第434話 探索結果の報告会


 目の前にはおそらくシュウさんの手によってライトアップされた青の群集の空飛ぶクジラがいる。その背中に乗っている弥生さん、ラックさん、ジークさん、ガストさんと各グループのまとめ役が揃っているようだ。

 さて、ここからそれぞれの場所であった事の報告を行っていくんだろう。どんな風になっていたのかが楽しみだね。


「それじゃどこから発表が良いかなー? とりあえず一番地味なとこから行っとく?」

「弥生さん、地味って言うな!? いやまぁ、確かに成果らしい成果はなかったけどよ……」

「はい、以上で湖面付近の調査報告は終了だよー! ガスト、特に珍しいものが何もないっていうのも重要な情報だからねー?」

「あー、そりゃ分かってはいるが気分の問題だな……。まぁ今回の調査では特にめぼしい物も無かったが、参加してくれた奴らはあんがとよ!」


「特等席でドラゴン戦が見れたから問題なし!」

「いやー、見応えあったもんな。ドラゴン対決!」

「まさか樹属性じゃなくて草属性だとは思わなかったけどな」

「カバの人が伸ばした蔓に絡め取られて湖に叩きつけられて沈んでいったのはヤバいと思ったけど、復帰してからの怒涛の連続攻撃も凄かったもんな」


 湖面のグループは調査の成果は特に無かったみたいだけど、位置の関係で紅焔さん達のフィールドボスとの戦いを見物出来てたみたいだね。主にドラゴン戦に関する感想ばっかだな。

 俺らは途中からの見物だったけど、それでも相当な迫力はあったし満足という気持ちはよく分かる。他の紅焔さん達と動いてた人達も色々やってたんだろう。


「はーい、そんなに時間もないから次行くよー! 折角話題に出てる事だし、ジークさん、小島の探索グループの報告をよろしくー!」

「了解だ! 全員が見たという訳ではないだろうが、目撃情報のあった樹属性らしきドラゴンの発見に成功した!」


 まぁ戦っているのは見てたし、途中で湖に落とされたディーさんからも聞いてはいた。でも色々予想外もあったみたいだもんな。


「だが、ここで誤算があった! 樹属性ではなく、草属性だったのだ!」

「質問いいですかー?」

「いいとも! そこのヒツジの人、どうぞ!」

「樹属性と草属性って木と草花での違いは分かるけど、それ以外の種族が持ってたらどう違うの?」

「良い質問だ! その違いこそが最大の誤算と言っていい! 樹属性は防御面を強化し、草属性は攻撃面を強化するという性質の違いがあってな。防御寄りだと判断していたから、識別で確認するまでの少しの間に不意をつかれた形になったのだ!」

「あ、なるほど、そういう違いなんだ。分かりました、返答ありがとうございます」


 へぇ、草花以外に草属性を持つ相手って今まで殆ど縁が無かったからその辺の違いは気にしてなかったけど、そういう違いがあったのか。確かに防御寄りの敵と攻撃寄りの敵を誤認していたら痛い目を見ることがあっても不思議ではないか。

 でもその後はちゃんと立て直して、討伐も完了していたんだから大したもんだね。


「そして、この草属性のドラゴンはフィールドボスの1体であった! ドラゴンの名称は『劣草龍』である。討伐後に命名クエストが発生した事もあり、フィールドボスの討伐が条件となっている可能性が極めて高い!」

「あ、ジークさん。それは最後に纏めるから簡単にでいいよ?」

「それもそうだな。それでは俺からは最後に簡単に小島について説明しておこう。小島ではトカゲと蔓系の草花のLv上限の成長体をそれぞれ発見した! おそらくこれが今回の草属性のフィールドボスへと進化する前段階の個体だと思われる!」


「あ、そっか。フィールドボスって進化して強くなっていくんだったっけ」

「って事は、放っておけばそのうち草属性のドラゴンも再出現する?」

「瘴気石食わせるんでも良いんだよな」

「再出現のサイクルは確認しないとね」

「よし、2ndの成長体のLv上限になったらフィールドボスに育てる為に食われてこようっと」

「未成体の敵を育てるのに成長体で経験値になんのか?」

「さぁ? ただ、食われまくっての適応進化には興味がある」

「あー、それは確かに……」


 ふむふむ、俺らが湖底の方で見つけた成長体のエビと同様なものがいた訳か。そういうふうに考えてみると、エビとトカゲを捕まえてきてフィールドボスにしてみるという事も可能なのかもしれない。……どんな風になるのか、全然予想が出来ない組み合わせだけども……。


「ジークの方はこれで報告は終わりかなー?」

「まだあるにはあるが、それは弥生さんの方と一緒な方が良い内容だろう!」

「ま、さっき止めたのもわたしだしね。それじゃ次に行くよー! ラック、湖畔グループの報告をお願いねー!」

「私の番だね。湖畔については基本的には事前に説明したように、成長体にピッタリな経験値ボーナス種族と、何種類かの毒草や木の実の類が多かったね。アイテムに関しては特別に質が良いものが多い訳ではないけど、安定した数はありそうな感じだよ」


 ほうほう、という事は毒草の類を集めたり、成長体での経験値稼ぎには良さそうって事か。ここまで来るのがちょっと大変な気もするけど、そこら辺は2nd以降の育成を考慮に入れているのかもしれないね。

 それにしてもさっきの小石っぽいカニが気になる。あれに関しては情報は無いのかな?


「はい!」

「ん? ハーレ? どうしたの?」

「さっき未成体の小石に擬態して、妙に素早いカニが居たんだけど何か情報はありませんか!?」

「あ、それね。存在は確認したけど、誰も討伐出来てないんだ。……倒せそうな人もいたけど、運悪く発見のタイミングに居合わせなかったりしてね」

「そっかー。それじゃ経験値がどのくらいかは不明なのー!?」

「うん、そういう事になるね。ただ、異常に逃げに特化してる感じだからものすごく経験値は多い可能性があるよ」

「そっかー! ラック、回答ありがとねー!」

「いえいえ、どういたしまして」


「あー、あのカニか」

「素早い上に、拘束魔法を避けやがるもんな」

「あれに攻撃当てられた奴っていたのか?」

「いたら報告を上げてるだろ」

「あのカニの経験値は気になるよなー。他のカエルとかでも成長体では結構美味かったみたいだしさ」

「大人数だったのが逆に仇になってたしね」


 倒せていないから不確定ではあるけども、期待が持てそうな情報ではあるようだね。ふむ、今度あのカニを仕留める事も計画してみようかな。あー、識別だけでもしておけば良かった。Lvが近ければそれだけ経験値も多いけど、Lvが離れすぎたらそうでもないからな。

 まぁいいや。今すぐどうこう出来る訳でもないし、そういうのがいるという情報だけでも充分価値はある。とりあえずこの情報は覚えておこうっと。他のエリアでも似たようなのがいるかもしれないし。


「湖畔グループからはこのくらいだね。それじゃ最後は湖底グループの弥生さん、お願いします!」

「はーい、任されました。いくつかあるから、注意して聞いてねー!」


「お、とうとう本命か」

「首長竜はいたのかな?」

「湖底だけは距離がありすぎて全然様子が伝わってないもんな」

「いやいや、だからこその報告会だろ。それに成果はあったみたいだし、大人しく聞こうぜ」

「それもそうだな。あ、でも壊滅したPTがいたとか聞いたぞ?」

「え、そうなの?」

「それだけヤバいんだ? どういう内容の報告か楽しみだな!」


 周囲の反応を見る限りでは、首長竜がフィールドボスだった事や、討伐をした事は伝わってないみたいだね。ほぼ壊滅した連結PTが出たという情報くらいは伝聞で伝わってるみたいだけど。


「まず1つ目ね。前々から存在自体は確認してたけど、電気魔法を使うナマズとその対処方法は正式に確認したよ。これについては口頭で説明しても面倒だから、各群集でまとめ機能に上げて貰う事になったから確認してねー?」

「そういう事になったから、灰の群集では灰のサファリ同盟が責任を持って編集しておくからねー! 割と重要だから、各自確認はお願いしますー!」

「青の群集も同様に青のサファリ同盟でまとめとくぜ! あー、それとだな。青の群集としてちょっと連絡しておきたいんだが、ちょっと馴れ馴れしく情報を聞き出して、自慢げに自分の手柄にする集団がいるんだ。そこも一緒にまとめてもらうから、気をつけてくれ」


 あ、ジークさんからもジェイさんから受けた忠告と同じ内容の注意喚起があるんだ。……どんだけ青の群集の内部で迷惑かけてんだよ、その連中……。


「……もしかして赤の群集の問題起こした連中が青の群集に……?」

「あ、それありえそう」

「……嫌な時期を思い出す」

「そいつら、会った覚えがある……」

「へぇ? どんな風に?」

「右も左も分からない初心者が困ったふうにしてて、そこから質問攻め……。初心者にしては変だと思ったんだけど……」

「もしかして情報をそうやって聞き出してんのか?」

「それ、情報を盗む為だけに2nd作ってから1stを消してねぇか? そうすりゃ見た目だけは初心者を装えるけど……」

「そこまでやるか、普通!?」

「……盗んだ情報で後追いだけじゃ勝てないのにね……」


 うーん、周囲の声から推測すると、どうしようもない集団っぽいな……。完全に自分達で調べたり、試す事を放棄してるじゃないか……。そういうのに遭遇して変に情報を教えないように注意しとこっと。ジェイさんからも忠告は受けたしね。


「問題があるのは分かってるけど、時間も時間だから次いくよー! 湖底には成熟体の魚が居て、絶景が広がっていたねー! ただ、危険度も高いし、どんな光景かは教えると台無しになるからここで大々的に告知はしないから、ご了承ください! あ、教えないって訳じゃないし、気になったら聞きに来てくれれば教えるからねー!」

「弥生さん、それはネタバレでも良いって人だけ教えるって認識でいい?」

「ラックさん、ずばりその通り! 今回は首長竜がメインだったから、無茶をしてスクショを撮るとかもしなかったしね」


「あ、ただのネタバレ防止か」

「へぇ、ちょっと行ってみたい気がしてきた」

「湖の中の成熟体の魚とか、死ぬ気しかしない……」

「成熟体ならこっちから手を出さなきゃ何もして来ないから大丈夫だろ」

「それにしても成熟体が湖底にいるとはねー」

「あちこちにいるっぽいけどな」


 この辺は弥生さんの判断に賛同かな。あれは現状ではスクショと引き換えに死亡がほぼ確定だし、どうせなら直接見てみた方が緊迫感も相まって楽しめるんじゃないかな。多分、弥生さん達は死ぬのと引き換えに改めてスクショを撮りに行きそうだし、そこから望んだ人に公開って形にするんだろうね。


「そして、最後は今日の本命の1つの首長竜だよ! 一部の人は聞いているとは思うけど、首長竜と戦ってほぼ壊滅した連結PTが出ているね。あ、そうだ。ジークさん、ドラゴンのLvっていくつだった?」

「ん? Lv14だったぞ」

「そっか、そっか。それじゃ首長竜の詳細を説明していくよ。首長竜の正式名称は『劣オオプレシオ』でドラゴンと同じでフィールドボスだよ。Lvは17だから、首長竜の方が強かったみたいだね」


「フィールドボスが2体!?」

「え、複数体が同時に存在するんだ」

「命名クエストが始まった時のフィールドボスの規定数ってこういう事!?」

「……この湖ではフィールドボスを2体倒すのが命名クエストの発生条件?」

「エリアによって倒す数が違うのかな?」

「既にフィールドボスを何体か倒してても命名クエストが発生してない場所もあるから、その可能性はありそう」

「首長竜って強かったのかー!」

「待ってればこっちも復活するかな?」

「多分、するんじゃね? ネス湖ってネタ選択肢的にさ」

「あ、確かに」


 流石に今回の情報はざわめきが大きいね。まぁよく分かっていなかった命名クエストの条件かもしれない情報が出てきた訳だしね。ただ首長竜を討伐したってだけより盛り上がる気持ちはよく分かる。


「うん、みんなも大体察しただろうけど、フィールドボスが同時に複数体いるのは確定したねー。これまでの傾向からして、エリアによって命名クエストに必要な討伐数が違う可能性も高いかな。まぁこの辺については色んなエリアで検証していく必要があるから、色んなエリアでの継続調査になります」


 大体の流れでその辺の情報は分かっていたけども、弥生さんがそれを総括してそう締めくくっていた。まぁ同じエリアで何度も命名クエストが発生するとも思えないから、そうなるよね。フィールドボスの討伐数に関しては1つの群集だけで情報を集めるのは大変そうだよな。


「それと首長竜の細かい攻略方法とかはナマズと一緒に情報を上げるから、そっちで確認してねー! あ、それと応用スキルの毒を解毒出来る水草が存在するみたいだけど、実物は手には入らなかったね。この辺はこれからの調査次第だね。さてと、これで簡単だけど報告会は終了かな?」

「そだね。まだまだ調査範囲は残ってるけど、明日は平日だしこの辺で解散にしようかと思ってるけど、良いかな?」

「というか、俺はもう時間がやばい! そういう奴も多いだろうから、今日は解散!」

「ジークさん、先走らない。えーと、みんなもそれぞれのリアルでの都合があると思うので、今日はこれにて解散にします。まだまだやるぞって方は、わたし達もまだやるので参加していってねー! という事で、本日はお疲れ様でした! 多数の参加、ありがとうねー!」


 そうして弥生さんの終了宣言によって今日の湖の探索はお開きになった。ログアウトして終わりにしていく人もいれば、継続して調査を続ける人もいるようである。まぁこの辺はそれぞれの時間のつごうだからね。


<命名クエスト『命名せよ:名も無き大きな湖』が完了しました>

<『名も無き大きな湖』を改め『ネス湖』へと名称が変更になりました>


 あ、報告会が終わったと同時に命名クエストが終わったね。っていうか、ネタだと思われるのネス湖になっちゃった!? いやまぁ、あの湖底のコケボウズを見てない人の方が大多数だし、首長竜のイメージが強いもんな。でも、これはネタ好きの人が多かったのか?


「……ここはネス湖になったんだな……」

「ネス湖か……」

「ネス湖かな……」

「ネタ枠になったー!?」

「……あはは、そういう事もあるよね?」

「……多数決だし仕方ない」


 みんなもあまり今回の命名クエストは納得していないようではある。まぁ翡翠さんの言う通り多数決だもんな。こればっかりは仕方ない……。まぁ実在の地名で、ネタではあっても変な名前でもないから大丈夫ではあるか。


 少し気を取り直して時間を見てみればもうすぐ12時。ゲーム内では夜明けになって太陽が上り始めている。さてと、俺らはアル以外は時間切れだな。


「それじゃ、俺らもそろそろ終わりにするか」

「はーい!」

「思った以上に今日は色々あったかな」

「うん、色々と楽しかったよね」

「……楽しかった!」

「さてと、俺はもうちょいやってくるか」

「アル、頑張れよ!」

「おうよ。どうせなら今のうちに水の操作を鍛えておくのもありか」


 いつもよりは少し遅くはなったけども、今日はこれにて終了だ。アルはもう少し続けていくみたいだけど、アル以外のみんなは帰還の実で森林深部へと戻って、新しい帰還の実を貰って、挨拶をしてからログアウトになった。

 


 ◇ ◇ ◇



 そしていつものようにやってきたログイン場面である。いったんの胴体には『ユーザー主催のイベントは良いねぇ』と書いてある。これはさっきまでやってた湖の共同調査の事なんだろうね。当たり前といえば当たり前だけど、運営はちゃんと把握してるんだな。


「お疲れ様〜」

「おうよ。いったん、何かお知らせはある?」

「特にないよ〜」

「そっか。それじゃ思ったより遅くなったから、1枚だけスクショの承諾申請を出して後は明日でも良いか?」

「うん、それは問題ないよ〜。それじゃ申請を出したいスクショの指定をお願いします〜」

「ほいよ」


 これも明日でも良い気はするんだけど、一応早めに処理しておこう。さて、今日のみんなで集合して撮ったスクショを申請にしておいてっと。


「いったん、これでよろしく」

「お任せあれ〜」

「それじゃ今日は終わりにするよ」

「はい、お疲れ様〜」


 最低限の処理を終わらせて、ログアウトをしていく。さてと予定より遅めになったし、手早く色々済ませてから寝るとしよう。さーて、明日は砂の操作と土の昇華を手に入れに行かないとね。

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