第461話 PT毎に別行動


 融合種のフィールドボスカメ・ラクダを倒してフィールドボスの討伐も終了だ。ほぼ適正Lvというのもあるんだろうけど、通常の敵よりクセはあっても苦戦するほどではないね。

 まぁ今ここにいるメンバーは実践的に検証をする人達だから、これで苦戦するとボスが強過ぎることにもなるんだよな。ここにいる単独進化の人はほぼ全ての人が誕生させたフィールドボスよりもLvは上だし。


「これで3戦目終了だ。よくやった」

「ほいよっと。それで次はどうするんだ?」

「……そうだな、共生進化の個体が見つかって後回しになった+5ずつで物理型と魔法型の組み合わせでいくか」

「あー、そういやそうだったっけ」


 そういう話をしている際にツキノワさん達のPTがカメとラクダの共生進化の個体を見つけて来たんだったね。それならそれを試していけば良いのかな?


「あー、ベスタ、ちょっといいか?」

「なんだ、紅焔?」

「そのパターンについては大体の推測も出来てるし、ここらで一旦成長体の収集といかねぇか? まだフィールドボスになる最低Lvの調査も必要だろ?」

「……それもそうだな。よし、個体も必要だしその案でいくか。全員、それでいいか?」


 紅焔さんからの提案を受け、ベスタがこれからの実験にも個体は必要だし、一旦ここでフィールドボスとの戦いは打ち止めのようである。

 まぁあと1回分しか成長体はいないし、ここはPT毎に分かれて捜索が良いのかもしれない。ツキノワさん達のPT以外にも捜索に行ったPTはいるけど、まだ戻ってきてないしね。


「基本的には賛成! だけど、今ある分は並行して使っちまわねぇ?」

「そうだねー! ここで継続してボスの検証に2PTが残るんで良いんじゃない?」

「それで異議なーし!」

「問題はイナゴをどこのPTが使うかだな……」

「戦闘できなかったPTに進呈ってなってたけど、変える?」

「こうなるとさっさと決めないと時間が勿体無いよね」

「それは問題ないが、どうやって決める?」

「あー、PTの代表でバトルロイヤルでもするか?」

「それもいいけど、時間かかるんじゃね?」

「よし、それならリーダーに決めてもらおうぜ」

「あ、それなら納得」

「そうしようー!」


 イナゴに関しては俺らのPTは権利を放棄したので自動的に捜索になるのは決定だけど、イナゴをどこのPTが使うかが問題になっているようだ。紅焔さんの提案で方向性がちょっと変わったけど、この方が効率はいいもんな。

 急な方針転換だけども、それでも揉め事にはなっていないのは情報共有板の経由が多いとはいえ、普段からやり取りをするメンバーだからなんだろうね。このメンバーで険悪な光景になるというのはいまいち想像がつかないからなー。


「並行して行うのはいいが、俺が決めるってのは面倒くせぇな……。……そうだな、ハーレ!」

「はい! なんですか!?」

「これをどこでもいいから適当にぶん投げろ」

「私は適当に投げればいいんだね!?」

「あぁ、そうだ。どこに投げるかは任せる」

「了解です!」


 そう言われたハーレさんは、ベスタから渡された木の実を持っていた。……ん? リンゴっぽいけど、何か違うような気もするね? あれって、何となく見覚えが……。


「ハーレが投げた果物を拾った奴のいるPTにイナゴを使うフィールドボスの参戦権を与える! ただし、既に1戦でもしたPTは除外だ。いいか?」

「おっしゃ、こいやー!」

「そういうのもいいね」

「絶対に取ってやる!」

「それでいいぞ、リーダー!」

「あ、あれって赤のサファリ同盟と情報のトレードをして手に入れたっていう発光草を合成した実じゃない?」

「あー、あれか。分かりやすくて良いんじゃね?」


 ふむふむ、ベスタが単純に指定したとしても文句を言う人はここにはいないとは思うけど、こういう形で決める訳か。

 そしてハーレさんの投げる実は例の光る実なんだね。だからどことなく見覚えがあるはずだよ。


「ベスタさん! これ、光らせるのってどうやるのー!?」

「それはヘタを引き抜けばいい。そうすれば勝手に光り出す」

「手榴弾みたいだー!? あれ、この場合は閃光弾?」

「……それほど強烈じゃねぇよ。まぁ目印代わりだな」

「そうなんだー! それじゃ投げれば良いんだね!?」

「あぁ、良いぞ。てめぇら、始めるぞ!」


 そのベスタの掛け声に対して、気合の入った大勢の声が返ってくる。なんだかんだで、みんなもこういうノリはいいよね。


「それじゃ行くよー! 『強投擲』!」

「おっし、行くぜ!」

「負けないよ!」

「待てー!」


 そうしてハーレさんがヘタを引っこ抜いて、現在地から見て西の方に投げた発光するリンゴのような実を追いかけていく人とその場で待機している人に分かれていった。

 どうやら全員が全員、イナゴ狙いという訳ではないみたいだ。まぁ判断が分かれるのは当たり前といえば当たり前か。どうやっても1PT分なだけだし、自力で見つける方が早い可能性もある。


 それはそうとして、俺らは俺らでLv20の成長体を探しに行かないといけないな。それにまだこの砂漠エリアは全然探索が出来ていないから、それもやっていかないと。望海砂漠っていう名前が付いているんだし、海くらいは見ておきたいしね。


「さてと、それじゃアルに乗って成長体を探しに行くか」

「既にケイは乗ってるじゃねぇか……。そういやベスタはPTはどうするんだ?」

「そうだな。俺は抜けて、この周辺で待機しておくか」


<ベスタ様がPTを脱退しました>


「ベスタさん、見つけた場合の報告は情報共有板で問題ないのかな?」

「あぁ、これまでと同様にそっちの報告で構わない。発見の報告が上がれば、その都度俺の方で調整していく」

「砂漠に来るまでと同じってとこだね。分かったかな」


 今回の検証では重要なアイテムとなる瘴気石はリーダーであるベスタが管理してるもんな。まぁ分散して持っていると合流の手間があるし、まだ全PTに充分な数が行き渡る程の状況でもないからね。この辺はある程度は仕方ないのだろう。


 あ、そんな事を考えてたらオオカミの2人組がグラス平原のある南の方から駆けてきているのが見えてきた。オオカミ組が追加の瘴気石を持ってきたのかな?


「ふー! 到着したっすよ! あれ、ボスから聞いてたより人が少ないっすね!?」

「それなりに動きがあったって事じゃねぇの?」

「あ、それもそうっすね」

「オオカミ組か。追加の瘴気石か?」

「あ、リーダーはいるっすね。お察しの通り、追加の瘴気石を持ってきたっすよ! Lv調整用に+3から+6まで揃えてきたっす!」

「ご苦労だ、オオカミ組。ところで瘴気石の生産の方はどうだ?」

「ちょっと前に纏瘴と纏浄の効果時間の限界で、今日は協力してくれている不動種の大半がこれ以上は無理になった」

「やはり時間切れか。よし、生産組の方は今日は終わりで構わない。それと今後の瘴気石の強化については、各自の自由にしてくれと伝えておいてくれ」

「了解っす!」

「あぁ、分かった。オオカミ組でそれぞれの所に行って伝えてくる」

「任せたぞ、オオカミ組」

「リーダー達も検証を宜しくっすよ!」


 そうして追加の瘴気石を届けるという用件を済まし、ベスタからの伝言を受け取ってオオカミ組は来た道を戻っていった。うん、今のオオカミ組って完全に運送業者になってたね。まぁそういう役目も重要なんだろうけども。


「そういや、ベスタ。なんで伝言なんだ? 情報共有板でも良くないか?」

「あぁ、その件か。まぁ単純な話ではあるんだが、不動種には瘴気石の強化に専念してもらいたかったからだな。全員の所に伝達役のプレイヤーに居てもらってもいいんだが、流石に連絡の為だけに待機させるのもあれだろう?」

「あー、なるほど。それで伝達役は何でも屋になってるオオカミ組に依頼してるのか」

「まぁそうなる。どうしても纏瘴と纏浄で分担する事になるから、その間の運搬役も必要になるからな。終了については情報共有板でもいいんだが、確実性を重視ってとこだ」

「なるほどね。オオカミ組にも色々な役割があるって事か」


 +6以上の瘴気石にするには、纏瘴で+5まで強化した上で纏浄を使わなければならないからね。同時には同じ不動種の人では不可能だし、連携をとって受け渡していくのも重要である。

 それに不動種の人には瘴気石の強化に専念してもらうなら、ずっと情報共有板を見ていろというのも酷な話か。誰でも情報を見ながら並行して作業ができる訳じゃないもんな。


「まぁその辺の話はいいんだが、ケイ達は行かなくていいのか?」

「……え?」


 ベスタのその発言を聞いて周囲の光景を見てみれば、周囲には殆ど人がいなかった。あ、でも辛うじて紅焔さん達と、ツキノワさん達とネズミを捕まえてきたPTは残っているね。それ以外の人たちは既に成長体を探しに出発したようである。

 あ、カインさんに預けていたイナゴはいつの間にかネズミを捕まえていたPTの人が持ってるね。まぁこれから参戦権を得て戻ってくるPTの人達にはこのイナゴは重要だもんな。


「さて、俺らは東の方に行こうと思ってるけど、ケイさん達とツキノワさん達はどうすんだ?」

「へぇ、紅焔さん達は東か。まぁ宛もないし、俺らもそっちに行くかね」

「あ、紅焔さん達とツキノワさん達は東に行くんだ? なんでまた東?」

「「まだ行ったことが無いからだ」」

「見事な異口同音だな!?」

「……俺もびっくりしたけど、単なる偶然だぞ?」

「まさか完全に被るとは思わなかったぜ……」


 紅焔さんにとっても、ツキノワさんにとっても、ちょっとびっくりする異口同音ではあったらしい。っていうか、どっちのPTも既にここの望海砂漠には来てたんだね。あ、もしかして紅焔さんについてはあれが理由か?


「紅焔さん、例のキツネの人から逃げてた時ってこっちの方に来てた?」

「……まぁそういう事になるな」

「やっぱりか」


 この近くの灰の群集の草原エリアの隣接エリアは、青の群集の荒野エリアだったはずだもんな。赤の群集を避けてた紅焔さんが来ていたエリアが、この手前のグラス平原だったって訳か。


「そういうケイさん達は、ここのエリアは初めてかい?」

「ソラさん、その通りなのさー! 何かお薦めの方角はありますか!?」

「それなら北へ進むと良いだろうね。僕はぜひ見ておくべきだと思うよ」

「あ、あそこですか。確かにあそこはこのエリアに来たなら一見の価値はありですね」

「あれは僕も気に入ってるね」


 ほうほう、ソラさんを筆頭にライルさんとカステラさんからもお薦めの場所か。ここから北といえば、少し先に砂丘があってその先は見えないんだよな。その先に……あ、エリアの名称的になんとなく想像はついたぞ。


「へぇ、そんな場所があんのか」

「あぁ、そうか。辛子さんも見た事はないんだね?」

「まぁ、このエリアに来るのは俺も初めてだからな」

「それならケイさん達と行ってきたらどうだい?」

「……少し心は惹かれるが、今日は紅焔さん達と活動するつもりだから、またの機会にしとくぜ」

「嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか、辛子さん!」

「ま、ここのPTも案外楽しいってのもあるからな」


 ほほう? 辛子さんは普段はソロだったと思うけど、これはひょっとすると紅焔さんのPTにメンバー入りもあり得るのかな? 


「盛り上がってるみたいだが、俺らは先に行くぜ。時間が勿体無いしな」

「あ、それもそうだな。ケイさん達、俺らも行くわ!」

「おう! それじゃまた後で合流する事があればよろしくな!」

「その時は頼むぜ。『ビックリ情報箱』!」

「俺らもよろしくな、ケイさん達!」


 ツキノワさんがそう言って、ツキノワさんのPTは東に向けて移動を開始していった。それを追いかけるように紅焔さん達も動き出していく。

 ……うん、もうあだ名を撤回させるのは非常に困難か……。カッコいい共同体名を考えて、それを浸透させるように頑張るべきかもしれない。よし、共同体名を頑張って考えよう。


 それはともかく、ツキノワさんの言うようにいつまでもここで喋っていても時間が勿体無いな。折角のソラさん達のお勧めだし、北へ行くのがいいのかもね。


「みんな、北へ行こうと思うけど、それでいい?」

「俺は良いぜ?」

「賛成です!」

「私もそれで良いかな」

「私も賛成だね」


 よし、みんなの同意も取れたので目的の方角はここから北に決定だ! どんな光景が広がっているのかは大体の予想は出来ているけども、実際に見るのはまた違った感じだろう。


「それじゃ、アルに乗って出発だ!」

「「「おー!」」」

「それじゃ出発するぜ。『上限発動指示:登録1』!」


 いつの間にかサヤはアルの背に乗っていたし、アルの水のカーペット自体も発動したままだったので、効果の切れていた空中浮遊だけ再発動すれば移動準備は完了である。

 あ、でもちょっと高度が上がっても砂丘の向こう側はまだ見えないか。もう少し高度を上げれば見えそうではあるけど、折角なら上空からではなく砂丘の上から見てみたいかも……。


「アル、ちょっと低空飛行で頼む」

「奇遇だな、ケイ。俺もそうしようと思ってたところだ」

「折角だから上空飛行は無しで行こうー!」

「上空から見渡すのはその後でもよさそうだね」

「みんな考えてることは一緒みたいかな?」

「みたいだな。って事で、アル、頼んだ!」

「おうよ。それなら移動操作制御を解除だな」


 そうしてアルの水のカーペットを解除して、砂漠の上を少し浮かんだ程度の状態で移動していく事になった。最大の目的はLv20の成長体を探す事だけど、それ以外の事も楽しんでいかないとね!


「それじゃ、出発!」

「「「「おー!」」」」

「おう、行ってこい!」


 その場に残るベスタに見送られながら、砂漠の北部へと向けて移動開始である。さーて、既に運良く2体のLv20の成長体を見つけているけど、3体目をうまく見つけられるもんかな? まぁこれはやってみるしかないけどね。

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