第437話 不動種の固有スキル


 弥生さんの戦法で少し話がズレたので本題に戻していこう。本題はレナさんが俺らの後から追加で確認してきたという雪山の情報である。


「とにかく話を雪山に戻すね。わたしが見つけられなかった理由と、ケイさん達が見つけられた理由は分かったよ」

「ん? どういう事?」


 ただ空中を移動する手段が無かっただけじゃないのか? このレナさんの言い方からするとそれだけじゃなさそうな気もするけども……。そういや外側からも行けるんだから、レナさんが外から一切気付かなかったというのも疑問はあるのか。


「洞窟内から行けなかった理由は知っての通り、わたしに飛行手段がなかったからだね。重要なのは外から行けなかった理由の方」

「……その言い方だと、やっぱり何かあったのか?」

「うん、あったよ。どうやら夜の日だと、外側の出入り口は全面的に凍りついて通れなくなるみたい」

「え、マジで!?」


 あそこにはそんな仕掛けがあったのか……。もしかしてレナさんが見つけられなかったのはそれが原因? レナさんが全然見つけられないって事実にはちょっと違和感あったもんな。


「ちゃんと昨日の日付が変わってからもう一度行って、昼の日になったら通れるようになったのは確認したからマジだよー! わたしが外側のあの辺に行った時って夜の日だったから、見つけられなかったのはそれが原因だね」

「……なるほど、入口は南側だったし日光が関係してる?」

「多分ねー。それでその辺が氷結草の栽培の条件じゃないかって睨んでるとこ」


 ふむふむ、昼の日に凍りついていないという事は日光によって氷が溶けているって事なんだろうね。そしてそこから入り込む日光はあるだろうから、それが氷結草の育つ条件? もしかしたらその溶けた氷も重要なのかもしれないね。

 このゲームの舞台は地球とは多分別の惑星だと思うけど、方角や日の向きとかは地球に合わせてるんだよな。ちゃんと日の出は東からだし、日中は南から照らしてくるし、日没は西だもんな。まぁ下手にこの辺が変わると混乱しそうだからそれでいいけど。

 

「詳しい事はなんとも言えないけど、氷結草の日照時間が関係してそうだな。あと溶けた氷も」

「そう、そういう事。後はそこら辺で試行錯誤だね。今日からその辺の情報を含めて、灰のサファリ同盟が雪山支部の創設に動き出す予定だよ」

「動きが早いな!?」

「氷結草のアイテム効果も分かったからね。果実合成で氷結の状態異常を起こす氷結の実が作れるのは確定だよ。他の組み合わせも検証中だね」

「へぇ、氷結か」


 状態異常を引き起こす特殊な投擲用の弾って事か。ふむ、投擲持ちの人にとっては結構重要なものかもしれないね。俺らのPTだとハーレさんには状況次第ではあるけど有用そうだし、サヤが持っていても良いかもしれない。


「ま、ここから先は検証の進み方次第だねー。状況次第では赤のサファリ同盟や青のサファリ同盟を巻き込んで共同支部って案も出てるみたいだけど、これは未確定だからまだPTメンバー以外には他言無用でお願いね」

「ほいよ。……ところで、桜花さんは普通に聞いてるけどいいのか?」

「ん? 俺なら昨日の時点で知ってたから別に問題ないぞ」

「あ、なるほどね」


 元々知っているからこそ、話しても問題ない桜花さんの樹洞を内緒話の場所に選んだのか。まぁ、よく考えたらそうなるよね。


「それじゃ現段階での報告はこれで終わり! あ、氷結草の群生地は神秘的で綺麗だったよー! あれは是非とも残したいね!」

「だよな!」

「という事で、わたしはそろそろ行くねー! 今日はリア友の奢りで晩御飯を食べに行くんだー!」

「お、そうなんだ」

「そして6時前までは灰のサファリ同盟の護衛役だからねー!」

「あー、だからログアウト前に時間を取れないかって話だったのか」

「そゆこと! それでは今日はさらば!」


 そうして用事を済ませたレナさんはどこかに駆けていった。レナさんが今日の夜が駄目な理由は友人の奢りでの晩飯か。この感じだと待ち合わせ7時とかかな?


 それはともかく雪山の氷結草の群生地に関する最新情報は手に入った。よし、次は今日の目的地について調べていかないといけないな。今日はレベル上げをしたいという話になってたしね。俺としては砂がある場所で、フィールドボスか成熟体がいる場所があれば良いんだけど……。

 今日中に土の昇華の取得と、土魔法Lv5の試し打ちはしておきたいところ。さて、砂の操作の取得条件は正確に把握しておくべきか、それとも推測している方法で試してみるか、どっちがいいかな?


「あ、桜花さん。ダメ元で聞くけど、未成体Lv12前後で経験値が美味い場所って知らない?」

「俺のメインは不動種だからなー。根本的に経験値の稼ぎ方が違うから、その辺の情報はさっぱりだぞ」

「それもそうか。……そういや不動種ってどうやって経験値を稼ぐんだ?」


 不動種の育て方とか一切見てないから、その辺の情報は全然知らないんだよな。……フラムに聞けばおそらく教えてくれるだろうけど、ドヤ顔が目に浮かぶからあいつに聞くのは無し。まとめを見るか桜花さんに聞くのが最適だろうね。


「まぁ不動種をやってなきゃ、その辺は分からないだろうな。不動種は基本的に動けないから、不動種の固有スキルの使用で本体の経験値も貰えるようになってるんだよ。例を上げるなら『不動の支配』って固有スキルで『樹洞展開』やら『樹洞投影』が強化されるんだが、発動してるだけで自動的にちょっとずつだが経験値が入ってくるぜ」

「ほう? 動けないからそういう仕様になってるんだな」

「まぁな。一応は通常の経験値も入るようにはなってるな。まぁここはプレイヤー以外は雑魚しか通らないけどな!」

「確かにそりゃそうだ」


 初期エリアだからボスを除けば、基本的に居るのは幼生体ばっかだしね。それにしても不動種は不動種で変わった育て方になるんだな。まぁ動けないから仕様が違うのも当然ではあるか。でも進化ポイントについてはどうなってんだ?


「そういや進化ポイントはどうなってんの?」

「ん? 『樹の分け身』って分身体を作るスキルがあってだな。Lvが上がればエリアを跨いだ移動も可能になるからそれで発見報酬を集めてるぜ」

「なんかそれ、掲示板で見た気がする!」


 いつだったか忘れたけど、樹で作る分身体という話を見た覚えがあるね。意外と奥が深そうだぞ、不動種の育成方法! そうか、動けないけどそれなりに手段は用意されているんだな。まぁ当たり前といえば当たり前か。


「ちなみに普通なら隠れているようなタイプの敵が狙ってきやすくなるから、発見報酬は稼ぎやすいな」

「え、マジで!?」

「おう、マジだぞ。俺はあんまりしてないが、代わりに倒してくれるプレイヤーとPTを組んで進化ポイントを稼いでる奴もいるな」

「へぇ、そうなのか。……でも、見た事はない気もするぞ?」

「なんか疑問って感じだな。それじゃちょっと実物を見せてみようか。『樹の分け身』!」


 その桜花さんのスキル発動と共に、木で出来たようなヒツジが根の先に生み出されていく。……うん、シルエットはヒツジに非常に良く似てモコモコしているけども違和感が半端ない。木目のある木彫りのヒツジって感じだもんな。


「……これならすぐに気付きそうなんだけど?」

「まぁ焦りなさんな。まだもう1段階あるからな。『分け身の偽装』!」

「お? おぉ!?」


 桜花さんが新たにもう1つのスキルを発動すれば、木のヒツジの表面の色合いが変わって普通のヒツジっぽくなっていた。よく見れば違和感はあるけども、遠目に見れば区別がつかないかもしれない。

 そしてこの分身体、所属を示す識別のカーソルが見当たらない。まぁ思いっ切り根が繋がってはいるし、本体というか途中の根に表示されているんだけどもね。


「おっじゃましまーす! あー!? ヒツジだよ! サヤ、ヨッシ、狩って食べよう!」

「おいこら、ハーレさん。いきなり来てそれはどうなんだ?」


 ログインしてきたハーレさんが樹洞の中に入ってきて、食い気全開になっていた。開口一番の台詞がそれか……。そもそも一般生物じゃないから食えないし、食えたとしてもここにいるヒツジの時点で桜花さんかその客の所有になるから止めなさい。


「ハーレさん、ヒツジ肉なら取り扱ってるが、これは食えないぞ。分け身は解除っと」

「あー!? ヒツジが消えたー!?」

「桜花さん、それって不動種の固有スキル?」

「おう、そうだぜ、ヨッシさん」

「根が無ければ一般生物とあまり見分けが付かないかな!?」

「これ、一応見た目は幼生体が基準だからな。俺にリスポーン位置に設定してる人の分だけ、作れる分身体の種類はあるぜ。あ、ケイさん、これを人に見せることでも経験値は入るぞ」

「へぇー。色々あるんだな、不動種って」


 殆どまともな戦闘は不可能な代わりに、色々とそれを補って、全く別の育成方法を確立しているのがよく分かった。そういや分身体でも遭遇判定になるんだっけ? もし3rdを作る事に選択肢を増やしたければ桜花さんに相談してみるのもありかもね。

 それにしても桜花さんにリスポーン位置を設定してる人ってどんな人なんだろう? 固定PTを組んでいないソロの人とかかな?


 まぁその辺は大体分かったから良いとして、今日の目的地の情報収集の前にみんなが揃ったな。ちょっとレナさんからの説明と、桜花さんからの不動種に関する雑談で時間を使い過ぎたか。みんなが揃う前に情報収集を済ませておくつもりだったんだけどね。


「ところでケイさんと桜花さんは何やってたのー!?」

「あー、ついさっきまでは不動種について軽く教えてもらってた。その前にはレナさんと会って、雪山の件についての報告を聞いてたな」

「おー!? ケイさん、雪山について詳しく!」

「確かにそれは気になるかな?」

「そうだね。私もそれは気になるよ」

「……とりあえず、レナさんからの報告を伝えた方がよさそうだな」


 夕方にはいないアルは仕方ないとして、サヤ達には先に伝えておこうっと。そして俺とハーレさんが晩飯でログアウトしてる間にサヤとヨッシさんからアルに伝えてもらえば良いか。



 という事で、レナさんから聞いた雪山の追加の調査報告をみんなに伝えていく。何か頷きながら聞いているハーレさんの様子が気になるんだけど、とりあえず説明は終わり!


「ラックに聞いてた通りだねー!」

「ハーレさんは既に聞いてたんかい!」

「うん! レナさんが昼の日の状態の最終確認をして、推測通りなら今日から本格的に雪山支部の発足を始めるってー!」

「あ、レナさんの最終報告待ちだったのか」

「それとね! 昨日、シュウさん達が使ってた光る実の生成方法と、氷結草に関しての情報はトレードしたそうだよー!」

「お、マジか」


 あの光る実はそれなりに活用方法はありそうだし、互いに情報交換としてはありなのかもね。それにしても、赤のサファリ同盟が表に出てきてから赤の群集は一気に変わったな。一時はどうなる事かと思ったけども、それなりに安定してきているようで何よりだ。

 その代わりと言っては駄目な気もするけど、青の群集が若干置いていかれている印象もあるね。ジェイさん達に反発してるっていう集団が邪魔になってるのかな。かといって、美味い具合に一枚岩になれるかは運も絡んでくるもんな……。


 俺ら灰の群集はトラブルがあっても受け入れる土壌がかなり早い段階で構築出来てたのが大きいんだろう。……何だか俺やシアンさんがその発端になってる気もするけどね。後は飛び抜けて強く、リーダー資質のあるベスタが居たのが間違いなくかなり大きな要因だな。


 さてと各群集の情報格差を分析してても今は特に意味はないし、そろそろ本題に戻らないとね。すなわち、今日の目的地を決める事! ……レナさんからの用件があったから仕方ないとはいえ、まだ全然目的が果たせていませんがな……。


「それで今日の目的地候補は、良いのはあったかな?」

「……まだ全然確認は出来てない」

「それじゃみんなで手分けして情報を探すのはどうかな?」

「うん、それはいいね。私とサヤはまとめを確認するから、ケイさんとハーレは情報共有板の確認するのはどう?」

「はい! 賛成です!」

「手分けして探すんだな。それでいいぞ」

「それじゃそういう事で決定だね。探す条件は何になるのかな?」

「あ、俺は土の操作がLv6になってるから、砂がある場所があれば助かる」

「そういえばそうだったね。ケイさんの2つ目の昇華は重要そうだし、夕方はそれを最優先だね。その後、夜に向けて経験値の良さそうな場所を探そうか」

「うん、私もそれが良いと思うかな」

「了解です! Lv上げに関してはアルさんも一緒にしたいもんね!」


 みんなは俺の土の昇華の取得を優先してくれるようである。そういう事ならサヤとヨッシさんに砂のある場所と経験値の良さそうな場所をピックアップしてもらって、俺とハーレさんは称号取得に使えそうな敵を探すのが良いかな。

 狙うとしたらフィールドボスの討伐称号か、成熟体から一定時間逃げる称号だな。……都合よくいればいいけどね。


「ハーレさん、とりあえずフィールドボスか成熟体の目撃情報を優先で。可能なら情報を見つけ次第すぐにそこに行く」

「了解です! でも、アルさんは良いの?」

「正直、いるかどうかは運任せになりそうだからな。今、気軽に使える称号が無いから、どうしようもないんだよ……。砂漠で砂を操って砂漠を荒らすモノとか取れるのか怪しいし……」

「うー!? この場合はどうしようもないんだね!?」

「そういう事。……ちょっとアルに悪い気もするけどな」


 本当ならアルとも一緒にやりたいとこだけど、ログイン時間のズレはどうしようもないしね。土が昇華になればかなり手札が増えるから、アルも駄目というほど狭量ではないだろう。

 夜のLv上げを効率よく進める為と割り切る事にして……。まぁ条件を満たすのが夕方にいるかどうかが一番の問題なんだけど……。さて、とりあえず情報収集をしていこうっと。

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