第453話 合流して


 なんだか予定外にLv20の成長体であるイナゴが1体増えたね。それにしても、オンライン版だとイナゴの群れってのも存在するんだな。……もしかしたら大量増殖とかいう事もあったりするんだろうか? ……可能性として否定が出来ないな。


「このイナゴはどうしたら良いかな?」

「あ、サヤ。それなら俺のハサミで掴んどく。無駄に戦力を減らしてもしゃーないし」

「それもそうだね。それじゃケイ、お願いかな」

「ほいよっと」


 サヤが掴んでいたイナゴを俺の右のハサミで挟んで捕まえていく。ここにエリアは基本的に成長体ばかりとはいえ、共闘イベントのエリアでボスもいるという事もあって少しは未成体もいるからな。

 まぁメンバー的に戦力には問題もないだろうけど、攻撃出来なくなるのは俺1人で充分だ。ただし、イナゴは成長体だから力加減を間違えないように注意しないとね。予備になったとはいえ、間違って倒して実験体を減らすのも勿体無い。


「予定外ではあったが、これでとりあえずは検証の材料の予備も出来たか」

「だなー。そういやベスタ、これってどういう組み合わせで試す? 紅焔さん達が捕まえたのはトカゲなんだよな?」

「……悩むとこだが、それを考えるのは砂漠に行ってからだ。そいつらをこのエリアから持ち出せないと意味ないからな」

「あー、まぁそりゃそうだ」


 今の段階で組み合わせを決めておいても、砂漠に持っていけませんでしたじゃ意味ないもんな。……そういや、フィールドボスの誕生ってこのエリアでは出来ないんだろうか?


「ねぇねぇ、ベスタさん!」

「どうした、ハーレ?」

「出発前に説明もしてたけど、ここのエリアじゃフィールドボスって絶対に出現させられないのー!?」

「……その件か。これまでの検証で不可能と判断されてはいるが、改めて試してみるのも一興だな」

「え、検証すんの?」

「初期エリアと、調査クエストと、整備クエストと、競争クエストの対象エリアは不可能だという結論にはなってる。だが、それはあくまでも瘴気石の強化が無かった時の話だ」

「……今なら違う結果が出る可能性もあるのかな?」

「まぁその可能性が無いわけではない。これに関しては外れの可能性も高いから、後回しの予定だったんだが……偶然にも材料が揃ったならやってみても問題はないだろう」

「あー、後回しでやる予定ではあったんだ」


 フィールドボスはそもそも初期エリアから離れた場所で出現するようになったって話だからね。元々他のクエストが用意されていて、別の条件で命名クエストが発生したエリアでは可能性は低そうではある。

 そういや今回は瘴気強化種を見つけたけども、これって常闇の洞窟で見た合成種のコウモリや、融合種のクモと同じ感じで良いのかな? 確か、集合してた時にちらほら言ってた人がいたような……。


「ベスタ、フィールドボスの誕生の組み合わせって判明してるんだよな?」

「……それは現状ではまだ殆どが推測だ。種類としては分かっていても、実際にフィールドボスになるかどうかは時間も必要だったからな」

「ほうほう、フィールドボスにはならないけどLv1では進化してたって事だもんな。ちなみにどんな推測?」


 おそらくは通常の敵と同じって事なんだろうけど、昇華の件で変な勘違いをしてたりもしたので改めてベスタに確認しておこうっと。


「瘴気強化種に関しては普通の敵として現れる合成種や融合種と法則自体は同じってところか。それと黒の暴走種単体のフィールドボスについては自然発生のみの可能性が現状では高い」

「……黒の暴走種は出現させられないのか?」

「それなりに理由はあるから最後まで聞け、アルマース。次に黒の暴走種と瘴気強化種の組み合わせはおそらく支配進化になる。共闘イベント前編でのボスからの推測だ」

「そういえば初めは支配種だったよねー!? 再戦可能になったのは共生進化になるんだっけ!?」

「あぁ、そうなるな。黒の瘴気強化種については融合進化、合成進化、共生進化の3つ。黒の暴走種はおそらく単独進化。暴走種と瘴気強化種が混ざれば支配進化だ。ここから解ることは、中に精神生命体が存在している黒の暴走種と、存在していない黒の瘴気強化種の扱いが異なってくる事だな」


 ふむふむ、中に精神生命体がいるかどうかが分かれ目って所か。そういや俺も瘴気強化種の融合種と合成種は目撃したっけ。黒の暴走種は倒せば残滓になるんだから、基本的には黒の暴走種としての復活ってないんだよな。……イベント時に大量復活というか出現はあるっぽいけども。


「黒の暴走種は一度倒せば終わりだから、自然発生のみって事か?」

「あぁ、そういう事だ。……現状ではという理由は、瘴気石の強化の問題だな。これからの検証次第ではあるが、2体の成長体に食べさせた瘴気石の強化具合が進化後のLvに反映されるなら……」

「あ、黒の暴走種1体になら倍の強化が必要になるのか……。倍となると用意するのがきつそうだな」

「なるほどな。聞いてた話では+5以上の強化には纏浄も必要なら、そう簡単でもないのか」


 黒の暴走種単体でフィールドボスに進化させるには、あくまで推測段階ではあるけどもまだ無理そうって事か。そこらにいるそこそこ育った未成体に瘴気石を食べさせたらフィールドボスになるとか、そんな簡単な話ではないだろうしね。

 現状では2体のLv20の成長体のそれぞれに瘴気石を食べさせれば、フィールドボス候補に進化するのは確定だからここから広げて検証していくのが無難なのだろう。……まぁ残滓は弱いし除外だろうね。


「まだ大雑把でほぼ推測に過ぎないが、まとめに上げている情報はそんなもんだ。何か質問はあるか?」

「えっと、1つ質問いいかな?」

「あぁ、いいぞ。何だ、サヤ?」

「その対象には残滓は含まれないという認識でいいのかな? それと3体以上で進化することはあるのかな?」

「それは私も気になったね」

「今の段階では3体以上での進化は確認されていない。残滓については弱体化しているからこの場合は除外……いや、一応どこかのタイミングで試してみるか……。まぁそれについても後回しでいい。まずは瘴気石を使ったフィールドボスの再出現の基本法則の確認が先だ」

「……それは終わり次第、残滓も試してみるって事で良いのかな?」

「あぁ、その認識で構わない」


 あーうん、俺は思いっきり残滓は除外して考えるつもりだったけど、ちゃんと後から確認するんだ。うん、俺は結構行き当たりばったりな思いつきの検証が多いけど、ベスタはやっぱりしっかりと優先順位を定めて検証しているんだね。

 それにしても3体以上での進化はないのか。まぁ流石に3体以上を使う進化が出てくるとすれば、イベントか何かのボスで先に出してきてからになりそうだよね。


「おーい! ベスタ、ケイさん達もー!」

「お、紅焔さん達か」


 イナゴの群れがいた麦が広がっている上空で留まっていた俺らの元に、赤い羽ばたくドラゴンと鷹が飛んできた。カブトムシのカステラさんと、小鳥のライルさんの姿が見えないけども、言わずと知れた紅焔さん達のPTである。

 あ、捕まえたというトカゲはソラさんが脚で捕まえているのか。茶色のトカゲだけど、そういや土属性って言ってたね。


「……おい、紅焔。俺は可能な限り移動種をPTに入れろと言わなかったか?」

「あー、それは分かってるって。今、ライルの木が急いで移動してきてるからよ」

「ん? 紅焔さん、もしかしてライルさんは移動種の木を作ったのか?」

「ケイさん達にはまだ言ってなかったっけな。ま、そういうことになるな!」

「色々と移動種の人達を見てたら僕らも拠点になる木が欲しくなってね。相談した結果、ライルが土属性を持たせた木を作ることになったのさ」


 へぇ、ライルさんが移動種を作ったんだ。それに土属性を持たせてというのは、木としては相性は良いのかもね。そっか、2ndで固定PT用の拠点を用意するっていうのもありなんだな。まぁ俺らのPTには既にアルの木がいるけどね。


「ねぇ、それってもしかして、初めの頃のランキングで手に入れた土の進化の輝石?」

「おう、そうだぜ。ヨッシさんが譲ってくれたやつだ」

「やっぱりそうなんだ! そっか、有効活用は出来ているんだね」

「ライルは常々、感謝しているよ」

「あはは、そうなんだ。まぁ私は私で、あの時の選択でかなり方向性も決まったしね」

「だよなー。ヨッシさんも、かなり有効活用してるもんな」


 あの時の報酬アイテムの譲り合いがあったからこそ、今のヨッシさんの氷属性のハチがあるといっても過言ではないもんね。あの時にヨッシさんが土属性の進化の輝石を手に入れていたら、今は全く違う進化になっていたかもしれないし。


「……ところでさっきから気になってるんだけど、ケイさん、ちょっといいかい?」

「ん? ソラさん、どうかした?」

「いや、どうかしたじゃなくてだね? コイを捕まえたと聞いていたからその水球の中のコイは分かるんだけど、ケイさんが持ってるそのイナゴはなんだい? ……カーソルが黒だから一般生物ではないよね?」

「あー、これ? すぐ下の麦のとこで見つけた」

「……すぐそこだったのかい。そういう事もあるんだね」

「まぁ殆ど偶然だったけどな」


 俺らもこのイナゴについては予定外だったしね。でもまぁそういう事もあるさ!


「おーい、紅焔、ソラ! 僕らを置いて先に行かなくても良いんじゃないの!?」

「おー、悪いな、カステラ!」

「全くですよ。私の移動速度はまだ遅いんですからね」


 紅焔さん達と情報交換をしているとカステラさんとライルさんの声が聞こえてきた。えーと、聞こえてきた方向を見てみれば……え、何あれ? 飛んでる松の木がいるぞ?


「ほう、ライルはそういう方向性できたか」

「あ、ライルさんは松の木なんだ?」


 改めて名前も確認してみればライル2ndとなっている。へぇ、岩の操作で結構大きな岩を浮かせて、そこに根付いているって感じにしてるんだな。ふむ、こういう方向性もあるのか。……四角い岩を用意して、岩の表面をコケで覆えば巨大な盆栽っぽいものとか出来そうだね。


「空飛ぶ木というか小さな浮く島だー!?」

「そういう事も出来るのかな!?」

「ライルさん、考えたね」

「へぇ、こりゃ面白いな」


 みんなも驚いている様子である。でもライルさんの動きはぎこちないし、移動速度は遅めのようである。まだ育成が足りてない感じかな?

 そして、その木の幹にはカブトムシのカステラさんの姿があった。ん? その横にはクワガタの姿もある。人数的には紅焔さん達のPTに臨時参加の人か?


「おっと、俺もいるんだぜ?」

「あ、辛子さんか」


 どうやらクワガタは辛子だったようだね。へぇ、今日は辛子さんは紅焔さん達とのPTを組んでたのか。まぁ紅焔さん達は4人PTだし、辛子さんはソロだから丁度良かったのかもしれない。


「紅焔が先に行ったのは別に良いけどさ、ソラまで一緒に行ってどうするのさ?」

「カステラ、ごめんよ。僕がトカゲを持っていたから、一緒に行ったほうがいいかと思ってね」

「……まぁそういう事なら良いけどさ。紅焔、テンションが上がってるからって1人で先走らないでよ? 今はライルの移動速度は落ちてるんだからさ」

「……おう、すまんかった」


 なんで紅焔さんのテンションが上がってるのかは分からないけども、先走って飛んできたっていうのは間違いないらしい。あ、もしかして組み合わせ的にドラゴンになりそうな感じがするから、その辺が理由? 紅焔さんはドラゴン好きだもんな。

 それにしてもライルさんの空飛ぶ小島的な移動方法はまだまだ不完全なのか。ふむ、どういう状況なのか気になるね。


「ライルさん、ちょっと質問いいか?」

「構いませんが、なんでしょうか?」

「移動速度が遅いって事は、もしかして岩の操作は覚えたて?」

「やはり分かりますか。えぇ、まだ覚えたばかりですし、制御が甘くて速度を出せば墜落しかねなくてですね。まだ土の昇華にも遠いですから操作しているのは天然の岩ですし、移動操作制御もまだ未取得なので、速度を出せば制御時間がすぐに切れましてね……。まだまだ課題は山積みなんですよ」

「あー、なるほど……」


 根本的に操作が下手とかそういうのではなくて、スキルLvや必要なスキルがまだ揃ってない状態なんだな。……こればっかりは熟練度を溜めていくしかないから、アドバイスも何も出来そうにない。


「何か改善策をって思ったけど、熟練度が必要なのはどうしようもないか……」

「いえいえ、気持ちだけでもありがたいですよ。ありがとうございます、ケイさん」

「うーん、何も出来てないのに感謝されるのも変な気分……」


 少しでも補助になるような手段があれば良いんだけど……って、あー! そうか、何もライルさんだけでやる必要もないのか。ふむふむ、前にサヤと俺が試して失敗した方法だけど、風の昇華を持っているソラさんならまた違った結果になるはず!


「良い事を思いついたぞ。ソラさん」

「……ん? 僕かい?」

「ソラさんがライルさんの木に止まって、風魔法で推進力を得るってのはどう? 出来れば魔法砲撃を使ってさ」

「……僕がかい? ……確かに僕は風の昇華があるから可能ではあるのかな? ライル、どう思う?」

「そうですね……。魔法砲撃は紅焔のブレス再現のイメージが強過ぎてその発想はありませんでした。やってみる価値はあるのではないでしょうか?」

「……そうだね。やってみようか」


 お、どうやら意見は纏まったっぽいね。ソラさんは風の昇華も魔法砲撃も持っているんだから、すぐにでも実行は出来るだろう。それにしても紅焔さんのブレス再現に使うのがメインだったから、こういう使い方は思いついてなかったんだね。


「あー、そういう実験が悪いとは言わんが、もう少し後にしてくれるか? 砂漠まであと少しだからな」

「おっと、そうだったね。ライル、僕らの移動実験は後にしようか」

「そうですね、ソラ」

「そうだな! まずはフィールドボスの再出現が最優先だ! ふっふっふ、どんなドラゴンが出てくるか楽しみだ!」

「また言ってるよ……。紅焔、まだドラゴンとは決まってないからね?」

「なんだよ、カステラ。良いだろ、これくらいの願望!」


「まぁこんな調子で紅焔さんがテンションが高くてな?」

「うん、なんとなく予想した通りだったよ、辛子さん」


 やはり紅焔さんはドラゴン絡みでテンションが上がっていたらしい。これは組み合わせはコイとトカゲで決定かな? まぁその前にやる事があるんだけどもね。


「テンションが高いのは良いが、先にエリアの移動が可能か試す事を忘れるなよ?」

「おっと、そうだった。ともかく、検証をやってくぜ!」


 そしてベスタと紅焔さんの号令にみんなが頷いていく。ベスタによれば目的地の砂漠まではあと少しだし、まずはエリアの移動が可能かを確認しないとね。その結果によって、その後の予定も変わってくるもんな。

 さぁ、フィールドボスの再出現の検証もそろそろ最重要の検証項目に突入だ。頑張っていこう!


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