第444話 夜の部、開始


 ログアウトして現実に戻ってきた。今日は俺の部屋には晴香はまだ来てないっぽいな。って、ドアが開いたから思いっきり普通に入ってくる直前だっただけかよ!?


「さー晩御飯だー! 兄貴、行くよー!」

「何か妙にテンションが高いな!?」

「デザートに兄貴が買ってくれたアイスを残してるからねー!」

「あー、なるほど」


 てっきり帰ってきてすぐ食べたものだと思ってたけど、デザート用に残してたのか。それを楽しみにしてるからこのテンションなんだな。安物のアイスでここまで機嫌が良いとは思わなかったけども……。

 それにしてもこの前ゲーム内でカキ氷を食ったばっかりなのに、随分と高いテンションだな?


「なぁ、晴香。この前のカキ氷は不満だったのか?」

「んー? あれは満足してるよー! でも、あれでリアルで余計にアイスが食べたくなったのさー!」

「あ、そっちか」


 不満があった訳じゃなくて、あのカキ氷がキッカケでアイスが食べたくなったって事か。まぁ、味は別としても食べ方には大きな問題点があったし、リアルで食べたくなる気持ちも分からなくもないな。


「そして晩御飯はミートソースのパスタです!」

「……なんでメニュー知ってんの?」

「私のリクエスト! 食べたくなったから昼間にお母さんにメッセージを送っておいたのさー!」

「……なるほどね」


 相変わらず食欲に関しての行動力は凄まじいな。まぁ俺もミートソースのパスタは好きだから別に良いけどね。さてと晩飯を食って、ゲームの続きだ!




 そうして晴香のリクエストだというパスタを食べ終わり、晴香は食後のデザートのアイスを堪能していた。その間の俺は食器などの片付けである。


「ご馳走さまでしたー! それじゃ兄貴、先に行ってるねー!」

「おうよ。あ、先に集合場所に行っててくれ。そっちの方が分かりやすい」

「了解です!」


 アイスを食べ終わった晴香にそれだけ伝えると自室へと戻っていった。さて、ベスタの指定した集合場所で待っててくれれば合流もしやすいだろう。それに今のアルなら俺がいなくても森林深部も移動は可能だしね。


「……はぁ」

「どうしたの、父さん?」

「……いやな、晴香に家族旅行を断られたのが地味にショックでな……。いや、でも自力で頑張りたいと言うのだから、応援してやるのも親の努めか……」

「晴ちゃんもお年頃だからね。ここは素直に成長を喜びましょう?」

「……そうだな」


 うん、父さんが何か悩んでる風だったけど、これは杞憂だな。別に父さんと一緒が嫌とかそういう理由ではないんだから気にしなくても良いとは思うけど、親の気持ちってのはよく分からないもんだ。……俺もそのうち分かる日が来るのだろうか……? ……うん、未来の事は分からんね。


 さてと、そんな事を考えてる内に食器の片付けも終了っと。それじゃゲームの続きをやっていこう!



 ◇ ◇ ◇



 そしていったんのいるログイン場面へとやってきた。胴体部分を見てみれば『明日の定期メンテナンス後に課金アイテムが追加されます。計画的なご利用を!』とある。

 へぇ、何か課金アイテムが追加されるのか。まぁ俺が小さい頃にかなり問題になったらしく、法規制で過度な課金アイテムの販売や、射幸心を煽るランダム系の課金アイテムは禁止されてるからね。これはちょっとした便利アイテムだな。まぁ多分課金はしないけど。


「いったん、この課金アイテムって今の段階で詳細は教えてもらえるのか?」

「うん、それは問題ないよ〜。共闘イベントの報酬の1つだしね〜」

「え、マジで!? どのアイテム!?」

「転移の実の10個セットだね〜。価格は100円になっております〜」

「……ほう?」


 ふむふむ、使い捨ての転移の実は課金アイテムになるんだな。10個で100円なら、意外と便利なのかも? 転移の種の仕様もまだ実物を見てないけど、転移の実の仕様ってどうなってるんだろ?


「転移の実ってどうやって使うんだ?」

「えっとね、転移の実はスタック式で使用する時に場所の登録と転移の2種類の使用方法が選べるよ〜。この仕様は転移の種も同じかな〜。違いは転移の実は1回使えば1個減るって事くらいだね〜。あ、それと実と種では登録枠は別になるよ〜」


 ほうほう、使い捨てにはなるけどそれ以外は転移の種と仕様は同じ……いや、ほんとに同じか? えーと、よく思い出せ。確か種の方が便利そうだけど、1つ制限があったはず……。あ、思い出した!


「……種の方は確か1日1回の使用制限があったよな? もしかして課金アイテムになる実の方は1日に使える回数制限はないのか?」

「お、意外に気付く人はいるね〜。うん、そうなるよ〜」

「……マジか。それって登録の場合では個数消費しないよな?」

「そうなるね〜」


 そうなってくるとちょっと話が変わってくる。……遠い場所への日付を跨いで行き来する場合は転移の種を使い、緊急時に即座に行き来が出来るように転移の実も持っておくというのもありか……?

 くっ、課金アイテムで買う気はないけどもまだ共闘イベントの報酬が確定していない現状でこの情報は貴重だぞ。……転移の実、1セットくらい交換しとこうかな?


「貴重な情報、ありがとな。共闘イベントの報酬で検討しとく」

「はい〜。よく考えて選んでね〜」

「さてとそれじゃ行ってくる」

「引き続き、楽しんでいってね〜」

「おうよ」


 そうしていったんに見送られながら、再びゲーム内へと移動していく。さぁ夜の部も頑張っていこう!



 ◇ ◇ ◇



 再びゲーム内へとやってきた。お、地面は泥濘んでいるけど雨は完全に止んでいる。昼の日だし、天気が晴れなら清々しい気分になるね。

 ログアウトした場所は桜花さんのすぐ側だったので、すぐ近くには桜花さんがいるね。流石にログアウトする前の混雑は完全に解消してたっぽいな。手伝った甲斐があったってもんだ。……主にハーレさんがだったけども……。


「お、ケイさんも来たか」

「あ、桜花さん。今は人は少ない感じか?」

「少しの間、店仕舞だ。これからちょっと飯食ってくるからな」

「あー、なるほどね」


 そりゃ桜花さんだって晩飯は食べるんだろうし、当たり前といえば当たり前か。一昔前のオンラインゲームだと食いながらゲームの前から一切離れないって人もいたらしいからなー。

 詳しくは知らないけど、一時期はそれが問題にもなったらしいしね。VR機器の長時間でのログイン制限はその辺が理由とかどっかで見た気もする。


「あ、そうだ。ハーレさんもさっきログインして、エンの所でサヤさん達と合流して先に常闇の洞窟に行くって言ってたけど良いのか?」

「それは問題なし。俺がそうしてくれって言っておいたからな」

「なら問題ないか。それとベスタさんが呼びかけてくれたおかげで、不動種の協力者が何人か参加してくれる事になったぞ」

「お、マジか! 流石、俺らのリーダーだな!」

「ま、そうだろうな。ベスタさんへの信頼が大きいとは思うぜ」


 どうやらベスタは言っていたように不動種の協力者の確保は成功したようだね。これでフィールドボスの再出現の為の瘴気石の強化段階を上げられる可能性が高くなってきた。まぁ再出現に使えるかはこれからの検証次第なんだけどね。


「桜花さん、とりあえず情報サンキュー!」

「おう、良いってことよ!」

「そんじゃ行ってくるわ!」

「良い検証結果を期待してるぜ!」

「おう! それは俺も期待してるとこだ!」


 そうして桜花さんに別れを告げてから、みんなと合流する為に集合場所である常闇の洞窟の森林深部に一番近い転移地点まで行かないとね。その為にも、まずはエンのところに行くのが最優先だ!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 62/62 → 60/60(上限値使用:2)


 とりあえず移動用に水のカーペットを生成っと。現在時刻は8時まであと10分ってところか。まぁ桜花さんはエンの場所に近いし、そこまで行けば転移をするだけだから時間的には大丈夫だろう。さて、出発だー!




 そうして森の上を飛びながらエンの場所を目指していくと今まであまり見ていなかった光景が視界に入ってきた。あ、茶色いなんちゃってペガサスが森の上の空中を駆けているね。その隣には異常にモコモコと毛が膨れ上がって浮かんでいるヒツジの人もいた。へぇ、空を飛べるようになった種族の人も増えてきたもんだね。

 ちょっと話をしてみたい気もするけど進んでる方向は俺とは全く別方向だし、流石に今から声をかけたら時間的にも厳しいからまたの機会かな。


 それからそんなに時間もかからずにエンの場所に到着した。もう水のカーペットはいらない……いや、ちょっと待てよ? 砂漠に行くなら……って、その前に初期エリアの草原と海岸沿いの砂漠の手前に平原エリアがあるんだった。やっぱり水のカーペットはしばらくいらないな。


<『移動操作制御1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 60/60 → 60/62


 水のカーペットは解除したし、これでよし。今はエンの周囲はボスの周回を頑張ってる人達がいるくらいで特に混雑はしてないね。……それにしても夕方の土砂降りの雨のおかげか、ヒノノコによって焼け野原になってたこの場所も復活してきているね。明らかに夕方に見た時よりも植物たちが成長している気がする。

 元々ヒノノコの火魔法で焼け野原になってたし、魔法での破壊は回復が早いからなんだろう。まだ完全復活とはいかないけど、これならそう遠くない内に完全復活しそうだね。


 さてといつまでも見物していても仕方ないので、エンの転移の項目を開いて最寄りの常闇の洞窟の転移地点を選択っと。ここではみんなの姿は見えなかったから、もう先に行ってるとみて間違いない。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア1』から『常闇の洞窟』に移動しました>


 そして数日ぶりにやってきました、常闇の洞窟! お、完全に元通りになってて、地下湖の近くに生えているエンの分身体が青白い光で転移地点を照らし出している。

 周囲を見渡してみれば見知らぬ人もいるけど、それなりに知った人もいるね。シンさんを筆頭に荒野エリアの人が結構な人数で参加しているっぽいな。それに紅焔さんのPTも勢揃いしているね。


 さてとみんなはどこにいるかな? アルのクジラが目印になるとは思うけど、今は小型化してる可能性も高いんだよな。


「あ、ケイさん! こっちこっちー!」

「お、そっちか」


 ハーレさんが俺を見つけてくれたようで、声をかけてきてくれた。ふむ、やっぱりアルは小型化して牽引状態になっていたか。そして相変わらずハーレさんは定位置の巣の中である。


「ケイ、おかえりかな」

「ただいまっと」

「ケイさん、アルさんには事情は説明してあるからね」

「おう、ちゃんと聞いてるぜ。ま、こんな大事になってるとは予想外だったがな」

「ヨッシさん、サンキュー! アル、一言多い」

「そうは言うが、Lv上げの場所とケイの土の昇華の取得の候補地探しからフィールドボスの再出現の検証に話が変わってるとは思わなかったぞ? 昇華に関しては俺も地味に同じ勘違いはしてたがな……」

「うっ、確かにそれはごもっともで……」


 確かに俺もこの展開は全く想像してなかったもんな。でも元々の目的自体は達成してるから問題はないはず! そしてアルも同じ勘違いをしていたらしい。サヤが仲間がいるのが嬉しくなる気持ちが今なら分かる!


「ま、別に良いがな。これはこれで充分楽しそうだし、Lv上げも問題はないだろ」

「その辺はベスタの配慮なので、ベスタに感謝するように!」

「それならもう済ませたぜ」

「あ、そう?」


 その辺も含めて、夕方の事情の全部を説明済みなんだね。まぁそこまでしっかり伝わってるなら問題ないね。さてと8時も来たみたいだし、そろそろかな?


「『アースクリエイト』『岩の操作』! はーい、みんな注目!」


 ん? この声はラックさんか。なんで岩の生成を……って、あれは集まってるみんなから分かりやすいように用意している台代わりっぽいね。上の方からスポットライトがあるけど、これは誰かが光の操作を使ってそうだな。うん、誰が光の操作と何を光源に使っているのか分からないけども……。


 そしてベスタが生成された岩の上に登り、スポットライトを当てられていく。この様子だとこれからベスタが検証の手順の説明を開始していくってところかな。さてと今日の夜の部、本格的に開始だね!

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