第433話 湖畔に戻って


 今日の調査は一度ここで一区切りという事になったため、続々と他のグループの人達も集まってきている。お、青の群集の野菜集団が土魔法で作ったらしき石版の上で、肉やら魚やらを焼いているね。うーん、野菜のプレイヤーが魚や肉を焼くというのもシュールな光景だ。


「ヨッシ、ちょっと行ってきていいー!?」

「良いけど、すぐに戻ってこれるようにはしてね?」

「了解です!」


 そう言ってハーレさんはバーベキューを行っている場所に駆けていった。まぁ食べ物関係についてはいつもの事だし、特に問題もないか。

 他に周囲を見渡して見れば……お、寛いでいる紅焔さん達を発見。よしよし、ちょっとさっきの戦闘の様子を聞いてこようかな。


「紅焔さん達がいるし、ちょっと戦闘の感想を聞きに行かない?」

「お、良いな、それ」

「私もそれは良いと思うかな」

「賛成です! もぐもぐ」

「私も賛成だけど……ハーレ、焼き魚は貰ってきたの?」

「うん! 食べないと勿体無いもんねー! あ、代わりの食材はちゃんと置いて来たよー!」

「……なるほど」


 ハーレさんは焼き魚を貰ってすぐに帰ってきていたようで、焼き魚を咥えた状態でアルの木の巣に移動していた。やっぱりハーレさん的にはあそこが落ち着くんだな。それにしても、しっかりと代わりの材料は置いてきたんだ。

 さてとみんなの同意も取れたし、ハーレさんも戻ってきたから、弥生さんに少し離れて良いかを確認してから行ってこよう。

 

「弥生さん、ちょっとフレのとこ行ってきていい?」

「集合が完了するまではちょっとかかりそうだし、好きにしてて良いよー! あ、もう連結PTにしておく必要もないんだけど、解除しとく?」

「あー、もういらないと言えばいらないのか。みんな、どうする?」

「解除で良いんじゃねぇか? 弥生さん達は主催側なんだし、この後一緒に行動って訳にもいかんだろ?」

「そうだろうね。私はそれで良いよ」

「私もアルの意見に賛成かな」

「ひひほー!」

「ハーレさん、飲み込んでから返事しような?」

「ゴクン。はーい!」

「……私も良いと思う」


 確かにアルの言う通りではある。今回は3つの群集のサファリ同盟での共同調査という事だし、これから弥生さん達は灰のサファリ同盟のラックさん達や、青のサファリ同盟のジークさん達と情報を纏めていく事になるんだろう。

 さてと俺らのPTは連結解除で問題ないけど、他のメンバーの意見を聞いておくか。それぞれの都合もあるだろうしね。


「それでマムシさんと紫雲さんはどうだ? あ、辛子さんもか」

「俺はジークのとこに行くから連結PTは解除で良いぜ。紫雲はどうするよ?」

「あ、それなら俺も行く。辛子さんはどうする? 一緒のPTだった人達、近くにいそうか?」

「あー、フレの木は確実にいるからそいつのとこに行くわ。リスポーン位置をその辺に設定してた筈だから、近くにいるはずだしな」

「そうか。それじゃ『また機会があればよろしく』って伝言を頼んでもいいか?」

「おう、良いぜ」


 とりあえずマムシさんと紫雲さんと辛子さんのこれからの行動方針は決まったみたいだね。バラバラの方向に行くみたいだし、これはもう連結PTの意味はないな。


「んじゃ、今の連結PTは解散で良いとして……ハーレさんは何やってんの?」

「ケイさん、ヘルプー! 何か動いた気がするんだけど、見失ったー!」

「……何かが動いた?」


 何か獲物を狙うような雰囲気のハーレさんは、その印象のままに何かを見つけていたようである。周囲には人だらけという事もあり、流石にハーレさんでも見失ったっぽいな。

 湖畔の方には経験値ボーナスの敵がいるって話だったけど、それが近くにいるのか? ふむ、看破が必要なのかもしれないけど、その前にこっちを使ってみるか。


<行動値を3消費して『獲物察知Lv3』を発動します>  行動値 38/56(上限値使用:6)


 行動値はまだ全快しきってなかったけど、これくらいなら問題ないか。さてと赤いカーソルやら青いカーソルは今は敵じゃないので無視して、湖のあちこちにある緑のカーソルも無視。黒いカーソルは……ちょっと離れた所に戦闘中なのが数体いるけど、これは関係ないか。それっぽいのは見当たらないという事は……。


「ハーレさん、看破を使え」

「了解です! 『看破』!」

「お、なんだなんだ? 何かが擬態してんのか? どれどれ、『看破』!」

「解散前に見つけるのだけはやってみるか! 『看破』!」


 何やらハーレさんが探している様子を見て、マムシさんと紫雲さんが一緒に探し始めていた。まぁ最後にちょっと宝探し感覚でこういうのも良いかもね。さーて、看破で見つかるかな?


「あー! 見つけたよー!」

「見つけたなら、サクッと殺っちまえ、ハーレさん」


 ハーレさんの視線の先には、看破されて擬態の効果を失って駆け出していく小石っぽい小さなカニの姿があった。まぁここにいるのは成長体向けの経験値ボーナスの敵って話だから、見つけても旨味はない気もするけど……。


<ケイが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・暴走種を発見しました>

<未成体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント6、融合進化ポイント6、生存進化ポイント6獲得しました>


 ん? ちょい待った。成長体向けの経験値ボーナスが未成体では倒せないから駄目なのでは? これはもしかして良いものを見つけたか? あ、でも未成体相手だと瞬殺出来ないから周囲の邪魔になるかも……。


「え、未成体なのかな!?」

「みたいだねー! いっくよー! 『狙撃』! えっ!?」 

「え、今のを弾いたの!?」

「マジか!? あ、逃げたぞ!?」


 まさかのハーレさんの狙撃がハサミで弾き飛ばされるという事態にびっくりした。この小石っぽいカニ、ただのカニじゃないな!? そういう事なら意地でも捕まえてやる!


<行動値3と魔力値9消費して『土魔法Lv3:アースプリズン』を発動します> 行動値 35/56(上限値使用:6): 魔力値 189/198


 魔法砲撃で撃ち出すとハーレさんの狙撃みたいに弾かれそうな気がするので、通常発動でいく! よし、これで動きを封じてしまえばーー


「はい!?」

「軽やかにターンして避けたね……」

「……カニとは思えない動きかな」

「えーと、えーと!? 散弾投擲じゃ周りに当てちゃうし……。あれ!? あのカニ、どこ行ったのー!?」

「ちっ、見失ったか! 紫雲、そっちはどうだ?」

「俺も見失った!」

「……とんでもない逃げ足だったね、今のカニ」

「アル、俺は拘束魔法を避けられるとは思ってなかった……」

「……だろうな。俺も思わなかったぞ」


 なんというか、カニが横歩きじゃなくてターンして回避とか予想外にも程があるんだけど……。くっそー、周囲が他の群集の人が大量にいるんじゃなければ昇華魔法で圧殺したのに……。

 何かの拍子に巻き込んでしまう事はあっても、1匹のカニを倒す為だけに大勢の……それも成長体の人も混ざっている状態で実行に移す気はないぞ……。それに流石に人が集まっている中でスキルを使ったからちょっと目立っている。逃したのは惜しいけど、これ以上は無理だな。


「ねぇ、シュウさん、ルスト? ここで未成体のカニっていたっけ……?」

「……覚えはないですね。湖畔グループで発見があったかもしれませんが……」

「さっきハーレさんが食べていた焼き魚が関係してそうではあるね。……その辺りも含めて情報のまとめも必要そうだね」

「だよねー? まぁとりあえずそれは後にしようかな。そういう事で、連結PTはここまで! 主催の方で軽く情報を出し合って、調査報告をするから少し待っててねー!」

「ほいよ」


 なんだか思いっきり脱線して、周囲からも注目を浴びてる気もする。集合中の真ん中で拘束魔法を使ったのは流石に目立ったっぽい……。うん、気にせずにいこう。

 とりあえず今日一緒に活動した連結PTはこれにて解散である。まぁ色々あったもんだなー。


「さて、シュウさん、ルスト、行くよー!」

「そうだね、行こうか、弥生」

「えぇ、行きましょうか」


「それじゃ俺らも行くぜ」

「待ってくれよ、マムシ!」


「さてと、俺も行きますか。って、ちょ!? おいこら、口下手で人見知りだからって無言で根で引っ張っていくな!?」


 そうしてみんなで挨拶をし合って、それぞれの居場所へと戻っていく。辛子さんについてはいつの間にかやってきていた木の人が根で絡みついて回収されるように連れていかれていた。……うん、色んな人がいるもんだね。


「さてと……あれ、紅焔さんは?」

「あ、ラック達といるねー!? ジークさんもいるー!」

「これは今から話を聞くのは無理そうかな?」

「みたいだね」

「サファリ同盟同士の報告会に混ざってる感じだしな」


 まぁフィールドボスを倒すのに活躍してたみたいだし、その辺も含めて混ざってるのかな? そういう意味なのであれば俺らも混じっても良いんだろうけど、その辺は弥生さん達がまとめてくれるだろうから任せておけばいいか。


「ま、この状態じゃ仕方ないか。報告会が始まるまで特訓でもしてようぜ」

「「「賛成!」」」

「……私も参加していい?」

「もちろんだぞ、翡翠さん」

「……アルマースさん、ありがとう」

「良いって事よ。それはそうと、ケイ?」

「なんだよ、アル?」

「大技は禁止な」

「この大人数の中じゃやらないよ!?」

「まぁそれならいいんだが……」


 流石にここまでの大人数の中で無差別範囲攻撃になるような真似はしないって。……何か称号があるかもしれないけど、あったとしてもPK絡みのろくでもない内容な気もするし、それは流石に取りたくない。

 って事で、地味ではあるけどその辺の湖畔の砂利でも使って土の操作の熟練度稼ぎでもしようかな。あ、その前に移動操作制御の登録を水のカーペットに戻しておこうっと。……これ、2枠あれば上書きしなくて済むから便利なんだけどね……。


「アル、折角だし空中で浮かんでおくか?」

「……目立ちはするが、それも今更か。頼む、ケイ」

「ほいよ」


 とりあえず移動操作制御を登録モードで発動して、水のカーペットを再登録。通常使いにはこれの方がいいからね。でも、どうしても登録のし直しが必要だからもう1枠欲しいんだけどな。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 40/56 → 40/54(上限値使用:8)


 そして上空に飛ぶ前に、その辺の砂利を土の操作で支配しておこうっと。どうせなので2倍でね。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『土の操作Lv5』は並列発動の待機になります>  行動値 37/54(上限値使用:8)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv5』は並列発動の待機になります>  行動値 31/54(上限値使用:8)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<熟練度が規定値に到達したため、スキル『土の操作Lv5』が『土の操作Lv6』になりました>


 うおっと、ここで土の操作がLv6になったか! という事はスキル強化の種は別のスキルに使っても良くなった!? えーと、水の昇華の時の事を考えると、ここから岩か大量の砂を操作すれば該当する昇華称号が手に入るのでいいのかな。

 確か水の昇華は他の称号と同時に取得する必要があったはず。この場合なら既に持っている岩の操作より砂の操作を狙うのが最善か。……明日にでも砂漠に行ってみて、フィールドボスの討伐をするか、成熟体を見つけて砂をぶつけてから逃げまくるか……?


「おい、ケイ? 水のカーペットも小石も動かさねぇし、どうした?」

「何かあったのかな?」

「あ、悪い。丁度今ので土の操作がLv6になって、昇華称号を取る手順を考えてた」

「……ケイさん、凄いね」

「お、やったじゃねぇか。って事は、明日は砂漠辺りか?」

「そんなとこだな。まぁこの大人数がいるとこで話す事でもないから、とりあえず飛んでーー」


「はーい、みんな注目ー! 今日の調査の報告会を始めるよー!」


 あ、思ったより報告会の開始が早かった。まだアルが自力で浮いてるだけで、大々的に空中には浮かせてなかったけど、これは浮かせる必要もなさそうだ。


 報告会を始めると宣言した弥生さん自身が、青の群集の空飛ぶクジラの背中の上から話し始めているしね。……それにしても、弥生さんを上からライトアップしている光源はなんだ?

 一緒にクジラの上に乗っているルストさんが根で持っているリンゴみたいな果物が光っているようだけど、全然見覚えがない。ルストさんが持ってるからプレイヤーではないよな? その横にはシュウさんも控えているし、どういう状況だ……?


 はっ!? もしかして道中で、シュウさんが言ってたアレってこれの事か!? 実体はよく分からないけど発光する実……光の操作の光源として使えそうだ。くっ、これは全然知らない情報だった……。

 でもよく考えるとそうだよな。こういうアイテムが無いと、コケの発光が優位過ぎる事になりかねない。あのリンゴくらいの果物くらいなら、小石3個を土の操作で支えにすれば動かせそうだしな。……工夫次第で光の操作の光源になり得るね。


「やっぱり赤のサファリ同盟って油断ならないね……」

「……発光する木の実が存在するとはな」

「そのまま光る木の実があるのか、光るように性質を変えられる合成用のアイテムがあるのかが気になるね」

「確かに癒水草とか毒草とか氷結草とかあるもんね。発光する草があっても不思議じゃないのかな」

「明日にでもラックに確認してみるねー!」

「おう、任せたぜ、ハーレさん」


 今から確認するのは無理だろうから、明日ハーレさんが学校でラックさんから聞いてもらうのが確実だろう。このタイミングで弥生さん達があれを開示したってことは、もしかして氷結草の情報とトレードでもした可能性はありそうだ。


 まぁその辺の確認は後回しにするとして、今日の調査の報告会を聞いていこうじゃないか。俺らも色々見つけたけど、それだけって事は無いはずだろうしね。

 

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