第445話 これからの検証の手順


「それじゃベスタさん、よろしくー!」

「あぁ、任せておけ」


 あ、ラックさんは岩を生成し呼びかけただけっぽいね。スポットライトに照らされた岩の上に登ったベスタがこれからの説明を開始しようとしている。さてと重要な内容だし、しっかり聞いておかないとね。


「まず初めに言わせてくれ。今回は検証の協力に参加してくれた事を感謝する」

「こんな面白そうな事に参加せずにいられるかって!」

「そうだぜ、ベスタ!」

「フィールドボスの再発生の手順は重要そうだしね!」

「大型検証は望むところだっての!」

「実戦での検証タイプの人がこれだけ集まるってのも珍しいしな」


 常闇の洞窟の中にベスタの感謝の言葉が反響しつつ、それに応える灰の群集のみんなの声も同じように反響していく。へぇ、大声を出すと常闇の洞窟って案外響くんだね。まぁ今の状況なら常闇の洞窟の中は他の群集を気にせず話せる場所だもんな。立ち入ってる他の群集の人が全くいないって事はないだろうけど、少ないのは間違いないはず。


 それにしても集まってきているみんなもテンションが高い。知らない人の方が多いけど、今集まってるメンバーって普段から色々な検証を行ってる人達っぽい感じだ。それも俺らのPTと同じように、実戦の中で試しているタイプみたいだね。


「挨拶も済んだことだし、これよりフィールドボスの再発生と強化した瘴気石の効果の因果関係の検証を開始する。ただし、今回は基本的に他の群集には公開しない灰の群集の機密情報として扱う事を認識しておいてくれ」

「リーダー、質問!」

「……リーダーではないんだがな。それはまぁ今はいい。そこのカンガルーの人、なんだ?」

「今回の検証の場所って灰の群集の専有の場所じゃないよな? もし他の群集に見られた場合は……?」

「それに関してはある程度は仕方あるまい。あくまで機密のつもりで気軽に他の群集に喋らないようにというだけだ。無理強いして押さえつけるのも嫌だろう?」

「まぁ確かに……」


 この辺は前々から言ってた内容ではあるね。情報規制を無理強いして、居心地を悪くするのは良くない話ではある。まぁ流石に意図的に流出させまくったりとかは勘弁だけど……。


「情報の扱いに関しては決して無理強いはしないが、その辺りの判断は各自に任す。ただし、一方的に盗もうとする他の群集の奴は排除で構わない」

「あー、青の群集の一部が情報を盗みに来てるんだったっけ」

「そういやそんな警告もまとめにあったな」

「それ、俺は遭遇したぞ! 初心者のフリして、色々聞き出してこようとしやがった」

「マジか。……自分達で手探りでやるのが楽しいのにな」

「だよなー。それで、どう対応したんだ?」

「ちょっと怪しかったから、それなりにやってる人間なら誰でも知ってそうで、本当の初心者は知らないことでカマかけた」

「ほうほう。……どんな風に?」

「マップを荒らすような真似はするなよって忠告したら、露骨に反応が変わって逃げるように質問を切り上げていった」

「……間違いなく黒だな」

「違いない」

「その辺を本当の初心者が知るわけないもんな」


 他の人達の会話を聞いていれば、俺らのとこにいたスパイの他にも何かいたらしい。まぁ普通のゲームならマップを荒らすような真似はするなというのは当たり前なんだけど、このゲームに限ってはそれは当たり前じゃないからな。むしろ一部の称号やスキルの取得条件的に荒らすのは仕様だよね。

 ふむふむ、ジェイさんからの警告に対する対応策はこれでいけそうだね。……それにしても露骨に態度を変えて話を打ち切るとか、青の群集のジェイさん達に反発してる連中って煩いだけで大したことなさそうだな。


「青の群集のその辺りの事は気になるだろうが、それは置いておいてくれ。今上がった対応策については後でまとめに明記しておくからな」


 あ、ベスタ的にも有効な手段として判断したっぽいね。まぁジェイさん達も警告をしてきたから対応は考えてるとこだろうし、俺らの方で動くとしても今すぐやる事じゃないね。何かやるとしてもそれはジェイさん達と相談してからかな。


「では、これからの検証の手順を説明していくぞ」


 そして本格的にベスタが説明に入るのをみて、少しざわめいていたみんなが静かになっていく。

 

「基本的に今回はPT単位で行う。目的地の海岸沿いの砂漠……命名クエストが終わって名前は『望海砂漠』か。海が望める砂漠ってそのまんまじゃねぇか……。まぁいい、ともかく目的地は『望海砂漠』だ」

「ベスタ、ちょっと良いか?」

「……まだまともに説明も始めてないんだが、まぁいい。なんだ、紅焔?」

「いや、砂漠への適応の説明が必要だと思ってな。全員がまとめを熟読してる訳じゃないだろ?」

「あぁ、それもそうだな。先入観が無いようにまとめを見てないやつもいるんだったか」


 へぇ、先入観を持たないようにする為にあえてまとめを見ない人もいるんだね。まぁ俺らもある意味ではその分類に入るのかな。


「基本的にケイ……コケみたいに極端に乾燥に弱い種族でない限りはそう心配はいらん」

「俺、名指しなの!?」


 いやまぁ、確かにコケは乾燥に無茶苦茶弱いけどさ。名指しするほどコケの場合はそんなにヤバイの? っていうか、それならベスタも結構ヤバいのでは……? おいこら、周りの人達、クスクス笑うなー!? いや、他人事ならその気持ちは分かるけども!


「HPが無い種族は苦手な環境には極端に弱いからな。俺みたいに融合進化をしてHPを持てばかなり軽減はされるがな」

「あー、なるほど。そういう仕様か」

「それを踏まえた上で、乾燥対策を説明していくぞ。まずは乾燥適応の種か実を使うのが一番確実だから、持ってるやつはこれを使え」


 ふむふむ、まぁそれ用のアイテムなんだから一番効果があるのは間違いないよな。うーん、コケにとっては乾燥はかなりの弱点ではあるし、乾燥適応の種は手に入れておいても良いのかもしれない。まぁ今日については普段使ってる水のカーペットの形を変えて対応するけどさ。


「次に水か海水の弱点にならない方で完全に覆う方法だ。これは魚を始めとした水中系の種族に推奨する。基本的には移動操作制御で使って、可能であれば不意の解除対策に2人以上でまとめて使え」


 お、これは俺がやろうとしている対策方法か。まぁ水中の種族ならこれが無難なんだろうね。それにまとめて複数人で移動操作制御の水の中に入って、ダメージ判定で解除になった時の対策もあるんだね。


「他の種族は定期的に水分を飲んでいれば、脱水の状態異常は発生しないから基本的には問題はない。後でPT編成をする時に、各PTに1人は移動種の木がいるように調整だな。今、水を持ってないやつはPT編成の時間の間にそこの水場で補充をしておいてくれ」

「へぇ、その為にこの場所が集合場所なんだな?」

「あぁ、そうだ。水分吸収でアイテム化が出来るやつは余裕があれば水の配布に協力してくれ」

「ほいよっと」


 ベスタの集合場所の設定も色々と理由があったっぽいね。ここなら地下湖もあるから、水分吸収で水の確保は容易だもんな。それにそれなりの人数の移動種の人がいるから、足りないという事はなさそうだ。


 それにしても脱水っていう状態異常もあるんだな。サヤはクマも竜も乾燥は問題なし、ハーレさんのクラゲとヨッシさんのウニは大丈夫かな?

 あ、でもアルのクジラは木の水分で大丈夫だったんだし、共生適応の効果で大丈夫かな? ……まぁ共生進化なら最悪死んでも大丈夫ではあるか。……でも一応聞いておくかな。


「はい、質問です! 共生進化で片方が弱い場合はどうなりますか!?」

「ハーレか。共生進化なら共生適応である程度はフォローされるから大丈夫だ。適応を共有した上で対応しきれないのはHPがない種族くらいだからな」

「え、それってマジ!?」

「……なんとなくそんな気はしてたが、やはり知らなかったか。どっちにしろ、ケイの場合はロブスター自体が乾燥に強い訳じゃないからな。そもそもの適応出来てないから、適応は共有されてねぇぞ?」

「あ、そりゃそうだ」


 そりゃ海の生物のロブスターが乾燥に強い訳がないか。まぁコケや他の魚とかに比べればかなりマシなんだろうけどね。……ふむ、水か海水を生成で何とかなりそうではあるけど、やっぱりこの後で乾燥適応の種を交換して来ようかな? あんまり深く考えてなかったけど、砂漠って俺にとってはかなりの弱点エリアなのかもしれない。


「みんな、俺は後で乾燥適応の種を交換してくるわ。多分そっちの方が安全だ」

「……確かにそれが良さそうかな」

「聞いてる限りだとその方が良いだろうな」

「PT編成の時間に行くのが良いかもね。PT単位なら私達はもう決まってるし」

「そうだよー! ケイさんはその間に交換してくるといいさー!」

「みんな、サンキュ。それじゃそうするわ」


 みんなからの同意も得られた事だし、ここは安全策を取っていこう。あちこちのマップ情報の提供はしてないのも多いし、情報ポイントにも余裕はあるもんな。乾燥対策の専用アイテムを持っておくのは決して悪い判断ではないはずだ。


「一応土属性と風属性と水属性で多少の乾燥への耐性は上がりはするが、それほど劇的な効果はないからな。乾燥に対しては属性での対応はあまり期待するな」

「……ですよねー」


 水属性と土属性で乾燥対策が万全になるなら、俺のコケは両方持ってるもんね。それでも駄目なんだったら、属性での対応は厳しいという判断になるよなー。雪山や水中には劇的な効果はあったけど、乾燥にはそれほど役には立たないか。属性は万能ではないという事なんだろうね。


「とりあえず乾燥対策はそんなもんだ。それじゃ本題に戻るぞ」


 紅焔さんの質問から少し脱線はしてしまったけども、これで本題に移れる。まぁ全く無意味な脱線って訳じゃなかったけどね。さーて、ここまでも大切な話ではあったけど、これからがもっと重要だ。


「さっき話した通り、この説明が終わった後にPT編成や他の準備を含めた時間を少し確保する。それからの動きを説明していくぞ。まずは準備が整ったPTから目的地に一番近い、始まりの草原へと転移する。そこから各PT毎でバラバラに北側の平原エリア……『グラス平原』へ向かってくれ」

「なんでバラバラ?」

「あれじゃね、他の群集に悟られないようにするとか」

「それもあるんだろうけど、Lv20の成長体の確保だろ」

「あ、そっか。まだ他エリアから持っていけるかも未検証だっけ」


 そういや他のエリアから成長体を持ってこれないかという話もあったね。でも上限であるLv20の成長体である必要があるから、それをバラバラに動いて探していこうって事かな? それと他の群集に大規模な検証だと悟られないようにっていうのも確実にありそうだ。


「まぁ概ねその通りだ。基本的に平原では使えそうな成長体を探しつつバラバラに進んでくれ。あー、うまく行く保証もないから、こっちのは道中で見つけたらで良いぞ。念入りに探す必要はない」

「あくまでメインは砂漠で探すって事だね」

「おっす、了解っす!」

「さーて、頑張るぞー!」


 流石は普段から検証に慣れてるメンバーが多いだけの事はある。実にスムーズな流れで話が進んでいく。これは良い検証実験になりそうだね。


「もしLv20の成長体を確保したら情報共有板に情報を上げてくれ。それらの情報を共有する為にもPTに1人は情報共有板に常駐だな。確保の報告を上げたPTはそのまま急いで『望海砂漠』まで行って、エリアを跨いでの移動が可能かの確認だ」

「うん、それは確かに重要だ」

「それが出来るかどうかで、自由度の幅が変わってくるからな」

「巨大な成熟体が敵を運んでるし、エリア間の移動の可能性は充分ある」

「とりあえずまだ情報がない以上はやるしかないねー!」


 まぁ情報がまだない以上は実際にやってみるしかないもんな。って、あれ? ちょっと気になる事が出てきたぞ。よし、これは確認しておこう。


「ベスタ、質問!」

「どうした、ケイ?」

「平原エリアの方ではフィールドボスに進化させる事は出来ないのか?」

「あー、それか。エリア毎に可能、不可能が分かれているみたいでな。基準としては初期エリアの隣接エリアでは不可能になっているみたいだ。そういう事や進化させてもLv1にしか出来ない事もあって、他のエリアに敵を移動させる意味も無かったから試してなかったんだよ」

「あー、そういう事か。うん、わかった」


 今までは瘴気石を使って進化させても未成体のLv1になるだけだったし、初期エリアの隣接エリアではそれすら不可能だったなら積極的に試す理由もないか。

 成功しても旨味がないから瘴気石の無駄遣いだし、ボスの再戦に使う方が圧倒的に良かった訳だ。……今日、瘴気石の強化手段が見つかるまでは……。


「話を戻すぞ。とりあえず他のエリアからの敵の移動が可能ならば、それを優先的に強化した瘴気石を使ってフィールドボスの再発生を試みる。他エリアからの移動が不可ならば、各PTで砂漠の中でLv20の成長体を探してくれ」

「とりあえず探す場所は変わる可能性もあるけど、Lv20の成長体を見つければ良いんだな」

「これは拘束魔法の出番だね」

「生け捕り必須」

「場合によっては回復アイテムを食わせて延命も必要か」

「そういや捕らえる種類は? 黒の暴走種、残滓、瘴気強化種?」

「ある程度の推測は出来るけど、フィールドボスでその辺がどう変化するかパターンを洗い出したいな」

「とりあえずは瘴気強化種でいいんじゃない? 融合進化か合成進化か共生進化になるよね?」

「あー、そうか。黒の暴走種だと支配種になって倒すのも面倒か」

「黒の暴走種でうまくLv20の成長体がいるかも怪しいしね」

「既に倒されて残滓化してるか、瘴気強化種に変わってる可能性の方が高いか」


 そういえば組み合わせによって進化先が変わるんだったっけ。……確か残滓での進化情報に覚えがないから、残滓はいらない感じかな?


「その辺は何が見つかるかに左右されるから臨機応変で対応してくれ。それでだ、もし成功してフィールドボスの再発生に成功した場合に誰が倒すかだが……」


 そこでベスタは一度言葉を切る。そうだよな、フィールドボスの再発生が成功したならば倒したいとこではある。そしてその場合は誰が倒すかという問題も発生してくるんだよね。どうするんだろ?


「倒すのは元となる成長体を確保してきたPTを連結して行う。異議はあるか?」

「「「異議なし!」」」

「ほう、こりゃ早いもの勝ちか?」

「ふっふっふ、それもいいじゃないか!」

「おっしゃ、頑張るぜ!」


 俺としてもそれで異議はない。むしろ、それが一番揉めずに済みそうだ。でもそうなると土の昇華を取得する為にも元になる成長体を見つけるのが必須になったね。


「ならばそれで決定だ。強化した瘴気石については俺がいくつか預かっているし、今頃は増産体制に入っている。お前達は成長体を探す事に専念しろ! それではこれからPT編成の為の時間を確保する。編成が終わったPTから順次出発だ!」


 ベスタがそこまで言い切った後に、みんなから歓声が上がっていく。そりゃテンション上がるよね! さーて、ここからフィールドボスの再発生の検証実験のスタートだ!

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