第442話 検証を再開


 青の群集からのスパイのせいで他の検証グループに先を越されてしまった。まぁ、誰が先でも問題がある訳じゃないし別にいいか。発見した手柄とか自慢げに主張する気とか欠片もないしね。


「それじゃ、桜花さん、続きをやっていくか!」

「……ケイさん、少しだけ待ってくれ。一時的に樹洞への立ち入りを同じ群集だけに切り替えとくわ」

「あ、そういう設定も出来るんだ?」

「まぁな。普段は他の群集の人も立ち寄る事はあるから無条件開放にしてるんだが、さっきのを見たら流石にな? 俺はあんまり検証慣れしてないから、つい失念してたぜ」

「……あー、なるほど」


 不動種の樹洞は移動種よりかなり広いし、入れる人数も多いもんな。普段の桜花さんはアイテムの取引をメインにやってるんだから、基本的には無条件での開放が一番なんだろう。それにしても制限がかけられるなら、初めっからやっておくべきだったか。……俺はそもそもその機能を知らなかったけどね!


 ライさんはただ気になったから覗き込んだだけって感じだったけど、青の群集のスパイは完全に情報狙いの奴だったもんな。ベスタが確認した限りでも複数いたっぽいし……。あ、他の検証グループの方は大丈夫かな?


「ハーレさん、他の検証グループはスパイは大丈夫か?」

「それは今確認中ー! あ、報告上がって来たねー! うん、樹洞の中が条件の可能性が出た段階で他の群集は遮断したから大丈夫だって!」

「あ、そうなんだ」

「俺が不用意に協力者を募ったのも失敗だったな。……すまん」

「いやいや、ベスタが見つけてくれたから対処出来たんだし、問題ないって」

「まぁ俺らもベスタが個別に話しかけてきたのに、纏まって移動したのも悪かったしな……」

「……そうだね。僕らも少し不注意だったよ」


 ふむ、という事はベスタは目立つ場所で個別にとはいえここに集まっている以上の人に声をかけたのも、紅焔さんを筆頭にそれらの人達が揃って動き出したのも、俺らが遮断をせずに検証を始めたのも、それぞれ原因があったって事か。

 今はミズキの森林が専有状態ではないし、共闘イベントでちょっと気が緩んでたのかもね。共闘イベントは厳密には明日の定期メンテまでだけど、俺らがログイン出来るのは今日で最後だし、そろそろ意識を切り替えていかないといけないか。


「よし、切り替え終わったぜ。再開するか!」

「おうよ!」

「さて、俺は心当たりに連絡をしてこよう」

「ベスタ、任せたぞー!」


 ベスタはベスタで纏浄の実験を行う為の人員確保にフレンドコールをかけ始めている。そっちはベスタに任せておいて大丈夫だろう。

 さてと俺らは俺らで気分を切り替えて瘴気石の強化をやっていこう! 時間も無限にある訳じゃないしね。


「+2と+3を使って強化してみるぞ? 瘴気が溢れるって情報はさっきあったが、具体的にどうなるか分からんから離れておいてくれ」

「あ、それもそうだな。みんな、少し離れろー!」


 桜花さんの言う事ももっともなので、並べた2個の瘴気石から少し距離をとっていく。さて、+2と+3ならベースになった個数分も含めて+6の瘴気石になるはず。+5でデメリットが発生って事だけど、+6は果たして出来るのかどうかが問題だな。

 

「それじゃ行くぞ! 『瘴気収束』!」


 少しずつではあるけども、瘴気収束による見えない力場に引き寄せられるように2個の瘴気石が浮き上がり、形を失って混ざり合っていく。……ここまではさっきまでと一緒だけど、途中で変化はあるのかな?

 あ、形が不安定になって瘴気が噴出するように溢れ出したー!? え、何がどうなった?


「ちっ、+6は現状では失敗か」

「……桜花さん、失敗ってのはどういう風に? いや、瘴気が溢れてるのは分かるんだけどさ」

「結果としては+5になったな。現状では+6以上は作れないらしい……」

「あー、なるほど。そういう事か」


 ふむふむ、現状では+6以上の強化は不可能なのか。それ以上にすれば露骨に瘴気が溢れかえった上に、+6になるはずが+5になって瘴気石の無駄遣いが発生するんだな。

 となると、1個ずつ混ぜて+5にしていくのが無難か。問題は+6以上の強化をするにはどうすればいいかだけど、この辺は条件を探っていかないとね。瘴気収束にはLvもあるし、その辺も関係するのかもしれない。


「とりあえず瘴気が邪魔で見えないから、瘴気の除去をするけどいいよな?」

「あ、紅焔さん、纏浄を使う事になるけど良いのか?」

「ま、俺は不動種はやってないしな。不動種以外にはこういう時の瘴気の除去の役割もあるんじゃね?」

「あー、確かにそうかも。それじゃ紅焔さん、任せた!」

「おうよ。『纏属進化・纏浄』『浄化の光』!」


 そして溢れ出した瘴気を紅焔さんが纏浄を使って除去していく。ふむふむ、溢れた瘴気とは言っても瘴気石を隠して半径1メートル程に広がってる程度だから、除去はそれ程難しくはないようだね。

 でも予め距離をとっていなければ溢れた瘴気を浴びて、瘴気汚染の状態異常になってもおかしくはなかったかな。桜花さんは纏瘴を使っているから問題はなさそうだけど。


「あ、瘴気石が見えてきたかな」

「ほんとだね。あ、禍々しい模様が浮き上がってるね」

「それに触ったら瘴気汚染になるって他の検証グループから報告が上がってるよー! でもインベントリに入れたら大丈夫だってー!」

「ほうほう。……これは禍々しい模様を打ち消すのに纏浄を使う感じか?」

「ケイさんのその推測に同意だ。……だが、俺が試すのはまだ無理だな」


 いかにも何かありますよって演出だし、他のみんなも納得するように頷いているから、基本的に推測自体はそう間違ってはなさそうだ。

 方向性は見えているから、ベスタの纏浄を使える人の協力者の確保待ちかな。それで駄目なら桜花さんが纏浄の発動が出来るようになるまで待てばいい。


「まぁいかにも何かあるって感じだしな」

「僕もそう思うね。紅焔、駄目元でいいから浄化の光を試してみたらどうだい?」

「あー、可能性は低そうだけどその可能性もあるにはあるのか。紅焔さん、頼んでいいか?」

「折角纏浄を使ってるんだし別に良いぜ。『浄化の光』!」


 そして紅焔さんが浄化の光を禍々しい模様の浮かび上がる瘴気石に当てていく。……だが、全然変化はありそうになかった。いや、時間をかけたら出来る可能性もあるけど、何の変化もないのに紅焔さんのHPが減っていってるもんな!?


「……こりゃ駄目っぽいな」

「みたいだな。紅焔さん、ありがとよ」

「紅焔さん、これどうぞ」

「お、ヨッシさん、あんがとよ! って、これは冷凍蜜柑か!」

「今ので結構HPが減ったみたいだしね。それで回復してね」

「おぉ、そういう事ならありがたくもらうぜ! お、こりゃうめぇ!」


 ヨッシさんが回復用の冷凍蜜柑を紅焔さんに渡して、紅焔さんは一口で平らげていた。冷凍蜜柑は回復量も多いから、こういう時には役立つかもね。まぁまだ数が少ないのが難点だけど、そのうち灰のサファリ同盟が量産してくれるだろう。その為に今、灰のサファリ同盟は忙しく動いているんだろうしね。


「よし、こちらは話は付いた。桜花、さっき作った+5の瘴気石を貰えるか?」

「そりゃいいが、ベスタさんの心当たりって誰なんだ?」

「あー、それか。それはオオカミ組の1人だ。あいつら、全員オオカミを1枠は持っているが、別の枠で他の種族を持ってる奴も多いからな。今は灰のサファリ同盟の手伝いをしてるんだが、短時間だけ協力を取り付けた」

「あ、そういや不動種が未成体になったって言ってたオオカミ組の人もいたな!」

「まぁそういう事だ。不動種での浄化の光を試したら、成否はどうあれすぐに戻ってくる」

「おう、そういう事なら任せたぜ!」

「あぁ、任せておけ。桜花達は纏瘴の効果時間が許す限り、瘴気石の増産をしておいてくれ。+4と+5の2種類を重点的にな」

「おうよ!」


 そうしてベスタに先程作った禍々しい模様の浮かび上がっている瘴気石を渡していく。……あ、ベスタがそのまま受け取ったら瘴気汚染になってるよ……。まぁ重度の方ではないみたいだしすぐにインベントリに入れたみたいだから大丈夫かな?

 瘴気汚染状態異常になったベスタは特に気にした様子もなく、樹洞の中外へと駆け出していった。……纏瘴を使えば良かったような気もするんだけど、ベスタがそれに気付いてないとも思えないね。あ、もしかして、どの程度の影響があるか試す為にわざとやったのか? うん、ベスタの場合は有り得そう。


「さてと、それじゃ量産していくか」

「おうよ! つっても作るのは俺だけだけどな」

「任せきりですまんな、桜花さん」

「ま、良いって事よ! で、瘴気石が足りなくなってきたんだが……」

「みんなから提供はあるよ。はい、これだね」

「お、こりゃ大量だ! ……後で提供分の埋め合わせもしねぇとな」


 俺らの分もヨッシさんにまとめて預けておいたし、検証の協力者も結構な人数になっているので未強化の瘴気石の数は多いだろう。この検証自体がかなり有益な情報になる可能性が高そうなので、みんなは他に特別な見返りとかは求めてないとは思うけどね。

 まぁフィールドボスからもドロップ率は分からないけど瘴気石は落ちてたし、多少は消費した分も回収出来るんじゃないかな?




 そうしてしばらくの間、提供してもらった瘴気石を材料にして黙々と強化した瘴気石を作っていった。まぁ桜花さん以外はただ見てただけなんだけどね。

 そこにベスタが駆け込んで戻ってきた。お、不動種での浄化の光の効果の結果が出たか!


「戻ったぞ」

「おかえり、ベスタ。で、どうだった?」

「推測通りだな。ほれ、見ての通りだ」


 そう言いながら、ベスタが樹洞の床に瘴気石を置いていく。持っていく前と念入りに比較するまでもなく、禍々しい模様が綺麗さっぱり消え去っていた。やっぱり不動種の浄化の光にも意味はあったか!


「桜花、それで強化を試してみてくれ」

「おうよ!」


 ベスタが持ち帰ってきた+5の瘴気石と、未強化の瘴気石を並べていく。さて、これで+6が作れればいいんだけどな。上手くいくだろうか……?


「『瘴気収束』! ……ちっ、駄目っぽいな」

「あー、他にやっぱり条件があるのか……?」

「これで駄目ならそうだと思うぜ。ケイさん、条件なんだと思う?」

「……瘴気収束のLv?」

「その可能性は高確率でありえそうだなー」

「そんな桜花さんに朗報です! 瘴気汚染の状態ではあるけど、+6への強化の成功報告が上がってきたよー!」

「ハーレさん、具体的な内容をよろしく!」


 ピンポイントで良い情報が来たね。そして今の発言的には、こっちで分かった禍々しい模様の除去方法が他の検証グループの役にも立ちそうだ。


「えっとね、ケイさんの推測通り! 瘴気収束Lv2で可能になったって!」

「よし、良い情報! ハーレさん、こっちで分かった情報を伝えておいてくれ!」

「了解です!」


 よし、かなりいい感じに他の検証グループとの情報共有も出来ている。これなら夕方の内にフィールドボスに使う為の強化した瘴気石が用意出来そうだ。


「桜花さん、とりあえず瘴気収束のLv上げだ!」

「もうやってる! ……よし、Lv2になったぞ!」

「それじゃ+6を作ってみるぞ!」

「おうよ! 『瘴気収束』!」


 そうして+5の瘴気石と未強化の瘴気石を混ぜ合わせていく。あ、今度は瘴気が少量溢れるだけで特に問題なく強化出来たようだ。


「おっしゃ、成功だ!」

「桜花さん、ナイス!」

「で、良いタイミングで纏瘴の時間切れだ」

「あ、もうそんな時間か」


 気が付けばもう6時寸前になっていた。まぁ瘴気石の強化については大体の検証は終わったし問題はないのかな。……瘴気収束Lv2でどこまで強化が可能なのかは気になるけど、それは今日すぐにする必要もないだろう。


「とりあえずはここまでだな。協力してくれた者達に感謝する。それから、夜……そうだな、8時くらいからその瘴気石を使ったフィールドボスの誕生実験を行おうと思っているがどうだ?」

「はい! 参加したいです!」

「私もやりたいかな」

「私も同じく」

「ここまでやったんだ。最後まで付き合わせろよ、リーダー!」

「僕も同感だね。ここに集まっているみんながそうなんじゃないかい?」


 お、ベスタは大々的にみんなを集めてフィールドボスの再出現の検証をやる気だな。それに紅焔さんやソラさんの言葉に同調するように他のみんなも頷いている。俺もその辺は同感だ。

 今日はLv上げの予定ではあったけども、これは参加しないというのは勿体無いもんね。乗りかかった船だし、最後まで付き合おうじゃないか!


「よし、分かった。なら、その方向性で行くぞ。……場所はそうだな……。命名クエストの発生した海岸沿いの砂漠でやるか。あそこなら現時点では新たなフィールドボスが居ないから都合がいいだろう。集合場所については常闇の洞窟の森林深部に一番近い転移地点にしておく」


 お、情報共有板で言ってた海岸沿いの砂漠でやるのか。それは俺の土の昇華狙いとしては悪くはない場所の設定だね。それに命名クエストが発生したばっかなら、フィールドボスの再発生の検証場所としては最適か。


「ベスタ、質問だ!」

「なんだ、紅焔?」

「フィールドボスの再発生には上限Lvの成長体が2体必要だよな? それはどうすんだ?」

「それは地道に手分けをして探すしかないな。……可能そうであれば、他のエリアからの成長体の持ち込みも試してみるか」

「よし分かった! 海岸沿いの砂漠までの道中で探しながらいけばいいんだな」

「まぁそうなるか。……ところで、桜花はどうする?」

「ん? 俺は纏浄が使えるようになり次第、瘴気石の禍々しい模様の除去をしていくぜ」

「そうか。済まないな、裏方を任せてしまって……」

「良いって事よ! 俺には戦闘は向いてないしな!」

 

 そういう流れで夜からは砂漠に行ってフィールドボスの再発生の検証を行う事が決定した。……アルに相談なしで決めてしまったけども、流石に駄目とは言わないよね?

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