第432話 大きな湖の命名クエスト
どうやらフィールドボスを決まった数だけ倒すのが名無しエリアで命名クエストが発生する条件で、投票の対象となるのは発生した時点でそのエリアにいたプレイヤーになるようである。
命名の選択肢は『フロイデ湖』と『フォレスタ湖』と『群青湖』と『ネス湖』か。……絶対に4つ目は、運営が遊んだネタ選択肢だ!
「急に命名クエストが始まったー!?」
「これって、フィールドボスの討伐数が条件で良いのかな?」
「そうなんだろうね」
「ところで、フロイデとかフォレスタってどんな意味だ?」
「……フロイデはドイツ語で喜びとか楽しみ。……フォレスタはなんだっけ?」
「確か、イタリア語で森だったか……?」
「……森?」
翡翠さんとアルが意味を教えてくれたけど、ちょっと不思議な候補だね。……いや、あのコケボウズとやらを指し示しているのかな……? 結局コケボウズが何なのか聞けてないままじゃん!? 今のうちに聞いておこう。
「シュウさん、少し質問あるんだけどいい?」
「それは構わないよ。だけど、移動しながらにしようか」
「あ、確かにそりゃそうだ」
ドラゴン戦を見終わって、命名クエストが始まった事で気が逸れていたけど湖畔に移動しないとね。命名クエストの時間の猶予はあるんだし、移動しながら聞けばいいか。
「アル、湖畔に向けて移動開始!」
「おうよ! 水流で沈まないように調整を頼むぜ、ケイ!」
「任せとけって!」
「さてと、湖面に来たことだし僕の風は解除するけど、良いかい?」
「問題なしです!」
「……もう大丈夫」
「シュウさん、ありがとう。私達はもう大丈夫だよ」
「そうかい、それなら解除するよ。これは地味に集中力を使うからね」
「シュウさん、お疲れ様ー!」
「弥生もお疲れ様」
湖面に辿り着いてからはほぼ意味も無くなっていたシュウさんの空気のドームが解除され、消滅していった。……そりゃあれだけ精密な操作をしてたら集中力を使うよな。
とにかく今は湖畔に向けて水流を調節し、俺がアルが重量オーバーで沈まないようにしつつ、アルのクジラが湖面を泳いでいく。
何気なく周囲を見てみれば、空には紅焔さん達や飛べる種族の人が飛んでいるし、湖面にはカバのディーさんを始めとして泳げる種族の人達が泳いでいた。みんなが目指している場所は出発地点となった湖畔である。
「それでケイさん、聞きたい事ってなんだい? 何でも答えられる訳ではないけど、答えられる範囲の事であれば答えるよ?」
「お、そりゃありがたい! それじゃ早速質問。あの湖底で見た大量の小さな山みたいな緑のあれって何? コケボウズとか言ってたけど……」
「あぁ、それかい? あれは現実の方に実際にあるものなんだよ」
「南極の湖にあるって奴だな。コケとか藻とかバクテリアとかの集合体で、あんな形で実際にあるんだよな」
「おや、アルマースさんは知っていたのかい?」
「あぁ、まぁな」
どことなく誇らしげなアルだった。それにしても、あれってコケとかバクテリアの集合体で実際に存在しているものなんだね。オフライン版にはそんなのは無かったから知らなかった。
「まぁ僕もあんなに深い所にあるとは驚いたけどね」
「フォレスタっていう名前の候補の由来はおそらくコケボウズだろうな」
「あー、やっぱりそういう意味か」
他にも今回は見つけられなかった癒水草の群生地とかもあるかもしれないし、あのコケボウズと合わせて 水中に森のある湖という意味を込めているのかもね。
よし、決めた。俺はコケがメインのプレイヤーである以上、ここで選ぶ選択肢はこれしかないだろう!
「ケイはフォレスタ湖にしそうかな?」
「何故バレた!?」
「ケイさんは分かりやすいもんねー!?」
「まぁ確かにね」
「……私でも分かった」
「だそうだぞ、ケイ?」
「そんなに分かりやすいの、俺!?」
たまに会うくらいの翡翠さんからも分かりやすいとか言われた……。俺が自覚してないだけで、何か一目瞭然な癖でもあるのか? ……一番可能性がありそうなのは声か? いやでもコケだけの時に喋ってなくても見抜かれた事も多いしなぁ……。うん、分からん!
「……戦闘中は読めなさ過ぎるのに、普段は分かりやすいもんなんだな」
「まぁさっきのは丸わかりだったけど、戦闘中だとそんなに違うのか?」
「おう、そうだぜ。紫雲もそのうち戦うことがあれば実感するだろうよ」
おおう、マムシさんと紫雲さんにまで言われてしまった。これはもしかして癖が1つじゃなかったりするのか? ……自分の癖って自分じゃ分かりにくいもんなんだよな……。
「そろそろケイさんが可哀想になってきたので、その話題は止めにしませんか? 皆さんは命名クエストは何を選びます?」
「俺はケイと同じでフォレスタ湖にするつもりだな」
「私もかな」
「私もです!」
「みんながそうするなら私もそうしようっと」
「……私はヨッシと同じにする!」
「って、みんな同じじゃん!?」
「別に駄目とは言ってないからな」
「あ、そういやそうだった……」
俺が何に決めたかを言う前にサヤに勘付かれただけで、駄目とも言われてないから特に問題もないのか。成熟体のアロワナが居たからすぐに撤退するしかなかったけど、あのコケボウズは印象深かったもんな。
そういやあのコケボウズって黒の暴走種とかではなかったみたいだから、コケの俺ならもしかしてあれを群体化は出来たのか? うーん、可能性はありそうだけどあのアロワナが厄介なのに変わりないか。
「僕もあの光景は気に入ったから、それにしたい気分だね」
「なんだ、そのコケボウズってのはそんなに凄かったのか?」
「あれ? 辛子さんは見に行ってないのか?」
先行していたグループにいた辛子さんはあの光景を見ていない……? え、でもあの位置を基準に首長竜との戦闘中の方向を聞いた気もするんだけど……。
「あー、俺らの戦闘に入った時の状況が伝わってないのか」
「あ、ごめん。それは伝え忘れてたかも」
「弥生さん、それは別に問題ないぜ。あの時は状況が状況だったからな……」
「まぁあの時はなぁ……」
なんだか遠い目をしているような気のする辛子さんと紫雲さんだね。まぁこの2人以外は壊滅したんだから仕方ない反応ではあるのかもね。
「具体的に何があったのかは、僕も気になるね。良かったら聞かせてくれるかい?」
「それは問題ないから、説明していこうか。俺らの連結PTは小島の崖の近くに急激に深くなってる場所を見つけてな」
「そうそう。そこから下へ行くかどうかを相談してたら、危機察知に反応があってな。1人が首長竜に食われたんだよ」
「……え、マジで?」
「まぁ食われたの、俺なんだけどな?」
「食われたの、辛子さんかい!」
まるで他の人の事のように話してるから他のメンバーなのかと思ったら、まさかの辛子さんであった。何となくコケボウズのところに行けなかった理由も推測出来てきたけど、容赦ねぇな、首長竜……。もしかして、懐中電灯モドキって思ってた以上に役立っていたのか……?
「まぁフレンドで巣を作らせてもらってる木の奴も一緒だったから、すぐにリスポーン出来たけどな。フィールドボスからの奇襲とはいえ、即死するとは思ってなかったぞ」
「あらま、そんなに威力があったの? ……ちょっと試してみたい事が出来たかな」
なんだか弥生さんがボソッと呟いた一言が気になるね。この状況で試してみたい事って何が……あ、もしかして奇襲成功時に大幅にダメージを上げるようなスキルが存在する……?
ほほう、これに関しては俺もちょっと試してみたくなってきたね。でも俺のPTメンバーには奇襲向きな人は……あ、ハーレさんの狙撃がいけるか? ふむ、ちょっと実験の価値ありか。
「……なんだかケイさんと弥生さんが考え込んでいる状況が怖いんだが……」
「……マムシ、この反応を含めてジェイさんに情報を持ち帰ろうぜ」
「……そうだな」
はっ!? 考え込んだ事で可能性を模索している事のヒントを与えてしまった!? ……まぁいいや。どうせジェイさんなら、紫雲さんから首長竜からの奇襲の情報を聞けば自力で辿り着きそうだしね。
「あー、続けていいか?」
「あ、ごめんごめん。続けて、辛子さん」
「おう。それでまぁ反転して逃げ出した首長竜を追いかけて行って、あの位置で足止めには成功したんだが、知っての通りボロ負けだ。普段から固定PTを組んでるメンバーじゃなかったから、流石に初見じゃ対応しきれなくてな。なぁ、紫雲」
「まぁな。何組か顔見知りはいたけど初対面も多かったからな。それぞれが特に弱かった訳じゃないんだが、全体の連携が噛み合わなくて……」
「……敗因は初見だった事と、連携の問題だったのか」
「おう、そうなるな」
まぁ確かに初見であの首長竜に相手は厳しいんだろう。俺らは既に3割削られた状態からスタートだったし、先制攻撃の優位もあったからね。それになんだかんだで連携慣れしているPTが2つだったというのも大きいんだろう。
ある程度手の内を知っている相手だからこそ俺も指揮は出来たけど、全く知らない人が多ければそれだけ連携は取りにくいよな。……フィールドボスは連携が甘くて勝てるほど楽ではないって事なんだろう。
「後はどんどん倒されていって人数が半分を切った時点で弥生さんに救援を頼んだんだよ。その結果は知っての通りだ」
「ふむふむ。俺らが到着して全滅だけは免れたって事か」
「ま、そういう事だな」
俺らが救援に動き始めてから、辿り着くまでの間に仕留められた人もいたんだな。……まぁどんな強さか分からない敵を相手にするのは分かってた事だし、食われた人が多いという前情報もあったから、ある程度は覚悟の上だったとは思うけどね。
「事情説明としてはそんなもんだな。そういう訳で俺も紫雲さんも、そのコケボウズとやらは見ていない!」
「そういう事だ! って事でスクショ見せてくれない?」
「あー、紫雲さん、それはごめん。スクショはないんだよー」
「……へ? 赤のサファリ同盟が居て、スクショねぇの?」
「……あそこには成熟体の光るアロワナが居たんですよ」
「え、マジか!? 流石に成熟体相手じゃ無理って事なのか……」
「いやー、共同調査じゃなくて個人的に来てたなら無茶もしたんだけどねー?」
「弥生、それは明日にでもやってみるかい?」
「お、シュウさん、それいいね! ルストを盾にしてやってみよっか」
「いつも思うんですけど、私の扱い酷くありませんか!?」
ルストさんの扱いは、見た限りではいつも通りな気もするけども……。まぁルストさんなら成熟体相手にでも攻撃を避け切るのは出来るだろうね。あー、でもそうなると称号の『格上に抗うモノ』を取る可能性が出てくるのか。
よし、ちょっと悪い願望な気はするけど逃げ切れずに早い段階での全滅を希望しておこう。……まぁこの希望は無理な気もするけどねー。
そんな雑談をしている内に、もう湖畔の目前まで戻ってきていた。そろそろアルは空中浮遊を使わないと座礁しそうだな。
「アル、そろそろ空中浮遊を発動しようぜ」
「おう、分かってる。悪いけど、ルストさん達とマムシさん達は降りてもらっていいか?」
「分かりました。もう普通に歩ける深さですしね」
「ルストはササッと降りる!」
「アルマースさん、移動は助かったよ」
「おうよ! 小型化解除っと」
「わざわざ乗せてもらってありがとな、アルマースさん」
「なに、気にすんな。俺は移動には結構力を入れてるから、このくらいなんて事もねぇさ」
移動に関してはかなり自慢げなアルだった。まぁ俺らも散々世話になってるし、直接は言わないけど感謝しておこうっと。
さてとこれで俺らのいつものPTと、臨時メンバーの翡翠さんと、辛子さんがアルのクジラの上に残っている。まぁ軽い種族どころか飛べる種族なので問題ないか。
「それじゃ使うか。『空中浮遊』!」
アルは空中浮遊を発動し、降りた人達は浅い湖畔近くの湖の中を普通に歩いていく。まぁシュウさんと弥生さんはルストさんの枝の上だけどね。
そして湖畔の方を見渡してみれば、既に到着している人達が集まっている。そこに合流して、各グループからの結果報告会をして、命名クエストを完了させたら今日は終わりだね。
ちょっと命名クエストの影響で日付が変わる直前になってしまいそうだけど、流石にこのタイミングで結果を見ずに終わらせるのもな……。
「他のグループも集合してきてるみたいだねー」
「そうだね。そういえば弥生とルストは命名クエストは何にするんだい?」
「私は群青湖も良いかなーって思ってるよ。漢字のみのエリア名ってまだ見たことないしさー」
「弥生さんもですか。私もそうしようかと思っています」
「まぁ確かに漢字のみはまだ見たことが無いね。2人がそうするなら僕もそうしようか」
「シュウさん、愛してる!」
「僕もだよ、弥生」
うん、隙あらばどこでもいちゃつき始めるネコ夫婦だね。まぁ視覚的にはネコ同士のじゃれ合いに見えるから、言葉を聞かなかった事にすれば問題ない。
さてともうすぐで湖畔に辿り着くけど、まだマムシさんと紫雲さんと辛子さんが選ぶものを聞いてない。無理に聞く必要もないけど、こうやって話してたんだし聞いておきたいよね。
「マムシさん達は何を選ぶんだ?」
「あー、壊滅したのもあるし、コケボウズは見てないしな。いっそネタでネス湖にしようかと思ってる」
「お、奇遇だな、辛子さん。俺もそのつもりだぜ」
「紫雲さんもか。まぁたまにはネタでも良いよな」
「まぁな! 流石は甘口辛子ってネタ的な名前にしてるだけのことはあるな!」
「あ、いや、それは……」
「ん? 俺、何か変な事言っちまった?」
「……いや、別に何でもない」
辛子さんのその反応を不思議そうに見ている紫雲さんだった。まぁ甘口辛子ってネタ的な名前にしたのを後悔してたもんな。さっきの紫雲さんの発言に全く悪意は無くても、辛子さんとしては複雑な心境なのかもね。自業自得の成分は多めな気はするけど……。
「……俺は無難にフォレスタ湖にしておくか」
最後にポツリとマムシさんが無難な選択肢を選んだようである。まぁどれを選んでも悪い名前ではない気はするしね。ネス湖はネタとして選択肢にあるとはいえ、実在する地名ではあるから変な名前ではないもんな。
そうしている内に湖畔へと辿り着いた。さてとこの大きな湖の名前はどれになるかな? それに他のグループの成果発表も気になるところ。まぁ俺らの湖底グループと小島のドラゴン捜索グループがメインにはなりそうだけどね。
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