめの茶色と、一望する事が出来る青い海と、雲ひとつない青空がそれぞれに独特の雰囲気を醸し出している。果ての見えないどこまでも広がっているその光景に思わず心が奪われていた。


「はっ!? スクショを撮らないと!?」

「ハーレさん、後でスクショをくれ」

「私もお願いかな」

「私もお願い」

「俺も頼む」

「了解です!」


 ハーレさんがこの絶景のスクショを撮るために元に戻ったのをキッカケに、俺も含めてみんなが復活してきた。うん、これは見るべきだという紅焔さん達の意見は欠片も間違いじゃなかったね。

 これ、夜は夜でまた違った趣きがありそうだよな。今後の状況次第ではあるけど、砂漠のあちこちにあるという洞窟の探索を含めて夜の日にまたここに来るのも良いかもしれないね。


「あー!?」

「ハーレ、どうしたのかな?」

「でっかいクラゲが海から出てきたー!」

「え、マジか!? おぉ、マジだ!」


 改めて海をよく見てみれば、確かに水飛沫を上げながら空へと飛び上がっていくクラゲらしき姿が見える。ちょっと半透明なので遠目には分かりにくいけども……。でもあれって言うほど大きいか?

 そんなに大きい……いや、違う。この距離から視認出来るって事は相当巨大なはずだ。って事は、前に遭遇した成熟体の巨大クジラと同系統のやつか!?


「……あっ」

「『あっ』ってなんだよ、ハーレさん!?」

「あのクラゲのスクショが撮れちゃいました!」

「それって大丈夫なのかな!?」

「……いや、駄目っぽいな」

「……凄い勢いで近付いて来てない?」

「これはヤバそうだー!?」

「容赦ないな、成熟体!?」


 どうやら成熟体らしき巨大クラゲは、かなり離れた距離からのスクショも許してはくれないらしい。……うん、これは間違いなく死ぬ。検証途中だっていうのに、これは盛大に失敗したな。まぁいいや。今更どう言っても遅いし、被害を最小限にする事だけを考えよう。


「……アル、忘れてたリスポーン位置の再設定を今のうちにやっとくわ」

「おうよ。まぁほぼ確実に全滅だろうけど、『格上に抗うモノ』でも狙っていくか」

「行動値は増やしておきたいもんね」

「でも、その前にみんなに連絡かな?」

「はい! 私のミスなので、私が報告してきます!」

「ハーレさん、任せた。さてと、粘って少しでも長く生き延びるとしますか!」

「「「「おー!」」」」


 予定外の強敵との戦いが確定になったけども、まぁやれるだけの事はやってやろう。検証については俺らはこれで離脱だろうけど、残りの検証は他のみんなに任せようじゃないか。

 さてと、リスポーン位置の再設定をして成熟体からの逃亡戦の開始だ! ところで、称号の為の時間のカウントの開始はいつからなのだろう?

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