第459話 共生進化のラクダとカメ


 成長体を探しに行っていたクマの人のPTが確保してきた共生進化したラクダとカメが目の前にいる。へぇ、ラクダのコブにカメがしがみついてるような感じなんだな。

 それにしても転ばせたラクダを踏みつけて抑え込んでいるクマという光景も中々にインパクトがあるね。捕まえてきた際は引き摺ってきたみたいだし。


「よし、良いタイミングだし、次はそのラクダとカメで試すか。ちなみにそいつらはどっちも瘴気強化種か?」

「いや、ラクダの方しか識別が出来てないから両方はわからねぇ。ただ、ラクダの方は瘴気強化種だ」

「あぁ、そういえば共生進化と支配進化はLv4までの識別だと片方しか分からないんだったな」

「……ベスタ、その言い方だとLv5になれば違うのか……?」

「あぁ、違うぞ。……そういえば、この情報はまだまとめてなかったな」


 ふむ、ベスタのこの言い方だと識別Lv5で分かるようになる内容についての情報はまだ広まっていない情報っぽいね。


「丁度いい、ここにいる奴らには先に伝えておこう」

「お、なになに?」

「話の流れ的に識別Lv5の情報っぽいな」

「リーダーはもうLv5になってるんだ?」

「ログイン時間の制限があるのに、すっげぇなー」

「それ、情報共有板でリーダーがいる時に戦闘してるのを見た事あるよ」

「書きながら戦闘してんの!? そうか、同時並行でやるから強くなる速さが違うのか……」

「あれは簡単には真似出来ないよね」

「……俺の事は良いから、説明していくぞ?」

「はーい!」

「おう!」


 とりあえずみんなが返事をして、大人しく聞く体勢へとなっていく。ベスタが色々と同時並行しながらやってるのは知ってはいるけど、改めて聞くととんでもないよね。まぁ同時に色々な事をすればそれだけ成長も早くはなるか。真似出来るかどうかは別としてだけど、流石にチャットしながら戦闘は出来る気がしないなぁ……。


「……とにかくだ、識別はLv5で共生進化と支配進化で両方の個体の同時識別が可能になる。ただし、それ以外には特に意味はないから、共生進化か支配進化の敵が相手でない時はLv4で充分だ」

「ベスタさん、質問いいかな?」

「サヤか、なんだ?」

「それで分かる情報ってLv4までで分かる情報で良いのかな?」

「2体分が表示されるようになるだけで、情報の内容自体は変わらん」

「そっか、分かったかな」

「ならいい。他に質問あるやつはいるか?」

「はい!」

「ハーレか。どんな質問だ?」

「支配進化なら特性で分かると思うけど、共生進化はどっちがメインか分かりますか!?」

「あー、それか。それについては先に情報が出る方がメインになる。ま、どっちも倒す必要はあるがな」

「了解です!」


「へぇ、そうなってるんだ?」

「内容的にどの相手に対しても有効って訳じゃないけど、共生進化や支配進化の相手には有効だな」

「……支配進化の敵ってイベントのボス以外にいたっけ?」

「支配進化ならたまにだけど、いるにはいるぞ。あんまり数は多くないけどな」

「一番個体数が少なそうなのが支配進化だったよね」

「敵の場合は黒の暴走種を瘴気強化種が乗っ取るのが支配進化っぽいしなー」

「うーん、黒の暴走種のLv20の成長体の個体が欲しいとこだね」

「あー、それならあのラクダとカメはどっちも瘴気強化種?」

「あ、そうなるのかな……?」


 サヤとハーレさんの質問に対する答えを聞き、みんなも色々と意見があるようである。サヤの質問に対するベスタの回答からして、識別Lv5については共生進化か支配進化の敵が相手の時に専用で使うって感じだね。

 そしてハーレさんの質問で、共生進化でどっちが主体かも分かった。まぁどっちも倒す必要はあるからあまり順序は関係ない……いや待てよ? 生存環境が異なっている場合なら共生適応で環境適応をしている可能性もあるから、状況によっては片方を倒すだけで圧倒的優位に立てる可能性はあるのか。


「……確認の意味も含めて実演するか」

「それならリーダーとコケの人のPTも次の検証の討伐を一緒にやろうぜ! 見つけたこの1セットの共生進化のやつだと、連結するPTもいないしな!」

「え、良いのか? でも、俺らは今回のは何もしてないぞ?」


 申し出自体はありがたいけど、検証に使う個体を捕獲してきたPTを連結して挑むって条件になってるんだよな。何かここでその申し出を受けるのは他の人達に悪い気もする……。


「……そうだな。それならケイ、そのサヤが捕まえているイナゴを他のPTに譲る気はあるか?」

「え? あー、それで代わりに権利を貰う感じか?」

「そういう事だ。そのイナゴをどこのPTが譲り受けるかは、他の連中で話し合ってもらう事にはなるがな」


 ふむ、イナゴを使うフィールドボスの検証の戦いの権利を放棄する代わりに、これから行うラクダとカメの検証戦に参加か。まぁ悪い話ではないのかな……? でもこれは俺だけで決める話ではないね。


「そういう事らしいけど、みんなどうする?」

「悪い話でもないから、俺は賛成だぜ」

「私も賛成さー!」

「私も賛成かな」

「私も同じく」


 みんなも賛成ならば、断る理由もない。途中で偶然見つけたイナゴだけど、こんな風な使い方になるとは想像してなかったなー。


「という事になったから、ベスタ、それで良いぞ」

「あぁ、了解した。とりあえずカインにイナゴを預けておけ」

「お、俺か! おっしゃ、しっかりと預かっとくぜ」

「サヤ、カインさんにイナゴをよろしく!」

「うん、分かったかな」


 そしてイナゴを捕獲していたサヤが竜に乗ってアルの背から降り、またカインさんにイナゴを預けていき、すぐにアルの上まで戻ってきた。まぁ預けておくといっても、これでイナゴでのボス戦の権利は無くなった訳だ。


「次の戦闘後にはそのイナゴを使うから、どこのPTが受け取るか相談しとけ」

「ほいよ!」

「うーん、タダで貰うってのもなぁ……」

「それなら時間切れまでに見つけられなかったPTに進呈って事で良いんじゃね?」

「あー、その方が良いかもね」

「今残ってる個体もネズミとイナゴだけになったしな。それがいいだろ」


 現在時刻は10時前か。まぁ時間的にはまだいけそうだね。現時点でまだ1体も捕獲出来ていないPTもいるから、イナゴはその人達に有効活用してもらおうっと。


「話はまとまったようだな。それではこれから……いや、まだか」


 そこで言葉を止めたベスタがヨッシさんの方を見ていた。あ、そういやそろそろ時間的に纏火の時間切れか。


「ヨッシ、纏火の再発動をしろ。それが終わったら共生進化のフィールドボス化の検証を開始する」

「あはは、ベスタさん、気遣いありがとね」


 そのやり取りの直後にヨッシさんの纏火の効果が切れていく。うお!? 効果が切れたらヨッシさんのHPが露骨に減っていってるぞ!?


「これは危ないね!? 『纏属進化・纏火』!」


 そして即座に纏火を再発動したヨッシさんのHPの減少は止まっていく。危ないな、砂漠の猛暑って! あ、そういやそろそろ他のみんなも水を飲んでおいた方が良いんじゃないかな?


「アル、みんなに水! そろそろ飲んでおいた方が良いだろ」

「あー、そういやそうだな」

「確かにそれもそうかな」

「私は果汁が飲みたいです!」

「……ベスタさん、この場合は果汁でも問題はない?」

「あぁ、水分であれば問題はないはずだ。……果汁ならHPの減っているヨッシが飲むべきじゃないか?」

「あはは、確かにそれはそうかも。それじゃ私も果汁にしようっと。はい、ハーレ、蜜柑の果汁ね」

「わーい! ヨッシ、ありがとねー!」


 アルとサヤはアルがインベントリから取り出した水を、ハーレさんとヨッシさんは蜜柑の果汁をみんなのサイズに合うくらいの竹の器に注いで飲んでいた。まぁアルだけは大き過ぎて、相対的に竹の器は小さく見えてしまうけどね。

 他に集まっているみんなもそれぞれの乾燥対策を行っていた。まぁ、砂漠入りをしたタイミングには極端な差はないので同じくらいのタイミングにはなるよね。


「よし、それでは共生進化のフィールドボスの実験を開始する!」

「おうよ! ところで、瘴気石はどう使う? っていうか、共生進化も2個使うの?」

「おそらく2個だろうな。それと現時点で可能な最大Lvを試してみるか」

「2個で最大を試してみるんだな。了解っと」


 さっき蒼弦さんが持ってきてくれた4個の+6の瘴気石を使ってみるんだね。+6が2個ならLv13のフィールドボスになるのかな?


「……その前に識別が必要か。『識別』!」


 あ、そっか。現時点で共生進化の両方を識別出来るのはベスタだけだし、進化前に情報の確認は必要だよね。


「識別情報を伝えていくぞ。まずメインが『蹴りラクダ』のLv20の瘴気強化種の蹴撃種で、属性はなし、特性は蹴撃と強靭。共生相手が『水ガメ』でLv20の瘴気強化種の水堅牢種で、属性は水、特性は堅牢と伸縮だ」

「……意外としょぼい?」

「……それほど特徴のある感じではないな」


 ラクダの方は確実に物理だとして、カメは微妙に分からないな。まぁ成長体ならこんなもんか……?


「まぁ、現時点での識別情報はいい。とりあえずPTの連結をし直すぞ」

「あ、そういやそうだった」


 PTの連結は紅焔さん達のPTとしたままだったね。一旦紅焔さん達と連結PTを解除して、ラクダとカメを連れてきたクマの人……えーと、ツキノワさんか。これは確実にツキノワグマ元ネタにしてるね。

 ツキノワさんのPTメンバーは他にクマの人がもう1人と、桜の木の人、トンボの人、ヒツジの人、リスの人か。リスの人が桜の木の人に巣を作ってるみたいだし、ハーレさんと同じ投擲系の人かな?


 あ、ベスタがどうやらメインで使っているスキルの聞き取りやってるようだね。まぁ連携してやる以上は必要な事だよね。


<紅焔様のPTとの連結を解除しました>

<ツキノワ様のPTと連結しました>


 とりあえずこれでPTの連結解除と新たなPT連結は完了っと。さてと、それじゃ共生進化のフィールドボス化を試していこうじゃないか!


「ツキノワさん達、よろしくな!」

「おう、こっちこそよろしく頼むぜ、ケイさん達!」


 初対面の人達だけども、お互いに挨拶をしていく。同じ群集で同じ検証を行っている仲間だしね。仲良くやっていきたいとこである。


「ケイ達もツキノワ達も準備は出来たな? それでは始めるぞ」

「「「「「おー!」」」」」

「俺らもビックリ情報箱やリーダーに負けないように頑張るぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


 ベスタの号令がかかり、みんなの気合も高まっている。そして転ばされてツキノワさんに踏みつけられているラクダとカメの前に+6の瘴気石がそれぞれの前に置かれていく。

 あ、ツキノワさんに踏みつけられているから瘴気石を食べようとしても届かないっぽいね。でも、ラクダもカメも食べようとしているから瘴気石を2個使うという判断は正解みたいである。


「ツキノワ、離れていいぞ」

「おうよ、リーダー!」


 ベスタの指示を受けてツキノワさんが飛び退くようにラクダとカメを踏みつけるのをやめ、ラクダとカメは起き上がりつつ2個の瘴気石を食べていった。その直後に瘴気が吹き出して、ラクダとカメを瘴気の膜が覆っていく。


 そして少し待てば瘴気も霧散していき、進化したラクダカメが現れた。その見た目は基本的な形はラクダだけども、カメの甲羅がラクダの形に合わせたものになっている。……なんというか、亀の甲羅がそのままラクダの形に合わせて融合したような感じだね。


「おっしゃ、小手調べと行くぜ! 『魔力集中』『強殴打』! はぁ!?」

「あー!? ラクダの首が甲羅の中に引っ込んだー!?」

「そんなのありなのかな!?」

「……あはは、これはビックリだね」

「こりゃ、融合進化したっぽいな?」

「……そんな気はする。ベスタ、俺が識別してもいい?」

「あぁ、構わんぞ。とりあえず、情報が必要だろうしな」

「ま、確かにね」


 ツキノワさんがラクダの首を目掛けて殴りかかり、みんなが驚いたようにカメのような感じで甲羅の中へとラクダが首を収納していた。これはカメの種族的な性質を持ったラクダになったみたいだね。この感じなら、脚も収納出来るのか……?

 まぁ何にしても情報は必要だ。大体の予想は出来ているけど、ちゃんと確認するのは大事だからね。

 

<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 58/62(上限値使用:1)


『カメ・ラクダ』Lv13

 種族:黒の瘴気強化種(豪傑融合種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:なし

 特性:豪傑、堅牢、強靭、蹴撃、伸縮、融合


 あ、やっぱり予想通りの融合種だね。という事は瘴気強化種同士の共生進化の個体なら、融合進化になるって事で良さそうだね。さて、みんなに情報を伝えていこうっと。


「この! くそ! おら!」

「……あっ」

「甲羅に閉じこもっちゃったー!?」

「……どうすんだ、これ?」


 識別の情報を伝える前にツキノワさんが攻撃を試みていたけども、さっき考えたように脚も全部甲羅の中に収納できるようである。……うん、ラクダの背中のコブの形をした首や脚を収納したカメのような光景になっていた。


「……何か面倒そうな事になってるけど、識別の情報を伝えるぞ?」

「おう、ケイさん、頼んだ! 『強硬打』!」


 ツキノワさんが甲羅に打撃を加えてはいるけども、いまいち効果はないようである。まぁ識別情報を見る限りじゃ物理型で耐久性がありそうなんだよね。とにかく報告だ。


「えーと、『カメ・ラクダ』でLvは13の瘴気強化種の豪傑融合種。属性はなし、特性は豪傑、堅牢、強靭、蹴撃、伸縮、融合だ」

「なるほど、完全に物理型の融合種か。推測通りには進化したみたいだな」

「まぁそういう事だな。で、ベスタ、どう倒す?」

「魔法をメインにはするが、首や脚は弱そうだな」

「あー、確かに」


 どうもツキノワさんの攻撃を見た感じでは、このカメ・ラクダは甲羅以外の部分で攻撃受けるのは避けてた様子だったもんな。魔法が効きやすい気はするけど、その辺もチェックしておきたいところだね。ま、試せる事は試してみようじゃないか!

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