第452話 平原の中に


 Lv20の成長体を見つけた事で単独で動いていたベスタと合流し、砂漠へと向かって平原エリアの空を飛んでいく。


「そういやベスタ、紅焔さん達が捕まえた成長体って何?」

「土属性のトカゲと言っていたな」

「へぇ、トカゲなんだ。融合進化や合成進化になったらどうなるんだろ?」

「……その組み合わせだと、東洋系のドラゴンになるんじゃねぇか?」

「あ、それはありそうかな。コイから竜になる話ってのもあるもんね」

「そういえばそんなのもあったね」

「おー! 敵で東洋系のドラゴンは初めてだねー!」

「……俺もその可能性は高いと思うが実際に試すまでは分からないから、油断するなよ?」

「ほいよ」


 確かに可能性は高くても、実際にどうなるかは未知数だもんな。もし見当違いになっても危険だし、それ以前にまだ他のエリアへと持ち出せるかも未確定だ。

 それにしてもドラゴンへの進化が2体か……。もしかすると頭が2つの……って、可能性はありそうだけど気が早いな。この辺はやってみれば分かる話だしね。


「ともかく今は砂漠に向かうぞ」

「あ、そうだ。ベスタ、ほいよ」

「ん? あぁ、失念していたな。ありがとよ、ケイ」


<ベスタ様がPTに加入しました>


 Lv20の成長体を見つけた2つのPTで連結して対応するという手順になってるし、ここはベスタにもPTに入ってもらうべきだろう。ベスタはどこのPTにでも入れるように単独で動いてた訳だしね。


 さてと必要な事はやったので砂漠に向けて本格的に進んでいこう。ここまではアルの自力での飛行や攻撃を受けた際の対応などを考えながら移動していたからあんまり位置の確認は出来ていないんだよな。

 あんまり地面は見てなかったけどマップを見てみれば、蛇行しながら埋まっているけど北に向けてしっかりとそれなりの距離を進んでいたようである。振り返って通ってきた方向を見ても、コイのいた湖のあった林はもう見えなくなっていた。


「思った以上に移動が楽になったな」

「あぁ、水の昇華を選んでおいて正解だったようだぜ」


 アル自身で自由自在に空中を泳げるというのは、かなり有用だったみたいである。まぁ最終的には水のカーペットも無しで自由に空中を泳げるのが良いんだろうけど、それにはまだまだかかりそうではあるけども。


「あー! みんな、下見て!」

「どうした、ハーレさん? お、あれは……麦畑か?」

「畑ってほど整ってはないけどな」


 ハーレさん声に釣られて地面の方を見てみれば、かなりの広範囲に麦らしきものが広がっていた。まぁ誰かが栽培している訳でもない感じなので自生した麦っぽいね。砂漠の隣のエリアという事もあって、この辺の雨の量は少ないのかな?


「あれって小麦かな……?」

「ヨッシ、小麦なの!? 小麦ならうどん、パン、パスタとか色々いけるよー!」

「いやいや、ハーレ。期待が重すぎるからね!? あ、でも小麦粉に出来れば、うどん辺りならなんとかいけるかな……? 塩はあるし、茹でる鍋はケイさんが土の昇華になればなんとか……?」

「おー!? うどんが食べれるのー!?」

「うどんの手打ちはお婆ちゃんと一緒に何度かした事はあるからね。ほら、ハーレも……うん、一度一緒にしたじゃない?」

「あー!? あの踏む時に盛大に転んでお皿割っちゃった時だー!? ヨッシ、あの時はごめんね!?」

「いいよ、いいよ。あれが後々の教訓にもなったしね」


 ハーレさん、ヨッシさんの婆ちゃんの家で何やってんの!? そういう事態になるには何となく今までの経験から予想は付くけど、まさか他の家でそんな事が起こっていたとは……。


「さてと……サヤに生地を捏ねてもらえれば、材料的にはいける? あ、でも麺は出来ても、つゆに醤油がないと厳しいね……。そもそも小麦粉にするのはどうしよう? ケイさんが土の昇華の岩で何とかできるかな……?」


 あ、ヨッシさんが強引に話の方向を切り替えたね。それにしても半ばハーレさんの無茶振りだっただろうに、ヨッシさんが本気で可能性を模索し始めたか。まぁ俺やハーレさん、それに去年まで住んでいたヨッシさんにとっては、うどんって身近なものではあるもんな。


「……おいおい、このゲームで本格的にうどんを作る気か?」

「可能ならやってみたくはあるね。ベスタさん、ダメ元で聞くけど醤油とかあったりしない? それかドライイーストがあればパンも可能性はあるけど……」

「……どっかで作るのを試している奴はいそうだが、今のところは情報はないな」

「そっか。レーズンから天然酵母を作ればいけそうだとは思うけど、そこまで細かくはやったことないんだよね……。そもそもその工程をこのゲームの方が対応してるかな……?」


 ん? レーズンですと!? ……大の苦手の食べ物が話題に出てきたな。そういやドライフルーツは灰のサファリ同盟が実験で作ってたっけ? うーん、苦手な食べ物だから話題に出すべきか、出さないでおくべきか……。


「レーズンというかドライフルーツって、灰のサファリ同盟のみんなが実験してたよね!?」

「あ、そういえばエンのところで濡れないように雨宿りしてたかな?」

「へぇ、そんなのやってたのか。でもそれなら荒野エリアとかでやる方がやりやすいんじゃねぇか?」

「アルマース、それは違うぞ。海エリア以外で、どこが最適かという事で同時に作成を行っているだけだ」

「あ、なるほど、そういう事か。比較検証もしてるんだな」

「確かにそれは重要かな? ……ところで、ケイはどうしたのかな?」

「……いやー、まぁ、ちょっとなぁ……?」


 ギクリ!? いや、ドライフルーツは全般的に苦手だから、その会話には加わりたくないのが本心です……。うん、これ正直に言っても大丈夫なやつか……?


「あ、そういえばケイさんはドライフルーツは苦手なんだった!?」

「あっさりバラすんかい、ハーレさん!?」

「え、でも苦手なものは申告しておいた方がいいよね!?」

「……まぁそうなんだけど」


 確かに今はまだドライフルーツの作成は実験段階みたいだけど、この先に完成する事があれば入手する事もあるんだろうな。それを考えるなら、早い段階で苦手な食べ物は暴露しといた方がいいか。


「……ハーレさんの言う通り、俺はドライフルーツ全般が苦手なんだよ。って事で、回復アイテムとして使う気はない!」

「あー、まぁそういう苦手なものもあるか。あるかどうかは不明だが、俺も辛い物は苦手だしな」

「アルマース、それなら唐辛子が既に発見されてるぞ。確かドライフルーツと一緒に乾燥させてた筈だ」

「げっ、マジか!? そういう事なら今言っておいて良かったのか」


 ほうほう、アルは辛い物が苦手なんだな。まぁ誰にでも好き嫌いってあるもんだし、決して悪い事ではない。それにしても唐辛子が存在するのか。……杉の花粉攻撃とかがあるくらいだし、辛さや刺激での攻撃とかありそうだな。


「ちなみにサヤとヨッシさんは何か苦手な食べ物ってある?」

「私は無視なのー!?」

「いや、だってハーレさんは苦手な食べ物はないだろ?」

「あるよ!? イナゴの佃煮とか、ハチノコとか、イモムシとかそういうのは苦手だよ!?」

「……それ、馴染みがある人じゃないと躊躇うタイプのやつだよな!?」


 少なくともその辺の独特な食べ物については我が家の食卓に出てきた事はないな。でもハーレさんなら初めこそ抵抗はありそうだけど、いざ食べてみると平然と食べそうな気もする。

 まぁ若干の偏見があるのは間違いないけど、俺もその辺の食べ物は積極的に食べたいとは思わないな。


「あはは、まぁハーレの気持ちも分かるかな。そういうのを除けば、私の苦手な食べ物は特にないかな?」

「私も特に苦手な食べ物はないよ。それじゃケイさんの苦手なドライフルーツとアルさんの苦手な辛い物については気にしておくね」

「「ヨッシさん、ありがとな!」」

「いえいえ、どういたしまして」


 思いっきりアルと言葉が被ったけども、これはありがたい気遣いだもんな。なし崩し的に苦手な食べ物の暴露にはなったけど、これはこれで重要だったのかもしれない。


「……まぁ苦手な食べ物の談義は別にいいんだが、お前ら、少し下見てみろ」

「……下?」


 雑談しながら砂漠のある北へ進んでいたし、結構な広範囲に渡って麦があったから少し気が逸れてあまり見ていなかったけど、何かあるのか? って、何か麦に群がっている黒い何かの群れがいる!? ふむ、1体だけ妙にデカくて他のと違うのがいるね?


「ハーレさん、特にデカい個体の識別任せた!」

「了解です!」


 俺は今はコイを水の操作で捕まえている最中なので他のスキルが使えないから、ここは俺と同じで望遠の小技が使えるハーレさんに識別を任せよう。ちょっと遠くて、そのままだと識別の効果が届くか怪しいし。


「成長体の『群れ大食いイナゴ』! Lvは20で、属性は無し! 特性は群れと大食いです!」

「……やはりか。放置でも良いが、折角のLv20だ。検証用に確保していくか?」

「それはありだと思うけど、数多くない?」


 ベスタが簡単に確保と言ってくれるけど、ざっと見た限りで黒いカーソルが山ほど……あれ? よく見たらデカい個体以外は普通の黒いカーソルじゃないな。黒く縁取られた緑というような感じのカーソルになってるね。この表記は初めて見るぞ?


「ベスタ、こいつらのカーソルが何か変なんだけど?」

「それは基本的に一般生物だ。特性の群れってのは、同系統の一般生物を強化して自身の群れを形成するらしいからな。自分で個体を生み出す統率とは似ているようで、かなり性質が違うぞ」

「それって興味深いね。ベスタさん、統率と群れって両方得る事って出来る?」

「……まだその情報はないな。ヨッシ、興味があるのか?」

「うん、少し興味が出たよ。ただ一般生物のハチの確保が面倒そうだよね」

「だろうな。だが、何かしらの手段はあるだろう」

「だよね? 共闘イベントの報酬で、もしあれば群れの特性を追加してみようかな?」

「……確かにその可能性はあるな。俺としても色々と情報は欲しいし、興味があるならやってみるといい」

「うん、そうしてみるよ」


 これはヨッシさんに新たな特性が追加になりそうだね。一般生物のハチの確保方法を考えておかなければならないけども、それが可能になれば妨害や、攻撃の無駄打ちの誘発や、囮にも使えそうだ。

 ヨッシさんの統率のハチも何だかんだで便利だし、これは色々と期待できるかもしれない。まぁ一般生物になるみたいだから火力としては期待は出来ないけどね。


「それで、どうする? イナゴは確保していくか?」

「検証には数がいた方がいいもんな。という事で、確保は賛成! みんな、それでいいか?」

「うん、問題ないかな!」

「賛成さー!」

「私も賛成だけど、どう捕まえるの? 流石に邪魔なのが多いよね?」

「それなら一般生物のイナゴは俺がーー」

「あ、ベスタ、待ってくれ」

「……どうした、アルマース?」

「折角の機会だから、覚えたての昇華になった水流の操作を試させてくれないか?」

「……良いだろう。ただし、成長体のイナゴは倒すなよ?」

「おう、それは分かってる! それじゃちょっと高度を下げるぞ」


 どうやらアルは覚えたてのスキルを使いたくて仕方ないみたいだね。まぁその気持ちはよく分かる。それから水流の操作をぶつける為に、アルのクジラの飛ぶ高度を下げていく。さっきまでの高さじゃちょっと遠いもんな。

 そして高度を下げるとイナゴ達が俺らを敵と認識したのか急激に襲いかかってきた。特性の群れの効果があれば、一般生物でも未成体相手にでも怯まずに突っ込んでくるっぽいね!?


「ヨッシさん、隙を見て成長体のイナゴの確保を頼む!」

「了解! アルさんも失敗しないでね」

「ケイほどじゃねぇが、俺だって操作系には自信あるからな! 行くぜ、『アクアクリエイト』『水流の操作』!」


 自信たっぷりのアルは大量に水を生成し、それを操作して水流を作り出していく。……ただし、覚えたてのせいか制御は滅茶苦茶である。その様子に慌てたベスタがイナゴの群れの中に突っ込んでいき、成長体のイナゴを吹き飛ばしていた。


「おい、アルマース!? 水流の操作は本気で覚えたてか!?」

「……すまん。まだ覚えたてで水流の操作がLv1だという事を失念してた……」

「生成の方はすぐにでも使えるからそのせいか……。まぁ、そういう事もあるか」

「アル、どんまい!」

「うっせーよ、ケイ!?」


 まぁ誰にでも失敗はあるからね。今日は俺が盛大に勘違いしてしまった件があるけども、こうしてアルの失敗を見たら少し安心した。うんうん、見落とす事ってあるもんね。俺だけじゃなくてホッとした気分だよ。


<『イナゴの死骸』を10個獲得しました>


 そしてアルの水流の操作に倒された一般生物の大量のイナゴの死骸がアイテムとしての獲得出来ていた。……これを食べるのは論外として、何かを誘き寄せる為の餌とかには使えそうかな? まぁこれは適当にどっかで色々試してみようっと。


「とりあえず、成長体のイナゴは確保かな」

「サヤ、いつの間にー!?」

「え、アルの制御しきれてない水の操作が一般生物のイナゴを倒しまくってた間にかな?」

「サヤ、ナイス!」


 いつの間にかアルのクジラの背から下りて、ベスタが軽く吹き飛ばした成長体のイナゴをサヤが摘んで確保していた。思いっきり予定とは違ったけども、これで2体目のLv20の成長体を確保完了!

 フィールドボスの再出現の検証中の時には他のPTも集まってくるだろうし、その時は他のPTに預ければ良いかな。予定外に2体目が増えたけど、結果オーライって事で! これでエリア移動が出来なきゃ悲しい事にはなるけどね……。

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