第454話 望海砂漠へ突入
もうすぐ砂漠だというベスタの発言通り、少し進めば麦を筆頭に草木がかなり減っていき荒れ果てた様子に変わってきている。……というか、地味に砂丘が見えてきたね。そして現在時刻はもう少しで9時半か。
「よし、一度ここで止まれ」
「おうよ。ベスタ、この辺が切り替え地点か?」
「あぁ、そうなるな。……ライル、どうした?」
「いえ、そろそろ岩の操作の時間切れでして……」
「そうか、なら回復を兼ねて一度地面に降りるぞ」
「そうしてもらえると助かります」
ベスタからの停止の指示が出たと思えば、ライルさんの岩の操作の時間切れか。まぁ移動操作制御はまだ持っていないって言ってたし、これは仕方ないね。そういう事情から、砂漠の手前の荒れた場所へと降りていく。
まぁここから先の砂漠へ入るには事前準備も必要だしね。行動値の回復をするにも丁度いいタイミングなんだろう。みんなもここから先は戦闘が予想されるので、アルのクジラの背から降りてくる。……巣が定位置のハーレさん以外は。
「さっきは話の途中にはなっていたが、一応このエリアでのフィールドボスの出現が可能か試してみるぞ」
「あ、そういやそんな話もしてたっけ」
他の情報を確認していたり、紅焔さん達が合流した事で少し忘れかけてたよ。今までは駄目という判断だったけど、一応試してみようって話になってたんだよな。
「ん? ケイさん、ベスタ、何の話だ?」
「紅焔達が来る直前に、このエリアでもフィールドボスの出現が可能かどうかの話をしていた」
「え、それって駄目って話じゃなかったか?」
「あぁ、そうだな。新たな条件でも駄目になるかの確認をしようという話だ」
「あー、なるほど。そりゃ確かに」
「ベスタさん、それは駄目な可能性が高いとは推測しているけど、念の為確認しておこうという認識でいいのかい?」
「あぁ、その認識で問題ない」
「そういう事でしたか。ですが、成長体が3体いますけどどうするのですか?」
「それならケイの持っているのを使う。他のPTからも捕獲の報告が入ってきたとこだしな」
「おー!? それなら丁度いいねー!」
どうやら他のPTでもLv20の成長体は確保出来たみたいである。これはもし何もかも上手く行ったなら、何回かフィールドボスの誕生が見れるかもね。てか、使うのは俺が持ってる奴なんだ。
「ケイ、そのまま捕獲してろよ?」
「あのー? もしかして、捕獲状態のままでやる気ですかね?」
「もし予想外にフィールドボスになった場合だと巻き込まれる可能性もあるが、1度なら死んでも問題ないだろう?」
「これで進化したら俺は巻き込まれるの前提なの!? いや、まぁ別に良いけどさ」
そもそも成功する可能性自体が低そうだし、成功したとしても1撃で殺されるような事もないだろう。今コイを捕まえている水の操作を防御に回せば良いだけだしね。
「あー、確かにケイのリスポーンは俺の木だから問題はないか。……そういえば今俺も思い出したとこなんだが、ケイ、盛大に忘れてる事があるぞ?」
「……アル、忘れてる事って何?」
「ケイのリスポーン位置、あと1回分だぞ。どっかのタイミングで再設置しとけよ?」
「あー!? そういやそうだった!?」
共闘イベント中に赤の群集の人達に群がられてランダムリスポーンして逃げた後に戻ってくるのに1回使って、ヒノノコを瘴気石を使って瘴オオヒノノコに再出現させた後に浄化魔法で盛大に弱体化して死んで2回目を使ってたんだった。
くっそー、再設置しておこうとは思ってたのに、1回分が勿体無いから日付が変わる直前にしようとしてすっかり忘れてた。……よし、1回分は無駄になっても再設置しておこう。フィールドボスを相手にするなら、安全策を取っておくべきだ。
「完全に忘れてた……。アル、サンキュー!」
「まぁ俺も今の今まで忘れたしな」
「ケイ、また忘れない内に再設置しておいたらどうかな?」
「あー、うん、そのつもりだ」
さてと、それじゃ早速……あ、コイを水の操作で捕まえてるからスキルの発動が出来ん!? えー、リスポーン位置設定って行動値の消費とかないのに、同時に使えないのか!
あ、よく考えたら戦闘中に苦戦した時に間近にすぐに作れるようになるから無理ですよね……。せめてスキルを使わない状況じゃないと便利過ぎるから制限かかりますよなー!?
「……スキル使用中の為、再設置が出来なかった……」
「なら、後回しだな」
「そだなー。よし、んじゃベスタ、頼む!」
「ほらよ、ケイ」
「よっしゃ、来いやー!」
万が一の予想外に備えて、警戒態勢に移行する。と言っても、気分的なもんだけどね。とりあえず水球からコイの頭だけ押し出し、ベスタが投げてきた2個の瘴気石をそれぞれコイとイナゴの正面に持っていく。
完全にコイが水球の中だと判定が狂いそうだから、こういう手段が良いだろう。水球を解除しても良いけど、再発動も面倒だしね。そして、少し様子を見ていく。
「……何も起きないな」
「コイもイナゴも反応してないかな?」
「失敗みたいだねー!?」
「これは予想通りだったって事だね」
「……そうみたいだな。気合入れて損した気分……」
「ケイ、そう気を落とすな。これも成果といえば成果だからな」
「……それもそうだよな」
元々これは駄目だという推測だったんだから、その結果を実証したんだ。検証としては大成功ではある。……まぁ意外なとこに変な条件があったりするから、ちょっと身構え過ぎた感じもあるけども。
「あ、ケイ! コイが逃げそうかな!?」
「おっと、逃がすかよ!」
危ない、危ない。コイの頭だけでも水球の中から出した事で、思いっきり暴れていたよ。もう一度しっかりと水球の中に戻して、ちゃんと捕獲しておかないとね。
「おし、それじゃここでの検証は終わりだな。ベスタ、こっから砂漠に移動で良いんだよな?」
「あぁ、そうだな。次はこの成長体を持ち込めるかの検証だ」
「それだけなら、みんなで行く必要もないね。僕がちょっと行ってくるよ」
「……良いのか、ソラ?」
「まぁエリアの移動をするだけだしね。その間に、みんなは連結PTと砂漠への移動の準備をしておくといいさ」
「……それもそうだな。任せたぞ、ソラ」
「ベスタさん、任されたよ!」
「ソラ、頑張れよ!」
「頑張るって言ってもエリアの移動だけなんだけどね、紅焔。それじゃ行ってくるよ」
そうしてソラさんがトカゲを脚で掴んだまま、砂丘が見える方へと飛び去っていった。……うん、ぶっちゃけ普通にキャラの様子は見えるので、普通にエリア移動は出来たっぽい? その辺にトカゲが落ちていった訳でもないし、成功かな?
「とりあえず紅焔さん、PT連結だな」
「おうよ!」
<紅焔様のPTと連結しました>
これでPTの連結は完了っと。あ、この状態ならPT会話でソラさんの検証結果も分かるよな。
「ソラ、ベスタだ。結果はどうだ?」
「あ、連結したからベスタさんからでも会話は可能なんだね。うん、これは普通に成功と言って良いと思うよ。何も問題なく持ち込めたね」
「そうか、良くやった。それではこれから砂漠エリアへ突入し、フィールドボスの再発生の検証を開始する。砂漠への対応が必要な者は、各自対応してくれ」
「ほいよ!」
「了解!」
砂漠への対応について返事をしたのは俺とヨッシさんだけだったね。まぁ見た感じでは他のみんなは問題なさそうだもんな。さてと、俺も交換してきた乾燥適応の種を使っていこうじゃないか。
あ、スキル使用中はインベントリから取り出しは不可なのか。でも回復アイテムはちゃんと食べないと使えないけど、これについてはインベントリから使用可能なんだね。よし、そっちから使用しよう。
<『特性の種:乾燥適応』を使用します>
よし、これで1時間は乾燥に対して有効な特性を手に入れた! これ、もしかしてコケにとっては常用してても良いアイテムなのでは……? うーん、流石にそれは便利過ぎるから何かデメリットもありそうな気がする。
とりあえず、見た目的な変化はなさそうだね。まぁ乾燥に適応する特性ではそんなに目に見えて変化は起きないか。
「私も準備しないとね。『纏属進化・纏火』!」
そしてヨッシさんも昼間の砂漠の暑さに対応する為に、纏火を使っていく。進化が終わると、普段は青白い色に毒々しい模様が入っているヨッシさんに、赤くなった羽根と小さな火の粉が舞っていた。色の変化が全身でないのは、氷属性の影響かな?
「何か不思議な感じかな?」
「そだねー!」
「あはは、まぁ属性の組み合わせとして変な感じだもんね」
「ま、それが必要なんだし、変って訳でもないだろ」
「だよなー。全身、青いクマや木よりは遥かに普通だし」
「うっせーよ、ケイ!」
「アルに同意かな! 確かに自分でもそう思うけど!」
「今のは失言! 取り消すって!?」
思わずに似合っていなかった昨日の水属性のアルの木とサヤのクマについて、本音がポロッと出てしまった。まぁサヤもアルも否定はしないところを見ると、思っていることは同じなんだろうね。
「あー、準備が終わったならそろそろ良いか?」
「あ、問題ないぞ! だよな、みんな?」
「問題なしさー!」
「私も行動値は回復しましたので問題ないですね。……ここからは根脚移動にしておきますけどね」
「……まだ岩の操作に慣れていないなら、ライルはその方が良いだろうな」
ハーレさんの元気な返事もありつつ、ライルさんの行動値の回復も済んでいるようだね。さてと、それじゃ砂漠エリアに向かって出発しようじゃないか!
「それではこれより、砂漠へ突入する! 各自、脱水の状態異常には気をつけろ!」
「「「「「おー!」」」」」
「へっ! 火のドラゴンには砂漠の暑さも乾燥も関係ないぜ!」
「そういえば紅焔が一番、このメンバーでは暑さに強いのでしたか」
「紅焔、調子に乗りすぎて失敗しないでよ?」
「……何か地味に疎外感を感じるなぁ……」
「辛子さん、本格的に僕らのPTに入らないかい? 歓迎するよ?」
「……ソロばっかってのもあれだし、本格的に検討してみるわ。あんがとよ、ソラさん」
「どういたしましてだね。快い返事を期待しているよ。……それで、僕はいつまで待っていればいいんだい?」
「……紅焔PT、気持ちは分かるがそろそろ行くぞ」
「了解だ!」
何だか紅焔さん達が若干脱線してしまっていたけども、今度こそ砂漠へと出発である。それにしても辛子さんって紅焔さん達のPTに勧誘されてたんだね。別々に知り合った人達にもそれぞれの繋がりがあったりするもんだ。
<『グラス平原』から『望海砂漠』に移動しました>
そしてやってきました、砂漠エリア! 軽く見た限りでは砂丘がいくつかあって、全体像は見渡せない。ここは海岸沿いの砂漠って話だから海は見えるはずなんだけど、砂丘を超えれば見えるのかな? うん、これは時間に余裕があれば見に行きたいところである。
「ケイの持っているイナゴとコイも問題なくエリア間の移動は出来たな」
「みたいだな。それじゃベスタ、早速始めるか?」
「いや、切り替え直後の場所では邪魔になるから少し移動してから開始するぞ。組み合わせはーー」
「東洋系のドラゴンになりそうな、コイとトカゲの組み合わせを希望するぜ!」
「……まぁそれで良いだろう。準備をするから少し待て」
やっぱり紅焔さんの希望通りに東洋系ドラゴンになりそうな組み合わせになったね。まぁコイからドラゴンへの進化ルートが実装されてるかも不明だし、単体でドラゴンになりそうな種族同士の組み合わせがどうなるのかは気になるところである。
そして、邪魔にならないように少し砂漠を進んでいく。……適度に離れたしこのくらいでいいかな?
「この辺りまで来ればいいか。それでは検証を始めるぞ」
ベスタは俺達から少し離れた位置に2個の瘴気石を並べて置いていた。あー、今度は本気でフィールドボスの出現の可能性があるから距離を取ってるんだな。そういや使う瘴気石ってどの強化段階だ……?
「ベスタ、瘴気石の強化段階はどれを使うんだ?」
「出し惜しみは無しで+5と+6を使う。推測通りなら、これでLv12の状態に瘴気強化種に進化するはずだ」
「+6って、夕方の最後に作ったやつか!」
「あぁ、そうだ。現状ではまだ1個しか持ってないがな。+5なら禍々しい模様の除去済みと、除去出来ていないのが複数ある。後で、除去していないやつでも試すぞ」
「ほいよ」
とりあえずは手持ちにある内で最大Lvになりそうな組み合わせでやるんだな。そしてその後に、禍々しい模様が除去されていないのも試す事になる訳だ。……何となく除去されていないのを使うと、瘴気属性持ちが誕生しそうな気もするけどね。
そういやフィールドボスってLvはいくつからがフィールドボスとして判定されるんだろう……? うーん、それも検証内容の1つかな。とりあえずフィールドボスが誕生するかどうかが一番初めにやる事だね。
「よし、準備完了だ。ケイ、ソラ、開始しろ」
「ほいよっと!」
「任されたよ」
それからベスタが設置した2個の瘴気石の前にトカゲとコイを移動させていく。俺が水球ごとコイを+5の瘴気石の前に移動させて水球を解除し、ソラさんは+6の瘴気石の目の前にトカゲを落としていく。
そして砂漠の上に放り出されたコイも、落下させられやトカゲも、共に目の前にある瘴気石に食らいついていった。ははっ、手前のエリアじゃ興味も示さなかったのにな。
それにしても、コイは水球から出た瞬間に凄い勢いでHPが減ってたね。瘴気石を食べた瞬間から弱らなくなったけど、あれが無ければあっという間に死んでたっぽい? ふむ、水中のみの生物には砂漠はヤバい場所なんだな。
「成功のようだな。進化が始まるぞ、全員距離を取りつつ警戒しろ!」
そのベスタの警告と共に、瘴気石を食らったコイとトカゲが互いに引き寄せられていく。そして2体が一緒に禍々しい瘴気の膜に包まれていった。これはとりあえず進化自体は成功のようである。問題はLvがいくつになるかだな。
「あー!? もう始まってたー!」
「くっそ、一足遅かったか」
「いや、ぎりぎり間に合っただろ!」
そして進化が進んでいく中で、他の何PTかが砂漠エリアまで辿り着いたようである。まだ始まったばっかだし、遅れたって事はないけどね。
さぁ、どんな進化を遂げたのか確認していこうじゃないか。そして結果はどうであれ、進化したやつはぶっ倒す! あと、砂漠エリアまで来たんだから砂の操作も取らないとね。
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