第441話 トラブル発生


 纏浄の存在にもちょっと何かがあるんじゃないかという予想から、+2と+3の瘴気石での強化を試してみる事になった。これで順当にいけば元になった片方の瘴気石を個数分も加算されて+6の瘴気石になるはずだけど、さてどうなる事か。


「それじゃ始めるぞ」

「おうよ!」


「お、これから実際にやるんだな?」

「ヨッシさん、この検証は僕らも見てて良いんだよね?」

「うん、それは大丈夫。あ、でも他の群集の人だけは避けてもらった方が良いかな?」

「あぁ、ヨッシ、それでいい。他の群集には声はかけてねぇし、入れる気もないからな」

「あ、ベスタさん、戻ったんだね。それは了解」


 どうやらベスタも協力者への呼びかけを終えて戻ってきて樹洞の入り口を陣取っていた。まぁこの情報は成功すれば灰の群集にとって優位な情報になるから、伏せるのは賛成だね。まぁ、どこからか情報が伝わる事もあるだろうしそれを厳罰に処する気もないけど、わざわざ他の群集を招き入れて公開しながらやる事でもないか。


「という事で今回は樹洞への立ち入りは禁止させてもらうぞ、ラインハルト?」

「あ、やっぱりバレてた?」

「……いたのかよ、ライさん」

「いやー、灰のサファリ同盟にちょっと用事があって来てたんだけど、なんか人の動きが気になってな? ま、興味本位で立ち寄っただけだから、別にいいや。それじゃさらば!」


 そして忍び足で樹洞の外から中を覗き込もうとしていたらしいライさんは、大人しく引き下がっていった。まぁ本気で情報を盗もうというつもりではないんだろうね。


「……で、今コソコソと入り込もうとしている青の群集はどうするんだ? 今回は流石に強制排除させてもらうぞ?」

「ちっ、ジェイ共を出し抜けるかと思ったのにバレんのかよ!? ちくしょう、それでも盗めるだけ盗んでやる!」


 ベスタの背後から忍び寄っていた葉っぱみたいな蝶の人が、あっさりベスタに見抜かれていた。うわー、こいつって今の発言的にジェイさん達が警戒している集団の1人か……? 大人しく諦めるのなら見逃したけども、ここまで盗むと宣言されたら放置って訳にもいかないよね。

 それにあんまり褒められた情報の収集の仕方じゃないし、動機もかなり不純っぽい。ここはベスタの言う通り排除一択だな。


「ベスタ、殺ってもいい?」

「……ケイの好きにしろ。内輪もめの為のスパイに容赦はいらん」

「ほいよ」

「くっ!?」

「どこへ逃げるってんだ、スパイさん? 『ウィンドボム』!」

「お、辛子さん、ナイス! ヨッシさん、氷で拘束!」

「了解! 『アイスプリズン』!」

「げっ!?」


 青の群集のスパイの蝶の背後にいた辛子さんが不意打ちで吹き飛ばし、そこをヨッシさんが氷の檻で閉じ込めていく。さーて、このジェイさん達を困らせてる連中は、俺らの事を舐めてる感じもするからちょっと痛い目にあってもらおうかな。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 62/62 → 61/61(上限値使用:1)


「ヨッシさん、合図したら手動操作が可能な状態で氷の防壁に切り替え、よろしく」

「え、あ、うん。何するのかよく分からないけど、了解」


 まぁまだ1回も試してないことをするから、ヨッシさんが分からないのも仕方ないか。俺としても上手く行くかは知らないし。という事で、実験台になってもらおうじゃないか、青の群集のスパイさん?


<行動値上限を2使用と魔力値4消費して『魔力集中Lv2』を発動します>  行動値 61/61 → 59/59(上限値使用:3): 魔力値 194/198 :効果時間 12分


 ハサミに無色のオーラっぽいものを纏わせて、威力増強っと。さてと覚えたばかりでまだ試していない土の防壁魔法の応用方法は考えてるんだよね。少し前にハーレさんから聞いた内容ならば、多分上手く行けるはず。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を10消費して『殴打重衝撃Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 49/59(上限値使用:3)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 39/59(上限値使用:3): 魔力値 179/198

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『殴打重衝撃Lv1』のチャージを開始します>


 よし、左のハサミに魔法砲撃にした土の防壁を設定。そして狙いを付けつつ、右のハサミで殴打重衝撃のチャージを開始していく。さーて、上手く行くかなー?


「ちょ!? 待った、待った、待ったー!?」

「待つ訳ないだろ? 返り討ちの覚悟も無しに情報を盗みに来たのか?」

「ぐっ、それは……。そ、そうだ! さっきの赤の群集のカメレオンはどうなんだよ!?」

「ライさんはあの状態が標準だしな。……少なくとも、警告を受けるような卑怯な事をする人じゃないよ。なぁ、青の群集でジェイさん達に反発して好き勝手やってる集団さん?」

「げっ!? もう情報伝わってんの!?」


 はい、半分ハッタリだったけど自白いただきました。もうこれで完全に容赦は必要ない。さていつまでも魔法発動の待機も出来ないから撃ち出していこう。照準はスパイの蝶!


「ヨッシさん、着弾と同時に反対側から氷の防壁をよろしく」

「あ、そういう事だね。……それなら、サヤ、私を向こう側まで投げて!」

「え、良いのかな?」

「うん、多分大丈夫だからお願い。『自己強化』『高速飛翔』!」

「そっか、それなら行くよ。『魔力集中』『投擲』!」


 あー、そっか。挟撃で狙いをつけるのには反対側にいた方が良いんだよな。とにかくヨッシさんが凄い勢いで投げ飛ばされて行ったから、さっさと俺も撃たねばね。

 よし、発射完了! 土の弾は氷の檻に当たって防壁として展開された。それと同時にヨッシさんも俺の魔法砲撃に迫る勢いで一気に飛んでいき、反対側へと辿り着く寸前である。……ちょっと勢い余って通り過ぎそうだけど、タイミングを取るのはヨッシさんなら大丈夫だろ。


「氷の檻にぶつけるとか無駄撃ちじゃねぇの! バッカじゃね!?」

「……ヨッシさん、よろしく」

「……了解! 『並列制御』『アイスウォール』『氷の操作』!」

「……え? は?」


 バカはお前だ、スパイ野郎。ヨッシさんが氷の檻を解除して、勢い余って飛ばされながらも即座に氷の防壁を展開してその場に固定していく。よし、少しズレたけども少し隙間があるだけで挟み込むには問題ない位置だ。

 俺の方ですぐに前方に土の防壁を移動させて、土の防壁と氷の防壁によってスパイの蝶を挟み込んでいく。いやー、水の防壁は衝撃を吸収する性質だったから無理だったけど、硬質だという土の防壁ならこれが出来ると思ってたぜ。


「……ぐっ!? は、挟まれ……!?」

「いくらなんでも舐め過ぎだっての。ジェイさんなら、こんなのすぐに見破って対応してくるぞ」

「はぁ!? そんな訳があるもんか!」


 はぁ……これはどうやらジェイさんや斬雨さん達の力量を正しく把握してないな。今まで俺らが勝ってきているとはいえ、結構厄介なんだぞ、あの人達。まぁいいや、それならそれでここで潰して送り返すだけだ。

 でもまだチャージが終わってないんだよな。……とりあえず距離を詰める必要もあるから、ゆっくりと近付いて行こうっと。それにしても反撃もろくに出来ないとは呆れたもんだ。


「勢いがあり過ぎると止まるのが大変だね」

「お、ヨッシさん、通り過ぎてたけど大丈夫?」

「うん、随分無茶な挙動にも慣れてきたね。とりあえずチャージが終わるまでは私はこのまま氷の位置の固定をしてればいい?」

「おう、それでよろしく!」


 ヨッシさんも無茶な挙動の連続で、かなり慣れてきたみたいである。通り過ぎた後もちゃんと操作を維持したまま周囲をグルッと回る感じで減速してたからね。

 ……ん? よく見れば、このスパイの蝶は凍結の状態異常が入ってるのか。流石、ヨッシさん。毒以外の状態異常も凶悪になってきているね。さて、ハサミの延長線上に展開されている土の防壁の前まで移動してきたからチャージが終わるまではこの状態で待機っと。


「ケイさん、意外とこれは攻撃力があるね」

「思いつきだったけど、意外と使えそうだな、これ」


 どうやらこの挟んだ状態でもちゃんとダメージは与えられてるみたいだね。一応耐久値も減っていってるけど、攻撃用のスキルではなくても使い方次第では役立ちそうだ。


「くそ! くそ! なんでこんな事になるんだよ!」

「……知らんがな」


 何か悪態をついているけど、今回の一件って自分で撒いた種だからね? わざわざ情報を盗むとか、その情報でジェイさん達を出し抜くとか、バカ発言とか……。

 それらの発言を聞いた相手が不快になるとか考えないのか? ……考えないからそういう事をしてるんだろうな……。理解はしたくない考え方だよ。


<『殴打重衝撃Lv1』のチャージが完了しました>


 おっと、そうしているうちにチャージが完了した。さてとトドメと行こうじゃないか。まぁスパイを挟んでいるけど、俺の目の前は土の防壁で中が見えないな。


「ヨッシさん、スパイの位置はどの辺?」

「えっと、大体真ん中辺りだね」

「そっか、サンキュー」


 土の防壁では正確な位置が分からないので、ヨッシさんの氷の防壁が透き通っているのが功を奏した感じではある。さて、位置は分かったし検証に戻りたいからさっさと終わらせよう。まぁ挟まってさえいれば、これからする事には問題もないんだけどな。


「それじゃくたばれ、スパイさん!」

「ちくしょー! 覚えてやがれ、灰の群集!」

「そんな捨て台詞はいらん!」

「ぐふっ!?」


 余計な一言をバッサリと切り捨ててから、銀光を放つ右のハサミを目の前の土の防壁に叩きつけていく。あ、流石に魔力集中ありだとごっそりと土の防壁の耐久値が減ったけど、手応え自体はありだね。


「ヨッシさん、スパイはどうなってる?」

「今ので一気にHPは減ったね。もう少しで倒せそう」

「あー、仕留め切るには少し足りなかったか。それじゃヨッシさん、回転させながら押し付ける感じで操作出来る?」

「……出来るけど、ケイさんそれはかなり容赦ないね?」

「え、ベスタも言ってたけど、こいつに容赦とか必要?」

「……あはは、必要ないかな?」

「……灰の群集って、こんなにヤバイのかよ……」


 何かブツブツとスパイが呟いているけど、悪いのはそっちだからな? 秘匿しようとしている最新の検証情報を盗んで青の群集での内部争いに利用しようとか見逃すわけが無いだろ。

 ジェイさんとかは隙あらば情報を探ってくるし、誤情報も掴ませてくるけど、それでも一線はちゃんと弁えてるぞ。少なくとも俺はこの目の前のスパイとジェイさんのどっちの味方をするかといえば、迷いなくジェイさんを選ぶ。探り合いなら受けて立つけど、コソコソと盗むのは嫌いだ。


「それじゃヨッシさん、よろしく」

「了解」


 そうしてヨッシさんは氷の防壁を回転させながら、俺は土の防壁を更に押さえつけていく。少しすれば経験値が入ってきたので、スパイの蝶の撃破は完了したようだ。……経験値が少なかったから、俺らよりLvはかなり低そうだね。流石に成長体ではないだろうけど、未成体に進化したばかりってとこかもな。


「さてと、桜花さん、検証を再開していくか!」

「……おう! ……ケイさんは敵には容赦ないとは聞いてたけど、ほんとに容赦ないな」

「それは良いから、さっさとやろう!」


 スパイの登場で脱線してしまったし、そもそも纏瘴には時間制限があるんだ。もう検証を始めてから30分は経ってるし、時間はあまり無駄には出来ないんだよね。

 それにあと30分もすれば6時だから、サヤとヨッシさんが晩飯で一度ログアウトになる。そこまでにはもう少し検証していきたいからね。


「……ところで、ベスタ。もう他にはいないか?」

「青の群集のが2人程いるにはいたが、さっきので逃げて行ったな。下手な真似をすればどうなるか、これで分かっただろう」

「あ、他にもいたんだ」


 しかも青の群集かー。ジェイさんからの警告も意味はあったって事なんだろうね。……思った以上に青の群集での面倒な連中が灰の群集に潜り込んで来ているという事か。ぶっちゃけ、普通に堂々としてれば今回の検証みたいな重要な情報でなければ強制排除なんかしないのにね。

 イベントには競争だけでなく、共闘もあるんだから、群集同士の関係性を悪化させるような真似は控えてもらいたいものだ。


「他の検証グループから報告ー!」

「お、ハーレさん、どんな内容だ?」

「瘴気石は+5からは瘴気が溢れ続けて、そのままじゃ使い物にならなくなるってー!」

「やっぱり何かあったのか! っていうか、スパイのせいで先を越された!?」

「ま、それは仕方ないぜ、ケイさん。で、具体的にはどうなるんだ?」

「持ってるだけで瘴気汚染の状態異常になるそうです! ただし纏瘴を使っていれば影響は無いってー!」

「……なるほどな。推測にはなるけど、纏浄の用途も見えてきたか」

「でも、桜花さんはすぐには試せないよな?」

「……まぁな。誰か手の空いている不動種を当たってみるか」


 纏瘴を使った後に纏浄を使うには3時間は待つ必要があるからね。仕様上の問題なので、流石にこればっかりは仕方ないか。誰か手が空いている纏浄が使える不動種の人が居ればいいんだけど……。


「それについては俺が心当たりに声をかけてこよう。桜花はこちらでも+5以上の瘴気石を実際に作っておいてくれ」

「おう、分かったぜ、ベスタ!」


 どうやらベスタに手が空いている不動種の心当たりはあるようだ。そういう事なら+5以上の瘴気石を実際に作っておくべきだな。とりあえず今やれる事をやっていこうじゃないか。


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